キャリートレードとは何か
キャリートレードとは、金利の低い通貨で資金を調達し、金利の高い通貨を買って長期保有することで、金利差(スワップポイント)を狙う投資手法です。株式や暗号資産のように「値上がり益」を狙うのではなく、「毎日の金利収入」を積み上げていくことが主な目的になります。
FX口座では、各通貨ペアごとにスワップポイントが設定されており、金利の高い通貨を買っているときはプラスのスワップ、逆に売っているときはマイナスのスワップが発生します。キャリートレードは、このプラスのスワップを継続的に受け取り続けることを狙う戦略です。
なぜ金利差で収益が生まれるのか
金利差が生まれる理由は、各国の中央銀行が異なる政策金利を採用しているからです。例えば、日本が超低金利で、ある新興国が高金利を維持している場合、その金利差は年率ベースで数%から二桁%に達することもあります。
スワップポイントの基本メカニズム
FX会社は、インターバンク市場で通貨の貸し借りを行い、その調達金利と運用金利の差をもとにスワップポイントを決定します。投資家は通貨ペアを保有しているだけで、その差額の一部を日々のスワップとして受け取る仕組みになっています。
たとえば、低金利通貨である円を売って、高金利通貨である豪ドルを買う場合、豪ドルの金利が円の金利より高ければ、その差分がスワップポイントとしてプラスで受け取れます。
キャリートレードの具体的なイメージ
ここではイメージしやすいように、仮想の通貨ペア「円 vs 高金利通貨」を例に説明します。実際には特定の通貨やペアを推奨するものではなく、考え方を理解するための例です。
例:100万円相当をキャリートレードに投じるケース
ある高金利通貨ペアのスワップポイントが、1万通貨あたり1日50円とします。レバレッジ1倍程度に抑え、100万円相当のポジションを保有したと仮定します。
1日50円のスワップが1年間(365日)継続すると、50円 × 365日 = 18,250円のスワップ収入になります。これが2万通貨、3万通貨とポジションサイズを増やせば、スワップ収入も比例して増えていきます。
もちろん、これはあくまでスワップが一定で、為替レートが大きく動かないという単純化した前提の例です。現実にはスワップポイントも変動し、為替レートも上下しますので、常に同じ収益が続くわけではありません。
レバレッジをどう使うか
キャリートレードは「金利をもらう長期運用」というイメージが強いため、レバレッジをかけすぎてしまいがちです。しかし、為替は株以上に大きく動くことも多く、過度なレバレッジはロスカットのリスクを高めます。
レバレッジ1〜3倍程度に抑える考え方
長期保有を前提とするキャリートレードでは、一般的にレバレッジ1〜3倍程度に抑えることが現実的です。証拠金に対して実効レバレッジが5倍、10倍と高まると、一時的な為替の急落で強制ロスカットにかかり、スワップを積み上げる前に退場させられるリスクが高まります。
具体的には、手元資金100万円に対して、ポジション金額を100〜300万円程度に抑え、相場の変動に十分耐えられる証拠金維持率を意識することが重要です。
キャリートレードのメリット
メリット1:時間を味方につけられる
キャリートレードの最大の魅力は、「時間の経過が基本的にはプラス方向に働く」という点です。保有しているだけで日々スワップポイントが積み上がるため、短期売買のように頻繁にチャートを見る必要はありません。
忙しい会社員や副業投資家にとって、「チャートに張り付かなくてもよい」という点は大きなメリットです。
メリット2:複利効果を狙える
受け取ったスワップポイントを再投資に回すことで、ポジション量を少しずつ増やしていくこともできます。例えば、1年でスワップが数万円たまったら、それを元手に少しだけポジションを増やす、といった運用を繰り返すことで、複利的にポジションが増えていきます。
メリット3:株や暗号資産と相関が低い場合もある
通貨ペアによっては、株式市場や暗号資産市場と完全には連動しない動きをする場合があります。ポートフォリオ全体において、分散効果を期待できる余地がある点もメリットの一つです。
キャリートレードのリスク
リスク1:為替レートの変動リスク
金利差でスワップを受け取れていても、為替レートが大きく下落すると、評価損がスワップ収入を上回ってしまうことがあります。特に高金利通貨は、景気悪化や金融不安が起きたときに大きく売られやすく、「スワップ以上の値下がり」が一気に進むケースがあります。
長期保有を前提としても、許容できる含み損の範囲をあらかじめ決めておき、リスクをコントロールすることが重要です。
リスク2:金利情勢の変化
各国の政策金利は固定ではなく、景気やインフレ率などに応じて変動します。高金利通貨の国が利下げを行ったり、逆に低金利通貨が利上げに動いたりすると、金利差が縮小し、スワップポイントも減少します。
金利差が縮小すると、キャリートレードの魅力も低下します。長期運用を行う場合は、その国の金融政策の方向性やインフレ率、財政状況なども定期的にチェックしておく必要があります。
リスク3:レバレッジによるロスカット
