棚卸資産の急増を“景気の警報器”として使い倒す:在庫サイクルから利益率と株価の転換点を先読みする

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結論:棚卸資産は「売上より先に動く」ため、株価の転換点を早く示す

企業の決算で一番見落とされやすいのが棚卸資産(在庫)です。売上や利益は結果なので、悪化してから誰でも気づきます。一方で在庫は「売る前に積み上がる」性質があるため、景気減速・需要の失速・値下げ圧力が、損益計算書に出る前から財務諸表に現れます。投資家としての狙いは単純で、在庫が積み上がる局面を“避ける”だけでなく、「いつ悪材料出尽くしになり、どのタイミングで再評価が始まるか」を定量的に推測して先回りすることです。

ただし在庫は業種によって意味が全く違います。小売の在庫と半導体の在庫と建設の仕掛品を同列に見ると誤判定します。本記事では、棚卸資産を景気の警報器として使うための考え方、決算の読み方、スクリーニングの具体式、そして“儲けるための使い方”に落とし込みます。

まず押さえる:棚卸資産とは何か(製造業・小売・建設で意味が変わる)

棚卸資産は「販売や生産のために保有しているモノ」です。具体的には、原材料、仕掛品、製品、商品(小売の売り物)などを含みます。ここで重要なのは、棚卸資産が増える理由は大きく2種類に分かれるという点です。

1つ目は健全な増加です。需要が伸びている局面で、販売機会を逃さないために在庫を積み増すケース。もう1つは危険な増加です。需要が読めず売れ残り、倉庫に積み上がっていくケース。投資家が知りたいのは後者ですが、決算書には「健全か危険か」が直接は書いてありません。だからこそ、売上・粗利・キャッシュフローと組み合わせて判定します。

業種別の特徴も押さえます。小売は品揃えとしての在庫が必要で、季節要因(冬物、セール)が強い。製造業はサプライチェーンの遅れや部材不足で「仕方なく積む」こともある。建設やプラントは仕掛品が膨らみやすく、工事の進捗や検収のタイミングでぶれます。半導体や電子部品は在庫サイクルが株価に直結しやすく、在庫調整が相場の“底打ちサイン”にもなり得ます。

在庫が危険水域に入ったサイン:3つの比率で一発判定する

棚卸資産そのものの増減だけ見ても不十分です。投資家が使いやすいように、まずは3つの比率に落とし込みます。数式はシンプルですが、意味は鋭いです。

第一に「棚卸資産回転日数(在庫日数)」です。一般形は、棚卸資産÷売上原価×365。売上原価が取りにくければ、棚卸資産÷売上高×365でも代用できます。日数が増えるほど、売れ残り(販売の遅れ)が疑われます。増加が“連続”していることが重要で、単発の増加は季節や戦略在庫の可能性があります。

第二に「在庫増加率−売上増加率(ギャップ)」です。在庫が売上より速いペースで増えると、需要見通しが外れている可能性が上がります。例えば売上が前年同期比+5%なのに在庫が+25%なら、どこかで値引き・返品・生産調整が起きやすい構造です。逆に売上が+20%で在庫が+10%なら、むしろ回転は改善しているかもしれません。

第三に「在庫と営業キャッシュフローの関係」です。在庫が増えると現金が倉庫に寝ます。つまり営業キャッシュフローが弱くなりやすい。利益が伸びているのに営業キャッシュフローが弱い企業は、売掛金の増加か在庫の増加が原因であることが多い。ここを見抜くと、「会計上の利益は出ているが、実際には資金繰りが悪化している」という地雷を踏みにくくなります。

“在庫の積み上がり”が株価を壊すメカニズム:値下げ→粗利低下→減損の連鎖

在庫が増えると何が起きるかを、投資家目線で因果関係に分解します。まず販売が遅れて在庫が積み上がる。すると次に起きるのは値下げ圧力です。特に流行・技術進歩・モデルチェンジが速い業界では、在庫が古くなるほど価値が落ちます。値下げが起きると、粗利益率が落ちます。粗利益率の低下は、営業利益率の低下に直結します。

さらに悪化すると評価損や廃棄が発生します。会計上は棚卸資産評価損(低価法など)として利益を押し下げます。ここまで来ると「悪材料」が一気に顕在化し、株価は決算を境にギャップダウンしやすい。つまり在庫は、表面上は資産に見えますが、実際には将来の利益を食い潰す“遅延爆弾”になり得ます。

もう一つ重要なのが、生産調整(減産)です。企業は在庫が過剰になれば生産を止めます。すると工場の稼働率が下がり、固定費負担が増えて利益率がさらに悪化します。サプライヤーにも波及し、業界全体の決算が連鎖的に崩れます。だから在庫は景気循環を増幅させます。

