この戦略が機能しやすい理由:統計=「需給が同時に動く材料」だから
インバウンド関連の統計(訪日客数、延べ宿泊者数、宿泊単価、免税売上、空港別入国者、地域別宿泊動向など)は、企業の業績に直結しやすいだけでなく、同じタイミングで複数銘柄に「横並びの買い/売り」を発生させます。短期トレードで重要なのは、材料の正しさよりも、まず需給が一方向に偏ることです。統計発表はその偏りを作りやすい代表的イベントです。
特に小売(百貨店、免税、ドラッグストア、アパレル、決済関連)と宿泊(ホテル、旅行、交通、レジャー)は、統計の数字が市場の期待値を上回った/下回った瞬間に、アルゴのスクリーニングと投資家のテーマ買いが同時に走り、板が薄い銘柄ほど価格が跳ねやすくなります。つまり「初動の数分〜数十分」が最も取りやすい局面です。
前提:狙うのは“中長期の正解”ではなく“発表直後の初動”
ここで狙うのは、「統計が好調だから長期で上がるはず」という話ではありません。統計が出た直後に、(1)同業がまとめて買われる、(2)指数とは別にテーマで資金が入る、(3)板と歩み値が一気に買い優勢へ切り替わる——この3点が揃う局面だけを切り取って、短期で抜きに行きます。
そのため、エントリー条件はファンダメンタルよりも「需給の可視化」(出来高、歩み値、板、VWAP、寄り付き気配、PTS、指数との逆行)に寄せます。初心者がやりがちな“ニュースを読んでから銘柄探し”だと遅いので、統計の種類と、反応しやすい銘柄群をあらかじめ決めておく設計が必要です。
統計イベントの種類を整理する:どの数字がどの業種に刺さるか
インバウンド統計と言っても、数字の性質が違います。短期反応の強さは「企業業績への直結度」と「市場参加者の理解のしやすさ」で決まります。以下のように分類すると、発表直後の監視対象がぶれません。
1) 訪日客数・入国者数(国別、空港別)
最も分かりやすく、テーマ買いが起きやすい数字です。「前年同月比」「前年差」「コロナ前比」などが見出しになりやすいので、アルゴも拾いやすい。百貨店、免税、旅行、空港関連、鉄道・バス、決済などへ波及しやすい一方、すでに織り込みが進んでいる局面では“数字は良いのに寄り天”も発生します。
2) 宿泊統計(延べ宿泊者数、稼働率、ADR、RevPAR)
ホテル運営や宿泊プラットフォームに直結しやすく、利益率の改善期待につながります。特にADR(平均客室単価)やRevPARは「値上げできているか」を示すので、数量より価格の改善が出ると反応が鋭くなります。宿泊銘柄の初動は板が薄いことが多く、数分のブレイクで一気に走るケースがあります。
3) 免税・百貨店売上(免税売上高、客単価、購買カテゴリー)
ドラッグストアや百貨店に直撃します。発表主体が複数あるため、統計の出方が分散するのが難点ですが、逆に言えば「遅れて出た統計で再点火」も起きます。テーマが再燃すると、過去高値を意識したブレイクが出やすいのが特徴です。
“事前準備”が勝率の大半:監視リストの作り方
初動は速いので、発表後に銘柄を探すと間に合いません。必ず「監視リスト」を固定で持ちます。作り方はシンプルで、(1)インバウンドの売上比率が高い、(2)時価総額が大きすぎず値が動く、(3)板が薄すぎない、(4)過去にも統計で動いた——この4条件で10〜30銘柄程度に絞ります。
監視リストを“2軍制”にする
おすすめは2軍制です。Aリスト(最優先:誰でも連想する代表銘柄)とBリスト(連想は弱いが板が軽い・伸びやすい銘柄)に分けます。統計が良いときはAがまず買われ、その後Bに資金が回ってくることが多いからです。Aで初動を取り逃しても、Bで2波を狙えるようにしておくと機会損失が減ります。
“当日の相場地合い”でリストの重みを変える
指数が強い日は、テーマ買いが伸びやすいので順張りが効きます。指数が弱い日は、統計が良くても上値が重くなりやすく、早利確が基本です。さらに円高が急進している日は、インバウンドに逆風と解釈されやすいので、同じ統計でも伸びが鈍ります。統計の数字だけでなく、当日の地合い(指数・為替・先物)で期待値を調整します。
発表当日の“時系列チェック”:初心者でも迷わない順番
発表直後にやることを順番固定にします。迷いが減り、エントリーが早くなります。
ステップ1:統計の「市場の期待値」との差を一言に落とす
