REIT(不動産投資信託)は、株式と同じように市場で売買される一方で、価値の源泉は「不動産の収益(賃料)」です。ここで重要になるのが長期金利です。長期金利が動くと、REITの分配金利回り、保有不動産の評価(キャップレート)、そしてREIT自身の資金調達コストが同時に揺れます。
ただし「金利が上がったらREITは必ず下がる」という単純な話ではありません。長期金利の上昇が景気改善・インフレの上昇とセットなら、賃料も上がり得ます。一方、金利上昇が信用不安や資金逼迫の結果なら、賃料は伸びず借換えが痛みます。つまり、REITは“金利そのもの”よりも、金利が動いた理由で反応が変わります。
- 1. まず押さえるべき「REIT価格=分配金×期待利回り」の基本
- 2. 長期金利がREITに効く4つの経路
- 3. キャップレートとは何か:金利との“スプレッド”で考える
- 4. 「REIT利回り-国債利回り」スプレッドは“体温計”
- 5. REITの“金利感応度”は銘柄で全然違う
- 6. セクター別:金利上昇局面で強い/弱いが出る理由
- 7. 具体例:長期金利が1%上がると、何が起きるか(思考実験)
- 8. 価格が先に動き、決算で“答え合わせ”が来る
- 9. 実務で使えるチェックリスト:金利局面ごとの見方
- 10. 戦略:REITを“金利ヘッジの逆”として使わない
- 11. よくある誤解:分配金利回りが高い=割安、ではない
- 12. まとめ:長期金利×REITは“連立方程式”で捉える
1. まず押さえるべき「REIT価格=分配金×期待利回り」の基本
REITを直感的に理解する最短ルートは、価格を次の形で捉えることです。
REIT価格 ≒ 年間分配金(またはFFO) ÷ 市場が要求する利回り(要求リターン)
分配金が同じでも、投資家が求める利回りが上がれば(=割引率が上がれば)価格は下がります。長期金利が上がると、投資家は「無リスクに近い国債でも利回りが取れる」と感じやすくなり、REITに求める利回りも上がりやすい。これが第一の経路です。
ただし分配金は固定ではありません。不動産の稼働率、賃料改定、金利負担、物件売買益などで変わります。だから「利回りだけでREITが決まる」わけでもありません。
2. 長期金利がREITに効く4つの経路
長期金利がREIT価格に影響する経路は、実務的には次の4つに分解できます。
(A) 代替利回り経路:国債利回りが上がる→REITに要求する利回りも上がる→価格下落圧力。
(B) キャップレート(不動産評価)経路:不動産の期待利回り(キャップレート)が上がる→保有不動産評価額が下がりやすい→NAV(純資産価値)低下。
(C) 資金調達(借入・社債)経路:新規借入や借換え金利が上がる→支払利息が増える→FFO/分配余力が減る。
(D) 景気・賃料経路:金利上昇の背景が景気拡大・インフレなら賃料が上がりやすい→(A)(B)(C)の悪影響を相殺する場合がある。
この4つの「綱引き」でREIT価格は決まります。投資家が負ける典型は、(A)だけを見て売買し、(D)の賃料局面を取り逃がすことです。
3. キャップレートとは何か:金利との“スプレッド”で考える
不動産の評価で頻出するのがキャップレート(還元利回り)です。ざっくり言えば、
キャップレート ≒ NOI(純収益) ÷ 物件価格
キャップレートが上がる(=要求利回りが上がる)と、同じNOIでも物件価格は下がります。たとえばNOIが年1億円の物件を考えます。
・キャップレート4% → 価格は 1億 ÷ 0.04 = 25億円
・キャップレート5% → 価格は 1億 ÷ 0.05 = 20億円
たった1%の変化で評価額が大きく動きます。これが「金利上昇で不動産が弱い」と言われる理由の核です。
ではキャップレートは何で決まるか。実務では長期金利+リスクプレミアム(スプレッド)で捉えると整理が早いです。長期金利が上がったとき、スプレッドが同じならキャップレートは上がりやすい。しかし、景気が良くて賃料上昇が見込める局面では、リスクプレミアムが縮小してキャップレートがあまり上がらない(=価格が維持される)ことがあります。
