- ホテルREITは「観光ブームの上澄み」を取りに行く商品
- まず押さえるべき3指標:稼働率・ADR・RevPAR
- ホテルREITの収益構造:固定賃料型と変動賃料型で値動きが変わる
- インバウンド回復が価格に織り込まれる順番:チェックすべき「先行指標」
- 金利上昇局面でも戦えるのか:REITの「金利耐性」を見抜く
- 「利回りが高い=お得」ではない:分配金の質を分解する
- 投資判断の実務:ホテルREITの「4つのバリュエーション」
- 勝ち筋を作る売買戦略:短期トレードと中期保有を分ける
- 具体例で理解する:同じインバウンドでも「都市型」と「リゾート型」は別物
- よくある失敗パターン:ホテルREITで負ける人の典型
- チェックリスト:買う前に10分でやるデューデリ(簡易版)
- まとめ:ホテルREITは「単価上昇」を見抜ける人が勝つ
ホテルREITは「観光ブームの上澄み」を取りに行く商品
ホテルREITは、ホテルを中心とした不動産(宿泊施設、付帯する商業区画など)を保有し、賃料収入やホテル運営収益に連動した収益から分配金を出す仕組みです。個別ホテル運営会社の株と違い、資産(建物・土地)を担保にしつつ、宿泊需要の増減や宿泊単価の上昇(=値上げ)が分配金と価格に反映されます。
重要なのは、ホテルREITは「客数(需要)」だけでなく「単価(価格決定力)」で儲かる局面があることです。インバウンドが戻ると客室稼働率が上がるだけでなく、ADR(平均客室単価)が上がり、RevPAR(販売可能客室1室あたり売上)が跳ねます。RevPARが上がる局面は、収益がレバレッジされやすく、分配金の増配や分配予想の上方修正が起きやすい。ここが株式投資の観点での「旨み」です。
まず押さえるべき3指標:稼働率・ADR・RevPAR
ホテルの収益力は、結局この3つで説明できます。
稼働率(Occupancy)
客室がどれだけ埋まっているかです。稼働率は需要(観光・出張・イベント)に敏感で、ピーク時は上がりやすい一方、供給(新規ホテル開業)が増えると伸びにくくなります。稼働率だけを見ていると「満室=天井」を誤認しがちですが、ホテルは満室でも単価次第で利益が伸びます。
ADR(Average Daily Rate:平均客室単価)
ここが最大のポイントです。インバウンド比率が高いエリアは、為替(円安)や国際便の回復でADRが上がりやすい。国内客主体のエリアは伸びが緩やかな傾向があります。ADR上昇は同じ稼働率でも売上と利益を押し上げ、変動賃料型の契約ならREITの賃料収入にも直結します。
RevPAR(Revenue per Available Room)
一般に、RevPAR=稼働率×ADR です。稼働率が横ばいでもADRが上がればRevPARは上がる。逆に、ADRを上げ過ぎると稼働率が落ちることもあるので、ホテル運営側の「価格最適化」が利益の源泉になります。投資家は、決算資料や月次レポートでRevPARが改善しているかを追うのが効率的です。
ホテルREITの収益構造:固定賃料型と変動賃料型で値動きが変わる
ホテルREITの値動きは、契約形態によって驚くほど変わります。ここを理解せずに利回りだけで買うと、想定と違うパフォーマンスになります。
固定賃料型(Fixed Rent)
オフィスREITに近いイメージで、賃料が比較的安定します。景気悪化やイベント消滅でも、すぐに賃料が落ちにくい反面、需要回復局面の上振れも限定的です。「守りのホテルREIT」になりやすい。
変動賃料型(Variable/Profit-linked)
ホテル運営収益に連動して賃料が増減します。インバウンド復活や単価上昇の恩恵を強く受けますが、逆回転(需要蒸発)では賃料が落ちます。「攻めのホテルREIT」になりやすい。
ハイブリッド型(固定+変動)
固定で下支えしつつ、上振れも取る設計です。投資家目線では最も扱いやすい形になりやすい一方、固定比率が高いと上振れは小さくなります。結局は配当の安定性と成長性のトレードオフです。
インバウンド回復が価格に織り込まれる順番:チェックすべき「先行指標」
相場は結果よりも期待で動きます。ホテルREITは特に、インバウンド回復の「兆し」を先回りで織り込む場面があります。先行指標を押さえると、材料が出た後に飛び乗って高値掴みするリスクを減らせます。
