信用スプレッドの基礎と実践:少ない資金でリスクを限定するオプション戦略

オプション取引

オプション取引と聞くと、「難しそう」「怖そう」というイメージを持つ方が多いです。しかし、やり方を工夫すれば、むしろリスクを限定しながらプレミアム(オプション料)をコツコツ積み上げていく戦略として使うことができます。その代表例が「信用スプレッド(クレジットスプレッド)」というオプション戦略です。

信用スプレッドは、単にオプションを売るのではなく、「売り」と同時に「さらに遠い価格のオプションを買う」ことで損失の上限をあらかじめ決めておく手法です。これにより、必要な証拠金を抑えつつ、相場が想定どおりに動かなかった場合のダメージを限定することができます。

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信用スプレッドとは何か:1枚売り+1枚買いでリスクを限定する

信用スプレッドは、同じ満期日のオプションを「売り」と「買い」で組み合わせる戦略です。プレミアムを受け取るポジション(ショート)と、保険代わりのポジション(ロング)を同時に建てるイメージです。

代表的なパターンは次の2つです。

  • 強気寄りの戦略:プット・クレジット・スプレッド(プットの信用スプレッド)
  • 弱気寄りの戦略:コール・クレジット・スプレッド(コールの信用スプレッド)

たとえば株価が100ドルの銘柄について、次のようなポジションを組むとします。

  • 95ドルのプットを「売る」(プレミアム +3ドル受取)
  • 90ドルのプットを「買う」(プレミアム -1ドル支払い)

このとき、受け取ったプレミアムは 3ドル − 1ドル = 2ドル です。これが「クレジット(純受取)」なので、クレジットスプレッドと呼びます。最大利益はこの2ドルで、価格が95ドル以上で満期を迎えれば、両方のプットが無価値となり、受け取った2ドルがそのまま利益となります。

最大損失と最大利益:数値例でイメージを固める

同じ例で最大損失も確認しておきましょう。

  • 売ったプット:95ドルプット
  • 買ったプット:90ドルプット
  • ストライクの差:95 − 90 = 5ドル
  • 受け取りプレミアム:2ドル

このとき、最大損失は「ストライク差 − 受け取りプレミアム」です。

最大損失 = 5ドル − 2ドル = 3ドル

株価が大暴落して、満期日に50ドルになっていたとしても、このスプレッド全体の損失は理論上3ドルで頭打ちです。これは、90ドルプットの買いポジションが、95ドルプットの売りポジションで発生する損失を90ドル以下の部分でカバーしてくれるからです。

まとめると、このポジションの損益は次のようになります。

  • 株価が95ドル以上:最大利益 +2ドル
  • 株価が90〜95ドルの間:+2ドルから -3ドルの間で徐々に悪化
  • 株価が90ドル以下:最大損失 -3ドルで固定

単純なプット売り(95ドルプットを1枚売るだけ)の場合、株価が50ドルまで急落したら損失は「95 − 50 = 45ドル − プレミアム」です。信用スプレッドにしておくことで、そのような「底なしの損失」を防ぎ、リスクとリターンのバランスを見える化できるのが大きなメリットです。

勝率の考え方:時間とともに有利になりやすい構造

信用スプレッドは「売り」がメインの戦略なので、「時間の経過」が味方になりやすい特徴があります。オプションの価格にはタイムバリューが含まれており、満期に近づくほどそのタイムバリューは減っていきます。売り手側はこのタイムバリューの減少(時間価値の減衰)を利益源にできます。

さらに、アウト・オブ・ザ・マネー(OTM)のオプションを売ることで、「価格がそこまで動かなければ勝ち」という構造になり、勝率が高くなりやすいです。たとえば、現値から10%ほど下のプットを売るプット・クレジット・スプレッドであれば、「満期までに10%以上も下落しなければ勝ち」という条件になります。

ただし、勝率が高いからといって安心は禁物です。たまに発生する大きな損失で、過去の小さな利益がすべて吹き飛ぶこともあります。そのため、信用スプレッドでは「1回あたりの最大損失を小さく抑える設計」と「連敗しても口座が致命傷を負わないポジションサイズ」が最重要になります。

プット・クレジット・スプレッドの実践例:強気〜中立の相場でプレミアムを狙う

ここからは、実際にどのように信用スプレッドを組むのか、もう少し具体的な手順を見ていきます。まずは、強気〜中立の相場で使う「プット・クレジット・スプレッド」の例です。

