信用スプレッドの基礎と実践的な活用法

オプション取引

オプション取引というと、「難しそう」「リスクが大きそう」というイメージを持たれやすいです。しかし、設計次第では「損失をあらかじめ限定しつつ、時間の経過を味方にしながらプレミアム収入を狙う」戦略も存在します。その代表例が、この記事で解説する信用スプレッド(クレジットスプレッド)です。

信用スプレッドは、株式・株価指数・ETF・暗号資産オプションなど、さまざまな市場で応用できるうえ、裁量トレードにもルールベース戦略にも組み込みやすい手法です。本記事では、初心者でも実際に自分の資金で運用を始められるレベルを目標に、仕組み・具体例・リスク管理・実務上の注意点までまとめて解説していきます。

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信用スプレッドとは何か

信用スプレッドとは、同じ原資産・同じ満期のオプションを「売り」と「買い」で組み合わせる戦略です。一般的には、

  • プレミアムを多く受け取れる側のオプションを売る
  • それより価格が遠い(OTM 側)のオプションを買う

という形で組み合わせます。売りで受け取るプレミアムの方が大きいため、ポジションを建てた瞬間にネットでプレミアムを受け取る構造になり、これを「クレジット(信用)」スプレッドと呼びます。

一方で、買いのオプションを組み合わせることで、損失の下限(最大損失)が理論的に限定される点が重要です。これにより、「裸売り(ネイキッドショート)」にありがちな無限大の損失リスクを避けることができます。

代表的な2つの信用スプレッド

信用スプレッドにはいくつか種類がありますが、個人投資家がまず覚えるべきは次の2つです。

ベア・コール・スプレッド(弱気〜もみ合い想定)

ベア・コール・スプレッドは、価格が大きく上昇しないと考えるときに使う戦略です。

  • 行使価格の低いコールを売る(プレミアム受取)
  • 行使価格の高いコールを買う(プレミアム支払)

売りのプレミアムが買いより大きいため、建てた時点でネットの受取(クレジット)になります。原資産価格が想定レンジ内に収まれば、その受取プレミアム分が利益として確定します。

ブル・プット・スプレッド(強気〜もみ合い想定)

ブル・プット・スプレッドは、価格が大きく下落しないと考えるときに使う戦略です。

  • 行使価格の高いプットを売る(プレミアム受取)
  • 行使価格の低いプットを買う(プレミアム支払)

こちらもネットでプレミアム受取になり、原資産価格が一定水準より上で推移すれば、受取プレミアム分が利益になります。

信用スプレッドの損益構造

信用スプレッドを理解するには、「最大利益」「最大損失」「損益分岐点」の3つを押さえることが重要です。

最大利益

最大利益はシンプルで、ポジションを建てたときに受け取ったネットプレミアムとほぼ一致します。例えば、

  • 売りコールの受取プレミアム:3.0
  • 買いコールの支払プレミアム:1.5
  • ネット受取:1.5

というベア・コール・スプレッドであれば、満期までにスプレッドが無価値になれば、最大利益は 1.5となります。時間の経過とともにオプションの時間価値が減少するため、「価格が大きく動かず、時間だけが過ぎる」局面では有利に働きます。

最大損失

最大損失は、ストライク価格の差からネット受取プレミアムを差し引いたものです。

例えば、

  • 売りストライク:32,500
  • 買いストライク:33,000
  • ストライク差:500
  • ネット受取プレミアム:150

のような日経225オプションのベア・コール・スプレッドを想定すると、最大損失は 500 − 150 = 350(ポイント)となります。このように、事前に「最悪のケースでいくら損失が出るか」を数値で把握できるのが信用スプレッドの大きな特徴です。

損益分岐点

損益分岐点は、「原資産価格がここを超える(または下回る)と、利益がゼロに近づくライン」です。

  • ベア・コール・スプレッド:売りコールのストライク + 受取プレミアム
  • ブル・プット・スプレッド:売りプットのストライク − 受取プレミアム

この水準を意識することで、「今の価格位置からどの程度の余裕があるか」を直感的に把握することができます。

具体例1:日経225オプションでのベア・コール・スプレッド

ここからは、具体的な数値例でイメージを固めていきます。仮に、日経225先物が 32,000円 近辺で推移しており、今後1か月程度は「大きく上昇はしないだろう」と考えたとします。

