FXで「分散しているつもり」が最も危ないのは、通貨ペアが違っても同じリスク要因(ドル高・リスクオフ・金利差拡大など)に引っ張られて、実質的に“同方向のポジション”になっているケースです。ここで役に立つのが通貨ペアの相関係数です。相関は「同じ方向に動く度合い」を数値化し、同時保有のリスク(同時被弾)を可視化できます。
ただし相関は万能ではありません。相関は期間で変わり、ニュースや政策で一夜で崩れ、ボラティリティの上昇局面で一斉に1に近づくことすらあります。この記事では、相関係数を“計算して眺める”から一歩進めて、分散・ヘッジ・損失耐性(ドローダウン耐性)の設計に落とし込む手順を、初心者でも手を動かせる形で解説します。
- 相関係数とは何か:まず「同時に損する確率」を下げる道具と理解する
- 初心者がやりがちな「分散の罠」:通貨ペアが違っても同じ賭けになっている
- 相関の計算手順:最短で「使える形」にする
- 相関の「実戦的な読み方」:0.8、0.5、0.0、-0.5、-0.8の意味
- 「相関が高いからダメ」を卒業する:サイズ調整の考え方
- 具体例:USDJPYとEURJPYを同時保有する場合の設計
- 逆相関をヘッジに使うときの注意点:相関より「構造」を優先する
- 相関は「危機で跳ねる」:ボラティリティ上昇局面の挙動を前提にする
- “相関+ボラ”で事故を減らす:同時保有の判断は2軸で
- ローリング相関で「レジーム転換」を検出する:相関が崩れる3つのサイン
- 初心者向けの「通貨ペア相関ウォッチリスト」:まずはこの組み合わせを観察する
- 相関をトレード戦略に落とす:エントリーより“保有中の管理”で効く
- 相関と相場の“因子”を結びつける:ドル・円・金利・リスクセンチメント
- 初心者のための運用ルール(テンプレ):これだけで“同時被弾”が減る
- まとめ:相関は「勝つ道具」ではなく「負けない設計」に直結する
相関係数とは何か:まず「同時に損する確率」を下げる道具と理解する
相関係数(一般にピアソン相関)は、2つの価格変化がどれくらい一緒に動くかを-1〜+1で表します。+1に近いほど同方向、-1に近いほど逆方向、0に近いほど独立に近い動きです。
FXでは「通貨ペアの価格」そのものより、日次のリターン(例:終値の変化率)で相関を見ます。理由は、価格水準の違いより「変化の方向と大きさ」がリスクに直結するからです。
重要なのは、相関が高い=悪ではなく、高相関を理解せずに同時保有するのが悪という点です。高相関でもサイズを落とせば管理できますし、逆相関をヘッジとして使うこともできます。
初心者がやりがちな「分散の罠」:通貨ペアが違っても同じ賭けになっている
典型例を挙げます。
例1:EURUSDロング+GBPUSDロング
見た目は「ユーロとポンド」で分散に見えます。しかし両方とも“対ドル”です。米ドルが一斉に強くなる局面(米金利上昇、リスクオフ)では、両者が同時に下落しやすい。つまりドルショートを2本持っている状態になりがちです。
例2:AUDJPYロング+NZDJPYロング
こちらは“対円”で、かつ資源国通貨。リスクオンで上がりやすい一方、株が崩れると同時に落ちやすい。相関が高いことが多く、サイズを誤ると急落時に一気に損失が膨らみます。
例3:USDJPYロング+EURJPYロング
円安を取りに行っているつもりが、実際には「円ショートを重ねている」だけになる場合があります。円が急騰する局面(リスクオフ、地政学、ショック)では同時に踏まれやすい。
相関を見る目的は、こうした“見かけ分散”を剥がして、共通のリスク因子に偏っていないかを検出することです。
相関の計算手順:最短で「使える形」にする
最初のゴールは「2本の通貨ペアを同時に持ってよいか」を判断できることです。手順はシンプルです。
1)リターンを作る
日足の終値で十分です。リターンは次のどちらでも構いません。
・単純リターン: (今日終値 / 昨日終値) – 1
・対数リターン: ln(今日終値 / 昨日終値)
2)期間(窓)を決める
相関は期間依存です。まずは次の3つを同時に出すのが実務的です。
・短期:20営業日(約1か月)
・中期:60営業日(約3か月)
・長期:120営業日(約6か月)
3)ローリング相関で「時間変化」を見る
単発の相関は当てになりません。ローリング相関(移動窓で毎日計算)にすると、相関が崩れる瞬間や、レジーム転換が見えます。
Excelなら、リターン列を作って相関関数を使い、窓をずらして計算します。Python等を使えるならローリング計算が簡単ですが、初心者はまずExcelで十分です。大事なのは“数値を出すこと”より、相関が一定ではないと体で理解することです。
相関の「実戦的な読み方」:0.8、0.5、0.0、-0.5、-0.8の意味
目安として、次のように解釈すると判断が速くなります(市場や期間でズレるので絶対ではありません)。
