信用スプレッドの基礎と実践ステップ

オプション取引

信用スプレッドの基礎と実践ステップ――個人投資家がリスクを限定してプレミアムを狙う方法

オプション取引は「難しそう」「損失が無限大になりそう」といったイメージを持たれがちですが、戦略を選べば、むしろリスクをあらかじめ限定した上でプレミアム(受取保険料)を積み上げていくことができます。その代表例が「信用スプレッド(クレジットスプレッド)」と呼ばれる戦略です。

本記事では、初めてオプションに触れる投資家でも理解できるように、信用スプレッドの基本概念から、具体的な価格例を使ったシミュレーション、実際に取引する際のステップ、リスク管理のポイントまで、順を追って詳しく解説していきます。

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信用スプレッドとは何か――「売り+買い」でリスクを限定する

信用スプレッドは、同じ原資産・同じ満期のオプションを、異なる権利行使価格で「売り」と「買い」を同時に建てる」戦略です。プレミアムの受取額の方が支払額より大きくなるように組み、差額を最初に受け取る形になります。

ポイントは次の二つです。

  • 高いプレミアムのオプションを「売る」
  • それより少し遠い価格のオプションを「買う」ことで、損失の上限を決める

この結果、最大利益は「受け取ったプレミアム」まで、最大損失は「行使価格の差 − プレミアム」までと、損益レンジが明確になります。いわば「保険を売りつつ、自分自身も再保険を買っている」イメージです。

代表的な2つの信用スプレッド:プットクレジットとコールクレジット

信用スプレッドには、大きく分けて次の2種類があります。

プット・クレジット・スプレッド(ブル型)

相場が「大きくは下がらない」と見ているときに使う戦略です。

  • 現在価格より少し下のプットを「売る」
  • さらに下のプットを「買う」

原資産価格が大きく下落しなければ、時間の経過とともにプレミアムが減価し、受け取ったプレミアムが利益として残る構造です。

コール・クレジット・スプレッド(ベア型)

相場が「大きくは上がらない」と見ているときに使う戦略です。

  • 現在価格より少し上のコールを「売る」
  • さらに上のコールを「買う」

原資産価格が大きく上昇しなければ、プットと同様に時間価値の減少によって、受け取ったプレミアムが利益として残ります。

具体例:S&P500連動ETFを使ったプット・クレジット・スプレッド

イメージしやすいように、仮にS&P500連動ETF(価格100ドルとします)で、1か月後満期のプットオプションを使った例を見てみます。

  • 行使価格95ドルのプットを売る(プレミアム2.0ドル受け取り)
  • 行使価格90ドルのプットを買う(プレミアム1.0ドル支払い)

このとき、ネットで1.0ドル(=2.0−1.0)のプレミアムを受け取ることになります。1枚=100株として計算すると、100ドルの受取です。

このポジションの損益は、満期時の価格に応じて次のようになります。

  • 価格が95ドル以上:両方のプットが無価値で満期を迎え、受け取ったプレミアム1.0ドルがそのまま利益
  • 価格が90〜95ドル:95ドルのプットが権利行使され損失、90ドルのプットはまだアウト・オブ・ザ・マネー。損失は徐々に増えるが、プレミアム1.0ドルと相殺される
  • 価格が90ドル以下:両方のプットが実質的にイン・ザ・マネーとなり、行使価格の差5ドルがフルに効く。ただし1.0ドルのプレミアム分だけ損失は軽減される

最大利益は1.0ドル、最大損失は「行使価格の差5ドル − プレミアム1.0ドル」で4.0ドルです。1枚あたり最大損失は400ドル、最大利益は100ドルとなり、最初から損益レンジが見えていることが信用スプレッドの特徴です。

なぜ信用スプレッドが「初心者向けの選択肢」になり得るのか

オプションの「売り」単体(裸売り)は、理論上損失が非常に大きくなり得るため、経験の浅い投資家にはハードルが高い戦略です。一方、信用スプレッドでは「売り」と同時に「買い」を建てることで、損失の上限を自動的に決めています。

このため、次のようなメリットがあります。

  • 最大損失額が明確なため、資金管理がしやすい
  • 方向性を大きく当てなくても、「大きくは動かない」相場でも利益を狙える
  • 時間の経過によるプレミアムの減少(タイムディケイ)を味方にできる