4. 「REIT利回り-国債利回り」スプレッドは“体温計”
REITを見るうえで実用的な指標が、
分配金利回り(REIT)- 長期国債利回り
です。これをスプレッドとして見ます。スプレッドが歴史的に広い局面は、(A)の要求利回りが過剰に上がっている(恐怖が強い)可能性があります。逆にスプレッドが極端に縮む局面は、金利低下でREITが買われ過ぎ、将来リターンが細ることがあります。
注意点は、スプレッドが広い理由が2種類あることです。
・国債利回りが急低下(リスクオフ)→スプレッドは広がるが、景気悪化で賃料に逆風の可能性
・REIT利回りが急上昇(REIT売り)→スプレッドが広がるが、投げ売りで妙味が出る可能性
同じ「広がり」でも意味が違います。だから長期金利の動きと同時に、景気指標や信用スプレッドも並べて観察します。
5. REITの“金利感応度”は銘柄で全然違う
REITは一括りにされがちですが、金利上昇への耐性は銘柄で大きく違います。チェックポイントは次の通りです。
(1)負債の固定/変動比率
変動金利比率が高いと、金利上昇がすぐ利息に効きます。固定比率が高いと影響は遅れます。
(2)平均調達年限(デュレーション)と借換え集中
来年〜再来年に返済・借換えが集中していると、金利が高い局面で“まとめて痛む”。分散していれば衝撃は平準化されます。
(3)LTV(借入比率)
LTVが高いほど金利上昇のダメージが大きく、金融機関との交渉余地も狭くなります。評価額が下がると見かけのLTVが跳ね上がる点も要注意です。
(4)賃料のインフレ連動性
物流・ホテル・一部の住居など、賃料改定が比較的早いセクターはインフレ局面で強いことがあります。逆に長期固定賃料の比率が高いと、インフレでも賃料が追いつかず、金利だけ上がる最悪パターンになりやすい。
6. セクター別:金利上昇局面で強い/弱いが出る理由
同じREITでも、保有資産の性質で金利上昇の耐性は変わります。ここでは直感が湧くように整理します。
住宅系:景気後退でも稼働率が崩れにくい一方、賃料上昇は緩やか。金利上昇が速いと利回り負けしやすい。
物流系:賃料改定の余地があり、インフレ時に相対的に強いことがある。ただし建築費上昇で新規供給が増えると競争が激化し、賃料上昇が鈍る局面もある。
商業(ショッピングセンター等):景気の影響を受けやすく、金利上昇が景気減速とセットだと二重苦になりやすい。一方、立地・テナントの質が高いと回復も早い。
オフィス:賃料は景気の波と需給(空室率)で決まり、金利より需給の影響が大きい局面もある。金利上昇=必ず下落ではなく、需給改善が強ければ逆に上がることもあります。
ホテル:インフレや観光需要の回復で単価が上がりやすく、賃料(変動賃料)が伸びると金利上昇を相殺することがある。ただし景気悪化に弱い。
7. 具体例:長期金利が1%上がると、何が起きるか(思考実験)
ここでは、初心者でも数字感覚を掴めるように簡略モデルで考えます。
あるREITが年間分配金100円、投資家が求める利回りが4%なら、価格は 100÷0.04=2,500円程度が目安になります。長期金利上昇で要求利回りが5%になれば、価格は 100÷0.05=2,000円。分配金が同じなら20%下落です。
ただし現実では、金利上昇と同時に「賃料が上がって分配金が110円になる」「利息負担が増えて分配金が95円になる」などが起きます。もし分配金が110円に増えて要求利回り5%なら、価格は 110÷0.05=2,200円まで戻ります。つまり、価格の最終形は利回りの上昇幅と分配金の増減の勝負です。
8. 価格が先に動き、決算で“答え合わせ”が来る
REIT投資で最も多い誤解は「金利が上がったから、もう遅い(悪いニュースが出た)」です。実務では逆で、市場価格が先に織り込み、数四半期遅れて決算に反映されます。
