信用スプレッドの基礎と実践:オプションでプレミアムを積み上げる考え方

オプション取引

オプション取引というと「難しそう」「ハイリスク」というイメージを持つ方が多いですが、その中にはリスクをあらかじめ限定しながらプレミアム(受け取り保険料)をコツコツ積み上げていく戦略もあります。その代表例が「信用スプレッド(クレジットスプレッド)」です。

この記事では、投資初心者の方でもイメージしやすいように、具体的な数値例を使いながら信用スプレッドの仕組みとリスク、活用シナリオ、基本的な管理方法までを体系的に解説していきます。

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信用スプレッドとは何か:オプションを「売る+買う」セット戦略

信用スプレッドは、同じ原資産・同じ限月のオプションを「1枚売り」と「1枚買い」で組み合わせて、最初に受け取るプレミアム(オプション料)を利益の源泉とする戦略です。より高いプレミアムを受け取れるオプションを売り、より安いプレミアムのオプションを買うことで、差額が投資家にとっての「受取プレミアム」となります。

ポイントは以下の2つです。

  • オプションを売るだけ(裸売り)ではなく、必ずヘッジ用に別のオプションを買う
  • その結果、最大損失額があらかじめ限定される

オプションを売るだけの戦略は、理論上の損失が非常に大きくなり得るため、初心者には適しません。信用スプレッドでは、必ず「買い」を組み合わせることで、想定外の価格変動が起きても損失が一定範囲に収まるように設計します。この「損失上限を決めたうえでプレミアムを取りに行く」という考え方が、信用スプレッドの核心です。

具体例①:コール信用スプレッドで「上がり過ぎない」に賭ける

まずはコールオプションを使った信用スプレッドから見ていきます。ここではイメージしやすいよう、ある株価指数が現在100ドルで推移していると仮定します。

あなたが考えているシナリオは「この指数は横ばい〜少し上昇するかもしれないが、期限までに110ドルを大きく超えることはないだろう」というものだとします。このとき、次のようなコール信用スプレッドを組むことができます。

  • 105ドルのコールを1枚売る(受取プレミアム:4ドル)
  • 110ドルのコールを1枚買う(支払プレミアム:2ドル)

この場合、受取プレミアムの合計は4ドル−2ドル=2ドルです。1枚あたり2ドル分を最初に受け取るため、これが「最大利益」です。一方で、2つの権利行使価格の差は5ドルなので、理論上の最大損失は次のようになります。

最大損失 = ストライク差(5ドル) − 受取プレミアム(2ドル) = 3ドル

つまりこのスプレッドでは、「1枚あたり2ドルの利益を狙う代わりに、最悪でも3ドルまでしか損失は広がらない」という構造が最初から決まっています。株価指数が105ドル以下で期限を迎えれば、どちらのオプションも行使されず、受け取った2ドルがそのまま利益になります。株価指数が大きく上昇したとしても、110ドルを超えた時点でヘッジに使っている買いコールが効いてくるため、それ以上の損失は膨らみません。

具体例②:プット信用スプレッドで「大きくは下がらない」に賭ける

次に、プットオプションを使った信用スプレッドを見てみます。今度は「今の株価は割安気味で、短期的には多少下がっても、大きく崩れる可能性は小さいだろう」と考えている場面を想定します。

現在の株価が100ドルの銘柄に対して、以下のようなプット信用スプレッドを組む例を考えます。

  • 95ドルのプットを1枚売る(受取プレミアム:3ドル)
  • 90ドルのプットを1枚買う(支払プレミアム:1ドル)

この場合の受取プレミアムは3ドル−1ドル=2ドルで、これが最大利益になります。2つのストライクの差は5ドルなので、最大損失は5ドル−2ドル=3ドルです。

株価が95ドル以上で満期を迎えれば、プットはどちらも行使されず、受け取った2ドルが利益になります。株価が大きく下落して90ドルを割り込んだ場合でも、90ドルのプットを買っているため、それ以上損失が広がることはありません。こちらも「最初に2ドルを受け取る代わりに、最大3ドルまでの損失を許容する」構造になっています。