もちろんノーリスクではありませんが、「勝てるときに少しずつプレミアムを積み上げ、負けるときの損失はあらかじめ上限を決めておく」という発想は、長く市場に居続けたい個人投資家にとって現実的な選択肢になります。

信用スプレッドの損益構造を丁寧にイメージする

信用スプレッドを扱う前に、必ず損益グラフを頭の中で描けるようにしておくことが重要です。先ほどのプット・クレジット・スプレッドの例で、満期時の価格別に損益を整理してみます。

  • 95ドル以上:利益+1.0ドル(最大利益)
  • 94ドル:95ドルのプット売りで−1ドル損失、90ドルのプット買いは0、合計損益は−1+1=0ドル
  • 92ドル:95ドルのプット売りで−3ドル損失、90ドルのプット買いは0、合計損益は−3+1=−2ドル
  • 90ドル:95ドルのプット売りで−5ドル損失、90ドルのプット買いは0、合計損益は−5+1=−4ドル
  • 85ドル:95ドルのプット売りで−10ドル損失、90ドルのプット買いで+5ドル利益、合計損益は−10+5+1=−4ドル

90ドル以下では、損失は−4ドルで頭打ちになります。これは、二つの行使価格の差5ドルがフルに効いた状態から、最初に受け取った1ドルのプレミアム分だけ損失が軽くなるためです。

このように、「どの価格でいくら損益になるか」を自分で紙に書いて確認する習慣は、オプション戦略全般を扱ううえで非常に役立ちます。

どのような相場環境で信用スプレッドを狙うのか

信用スプレッドは、「大きなトレンドは出ないが、今のレンジから大きく外れないだろう」と考えるときに有利になりやすい戦略です。具体的には次のような場面が候補になります。

  • 大きなイベント通過後で、ボラティリティが徐々に低下している局面
  • 明確なレンジ相場が続いており、直近の高値・安値付近に行使価格を置きやすい局面
  • トレンドは出ているものの、短期的に「行き過ぎており一旦落ち着きそう」と感じる局面

ただし、ニュースや経済指標など、相場を大きく動かすイベントの前後は、オプションのプレミアムが膨らむ反面、想定外の急変動も起こりやすくなります。そのため、イベント前後にポジションを取る場合は、通常よりも慎重なサイズ管理と損失許容の設定が重要です。

実際に信用スプレッドを組むときの基本ステップ

ここからは、実際に信用スプレッドを検討するときの流れを、ステップ形式で整理します。

ステップ1:相場の方向性とレンジのイメージを持つ

まず、チャートやニュースを確認し、「上方向に大きくは行かないだろう」「下方向に大きくは崩れにくそう」といったざっくりした方向性の仮説を持ちます。これは完璧である必要はありませんが、どちら側に余裕を持たせたいかを決めるうえで重要です。

ステップ2:満期までの期間を決める

オプションは時間の経過とともに価値が減っていくため、満期までの日数は損益に大きく影響します。短すぎるとタイムディケイの恩恵は大きい一方で、急な値動きに巻き込まれやすくなります。長すぎるとプレミアムは厚くなりますが、時間に対するリスク負担も増えます。

最初は、数週間〜1か月程度の期間で、小さなサイズから検証していくのが無難です。

ステップ3:行使価格を2本選び、間隔を決める

次に、売りオプションと買いオプションの行使価格を選びます。ポイントは、

  • 売りオプションの行使価格は、「そこまで行けば自分の相場観が外れた」と思えるライン
  • 買いオプションの行使価格は、そこからさらにどこまで損失を許容できるかで決める

行使価格の差を広げれば、最大損失は大きくなる一方で、受け取れるプレミアムは増えやすくなります。逆に、差を狭めれば最大損失は小さくなりますが、プレミアムも薄くなります。

ステップ4:最大損失と想定リターンを必ず計算する

ポジションを建てる前に、「最大損失」「最大利益」「想定される勝率のイメージ」を必ず計算しておきます。例えば、

  • 最大損失:1ポジションあたり口座資金の2〜3%以内
  • 最大利益:最大損失の1/3程度になるケースも多い(高勝率戦略である代わりにリスクリワードは低めになりやすい)