航空便の供給(座席数)と入国者数
観光需要は「行きたい」より「行ける」で決まります。国際線の便数・座席数の回復は、宿泊需要に直結します。空港別(成田・羽田・関西・福岡など)でどこが回復しているかを見ると、恩恵を受けるエリアを絞れます。
為替(円安/円高)
円安は訪日コストを下げ、単価の許容度を上げます。一方で、円高に振れる局面ではインバウンドの勢いが鈍る可能性があります。ホテルREITは「円安メリット株」に近い反応をすることがありますが、ホテルは国内需要もあるため、完全な連動ではありません。
イベント・コンベンション(MICE)
大型イベント、国際会議、スポーツ大会は、短期的に稼働率と単価を押し上げます。特定都市集中型の需要なので、保有物件の立地(都市・観光地・空港アクセス)に注目します。
金利上昇局面でも戦えるのか:REITの「金利耐性」を見抜く
REIT全般の弱点は金利です。長期金利が上がると、割引率が上がって価格が下がりやすく、借入コストも増えます。ただし、ホテルREITは「賃料(収益)の成長」が見込める局面では、金利上昇を相殺できることがあります。見るべきは以下です。
LTV(Loan to Value:借入比率)
一般に、LTVが高いほど金利上昇の影響を受けます。LTVが低めで、余力がある銘柄は、資産入替や自社株買い(投資口買い)などの資本政策も打ちやすい。反対にLTVが高いと、増資リスク(希薄化)も意識されやすくなります。
デットの固定/変動比率と残存年数
借入が固定金利中心で、返済期限(デット満期)が分散していると、急な金利上昇でも分配金が崩れにくい。変動比率が高い場合は、短期金利の動きが分配金に効いてきます。ここは投資法人の有価証券報告書や決算説明資料で必ず確認します。
賃料が伸びる構造か(=変動賃料や単価上昇の余地)
金利に負けないためには、収益の成長が必要です。インバウンド比率が高い立地、運営が価格最適化に強いホテル、リノベで単価を上げられる物件などは、金利上昇を吸収しやすい。
「利回りが高い=お得」ではない:分配金の質を分解する
ホテルREITは利回りが高く見えることがあります。しかし、利回りは結果であって原因ではありません。分配金の持続性と成長性を分解して見ます。
分配金の原資:営業収益の成長か、一時要因か
例えば、物件売却益で一時的に分配金が増えていると、翌期は減配になりやすい。逆に、RevPAR改善で賃料が増え、運用収益が増えているなら、分配金は続きやすい。決算資料で「分配金増減要因」を必ず確認します。
減価償却とCAPEX(修繕・更新投資)の関係
REITは減価償却で会計上の利益が小さく見えますが、分配金はキャッシュフローに近い概念で動きます。一方、ホテルは客室改装や設備更新が必要で、CAPEXが増えると分配余力が削られます。短期で分配金が高くても、改装期が来て急に分配が落ちることがあるので注意が必要です。
投資判断の実務:ホテルREITの「4つのバリュエーション」
ホテルREITは株と同じように需給で動きますが、裏側に不動産価値(NAV)があります。以下の4つをセットで見ます。
分配金利回り(Distribution Yield)
市場価格に対する分配金。単体で判断しない。金利水準、同業比較、分配金の質とセットで見る。
NAV倍率(P/NAV)
投資口価格が、純資産価値(保有不動産評価)に対して割高/割安かの目安です。P/NAVが1倍割れでも、物件の質が低い、賃料が落ちる、増資が見込まれる場合は「安い理由」があります。逆に、質が高く成長が見込めるのに1倍を割れているなら、相場の誤差で拾えることがあります。
スプレッド(利回り-長期金利)
REITは債券との比較で売買されがちです。長期金利との差(スプレッド)が縮むと売られやすい。逆にスプレッドが広がり過ぎた局面は、需要が戻る見通しがあるなら仕込みの候補になります。
需給(増資・指数採用・投信の資金流入)
REITは増資が出ると短期で売られやすい一方、資産規模拡大が成功すれば中期で評価されることもあります。増資は「悪材料」と決めつけず、調達条件(価格、希薄化率)と取得物件の質で判断します。
勝ち筋を作る売買戦略:短期トレードと中期保有を分ける