+0.8以上(強い同方向)
ほぼ同じ賭け。2本持つなら、合計サイズを1本分に圧縮するのが基本。例えばEURUSDを1.0ロット持つ計画なら、EURUSD0.5+GBPUSD0.5のように“合算で1本”。
+0.5前後(中程度に同方向)
同時被弾はするが、完全一致ではない。片方をコア、もう片方をサテライトにしてサイズに差を付ける(例:コア0.7、サテライト0.3)と運用が安定しやすい。
0付近(独立に近い)
分散として期待できるが、“独立”ではない。特にショック局面で相関が跳ねることがあるので、過信は禁物。
-0.5前後(中程度の逆方向)
部分ヘッジとして機能する可能性がある。だが逆相関は崩れやすく、ヘッジ目的なら「なぜ逆相関になるのか(構造)」を説明できることが条件。
-0.8以下(強い逆方向)
ヘッジに向くことがあるが、ここまで強い逆相関が長続きするケースは限定的。相関が保たれる理由(例えばリスクオン/オフの代表ペアなど)を確認し、相関が崩れたら即見直す前提で使う。
「相関が高いからダメ」を卒業する:サイズ調整の考え方
相関の実務的な使い道は、銘柄選び以上にサイズ(保有量)です。相関が高いペアを同時に持つなら、合計リスクを一定にする設計が必要です。
初心者がやるべき最も簡単な方法は、相関が高いほど合計ロットを減らすルールです。例えば、次のように決めます。
・相関が+0.8以上 → 合計ロットは通常の0.6倍
・相関が+0.5〜+0.8 → 合計ロットは通常の0.8倍
・相関が-0.3〜+0.3 → 合計ロットは通常の1.0倍(通常通り)
・相関が-0.3以下 → 合計ロットは通常の0.9倍(ヘッジでも過信しない)
ここでの“通常”とは、あなたが1本だけ持つときの標準サイズです。ルールの狙いは、相関が高いときに同時被弾での最大損失を抑えることです。
具体例:USDJPYとEURJPYを同時保有する場合の設計
円絡みを2本持つのはよくあるケースです。例えばUSDJPYロング(円売り)とEURJPYロング(円売り)を同時に持つと、実質的に「円ショートの重ね掛け」になります。相関が高い局面では、円が急騰すると2本とも逆行します。
ステップ1:ローリング相関を見る
20日で+0.85、60日で+0.70、120日で+0.55のような状態なら、短期ほど同方向が強い=直近は“同じ賭け”になりやすい、と判断します。
ステップ2:合算リスクを1本に圧縮
通常の標準が1.0ロットなら、合算で0.6〜0.8ロットに圧縮します。例えばUSDJPY0.5+EURJPY0.2のように、コア(より根拠が強い方)に寄せる。
ステップ3:損切りは「2本合計の損失」で管理
別々に損切りを置くと、片方だけ残って“実質同じ賭け”が続くことがあります。合計で一定損失(例:口座の-1%)に達したら、両方を縮小または一旦撤退する、と決めておくと事故が減ります。
逆相関をヘッジに使うときの注意点:相関より「構造」を優先する
相関がマイナスだからといって自動的にヘッジになるわけではありません。相関は“結果”で、ヘッジは“構造”です。
構造で説明できる例
・リスクオフで円高になりやすい局面:円絡みのロングと、別のリスクオン通貨のロングを同時に持つと相殺が働くことがある。
・資源国通貨とコモディティの関係:AUDが鉄鉱石や中国需要に影響される、などの背景がある。
構造で説明できない例(危険)
たまたま直近1か月だけ逆相関になっているだけの組み合わせ。政策発言や指標1つで関係が壊れ、ヘッジのつもりが両方逆行することがあります。
ヘッジで相関を使うなら、最低限「なぜ逆方向になりやすいのか」を文章で説明できる状態で使ってください。
相関は「危機で跳ねる」:ボラティリティ上昇局面の挙動を前提にする
危機局面では、普段は独立に見える資産でも相関が急上昇しやすい。FXでも、急激なリスクオフではドル買い・円買いが同時に起き、複数ペアが同時に動くことがあります。
この性質を踏まえると、相関管理は「平常時の分散」だけでなく、非常時の損失上限を決めることが本質になります。具体的には次の2つをセットにします。
・平常時:相関でサイズを調整し、無駄な重複を減らす
・非常時:相関が崩れても耐えられるよう、合計リスク(最大許容損失)を小さくする
“相関+ボラ”で事故を減らす:同時保有の判断は2軸で
相関だけ見ていると落とし穴があります。相関が低くても、片方のボラティリティが高ければ、ポートフォリオのリスクは大きいままです。
実務では、次のように考えるとシンプルです。
同時保有リスク ≒(ボラの大きさ)×(相関の高さ)
例えば、相関0.3でも片方が大きく暴れるペアなら、同時保有の意味は薄い。逆に、相関0.7でもボラが小さくサイズも小さいなら管理可能です。初心者はまず、高ボラのペアを増やしすぎないことが一番効きます。
