キャリートレード完全入門:金利差を“堅実に”抜く実践ガイド

FX

要約:キャリートレードは「高金利通貨を買い、低金利通貨を売る」ことで、保有期間中の金利差(スワップポイント)を狙う戦略です。収益は大きく、①金利差②為替の方向③取引コストの3つに分解できます。初心者に必要なのは、勝てる相場条件を選ぶことと、負ける時に小さく負ける設計(損切りとサイズ管理)です。本稿は「理論→実務→検証」の順で、はじめての方でも再現できる手順を提供します。

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1. キャリートレードとは何か

キャリートレード(Carry Trade)は、金利の高い通貨をロング(買い)し、金利の低い通貨をショート(売り)することで、保有期間中の金利差を受け取る手法です。FXでは建玉を翌日に持ち越すと、スワップポイント(= 金利差調整)が発生します。これが毎日積み上がるため、価格が横ばいでもプラスになり得ます。ただし、為替レートが逆行するとスワップでは吸収できずに損失となるため、為替変動リスクへの対処が最重要です。

典型例は、相対的に金利が高い通貨(例:USD、AUD、NZD、MXN、ZAR など)を買い、相対的に金利が低い通貨(例:JPY、CHF など)を売る組み合わせです。もっとも、実際の受取りスワップはブローカーの調達コストとマークアップを差し引いた結果で決まります。理想の金利差と現実のスワップは一致しない点に注意してください。

2. 理論背景:カバー付き金利平価(CIP)とフォワード

金利差と為替の関係は、国際金融の基本式であるカバー付き金利平価(Covered Interest Parity, CIP)に要約されます。

(1 + r_d) = (S × (1 + r_f) / F)
⇔ F = S × (1 + r_f) / (1 + r_d)

ここで、Sはスポット(現在の為替レート)、Fは同満期のフォワード、r_dは内外の金利(国内/外貨)のうち、見方により定義が入れ替わります。直感的には、金利の高い通貨はフォワードでディスカウント(将来安くなる方向)となり、金利の低い通貨はフォワードでプレミアムになります。現実のFXスワップは、この理論にブローカーの資金調達・ヘッジ費用、休日調整などが加わって決まります。

3. 収益の分解:何で儲かり、何で減るか

キャリートレードの日次損益(PnL)は便宜的に下式で分解できます。

日次PnL ≒ 受取りスワップ - 支払いコスト - 為替逆行による評価損 ± スプレッド/スリッページ
  • 受取りスワップ:保有ロット × 1日あたりスワップ(通貨ペア・証拠金会社・曜日で変動)。
  • 支払いコスト:スプレッド、手数料、ロールオーバー時の調整、資金金利など。
  • 為替逆行:トレンドやイベントでレートが不利方向に動くと、スワップ以上の損失が出る。
  • スプレッド/スリッページ:エントリーとイグジットの“見えないコスト”。短期で出入りすると効く。

勝てる設計は、(受取りスワップ)>(期待される逆行×保有期間)を確保すること、そして逆行が生じた際に事前に決めた損失ラインで撤退することです。

4. スワップポイントの「現実」

教科書的な金利差と、あなたの口座で実際にもらえるスワップにはギャップがあります。代表的な要因は次の通りです。

  • ブローカーマークアップ:受け取り側からも一定の控除が行われる。
  • 週末・祝日の繰越:水曜クローズ時に「3日分」付与などカレンダー特殊性がある。
  • ロール/デイカット時刻:日付変更タイミング(例:NYクローズ)が口座ごとに異なり、持越しの可否で付与が変わる。
  • 市場ストレス:資金調達が逼迫するとスワップが急変(縮小・逆転)することがある。

したがって、同じ通貨ペアでも会社が変わるとスワップは別物です。手元の口座条件での期待値を必ず再計算しましょう。

5. 具体例:USD/JPY ロング(仮数値)

ここでは分かりやすく仮の数字を使います。実運用では必ずご自身の口座条件に置き換えてください。

想定:USD/JPY=150.00、1ロット=100,000通貨、必要証拠金=¥600,000(レバレッジ25倍仮定)
受取りスワップ:1ロットあたり 1日=¥800(会社・曜日で変動)
スプレッド:0.2円(=2pips)相当
損切りライン:145.00(-500pips)

このとき、30日保有で受取スワップ= ¥24,000。一方で、スポットが145円まで逆行すると評価損は約-¥500,000(100,000通貨×5円)です。スワップだけで逆行を埋めるのは非現実的で、逆行時は早期に撤退する設計が必須であることが分かります。よって、キャリーは「トレンド順行時に乗る」「逆行初動で切る」が基本です。

6. サイズ設計:損失上限から逆算する

初心者ほど、証拠金ギリギリまで建てるのは厳禁です。推奨は次の手順です。

  1. 一回当たりの許容損失(円)を決める(例:口座資金の1%)。
  2. 損切り距離(pips)を相場構造から決める(直近安値/高値、ATR×k など)。
  3. ロット数 = 許容損失円 ÷ (1pipsの価値 × 損切りpips)。

例:口座資金200万円、許容1%=2万円、損切り200pips、USD/JPYで1pips=¥1,000/ロットなら、ロット=20,000 ÷ (1,000×200)=0.1ロット。まずは小さく、長く続けられるサイズから始めてください。

7. エントリー設計:順行にだけ乗る

キャリーは“買えば勝てる”戦略ではありません。順行にだけ乗るフィルターを用意しましょう。

  • トレンド判定:200MAの上で価格が推移、50MAが200MAを上回る。
  • モメンタム:RSI(14)が50超で回復している押し目を狙う。
  • イベント回避:政策金利・CPI・雇用統計などの直前は新規エントリーを避ける。