「当たれば小さく勝ち、外しても損失限定」という設計思想

これらの例から分かるように、信用スプレッドは「ある程度の範囲内に収まる」というシナリオを前提にして、そのシナリオが外れた場合でも損失を限定する戦略です。株価がシナリオ通りの範囲に収まれば、受け取ったプレミアムが利益になります。外れても、買いオプションが保険として機能し、一定額以上の損失は発生しません。

重要なのは、「勝率が高く見えやすいが、リスクリワードは決して極端に良いわけではない」という点を冷静に理解することです。例えば先ほどの例では、最大利益2ドルに対して最大損失3ドルです。勝率は高くても、たまに発生する損失が続くと、トータルでは簡単にマイナスになる可能性があります。信用スプレッドは「少しずつプレミアムを積み上げる代わりに、ときどきまとめて損失を被る」性質を持つことを前提に、ロット管理と損切りルールを設計する必要があります。

信用スプレッドのメリット:初心者にも学びやすいポイント

信用スプレッドには、オプション初心者にとって学びやすいメリットがいくつかあります。

第一に、最大損失額があらかじめ分かることです。ストライクの差と受取プレミアムが確定しているため、「このスプレッド1枚あたりのリスクはいくらか」を事前に計算できます。これにより、口座残高の1%以内、2%以内といった形でリスクを制御しやすくなります。

第二に、「時間の経過が味方になる」感覚を体験できる点です。スプレッドを組んだ後は、相場が一定の範囲に収まり、時間が経過するほどプレミアムの価値は減少しやすくなります。これはオプションの時間的価値(タイムディケイ)の基本であり、信用スプレッドはこの性質を収益源として利用する戦略です。

第三に、方向性を完全に当てる必要がないことです。株価が想定した方向に大きく動かなくても、一定の範囲内に留まれば利益になるため、「ピンポイントで天井や大底を当てないと勝てない」といったプレッシャーが軽くなります。これはメンタル面でも大きなメリットです。

デメリット・注意点:見た目の勝率に惑わされない

一方で、信用スプレッドには見落としやすいリスクもあります。

まず、「勝率は高いが、負けるときの損失が大きく感じられる」という点です。日々は小さな利益が積み上がる一方で、トレンドが一方向に走ったり、急落・急騰が起きたりすると、数回分〜十数回分の利益を一度に吐き出してしまうことがあります。勝率だけに注目してロットを大きくし過ぎると、数回の損失で口座が大きく目減りしてしまいます。

次に、「ボラティリティ変動」による影響です。相場が大きく動き出す局面では、オプションのプレミアムが急激に膨らみます。このとき、まだストライクに到達していなくても、評価損が一気に広がることがあります。特に、経済指標の発表や決算発表など、イベント前後はボラティリティが急変しやすいため注意が必要です。

また、株式オプションの場合には「アサイン(権利行使されること)」のリスクもあります。売り側のオプションが早期に権利行使されると、現物ポジションが発生します。その場合も買いオプションによるヘッジが効いているため損失は限定されますが、建玉と残高の管理を落ち着いて行う必要があります。

どんな相場環境で信用スプレッドを検討するか

信用スプレッドは、「大きなトレンドが出ていない」「レンジ気味だが、ある程度の方向性は想定できる」といった環境と相性が良い戦略です。例えば、長期的な上昇トレンドの中で少し押し目を付けた場面では、「大きく崩れないだろう」という前提でプット信用スプレッドを組むことが検討できます。

一方で、長期のレンジを明確に上抜け・下抜けしそうな局面や、重要なイベント前後で相場が荒れそうなタイミングでは、信用スプレッドのリスクが高まりやすくなります。こうした局面ではロットを減らす、あるいは一時的に戦略自体を使わない判断も重要です。

初心者のうちは、日足チャートで大きなトレンドの方向を確認しつつ、移動平均線やサポート・レジスタンスなど、ごく基本的なテクニカルだけを参考にしてシンプルに判断する方が、複雑な指標を並べるよりもかえってミスが減ります。

ロット管理と損切りルール:最初に決めておくべき3つの数字

信用スプレッドを活用するうえで最も重要なのは、「どれだけの金額をリスクに晒すか」を最初に決めておくことです。ここでは、初心者が意識しておきたい3つの数字を挙げます。