逆にチャンスになる局面:在庫調整が終わると「業績の底」より先に株価が反転する

ここが投資で一番おいしい部分です。在庫の積み上がりは悪材料ですが、在庫調整は必ず終わります。減産、値下げ、販促、在庫の健全化が進むと、棚卸資産回転日数がピークアウトします。この「ピークアウト」が見えた時点で、まだ損益計算書の数字は悪いことが多い。それでも株価は先に動きます。市場は“最悪期”の先を買うからです。

具体的な見方はシンプルで、在庫日数が前年同期比で悪化していたものが、悪化幅縮小→横ばい→改善に転じる。これが最初のシグナルです。同時に粗利益率の下げ止まり(前年同期比のマイナス幅が縮む)や、受注・出荷の回復コメントが出ると確度が上がります。株価は「在庫調整完了→利益率の回復→増益」ではなく、「在庫調整完了の兆し→いつか回復する」という期待で上がります。だからこそ、在庫の定点観測が効きます。

実践:決算短信・有価証券報告書でチェックする場所(初心者でも迷わない手順)

棚卸資産は決算短信の貸借対照表に出ています。まずは四半期ごとに、棚卸資産の金額、前年同四半期比、前四半期比を控えます。次に売上高と売上原価(取れなければ売上高)を同じ期間で控え、在庫日数を計算します。この時、単純な四半期売上を年換算して割るより、直近4四半期(TTM)の売上原価を使うとぶれが減ります。

さらに注記やMD&A(経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析)に「在庫の増加理由」が書かれていることがあります。ここは宝の山です。例えば「部材調達難のため安全在庫を積み増した」「新製品立ち上げで仕掛品が増加」「需要減速で販売が伸びず在庫が増加」など、同じ“増加”でも意味が違います。数字で怪しいものだけを拾い、文章で裏取りする。これが初心者でも再現性が高い手順です。

スクリーニングの具体例:在庫で“危ない銘柄”を早期に弾く

個別株で損を減らす最短ルートは、危ない銘柄を最初から買わないことです。在庫で弾くルールを定義します。例えば次のようなルールは強力です。

ルールA:棚卸資産が前年同期比で+20%以上増えている。かつ売上高の前年同期比が+5%未満。これは需要に対して在庫が過剰になっている可能性が高い組み合わせです。
ルールB:在庫日数が前年同期比で+15日以上悪化し、かつ粗利益率が前年同期比で低下している。これは値引きやミックス悪化が始まっている典型パターンです。
ルールC:営業キャッシュフローがマイナス(または大幅悪化)で、在庫増加が主因。これは資金繰りのストレスが上がりやすい。

これらに当てはまる銘柄は、短期的には“戻り売り”が出やすく、長期投資でも安易にナンピンすると泥沼化します。逆に、株価が大きく下がったあとにルールBの悪化が止まり、在庫日数が改善に転じると、反転狙いの候補になります。

儲け方の具体論:在庫サイクルで「仕込む銘柄」と「避ける銘柄」を分ける

在庫を使うと、投資行動が整理されます。やることは2つだけです。ひとつは“在庫悪化局面の銘柄を避ける”。もうひとつは“在庫改善局面の銘柄を仕込む”。

避けるべきは、在庫が増えているのに企業が強気の見通しを維持し続けるケースです。需要が戻らないのに生産を維持すると、次の四半期で値引き・評価損が出て、二段階で株価がやられます。決算説明資料で「在庫は正常」「需要は堅調」と強調しているのに数字が悪化する企業は、現場感覚が遅れている可能性があります。

仕込む局面は、企業が現実的な対策を打ち、在庫日数がピークアウトし始めたときです。例えば「生産調整を実施」「SKU整理(品目削減)」「販促強化」「不採算製品の終息」など、在庫を減らす具体策が出ているかを確認します。そのうえで、株価がすでに大きく下落し、PERなどのバリュエーションが低下しているなら、反転のリスクリワードが改善します。

より実戦的には、“サプライチェーンの上流→下流”の順番も意識します。在庫調整は下流(小売や完成品メーカー)から始まり、次に部品、最後に素材へ波及します。下流の在庫が減り始めたのに、上流の株価がまだ弱い局面は「次に回復する場所」を探すチャンスです。これを知っているだけで、ニュースに反応して追いかけるより先に動けます。

