DX推進×IT人材不足で伸びる「基幹システム刷新」需要――SIerの受注残と利益率を読み解く投資戦略

日本株

「DXが重要」と言われ続けてきましたが、いま日本企業が直面しているのは、理念ではなく基幹システム(会計・販売・在庫・人事など)の更新期限と、それを実行するIT人材の不足という“物理的制約”です。結果として、基幹刷新(ERP入れ替え、レガシー更改、クラウド移行、データ基盤整備)が同時多発し、SIer(システムインテグレーター)の受注残が積み上がりやすい局面になっています。

本記事は、投資初心者でも理解できるように「DX」「基幹システム」「SIer」の基本から入り、そこから株価の材料になりやすい数字(受注残、稼働率、単価、利益率、ストック比率)に落とし込みます。最後に、ニュースや決算で“次に起きる”を先読みするための実践手順を示します。

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なぜいま「基幹システム刷新」が投資テーマになるのか

基幹システムは企業の血管です。古いままでも動きますが、限界が来ると一気に詰みます。いま刷新が加速している理由は、主に3つあります。

第一にレガシーの保守限界です。古い言語やOS、特定ベンダーに依存した仕組みは、保守できる人が減り、部品も枯渇します。第二にクラウド前提の業務再設計です。SaaSやクラウドERPに合わせて業務を作り直す企業が増え、単なる“移し替え”ではなく大規模プロジェクトになりがちです。第三にセキュリティとデータ活用の必須化です。個人情報・取引情報を扱う以上、脆弱な基盤は許容されにくく、データ基盤(DWH/データレイク)を整備しないとAI・分析に進めません。

この3つは、景気が少し悪くなっても止まりにくい“準インフラ投資”です。なぜなら、止めると「業務停止」「監査対応不能」「サイバー事故」が起き得るからです。投資家目線では、需要の底が比較的固いという意味になります。

まず押さえる用語:DX、基幹、ERP、SIer

DXは「デジタル化」だけではありません。重要なのは、データが一貫して流れ、意思決定が速くなる状態を作ることです。その中心にあるのが基幹です。基幹が古いと、データが分断され、結局Excelの手作業に戻ります。

ERPは基幹の代表格で、会計・購買・販売・在庫・生産などを統合します。ERPの入れ替えは、単にソフトを変えるのではなく、業務プロセス(承認、締め、在庫評価、原価計算)を再設計するので、難易度が上がります。

SIerは、こうした企業のIT変革を要件定義→設計→開発→導入→運用までまとめて請け負う業態です。投資で見るべきは「売上が伸びるか」だけでなく、どの案件が、どれくらいの利益率で、どれくらい長く続くかです。

IT人材不足が“追い風”になるロジック

人材不足は一般には悪材料に見えます。しかしSIerの株価材料としては、使い方次第で追い風になります。ポイントは需給の逼迫が単価に転嫁されるか、そして低採算案件を断れる立場になるかです。

人材が余っている局面では、SIerは案件を選べず、価格競争で利益率が削られます。一方、逼迫局面では「いつ着手できるか」が価値になり、納期を買う形で単価が上がります。さらに、採算が合わない案件を断り、選別受注が進むと、売上は横ばいでも利益が増えることがあります。

もう一段深い視点として、SIerの収益はしばしば「人×時間」で決まります。ここで稼働率(利用率)が高止まりすると、追加需要が来ても“物理的にさばけない”。このとき、企業は次の手を打ちます。①単価を上げる、②外注・オフショア比率を上げる、③自動化(生成AI、ローコード)で生産性を上げる、④運用をストック化する。投資家は、各社がどの手で利益率を上げているかを見ます。

株価に効くのは「DX」よりも「受注残」と「利益率」

DXという言葉は曖昧で、材料として弱いことがあります。市場が反応しやすいのは、より具体的な数値です。

まず受注残(バックログ)。受注残が増え続ける企業は、将来の売上が見えやすく、投資家は安心して評価しやすい。次に粗利率・営業利益率。単価転嫁や選別受注が効くと、利益率が改善します。さらにストック売上比率(運用保守、サブスク、マネージドサービス)。ストックが厚い企業は、景気変動に強く、バリュエーションが上がりやすい。