1つ目は「1トレードあたりの最大損失額」です。口座残高に対して1%〜2%以内に収まるように、スプレッドの枚数を調整するのが基本的な考え方です。例えば、口座残高が100万円であれば、1回の最大損失を1万円〜2万円までと決め、その範囲に収まるように枚数を設計します。

2つ目は「合計で許容できる連敗数」です。例えば「最大損失1万円のトレードを5連敗したら一度戦略を見直す」といったラインを決めておきます。これにより、損失が続いたときに感情的になってロットを上げるといった行動を防ぎやすくなります。

3つ目は「どこまで来たら手動で損切りするか」という基準です。信用スプレッドは満期まで保有することもできますが、含み損が最大損失の何割かに達した時点で早めにクローズすることで、平均的な損失額を抑えられる場合があります。例えば、「評価損が最大損失の50%に達したら、いったん決済する」といったルールをあらかじめ決めておくと、相場が急変した際のダメージを限定しやすくなります。

実際のトレード手順イメージ:チェックリストで流れを整理する

ここでは、信用スプレッドを検討する際の流れを、初心者でもイメージしやすいようにチェックリスト方式で整理しておきます。

まず、「どの銘柄・指数で戦略を使うか」を決めます。流動性が低い銘柄ではスプレッドが広がり、思った価格で約定しづらくなります。一般的には、出来高が多く、オプションの板も十分に厚い銘柄・指数を選ぶ方が安定しやすいです。

次に、「どの方向にどの程度の動きを想定しているか」を明確にします。横ばい〜やや上昇と見ているのか、横ばい〜やや下落と見ているのかによって、コール信用スプレッドにするか、プット信用スプレッドにするかが決まります。

そのうえで、「どのストライク間でスプレッドを組むか」「期限をどの程度先にするか」を検討します。ストライク同士の距離を広げれば最大損失は増えますが、受取プレミアムも増える傾向があります。期限が遠いオプションほどプレミアムは大きくなりますが、その分、保有期間も長くなり、相場の変動にさらされる時間も増えます。

最後に、事前に決めたロットサイズと損切りルールに従って注文を発注します。ここで重要なのは、約定後に評価損益の動きに振り回されず、あらかじめ決めた条件に達したかどうかだけを淡々と確認する姿勢です。感情に合わせてルールを変えると、戦略全体の期待値が変質してしまいます。

投資初心者が信用スプレッドから学べること

信用スプレッドは、単にプレミアムを積み上げる戦略であるだけでなく、「リスクを定量的に捉え、時間とボラティリティを味方につける」というオプションの本質を学ぶのに適した手法です。最大損失額が事前に分かることで、ポジションサイズの決め方や、ポートフォリオの中での位置づけを考えやすくなります。

また、「値動きの方向だけでなく、値動きの幅やスピード、時間経過そのものも収益に影響する」というオプション特有の視点を体験できます。これは現物株の売買だけでは得にくい感覚であり、長期的には相場観やリスク認識を一段深いレベルに引き上げてくれます。

もちろん、信用スプレッドも必勝法ではなく、マーケットの急変や想定外のニュースによって損失が出ることは避けられません。重要なのは、「どの戦略にも必ず弱点がある」という前提に立ち、その弱点を把握したうえでロット管理と損切りルールを整えることです。

まとめ:小さなプレミアムを積み上げる「保険の売り手」という視点

信用スプレッドは、オプション市場において「一定のリスクを引き受ける代わりに、保険料を受け取る」立場に回る戦略です。単純なオプション売りとは異なり、必ずヘッジとしての買いオプションを組み合わせることで、損失上限をあらかじめ決めておける点が特徴です。

方向性をピンポイントで当てる必要はなく、「ここまで極端には動かないだろう」という範囲を想定し、その範囲内に価格が収まれば小さな利益を積み上げていく設計になっています。一方で、急激なトレンドやボラティリティの急変には弱く、見た目以上にロット管理が重要になる戦略でもあります。

投資初心者の方にとっては、「時間の経過」「ボラティリティ」「損失上限」といったオプションならではの概念を、実際のポジションを通じて体感できる貴重な学習手段となり得ます。まずは小さなロットやシミュレーションを通じて、信用スプレッドの動き方とリスクの出方を丁寧に観察することから始めるとよいでしょう。

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