ローリング相関で「レジーム転換」を検出する:相関が崩れる3つのサイン
相関の最大の価値は、変化を検出できることです。次のサインが出たら、同時保有やヘッジ設計を見直してください。
サイン1:短期(20日)だけ急に上がる/下がる
ニュースや政策で短期相関が跳ねた可能性があります。ポジションが重なっているなら合計サイズを落とす。
サイン2:短期と長期の相関が逆向き
例:20日+0.8、120日0.1。直近は同方向だが長期では関係が薄い。短期の変化に引っ張られているだけかもしれないので、直近のイベント要因を確認。
サイン3:相関がマイナスからプラスへ(または逆)
これはレジーム転換の可能性が高い。ヘッジ目的で逆相関を使っていた場合は危険信号です。
初心者向けの「通貨ペア相関ウォッチリスト」:まずはこの組み合わせを観察する
最初から全通貨を追う必要はありません。初心者が観察する価値が高いのは、構造が理解しやすい組み合わせです。
1)対ドルの主要ペア同士
EURUSD・GBPUSD・AUDUSDなど。ドルの強弱が共通因子になりやすく、相関の上げ下げが理解しやすい。
2)円絡みの主要ペア同士
USDJPY・EURJPY・AUDJPYなど。リスクオフで円高が進む局面の同時被弾を検出しやすい。
3)資源国通貨同士
AUDUSD・NZDUSD、あるいはAUDJPY・NZDJPY。リスクオン/オフで同方向になりやすい。
この3グループをローリング相関で眺めるだけでも、「分散しているつもり」が剥がれてきます。
相関をトレード戦略に落とす:エントリーより“保有中の管理”で効く
相関はエントリーシグナルとして使うより、保有中のリスク制御で効果が出ます。具体的には次の使い方が現実的です。
使い方1:同じ方向のポジションを増やすときのブレーキ
利益が乗ると、似たペアを追加したくなります。ここで相関が高いなら、追加ではなく「既存ポジのストップを引き上げる」「一部利確する」など、リスクを増やさない方向に動く。
使い方2:ヘッジは“相関が崩れたら撤退”の前提で
相関が一定以下(例:-0.3未満)でヘッジを組んだなら、-0.1まで戻った時点でヘッジを外す、とルール化する。ヘッジは永遠に効く前提にしない。
使い方3:損失が増えた時に「原因が相関か」を切り分ける
同時に複数ペアが逆行したら、相関が上がった可能性が高い。次回からは合算サイズの基準を引き下げるフィードバックができます。
相関と相場の“因子”を結びつける:ドル・円・金利・リスクセンチメント
相関を読むコツは「通貨ペア」ではなく「因子」に分解することです。初心者でも次の4因子を意識すれば十分です。
因子1:ドル要因(DXYや米金利)
対ドルペアはドル因子の影響が強く、同時に動きやすい。
因子2:円要因(リスクオフ/オフショアショック)
円絡みはリスクオフで同時に動きやすい。
因子3:金利差(キャリー要因)
高金利通貨が同時に動く局面がある。キャリーが巻き戻るときの相関上昇に注意。
因子4:リスクセンチメント(株・VIXなど)
リスクオン通貨(豪ドルなど)と円の関係が変わり、相関が跳ねることがあります。
相関の数字が変化したときは、「どの因子が前面に出たのか」を考えると、次の一手(縮小・撤退・ヘッジ)が決めやすくなります。
初心者のための運用ルール(テンプレ):これだけで“同時被弾”が減る
最後に、相関を日々の運用に落とすテンプレを提示します。難しい最適化より、再現性と継続が重要です。
ルールA:同時保有は最大3本まで
管理ができる上限を決める。初心者が最初から5〜6本持つと相関把握が追いつきません。
ルールB:同一グループ(対ドル・対円・資源国)で2本目を持つときは合算サイズを圧縮
相関が高い確率が高いからです。圧縮率は先ほどの目安で十分。
ルールC:20日相関が+0.8を超えたら、合算リスクを即時-20%削減
短期で“同じ賭け”になり始めた合図です。
ルールD:ヘッジ目的の逆相関ポジションは、相関が-0.1を超えたら撤退
ヘッジの効きが落ち始めたサインとして扱う。
ルールE:合計損失の上限を固定(例:口座の-1%で一旦撤退)
相関が何であれ、損失の天井を決める。相関管理の最終目的はここです。
まとめ:相関は「勝つ道具」ではなく「負けない設計」に直結する
相関係数は、未来を当てる指標ではありません。ですが、同時保有で崩れるパターンを減らし、損失を“想定内”に収める力があります。初心者がFXで生き残る上で最も効くのは、派手な勝ち筋よりも、退場しない設計です。
まずは、主要ペアで20日・60日・120日のローリング相関を作り、「分散しているつもり」を剥がしてください。そのうえで、相関に応じてサイズを落とす。これだけで、同じ戦略でも成績のブレが小さくなり、改善のサイクルが回りやすくなります。


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