初心者がハマりやすい罠は「売上が増えた=良い会社」と単純化することです。SIerはプロジェクト型なので、売上が増えても採算が悪い案件を取っていれば利益が伸びません。逆に、売上がそこまで伸びなくても、案件の質が上がると利益が伸び、株価が動くことがあります。

基幹刷新案件の“勝ちパターン”を分解する

基幹刷新には典型的な勝ちパターンがあります。投資家としては、企業がそのパターンを取れているかを確認します。

(1)標準化に寄せる:ERPは「標準機能に業務を合わせる」ほど、コストとリスクが下がります。逆に、旧来の業務をそのまま再現する“フルカスタム”は、炎上しやすく利益率が落ちます。決算説明資料で「テンプレート」「モデル」「アセット」「Fit to Standard」などの表現が増える企業は、利益率改善の可能性があります。

(2)運用を取りにいく:導入だけで終わると一過性の売上です。導入後の運用(監視、改修、セキュリティ、データ活用)をマネージドで握ると、継続収益になります。ここができる企業は、PERが上がりやすいです。

(3)人海戦術から脱却する:要件定義や移行、テストは手作業が多くなりがちです。ここに自動化(テスト自動化、移行ツール、生成AIによるコード補助)を入れると、同じ人員で回せる案件が増えます。生産性向上は、受注拡大と利益率改善の両方に効きます。

“儲けの源泉”を読む:稼働率、単価、外注比率

SIerの決算を読むとき、初心者は売上と利益だけを見がちです。しかし、次の3点を見ると、先回りがしやすくなります。

一つ目は稼働率です。稼働率が高い会社は強い需要を抱えていますが、同時に供給制約も抱えます。稼働率が高いのに受注が増える場合、次に起きるのは「単価上昇」か「外注比率上昇」です。

二つ目は単価です。単価が上がる局面は、短期の株価材料になりやすい。賃上げが進むと費用も増えますが、単価転嫁が進む企業は利益率が守られます。

三つ目は外注比率です。外注を増やすと売上は伸びやすい一方、粗利が薄くなることがあります。ここを読み違えると「売上は好調だが利益が出ない」銘柄に掴まります。外注比率の上昇が、単なる人手不足の穴埋めなのか、海外拠点やパートナー網を使った生産性向上なのか、説明の質を見ます。

具体例:同じDXでも株価が動く会社、動かない会社

ここからはイメージを掴むための具体例です。実在企業名を挙げず、典型パターンとして説明します。

例A:利益率が上がるタイプ。ある中堅SIerは、製造業向けにERP導入テンプレートを持ち、案件の標準化が進んでいます。受注は増えていますが、無理に案件を詰め込まず、採算が悪い案件は断り、プロジェクト管理を強化しました。結果として、売上の伸びは年率一桁でも、営業利益率が着実に改善し、受注残が積み上がります。このタイプは、市場が「将来も稼げる」と見なしやすく、評価が上がりやすい。

例B:売上が増えても評価されにくいタイプ。別のSIerは大型案件を次々取りますが、顧客の要望に合わせたカスタムが多く、テスト・移行で工数が膨らみます。外注比率を増やして回しますが、粗利は薄く、納期遅延や追加要員で利益が出にくい。売上は伸びても利益率が改善せず、株価は伸び悩みます。

初心者が注目すべきは「DXの掛け声」より、Aがやっている標準化・選別受注・管理能力のほうです。ここが、儲けの再現性になります。

政府・大企業の動きが波及する「需要の起点」を押さえる

基幹刷新は、個別企業の都合だけでなく、外部環境で一気に動くことがあります。たとえば、セキュリティガイドラインの厳格化、監査対応の高度化、インボイス対応や電子帳簿保存、サプライチェーン全体の可視化要求などです。こうした要因は、一社の判断では止めにくいため、需要が連鎖します。

投資で使える実務的な見方は、「大手が動いたら下流にも波及する」という捉え方です。大企業がERPを入れ替えると、関連会社、取引先、物流、決済など周辺にもシステム連携が必要になり、プロジェクトが広がります。受注は大手だけでなく、周辺の中堅・専門SIerにも分散します。