これらは単純でも効果があります。「押し目買い+キャリー」を徹底すると、横ばい〜上昇局面でスワップが効率よく乗る形になり、期待値が安定します。

8. イグジット設計:損切り・利確・トレーリング

勝ち残るポイントはイグジットです。

  • 初期ストップ:直近スイング安値/高値の外側、またはATR×2〜3。
  • 時間ストップ:一定日数(例:20日)で期待通り進まなければ撤退。
  • トレーリング:高値更新ごとにストップを切り上げ、含み益を守る。
  • スワップ偏重の持ちすぎ回避:“含み損をスワップで埋める”発想は止める。

9. ボラティリティ体制別の運用方針

キャリーのリターンはボラティリティに敏感です。

  • 低ボラ上昇:理想。押し目買い+ホールド。サイズをやや増やしても良い。
  • 高ボラ上昇:順行だが乱高下。サイズは抑え、ストップを広げすぎない。
  • 高ボラ下落:最悪。新規を控え、既存ポジは撤退。現金はオプションヘッジに回す。
  • 低ボラ横ばい:スワップ狙いのみ。だが急変に弱いのでストップ徹底。

10. 代表的なリスクと対策

  • 政策転換リスク:利上げ/利下げ、介入。→ 事前にイベントカレンダー管理。前後は縮小またはクローズ。
  • 資金調達リスク:スワップ逆転・縮小。→ 会社分散、条件見直し、短縮運用。
  • ギャップ/フラッシュクラッシュ:週明けや薄商いで急落。→ 小さなサイズ、逆指値、余剰証拠金。
  • 強制ロスカット:過大レバレッジの副作用。→ 低レバ、損切り厳守、追証回避。

11. 実務:スワップとコストの見積もり

あなたの口座条件で必ず見積り表を作ってください。

① 1ロットあたりの1日スワップ(買い/売り別)
② 付与曜日(週末3倍など)
③ 取引コスト:スプレッド、手数料
④ ロールオーバー時刻(デイカット)
⑤ 必要証拠金と余力(ロット別)

これをベースに、「30日/60日/90日保有での期待スワップ」vs「想定逆行幅」を並べ、勝ち筋だけを選びます。

12. 例:AUD/JPY キャリー+保険(プット)

キャリーは“下落で壊れる”戦略です。保険(オプション)を絡めると耐久性が一気に上がります。

  1. AUD/JPYをロング(小さめのサイズ)。
  2. 同時に、少し下の権利行使価格のプットを買う(1〜3か月)。
  3. 下落急変時の損失をプットで緩和し、スワップを拾い続ける。

保険料はコストですが、「退場しない」ための保険料として割り切ると、経験上の生存率が上がります。初心者ほど相性が良い戦術です。

13. 数学的に見る“期待値”

キャリーの期待値は、シンプルにこう置けます。

E[リターン] = (日次スワップ × 期待保有日数) + E[価格変化] − コスト

このうちE[価格変化]はモデル化が難しいため、フィルター(トレンド/モメンタム/低ボラ)で「期待値の正の時だけ参加」するのが実務解です。勝率と損益比のどちらか片方だけでなく、両方が許容範囲に収まる設計を心掛けてください。

14. 実装ひな型(Excel計算)

最初はExcelで十分です。以下の枠組みを作ると意思決定が速くなります。

セルA1: エントリー価格
セルA2: 損切り価格
セルA3: ロット数
セルA4: 1日スワップ(円/ロット)
セルA5: 想定保有日数
セルA6: スプレッド・手数料合計(円)
セルB1: 期待スワップ = A3×A4×A5
セルB2: 逆行損失 = |A1−A2| × pips価値 × A3
セルB3: 期待損益 = B1 − B2 − A6

この「期待損益」がプラスで、かつ逆行時の損失が許容内なら、エントリー候補に挙げます。

15. 検証:過去データで“持てば勝てる”かを確かめる

過去数年のデータで、次のルールを検証してください。

  1. 200MA上のみ買い。200MA下では買わない。
  2. RSI50割れでは新規を控える。
  3. 政策イベントの前後±1日は新規を止める。
  4. ストップはATR×2、利確はATR×3、またはトレーリング。

上記の単純なルールでも、“買わない局面を減らす”だけで、キャリーの期待値が大きく改善します。

16. よくある失敗パターン

  • サイズ過大:スワップ欲しさに大きく張って強制ロスカット。
  • ナンピン依存:“いずれ戻る”と無限に買い下がる。
  • イベント軽視:利下げ・介入・地政学で一晩に数円動く。
  • 撤退基準なし:「どこで負けを認めるか」を決めていない。

17. 取引所・口座の実務ポイント

  • スワップ表の公開頻度:毎日更新か、週次更新か。
  • ロール時刻とカレンダー:どの曜日に何日分付与されるか。
  • 約定品質:スリッページやリクオートの頻度。
  • 資金の入出金手数料と反映速度:“余力”の回復に直結。

18. チェックリスト(印刷推奨)

  • 相場は上昇トレンドか?(200MA/50MA/RSI)
  • イベント直前ではないか?(政策金利・CPI・雇用統計・要人発言)
  • サイズは許容損失から逆算したか?
  • ストップ・利確・時間制限は決めたか?
  • スワップ条件とカレンダーは確認したか?
  • 1回の負けで退場しないか?(余剰証拠金)

19. まとめ

キャリートレードは、順行にだけ参加し、逆行は小さく切るという鉄則を守れば、初心者でも再現可能な戦略です。スワップは“利息”ではなく“リスクを取る対価”。だからこそ、小さく始めて長く続ける設計が勝率を決めます。本稿の手順(サイズ→エントリー→イグジット→検証)をそのまま自分の口座条件に移植し、まずは極小ロットで30日間のテスト運用から始めてください。

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