金利上昇が始まると、まず(A)の要求利回りが上がって価格が下がりやすい。その後、借換えが進むにつれて(C)の利息負担がじわじわ増え、分配金が伸びにくくなる。さらに(B)の不動産評価が修正され、NAVが低下する。これらはタイムラグがあります。
逆に言えば、価格が大きく調整した後は、悪材料が“既に価格に入っている”ことも多い。ここで必要なのは、恐怖ではなく「借換えスケジュールと固定比率」を見て、痛みがどれくらい残っているかを定量で掴むことです。
9. 実務で使えるチェックリスト:金利局面ごとの見方
ここからは、日々の運用で使える視点に落とします。
(1)長期金利の“方向”より“理由”を言語化する
長期金利が上がっている理由は、主に「インフレ期待」「景気の強さ」「中央銀行の政策」「国債需給」「信用不安」の組み合わせです。自分の中で一文にしてから売買を考えます。理由が違えばREITの勝敗も変わります。
(2)イールドカーブ(短期 vs 長期)を見る
REITは借入の一部が短期金利に連動します。短期が上がり長期が動かない(カーブがフラット化)局面は、借入コストだけ上がりやすく、REITには厳しいことが多い。逆に長期が下がり短期が高止まりなら、景気後退リスクが強いサインにもなります。
(3)分配金利回りだけでなく“分配の持続性”を分解する
分配金が高くても、物件売却益や一時要因で押し上げている場合があります。FFO(もしくはそれに近い指標)と利払いの関係、稼働率、賃料改定の余地を見て「将来も続くか」を確認します。
(4)借換えの山(マチュリティウォール)を避ける
同じ金利上昇局面でも、来年に借換えが集中するREITは弱い。平均調達年限が長く、満期分散が効いているREITは耐性が高いことが多いです。
10. 戦略:REITを“金利ヘッジの逆”として使わない
初心者がやりがちなミスは、REITを「債券の代わり」「金利が下がったら儲かるもの」と単純化することです。REITは不動産のキャッシュフロー商品であり、金利だけのベットにすると負けやすい。
実務的な戦略は次の発想です。
・金利上昇局面でも、賃料が伸びるセクター・銘柄に寄せる
インフレが続くなら、賃料改定が早い資産の比率を上げる、あるいは固定賃料が多い銘柄を避けるなど、(D)の経路を重視します。
・利回りの“水準”ではなく“歪み”を狙う
スプレッドが急拡大した局面は、市場が恐怖で過剰に要求利回りを上げている可能性があります。ここでは「借換え耐性が高いのに売られた銘柄」を拾う発想が有効です。
・ポジションサイズを金利変動に合わせて可変にする
金利が荒れている局面は、正解でも途中で振り落とされます。最初から全力にせず、金利のボラティリティが落ちてきたら厚くするなど、分割で設計します。
11. よくある誤解:分配金利回りが高い=割安、ではない
分配金利回りが高いREITは魅力的に見えますが、理由が2つあります。
・価格が下がって利回りが上がった(投げ売りで妙味)
・将来の分配金が下がる見込みが強い(“先に織り込み”で利回りが高い)
後者を掴むと、利回りは高いまま分配金が減り、価格も戻りません。見分けるコツは「金利上昇で利息がどれくらい増えるか」「賃料が上がる余地があるか」「物件の質と稼働率が維持できるか」を、決算資料の数字で追うことです。
12. まとめ:長期金利×REITは“連立方程式”で捉える
長期金利とREIT価格の関係は、単純な一方向ではありません。ポイントは次の3つです。
① 要求利回り(割引率)だけでなく、分配金の変化も同時に見る
② キャップレート(不動産評価)と資金調達コスト(利息)を分解する
③ 金利が動いた理由(景気・インフレ・信用)でシナリオを分ける
この3つを押さえると、「金利が上がったから売り」「下がったから買い」という感情的な判断から離れ、REITを“仕組み”で運用できます。最初は難しく感じますが、チェックリストを固定化し、毎月同じ項目を確認するだけで精度は上がります。


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