想定する状況:

  • 現在の株価:100ドル
  • 相場の見方:横ばい〜少し上昇と予想(大暴落まではイメージしていない)
  • 満期までの日数:30日程度

このようなとき、次のようなスプレッドを組むとします。

  • 95ドルプットを売る(プレミアム +3ドル)
  • 90ドルプットを買う(プレミアム -1ドル)

このときのポイントは以下の通りです。

  • 株価が「95ドル以上」であれば最大利益
  • 95ドルまでは「10%の下落」を許容しているイメージ
  • 90ドル以下になっても損失は限定(先ほどの最大損失 -3ドル)

相場が想定どおり横ばい〜やや上昇で推移して30日後に100ドル付近で満期を迎えれば、両方のプットは行使されず、+2ドルの利益が確定します。一方、急落して90ドルを下回るシナリオでは損失が発生しますが、損失額はあらかじめ計算できるため、「この金額なら許容範囲か」を事前に判断することができます。

コール・クレジット・スプレッドの実践例:弱気〜中立の相場で活用

弱気〜中立の相場でプレミアムを狙う場合は、「コール・クレジット・スプレッド」を使います。構造はプットの場合と左右逆になります。

想定する状況:

  • 現在の株価:100ドル
  • 相場の見方:横ばい〜少し下落と予想(急騰リスクには注意)
  • 満期までの日数:30日程度

このとき、次のようなスプレッドを組むとします。

  • 105ドルコールを売る(プレミアム +2ドル)
  • 110ドルコールを買う(プレミアム -1ドル)

このとき、受取プレミアムは 2 − 1 = 1ドル、ストライク差は 110 − 105 = 5ドルです。

  • 最大利益:+1ドル(株価が105ドル以下ならこれを獲得)
  • 最大損失:5 − 1 = 4ドル(株価が110ドル以上で固定)

株価が大きく上昇して110ドルを超えた場合でも、損失は4ドルで止まります。単純なコール売りであれば、株価が急騰した際の損失は理論上無限大ですが、信用スプレッドにしておくことで上限を決めることができます。

銘柄と期限の選び方:流動性とボラティリティを意識する

信用スプレッドを実践するうえで、銘柄選びと期限(満期)の選定は非常に重要です。初心者がまず意識したいポイントは次の3つです。

  • 流動性が高い銘柄を選ぶ(板が厚く、スプレッドが狭い)
  • プレミアムがある程度乗っている(ボラティリティが極端に低すぎない)
  • 満期までの日数は「短期〜中期」にする(例:20〜45日程度)

流動性が低い銘柄でスプレッドを組むと、売値と買値の差(ビッド・アスクスプレッド)が広く、約定しづらかったり、不利な価格で決済せざるを得なくなったりします。また、ボラティリティ(価格の振れ幅)が極端に低いと、受け取れるプレミアムもわずかになり、リスクに見合わない取引になりがちです。

満期までの日数は、短すぎると急激な値動きに弱く、長すぎるとポジションを長く抱えるリスクが増えます。多くのトレーダーは、20〜45日程度のオプションを中心に信用スプレッドを組み、時間的価値の減少とリスクのバランスを取っています。

エントリーとイグジットのルール例:機械的に判断できるようにする

信用スプレッドで安定した運用を目指すなら、「いつ入って、いつ出るか」をあらかじめルール化しておくことが不可欠です。ここでは一例として、シンプルかつ現場でよく使われる考え方を紹介します。

エントリーの一例:

  • 方向性:移動平均線やトレンドチャネルなどで、おおよそのトレンド方向を確認する
  • IV(インプライドボラティリティ):過去水準と比べてやや高めのときにクレジットスプレッドを検討(プレミアムが厚くなりやすい)
  • ストライク選定:現値から10〜15%程度離れたOTMを中心に、受取プレミアムと最大損失のバランスを見る

イグジットの一例:

  • 利益確定:最大利益の50〜70%を確保したら、満期を待たずに決済してクローズ
  • 損切り:想定した最大損失の一定割合(例:50%)に達したらロスカット
  • 時間切れ:満期まで数日となり、残りプレミアムがごく小さくなったタイミングで決済