まず、数字を細かく読む前に「想定より強い/弱い/無難」の3択に分類します。ここで重要なのは、あなた自身の感想ではなく、市場がどう受け取るかです。判断材料としては、発表前のニュースのトーン(“回復鈍化”が多いのか“過去最高”が多いのか)、同業の直近決算の温度感、そして当日の先物・為替の流れです。強いと判断できるなら順張り、弱いならショートや見送り、無難なら「材料出尽くし」警戒に寄せます。
ステップ2:指数との逆行を確認する
次に、テーマの強さを見ます。指数が横ばい〜弱いのに、小売・宿泊が同時に上がるなら、テーマ買いが本物である可能性が高い。逆に指数が強いだけで上がっているなら、単なる地合いで買われているだけかもしれず、統計ドリブンの優位性が薄れます。
ステップ3:出来高の立ち上がり(5分足)でフィルタする
初心者がいちばん間違えるのが「価格だけ見て飛び乗る」ことです。価格は最後に動く指標で、先に動くのは出来高です。統計で本当に資金が入っているなら、5分足の出来高が直前5本平均の2〜3倍以上に跳ね、しかも次の足でも出来高が落ちにくい傾向が出ます。最初の5分だけで終わるなら、材料に反応した短期勢が利確しただけで、継続性がありません。
ステップ4:歩み値で“成行買いの連続”と“同サイズ連打”を観測する
歩み値(約定履歴)を見て、成行買いが連続しているかを確認します。さらに、同じサイズ(例:500株、1000株など)の成行が連続するなら、アルゴの執行の可能性が上がります。ここが確認できると、単発の買いではなく「しばらく板を食う主体」がいると判断しやすくなります。逆に、上昇しているのに歩み値が細かく途切れ、買いが断続的なら、仕手的な吊り上げや薄板の跳ねである可能性があり、押し目が深くなりやすいです。
エントリーモデル:初動追随を“型”にする
ここからが具体的な売買手順です。統計発表後は値動きが速いので、複雑な判断は失敗の元です。3つの型に絞ります。
型A:ブレイク型(前場高値・直近高値を抜けた瞬間)
統計が強く、テーマ買いが濃いときの王道です。ルールは「直近の高値を出来高増で抜けたら成行、抜けた足の安値割れで撤退」。ポイントは“抜ける前から買わない”ことです。抜ける前に買うと、抜け失敗→下落のダメージを食らいます。ブレイクは「買いが本物だった」と市場が合意した瞬間なので、初心者でも判定がしやすいです。
型B:VWAP回復型(押したあとにVWAPを終値で回復)
初動は取れなかったが、押し目が入って再度上がりそうなときの型です。VWAPは短期勢の平均取得コストに近いので、VWAPを回復できる銘柄は“含み損勢が減り、再上昇が軽い”傾向があります。ルールは「5分足終値でVWAP上→次の足で押さずに高値更新ならIN、VWAP再割れで撤退」。押し目の深さが読めない初心者には特に扱いやすいです。
型C:2軍循環型(代表が一服した後に出る出遅れを取る)
Aリストの代表銘柄が一旦止まった後、Bリストの出遅れに資金が回る局面があります。これを取ります。判断基準は「代表の出来高が鈍り、同時に出遅れの出来高が立ち上がること」。ここで重要なのは“出遅れの板が薄すぎない”ことです。薄すぎるとスプレッドが広く、利益が出ても手数料と滑りで消えます。最初の5分足で出来高が増え、歩み値で成行買いが連続し始めた銘柄だけを対象にします。
利確と損切り:統計トレードは「伸ばす」より「事故を防ぐ」
統計発表はトレンドが出ると強い一方で、急反転も多いです。理由は単純で、発表直後に飛びついた短期勢が利確すると、買いの主体が入れ替わるからです。初心者ほど、利確を“欲”で伸ばし、損切りを“希望”で先送りして崩れます。ここは機械的に決めます。
利確の目安:3段階に分割する
おすすめは分割利確です。例えば、(1)直近高値の上で一度(最初の伸び)、(2)VWAP乖離が+2〜+3%に達したら一度(過熱域)、(3)歩み値の成行買いが止まったら残り(勢いの終了)といった具合です。これにより「全部を天井で売る」という不可能な目標を捨てられます。
損切りの基準:チャートではなく“前提崩れ”で切る
この戦略の前提は「統計→テーマ買い→成行買い継続」です。したがって、損切りは“前提が崩れたら切る”が合理的です。具体的には、(1)出来高が急減して買いが続かない、(2)VWAPを割れて戻れない、(3)歩み値が成行売り連続に切り替わった、(4)指数が急落してテーマが巻き込まれる——このどれかが出たら撤退します。値幅で一律に切るより、再現性が上がります。
具体例:よくある3パターンと対応