信用スプレッドは、「1回あたりの利益は小さいが、コツコツ積み上げていく」タイプの戦略です。そのため、1回の損失が口座全体を揺さぶるようなサイズで建てないことが長く続けるコツになります。

よくある失敗パターンと回避のポイント

信用スプレッドは構造的にはシンプルですが、運用の仕方を誤ると大きなドローダウンにつながることがあります。よくある失敗パターンを確認しておきます。

失敗1:プレミアムだけを見て、行使価格を近づけすぎる

プレミアムを多く受け取りたいあまり、原資産価格のすぐ近くに売りオプションの行使価格を設定すると、ちょっとした値動きで含み損が急拡大しやすくなります。「この価格まで来たら相場観が外れたと認める」ラインから、一定の余裕を持って行使価格を選ぶことが重要です。

失敗2:イベント前に大きなサイズでポジションを取る

決算発表や重要な経済指標など、大きな値動きが起こりやすいイベント前に、通常と同じ感覚で信用スプレッドを建てると、想定以上の急変動に巻き込まれるリスクが高まります。イベント前後は、

  • そもそもポジションを持たない
  • 持つ場合でもサイズを大幅に落とす
  • リスクを抑えた行使価格の設定にする

といった慎重な対応が必要です。

失敗3:含み損拡大時にルールなくナンピンしてしまう

信用スプレッドは、ポジションを追加して平均価格を調整することも技術的には可能ですが、明確なルールなしにナンピンを繰り返すと、最大損失許容を超えてしまう危険があります。「1銘柄あたり建てる枚数の上限」「1日あたり追加できる回数」などを事前に決めておくことが重要です。

ポジション管理とイグジット戦略

信用スプレッドでは、建てた後の管理方法も結果に大きく影響します。代表的な考え方をいくつか紹介します。

  • 受け取ったプレミアムの50〜70%を確保したら決済してしまう
  • 残り日数が少なくなり、プレミアムが十分に減ったところで手仕舞う
  • 原資産が売り行使価格に近づいたら、「タイムカット」やロール(期限延長・行使価格調整)を検討する

「満期まで放置して最大利益を取りに行く」よりも、ある程度利益が乗ったら早めに確定し、リスクにさらされている時間を減らすという考え方が、長期的な安定に繋がりやすくなります。

バックテストと少額実践で、自分のスタイルに合わせる

信用スプレッドは、条件設定の自由度が高く、投資家によってスタイルが大きく異なります。そこで、いきなり大きな資金で始めるのではなく、次の順番で慣れていくと、安全度が高まります。

  • 過去チャートを使って、「このタイミングでこの行使価格を選んでいたらどうなっていたか」をシミュレーションする
  • 紙やノートに損益推移を書き出し、自分がどの程度のドローダウンに耐えられるかを確認する
  • 実際の口座では、最小枚数・最小ロットで数か月試し、ルールが機能しているかを検証する

このプロセスを通じて、「どのくらいのプレミアム・どのくらいの行使価格の距離・どのくらいの保有期間なら、自分のメンタルと資金状況に合うか」を具体的に掴むことができます。

まとめ:リスクを限定しながらプレミアムを積み上げる一つの選択肢

信用スプレッドは、「オプションの売りは怖い」というイメージを持つ投資家にとっても、リスクをあらかじめ限定したうえでプレミアムを受け取るための有力な戦略になり得ます。

重要なポイントを改めて整理すると、次の通りです。

  • 売り+買いの組み合わせにより、最大損失が明確に決まる
  • 「大きくは動かない」と見ている局面で、時間価値の減少を味方にできる
  • 1回の損失が大きくなりすぎないよう、ポジションサイズと行使価格の距離を慎重に決める
  • イベント前後や急変動リスクの高い局面では、サイズを絞るか見送る柔軟さを持つ
  • バックテストと少額実践を通じて、自分の許容度に合ったルールを固める

オプション取引は奥が深い反面、基本構造を一つずつ押さえていけば、個人投資家でも段階的に学びながら活用していくことができます。信用スプレッドは、その入り口としても応用戦略としても使いやすい手法ですので、自分のリスク許容度を踏まえながら、慎重に検討してみてください。

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