たとえば最大利益が2ドルのスプレッドなら、+1〜1.4ドル程度の含み益が出た段階で一部または全部をクローズしてしまうイメージです。満期まで粘りすぎると、最後の数日で急変動が起きて利益が一気に損失に転じることがあります。利益をある程度取ったら、深追いせずにポジションを閉じるのが信用スプレッドの基本的なスタンスです。

ポジションサイズと口座管理:連敗しても生き残る設計にする

信用スプレッドで長く相場に残るためには、ポジションサイズの管理が最重要です。どんなに優れた戦略でも、想定外の相場急変は必ず起こります。大事なのは、「悪いシナリオが続いても、口座が致命傷を負わないように設計しておくこと」です。

一つの考え方として、次のようなルールがあります。

  • 1回の最大損失を、口座残高の1〜2%程度に抑える
  • 同時に持つスプレッドの数を限定する(例:最大3〜5ポジションなど)
  • 同じ方向に偏りすぎないよう、相関する銘柄のポジションを持ちすぎない

たとえば口座残高が10,000ドルで、1回の最大損失を2%までと決めた場合、1ポジションの最大損失は200ドルまでに制限することになります。先ほどの例で最大損失が3ドルのスプレッドであれば、約66スプレッドまで建てられる計算になりますが、現実には流動性や同一銘柄リスクを考えると、そこまでポジションを増やすのは現実的ではありません。

安全側を重視するなら、1銘柄あたりのポジション数も絞り、口座全体で見たときに「最悪の週でも何十%も減らない」水準を維持することが肝心です。

避けるべき局面:イベントとボラティリティ急変

信用スプレッドは、「大きく動かなければ勝ちやすい」という戦略です。裏を返せば、「大きく動きやすいタイミング」は避けるべき局面です。代表的なものは次の通りです。

  • 決算発表直前直後の個別株
  • 重要な経済指標発表前後(雇用統計、FOMCなど)
  • 地政学リスクが急激に高まった局面

こうした場面では、インプライドボラティリティが急上昇し、オプションプレミアムが高くなるため、一見すると妙味があるように見えます。しかし、実際には「想定外の価格飛び」が起こりやすく、スプレッドの最大損失に一気に到達してしまうリスクが高まります。

信用スプレッドで安定した結果を狙うなら、「あえて取らない日を増やす」ことも重要です。相場が荒れている期間はポジションサイズを減らす、あるいは完全に様子見に徹するという選択肢も十分に合理的です。

よくある失敗パターン:欲張りすぎと先延ばし

信用スプレッドで初心者が陥りやすい失敗には、いくつか共通点があります。

  • 現値に近すぎるストライクを選んでしまう(プレミアムに目がくらむ)
  • 最大利益をすべて取り切ろうとして、期限まで引っ張りすぎる
  • ロスカットルールを決めていない、または守らない
  • 同じ方向のポジションを一度に取りすぎる

現値に近いストライクを売ると、受取プレミアムは増えますが、「少しの値動きですぐに含み損になる」構造になり、ストレスも増えます。まずは現値から十分に離れたOTMを中心に検討し、勝率とストレスのバランスを優先した方が続けやすいです。

また、含み益が出ても「せっかくなら満期まで持って最大利益を取りたい」と考えがちですが、その「あと少し」の間に急変動が起こることも珍しくありません。信用スプレッドでは、ある程度利益が出たら機械的にクローズするほうが、長期的には安定した結果につながりやすいです。

まとめ:信用スプレッドは「リスクを限定したオプションの売り」

信用スプレッドは、単なるオプションの売りとは異なり、「同時に保険となるポジションを持つことで損失を限定する」戦略です。

  • 売りと買いを組み合わせることで、最大損失があらかじめ決まる
  • 時間経過とともに有利になりやすく、勝率の高い戦略を組みやすい
  • その一方で、たまに発生する大きな損失に備えたポジションサイズ管理が必須
  • イベント前後やボラティリティ急変局面は、あえて避けるという選択が合理的

大きく当てることを狙うのではなく、「リスクを把握したうえで、小さなプレミアムを積み上げていく」トレードの考え方は、オプション取引に限らず多くの投資手法にも通じます。まずは小さなポジションから練習し、自分なりのルールや相場観と組み合わせながら、長く続けられるスタイルを模索していくことが大切です。

信用スプレッドの仕組みとリスクのイメージをつかんでおくことで、オプション取引を「怖いもの」ではなく、「設計次第でリスクを管理しやすい道具」として捉え直すことができるはずです。

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