スワップ狙いだからといってレバレッジをかけすぎると、一時的な急落でロスカットにかかり、スワップを受け取る前にポジションが強制決済されてしまう可能性があります。キャリートレードは本来「じっくり構える戦略」であり、短期の値動きに耐えられるポジション設計が欠かせません。
具体的な戦略設計のステップ
ステップ1:通貨ペアの選定
まずは、どの通貨ペアをキャリートレードの対象にするかを決めます。金利差だけでなく、その国の政治・経済の安定性、通貨の流動性、過去の値動きのレンジなども考慮に入れます。
極端な高金利通貨は、スワップは魅力的でも、その分値動きのリスクも大きい傾向があります。はじめは値動きが比較的穏やかな通貨ペアから検討する方が、長期で続けやすい傾向があります。
ステップ2:レバレッジとポジションサイズの決定
次に、手元資金に対してどの程度のレバレッジを許容するかを決めます。長期保有を前提とするなら、「レバレッジは低く、ロスカットされにくい」設計が基本です。
目安として、証拠金維持率が常に数百%を維持できるようにポジションを抑えておき、急な為替変動があっても、慌ててポジションを手放さなくて済むようにします。
ステップ3:許容できる含み損のラインを決める
キャリートレードでは、一時的に含み損を抱えながらもスワップを受け取り続ける場面が珍しくありません。そのため、「ここまで下がったらいったん損切りする」「この水準まで下落する可能性を想定し、その分の証拠金余裕を確保しておく」といったラインを事前に決めておきます。
チャートの過去データを見ながら、大きな下落局面でどの程度の値幅が出ているかを確認しておくと、自分が許容できるリスクとのバランスが取りやすくなります。
ステップ4:スワップと値動きのバランスを定期的に見直す
ポジションを建てたあとも、金利差の変化や通貨ペアの値動きに応じて、定期的に見直しを行います。スワップの水準が大きく低下したり、その通貨のファンダメンタルズが悪化したりした場合は、ポジションを縮小・撤退する判断も必要です。
シミュレーションでイメージを掴む
シナリオ1:為替レートがほぼ横ばいの場合
仮に、為替レートが1年間ほぼ横ばいで推移し、スワップポイントが安定しているケースを考えます。1万通貨あたり1日50円のスワップであれば、1年で18,250円です。2万通貨なら約36,500円となり、レバレッジ1〜2倍程度であれば、比較的落ち着いて長期保有しながらスワップを積み上げることができます。
シナリオ2:為替レートがじわじわ上昇する場合
スワップ収入に加えて、為替レートが緩やかに上昇すると、含み益も乗ってきます。この状況では、スワップとキャピタルゲインの両方を得られる理想的なパターンになります。ただし、上昇が永遠に続くことはないため、含み益が十分に乗ったタイミングで一部ポジションを利益確定するなど、出口戦略も考えておきます。
シナリオ3:為替レートが急落する場合
景気後退や金融ショックなどで、高金利通貨が一気に売られる局面では、評価損が短期間で大きく膨らむことがあります。ロスカットにかからないよう証拠金に十分な余裕を持たせておくとともに、「この水準まで下がったらいったん損切りする」といったルールを決めておくことで、致命的な損失を避けやすくなります。
ポートフォリオ全体での位置づけ
キャリートレードは、ポートフォリオ全体の中で「安定的なインカムを狙う枠」として位置づけるイメージが分かりやすいです。ただし、為替リスクや金利変動リスクがあるため、「安全資産」と同じ感覚で資金の大部分を投入するのは避けたほうが無難です。
株式や投資信託、債券、暗号資産などと組み合わせ、全体のリスク許容度に応じてキャリートレードに回す割合を調整します。たとえば、リスク資産全体のうち、キャリートレードには10〜20%程度を充てるなど、自分なりの目安を持っておくと、急な相場変動が起きても精神的に耐えやすくなります。
キャリートレードを続けるための心構え
キャリートレードは、「毎日少しずつスワップが積み上がる」という性質上、短期間で大きく儲けることを狙う戦略ではありません。数ヶ月〜数年単位で、じっくりと時間をかけて成果を育てていくイメージが現実的です。
一時的な含み損に過度に振り回されず、事前に決めたルールに従って淡々と運用を続けられるかどうかが、結果を左右する大きなポイントになります。
また、特定の通貨や取引を決め打ちするのではなく、市場環境や金利情勢の変化に応じて柔軟に見直しを行う姿勢も重要です。金利差が縮小し、リスクに見合わないと判断したら、ポジションを減らす・撤退するという選択肢も常に持っておきます。
まとめ
為替の金利差を利用したキャリートレードは、レバレッジを抑え、リスク管理を徹底すれば、長期的にインカム収入を狙える戦略の一つです。一方で、為替レートの変動や金利情勢の変化によるリスクも存在するため、「スワップがもらえるから安心」といったイメージだけで判断するのは危険です。
通貨ペアの選定、レバレッジとポジションサイズの管理、許容できる含み損の設定、定期的な見直しといった基本を押さえたうえで、自分のリスク許容度に合った範囲で活用していくことが大切です。時間を味方につけながら、ポートフォリオの一部としてキャリートレードをどう組み込むかを考えることが、長く続けるうえでの鍵になります。


コメント