ケーススタディ:半導体・アパレル・自動車で“在庫の意味”がどう違うか

半導体は在庫サイクルが典型的です。需要が強いときに設備投資が過熱し、いずれ供給が追いついて在庫が積み上がり、価格が下がり、利益率が崩れます。しかし同時に、在庫調整が進むと出荷が回復し、株価が先行して戻ります。ここでは在庫日数のピークアウトが最大の先行指標になりやすい。

アパレルや小売では季節性が強く、在庫が増えても即危険とは限りません。ただし“セール依存”が始まると粗利が壊れます。決算で在庫が増え、粗利率が下がり、値引き販売のコメントが増えたら、在庫が利益を食い始めたサインです。逆に在庫を絞って定価販売比率が上がると、売上が多少落ちても利益率が改善し株価は評価されます。

自動車は完成車だけでなく部品在庫や仕掛品が絡み、さらにサプライチェーンの詰まりが影響します。部品不足のときに完成車が作れず仕掛品が増えることもありますし、逆に販売金融やディーラー在庫が積み上がって値引きが始まることもあります。見るべきはメーカー単体の在庫ではなく、販売台数、販売奨励金、ディーラー在庫のコメントなど、複数情報の組み合わせです。

“在庫が増えても問題ない”例外パターン:誤判定を避けるためのチェック

在庫増加=悪、と決めつけると機会損失になります。例外パターンを押さえておきます。第一に、原材料価格の上昇局面で先回りして仕入れた場合です。原材料在庫が増えた結果として棚卸資産が増えることがあります。これは粗利を守るための合理的行動で、売上や粗利が伴っていれば必ずしも悪ではありません。

第二に、新製品立ち上げや拠点増設で一時的に在庫が増える場合。将来の売上増に向けた“準備在庫”です。ここでは受注や販売計画が具体的か、販路が確立しているかを確認します。第三に、M&Aで在庫を引き継いだ場合。単純な前年比では見誤るので、買収影響を除いて判断します。

例外を見抜くコツは、在庫の内訳(原材料・仕掛品・製品・商品)と、粗利率、営業キャッシュフローの3点セットです。在庫が増えても粗利率が改善し、キャッシュフローも健全なら、むしろ成長局面の可能性があります。

マクロとつなげる:在庫循環は景気を動かし、指数・セクターに波及する

在庫は個別企業の問題に見えますが、実際には景気循環そのものです。在庫が過剰になると減産が起き、雇用や設備投資が抑制され、景気が冷えます。逆に在庫が不足すると増産が起き、景気が回復します。ここで投資家として重要なのは、在庫循環が「景気指標より先に」株価のセクター循環を作る点です。

代表例は景気敏感セクターです。機械、電子部品、素材、運輸などは在庫調整の影響を受けやすい。まずは受注や出荷が落ち、次に在庫が増え、次に減産が起き、最後に在庫が減って回復が見えてくる。このプロセスを意識すると、ニュースや指数の数字に振り回されにくくなります。初心者がやりがちなのは、景気後退が“確定した”後に安全資産に逃げ、回復が“見えてから”景気敏感を買い戻すことです。その順番では遅い。在庫のピークアウトは、その遅れを埋めるヒントになります。

チェックリスト:次の決算で何を見ればいいか(行動に落とす)

次の決算で見るべきポイントを、文章として頭に入れてください。まず棚卸資産が前年同期比でどれだけ増えたか。次に売上がその増加に追いついているか。追いついていないなら、在庫日数が悪化しているか。悪化しているなら、粗利率が下がっていないか。下がっているなら、値引きや評価損の兆候がないか。さらに営業キャッシュフローが弱いなら、在庫が現金を吸っていないか。最後に、経営側が在庫を減らす具体策を語っているか。語っていないなら、次の四半期の地雷になりやすい。語っていて、数字もピークアウトし始めたなら、株価反転の候補になり得ます。

まとめ:在庫を見る投資家が“負けにくい”理由

棚卸資産は、派手さはありません。しかし、負けを減らし、勝ちやすい局面を選別する力は非常に強い。理由は単純で、在庫は損益より先に動くからです。初心者でも、在庫日数、在庫増加率と売上増加率のギャップ、営業キャッシュフローの3つを継続して見れば、危ない局面の回避と、反転の仕込みの両方ができます。市場の“話題”ではなく、企業の“物の流れ”を追う。これが、再現性のある投資判断につながります。

p-nuts

お金稼ぎの現場で役立つ「投資の地図」を描くブログを運営しているサラリーマン兼業個人投資家の”p-nuts”と申します。株式・FX・暗号資産からデリバティブやオルタナティブ投資まで、複雑な理論をわかりやすく噛み砕き、再現性のある戦略と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ実践できること、そして迷った投資家が次の一歩を踏み出せることを大切にしています。

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