そこで、次のようなベア・コール・スプレッドを組みます。

  • 1か月後満期の 32,500 コールを売る(プレミアム 250 受取)
  • 同じ満期の 33,000 コールを買う(プレミアム 120 支払)

この場合、ネットの受取プレミアムは 130です。ここでは簡単のため、1ポイント=1,000円換算とすると、1枚あたり 130,000円の受取となります。

満期時の原資産価格ごとのイメージは次のようになります。

  • 32,500円以下:両方のコールが行使されず無価値になり、受取プレミアム 130 がそのまま利益
  • 32,500〜33,000円:売りコールが少しずつ価値を持ち始め、利益は徐々に圧縮
  • 33,000円以上:スプレッドが最大値 500 になり、損失は 500 − 130 = 370(最大損失)

この戦略は、「32,500円を明確に上抜けるほどの上昇は起こらない」と考えるときに有効です。逆に、上昇トレンドが強くなり、33,000円を大きく上回ると、想定していた最大損失に近づいていきます。

具体例2:米国株ETFでのブル・プット・スプレッド

次に、米国株ETF(例えば S&P500 連動ETF)を使ったブル・プット・スプレッドの例です。仮に、ETF が 500 ドルで取引されており、「多少下がっても 470 ドルくらいが下値目処だろう」と判断したとします。

  • 1か月後満期の 480 プットを売る(プレミアム 5.0 受取)
  • 同じ満期の 470 プットを買う(プレミアム 3.0 支払)

この場合、ネット受取プレミアムは 2.0 です。1枚あたり 200 ドル相当の受取となります。

満期時の価格ごとのイメージは次の通りです。

  • 480ドル以上:両方のプットが無価値になり、受取 2.0 がそのまま利益
  • 470〜480ドル:売りプットに価値が残り、利益は徐々に圧縮
  • 470ドル以下:スプレッドが最大値 10 となり、損失は 10 − 2 = 8.0(1枚あたり 800ドル)

この戦略は、「大きな暴落は来ないが、横ばい〜少し上昇を想定する局面」で有効です。また、現物株やETFを長期保有している投資家が、下落に備えながらプレミアム収入を得る補完戦略として使うこともできます。

信用スプレッドが初心者に向いている理由

信用スプレッドはオプションの中でも、比較的初心者が取り組みやすい戦略とされています。その理由は次の通りです。

1. 損失が理論的に限定されている

ベア・コールでもブル・プットでも、買いのオプションが「保険」として働くため、損失はストライク差から受取プレミアムを引いた金額に限定されます。これは、ネイキッドの売りポジションと比べると大きな安全性です。

2. 時間の経過が味方になりやすい

受け取り側のポジションがメインになるため、時間価値の減少(タイムディケイ)が基本的にプラスに働きます。価格が大きく動かず時間だけが過ぎる局面では、ポジションの含み益が徐々に積み上がっていきます。

3. 高い勝率設計が可能

ストライクを現値から大きく離すことで、「到達しない確率の高い価格帯に線を引く」ような設計ができます。もちろん、その分プレミアムは小さくなりますが、「勝率は高いが1回あたりの利益は小さい」という、初心者にも心理的に継続しやすい戦略にしやすいです。

一方で注意すべきリスク

信用スプレッドは安全そうに見えますが、「想定外の値動き」や「ボラティリティ急騰」には弱い面があります。

  • 急激なトレンド発生で一気に損失ラインに到達する
  • ニュースやイベントで価格ギャップが発生し、朝起きたら一気に評価損が拡大している
  • ボラティリティ急騰で、原資産価格はあまり動いていないのにオプション価格だけ急騰する

こうした局面では、「最大損失までは行かないうちに、機械的に損切りするルール」が重要です。例えば、受取プレミアムの2倍になったら一旦クローズする、デルタが一定値を超えたらロールする、などのルールを事前に決めておきます。

建玉管理と損切りルールの具体例

ここでは、実際に信用スプレッドを運用する際の、シンプルな建玉管理と損切りルールの例を示します。

ルール例1:プレミアム2倍で損切り

最初に受け取ったプレミアムが 1.0 だとすると、評価損が拡大してネットの買い戻しコストが 2.0 になったら損切りする、というルールです。これにより、最大損失に到達する前に損失を限定できます。