ここでは架空の状況ですが、現場で起きやすいパターンに落とし込みます。数字や銘柄名は例示で、再現できる“観察ポイント”に注目してください。
パターン1:統計が強い→代表が寄りから走る→押してVWAP回復→再上昇
統計が予想を上回り、寄り付きから百貨店・ドラッグ・ホテルが同時に買われます。最初の5分で出来高が跳ね、歩み値は成行買い連続。ここで焦って飛びつかず、直近高値ブレイク(型A)を待つか、いったん押してVWAP回復(型B)を待ちます。押し目で出来高が極端に細るなら、売りが枯れているサインです。VWAP回復を5分足終値で確認し、次の足で高値更新したらIN。撤退はVWAP再割れ、または成行買い停止。
パターン2:統計は良いが指数が弱い→上げても戻される→早利確が正解
統計は良いのに、日経先物が崩れて指数が弱い日。代表銘柄は上がるものの、上値で売りが出て伸びません。こういう日は「勝てるが伸びない」。型Aで入れたとしても、利確を早めにして、VWAP乖離が広がったところで逃げるのが合理的です。押し目を拾っても指数下落で巻き込まれるので、ロットを落とすか、短い時間で完結させます。
パターン3:統計は無難→寄り付きだけ上→出来高が続かず寄り天
統計が“無難”だと、材料出尽くしになりやすい。寄り付きはテーマで買われるが、出来高が2本目から急減し、歩み値も途切れます。この場合、順張りは期待値が下がります。逆に「寄り天」型に切り替えて、VWAP割れ戻り(短期の売り)を狙う選択肢もありますが、初心者は無理に逆張りせず「見送り」を基本にしてください。勝ちパターンだけをやるのが長期的に一番強いです。
情報の取り方:遅れないための“ルーティン化”
統計発表トレードは、情報の取り方で勝負が決まります。おすすめは次の3点です。
1) 発表スケジュールを固定でチェック
月次・週次で出る統計は、概ね発表時期が決まっています。自分の監視する統計を5〜10個に絞り、カレンダーに入れておきます。発表当日に慌てないためです。
2) 速報→市場反応→詳細の順で読む
最初に読むのは速報(見出し)です。次に市場反応(先物、為替、代表銘柄の板)を見ます。最後に詳細(国別、地域別など)を読みます。順番を逆にすると、行動が遅れます。
3) “反応しやすい指標”だけを数字でメモする
すべてを追う必要はありません。例えば「訪日客数の前年差」「宿泊単価の伸び」「免税売上の伸び」など、反応しやすい数字だけを自分のメモに残します。積み上げると、“市場の期待値”の感覚が育ちます。
リスク管理:初心者が破綻しやすい落とし穴を潰す
この手法は分かりやすい反面、事故りやすいポイントも明確です。あらかじめ潰します。
落とし穴1:ニュースを見てから飛び乗る(遅い)
発表直後の最も効率の良い値幅は、ニュースが広まる前に終わります。だから監視リストと型が必要です。飛び乗りは勝っても再現性が低いです。
落とし穴2:板が薄すぎる銘柄でスプレッド死する
板が薄いと一見“動きそう”ですが、買った瞬間に不利な価格で約定し、売るときも滑ります。勝率より期待値が落ちます。最低限、上位気配の厚みと、スプレッド(1ティックか2ティック程度)を確認してください。
落とし穴3:伸びる前提で握って急反転に巻き込まれる
統計トレードは、伸びる日もあれば、寄り天の日もあります。だから分割利確と前提崩れ損切りが必要です。「統計が良いから」と握るのは危険です。短期は需給がすべてです。
練習方法:いきなり実弾でやらない
初心者は、まず検証で手順を固めてください。過去の統計発表日を10回分選び、発表直後の代表銘柄の5分足・出来高・VWAP・歩み値を見返します。そこで「型A/B/Cのどれが成立したか」「成立した日は何が共通していたか(指数、為替、出来高の継続)」をメモします。これだけで、当日の判断スピードが段違いになります。
まとめ:統計トレードは“準備9割、当日1割”
インバウンド統計発表後の小売・宿泊株は、テーマ買いが出やすく初動が取りやすい反面、寄り天や急反転も多いイベントです。勝率を上げるコツは、(1)監視リストを固定、(2)出来高と歩み値で需給を確認、(3)ブレイク・VWAP回復・2軍循環の型に絞る、(4)前提崩れで損切りし分割利確する——この4点に尽きます。統計の内容を深読みする前に、相場がどう動いているかを優先し、短期で完結させるほど再現性が上がります。


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