生成AIは敵か味方か:SIerへの影響を整理する

生成AIは「開発が不要になる」と誤解されがちですが、基幹刷新では逆に仕事が増える場面もあります。理由は、基幹の仕事は“コードを書くこと”より、業務要件を整理し、データを整え、移行し、運用する比重が大きいからです。

ただし、AIは生産性を上げます。投資家としては、AIを使って「同じ人数でより多くの案件を回す」「テスト・移行の工数を減らす」「運用の自動化でストックを増やす」企業が有利と考えます。逆に、AIを使えず、人海戦術でしか稼げない企業は、賃金上昇局面で利益率が圧迫されます。

初心者でもできる“銘柄選別”の手順

ここからは実践です。難しい財務モデルは不要です。公開情報だけで、ある程度の当たりを付けられます。

第一に、決算資料で受注残の推移を確認します。増えているなら「需要がある」。横ばいでも利益率が上がっているなら「選別受注が効いている」可能性があります。

第二に、利益率の内訳を推測します。営業利益率が改善しているなら、単価転嫁・標準化・ストック化のいずれかが効いているはずです。説明が具体的かどうかを見ます。抽象的な“改善努力”ではなく、「標準テンプレート比率」「運用契約の増加」「自動化投資の効果」などの言及がある会社は信頼度が上がります。

第三に、人材戦略です。採用数、育成、資格、パートナー網、オフショア拠点、生成AI活用。人材不足の時代は、人を増やせる会社より、人を増やさなくても回せる仕組みを持つ会社が勝ちます。

第四に、顧客構成です。特定業界に偏りすぎると、その業界の投資サイクルで業績がブレます。一方、金融・公共・製造など、比較的投資が続きやすい領域に強い会社は、景気減速局面でも底堅くなりやすい。

エントリーの考え方:材料の“先回り”と“確認”を分ける

短期で儲けたい人ほど、材料が出てから飛びつきがちです。しかし、SIerのテーマは、材料の出方がある程度パターン化します。重要なのは「先回り」と「確認」の2段階です。

先回りは、需要が高まる前提を仕込む段階です。例えば、国のデジタル政策、セキュリティ事故の増加、特定ERPの保守期限、クラウド移行の加速など、外部要因が揃う局面で、受注残が積み上がりやすい企業をウォッチします。

確認は、決算で数字が付いてきた段階です。受注残が伸び、利益率が改善し、会社側の見通しが強いなら、上昇トレンドが続きやすい。逆に、売上は強いが利益率が悪化しているなら、案件の質に問題がある可能性があり、見送りやすい。

リスク:このテーマで負ける典型パターン

最後に、損失を避けるためのリスク整理です。ここを押さえるだけで成績が変わります。

最大のリスクはプロジェクト炎上です。大規模な基幹刷新は、要件のブレ、テスト不足、データ移行の失敗で遅延し、追加コストが発生します。利益率が突然悪化することがある。次に顧客の投資延期です。設備投資は削れても、基幹投資は削りにくいとはいえ、段階的延期は起こり得ます。受注の計上タイミングがズレると、短期の株価が崩れます。

さらに人件費の上振れ。単価転嫁が遅い会社は、賃上げがそのまま利益を削ります。最後にサイバー事故。運用を握るほど責任も増え、事故が起きれば信用低下と損害が出る可能性があります。

投資としては、これらのリスクが顕在化しにくい企業、つまり「標準化」「管理」「ストック化」が進んでいる企業を選び、一社に集中しないことが現実的です。

まとめ:DXテーマを“数字”に落として勝率を上げる

DXは流行語ではなく、基幹刷新という“必須投資”として具現化しています。IT人材不足は、単にコスト増ではなく、選別受注と単価上昇を通じて、SIerの利益率を押し上げることがあります。投資家は「DXが進むか」ではなく、受注残が積み上がるか、利益率が改善するか、ストックが厚くなるかを見ます。

あなたが今日からできるのは、気になるSIerの決算資料で、受注残と利益率の推移を確認し、説明の具体性を評価することです。その上で、外部環境(制度、セキュリティ、クラウド移行)から需要の波を読み、数字で“確認”してから乗る。これだけで、テーマ投資の再現性は上がります。

※投資判断はご自身の責任で行い、分散とリスク管理を前提にしてください。

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