ルール例2:デルタ基準の損切り

売りオプションのデルタが、例えば 0.25 を超えたら警戒し、0.35〜0.40 に達したらクローズする、といったルールもよく使われます。デルタは「価格が1動いたときにオプション価格がどれだけ動くか」の感度を示すため、デルタが増える=スプレッドにとって不利な方向にトレンドが出ていると判断できます。

ルール例3:残存日数基準のクローズ

満期までの日数が 7日を切ったら、含み益があっても一度クローズするというルールも有効です。日数が少なくなると、原資産の小さなギャップで一気にITM入りしてしまうリスクがあるため、「最後の1週間は欲張らない」という発想です。

ボラティリティとエントリータイミング

信用スプレッドを仕掛けるタイミングで特に意識したいのが、インプライド・ボラティリティ(IV)です。

IVが高いときのメリットとリスク

IVが高いと、オプションプレミアム全体が割高になるため、同じストライク距離でも多くのプレミアムを受け取れるというメリットがあります。一方で、IVが高い状態は「市場が大きな値動きを警戒している」局面でもあるため、実際に大きくトレンドが出るリスクも高くなります。

イベント前後の取り扱い

決算発表や重要な経済指標発表の前後は、IVが急に上下しやすいです。イベント前に信用スプレッドを建てる場合、予想外の方向に大きく動いたときの想定損失をあらかじめシミュレーションしておくことが大事です。初めのうちは、大きなイベント前は新規ポジションを建てないというルールにしておくと、リスクを抑えやすくなります。

ポジションサイズと資金管理

どれだけ優れた戦略でも、ポジションサイズを誤ると一度の損失で口座全体が大きく傷むおそれがあります。信用スプレッドでも、次のような目安を持っておくとよいです。

  • 1回のトレードで、口座資金の1〜2%以上を失わない損失サイズに抑える
  • 同じ方向のスプレッドを複数同時に建てすぎない
  • イベントリスクが重なる時期は枚数を減らすか、新規を控える

特に、「勝率が高い戦略ほど、負けたときのダメージを軽くしておく」ことが重要です。連勝で気持ちが大きくなり、枚数を増やしすぎてからの1回の大敗で、過去の利益をすべて失うケースは珍しくありません。

シンプルなルールベース戦略の例

最後に、信用スプレッドを用いたシンプルなルールベース戦略の一例を紹介します。あくまで考え方の例であり、実際に運用する場合は、ご自身で検証やシミュレーションを行うことが前提です。

例:指数ETFを使った月次ブル・プット・スプレッド戦略

  • 対象:流動性の高い株価指数ETF
  • 頻度:月1回(残存日数 30〜45日程度のプットを選択)
  • エントリー条件:直近の下落トレンドが落ち着き、価格が5日・20日移動平均の上に位置している
  • 売りストライク:デルタ 0.15〜0.20 程度の OTM プット
  • 買いストライク:売りストライクより 5〜10%下の OTM プット
  • 損切りルール:受取プレミアムの2倍になったら成行でクローズ
  • 早期利確:受取プレミアムの70〜80%を確保できたらクローズ
  • 最大同時ポジション数:3銘柄(または指数)まで

このようなルールを決めておくことで、感情に振り回されず、毎回同じ基準で売買を決定できます。もちろん、銘柄や市場環境に応じてパラメータを調整したり、ヒストリカルデータを使って過去検証を行うことが大切です。

まとめ:信用スプレッドは「時間を味方にする防御的戦略」

信用スプレッドは、

  • 損失が事前に限定される
  • 時間経過が利益に寄与しやすい
  • 高い勝率設計が可能

という特徴を持つ、比較的防御的なオプション戦略です。相場を当てにいくというよりは、「到達しにくい価格帯に線を引いて、そこまで行かなければ利益になる」という発想で設計します。

一方で、急激なトレンドやボラティリティ急騰には弱いため、損切りルールやポジションサイズを事前に決めておくことが不可欠です。少額から練習しながら、自分なりのルールセットを作り込んでいくことで、信用スプレッドはポートフォリオの中で安定した収益源の一つになり得ます。

まずはデモ環境や小さな枚数で、ここで紹介した考え方やルール例を試しながら、自分の性格やリスク許容度に合った運用方法を探ってみてください。

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