ホテルREITは、イベントドリブンに近い動きと、分配金を軸にしたインカム投資の両方が成立します。目的を混ぜると判断がブレます。ここでは、再現性が高い型を示します。
戦略A:月次KPI改善の「継続」を取りに行く(中期)
狙いは、稼働率よりADRとRevPARの「トレンド改善」です。月次でKPIが改善し続ける局面では、分配金予想が上がり、アナリストや投信の目線も変わっていきます。買いのタイミングは、改善が始まった直後ではなく、2〜3回連続で改善が確認できた時点が堅い。遅いようで、ここからでも相場が走ることが多いです。
売りのサインは、稼働率が高止まりしているのにADRが伸びなくなった、あるいは供給増で稼働率が下がり始めた、のような「成長の鈍化」です。ホテルはサイクルがあるので、ピークを見極めるより、鈍化を確認したら淡々と落とす方が失敗しにくい。
戦略B:決算・分配予想の上方修正を先回りする(短期〜中期)
ホテルREITは、運営収益が上振れると分配予想の上方修正が出やすい。月次KPIが強い状態が続き、過去の傾向として「この水準なら上方修正が出る」銘柄は、決算前に思惑で買われます。やり方はシンプルで、月次KPI→決算の反映タイミング→修正の出方を過去数期分並べて癖を掴むことです。
注意点は「織り込み」です。修正が出ても材料出尽くしで下がることがある。短期狙いなら、修正を取りに行くのか、修正後のトレンドを取りに行くのかを決めます。
戦略C:利回りの極端な拡大(投げ売り)を拾う(逆張り)
リスクオフでREIT全体が売られるとき、ホテルREITも一緒に投げられることがあります。しかし、ホテルは需要が戻れば分配金が戻る可能性があり、回復局面での伸びも大きい。ここで拾うには条件があります。
条件は、(1)借入が安定(満期分散・固定比率高め)、(2)LTVが極端に高くない、(3)主要物件の立地が強い、(4)月次KPIが崩壊していない、の4つです。これを満たすなら、利回りの極端な拡大はチャンスになり得ます。
具体例で理解する:同じインバウンドでも「都市型」と「リゾート型」は別物
ホテルREITの中でも、都市型(東京・大阪など)とリゾート型(温泉地・観光地)は値動きのドライバーが違います。簡単な仮想例で整理します。
例1:都市型ホテル中心(A投資法人)
海外からの個人旅行とビジネス客、イベント需要が混ざり、平日稼働が強い。ADRは上げやすいが、供給(新規ホテル)も増えやすい。空港アクセスや都心主要駅への近さが評価され、RevPARが伸びると分配金の上方修正が出やすい。
例2:リゾート・温泉中心(B投資法人)
週末・連休に需要が偏りやすく、稼働率の山谷が大きい。単価は体験価値で上げられるが、天候や災害に弱い。インバウンドの回復に加え、国内レジャー需要(家族旅行)が強い局面でパフォーマンスが出る。
投資家としては「どの需要を取りに行っているのか」を最初に固定し、月次KPIの見方を変えます。都市型なら平日の稼働とADR、リゾートなら繁忙期の単価と稼働、そしてキャンセル率のような指標が効いてきます。
よくある失敗パターン:ホテルREITで負ける人の典型
ここはストレートに言います。負ける人の癖はだいたい同じです。
利回りだけで買う
分配金が高いのは、単に価格が下がった結果かもしれません。下がった理由が「需要悪化」「増資リスク」「金利上昇」なら、まだ下がります。利回りは最初に見るが、最後に決める指標です。
稼働率だけで判断する
稼働率が高い=上限、と思い込むと、ADR上昇局面を取り逃がす。ホテルの利益は単価で伸びる。稼働率が横ばいでもADRが上がっているかを見る。
供給増を軽視する
ホテルは建てれば増える。供給が増える都市では、需要が戻っても稼働率が上がり切らず、単価競争になることがあります。保有物件が「強い立地」か、ブランド力があるか、リノベで差別化できるかが重要です。
チェックリスト:買う前に10分でやるデューデリ(簡易版)
最後に、実際に買う前の最低限の手順をまとめます。これだけで、事故率が下がります。
①契約形態:固定賃料か、変動賃料か、ハイブリッドか。上振れを取りたいなら変動比率を確認。
②保有物件の立地:都市・観光地・空港アクセス。インバウンドの導線に乗っているか。
③KPIのトレンド:直近の稼働率・ADR・RevPARが改善しているか。単月ではなく連続性。
④LTV:高すぎないか。増資リスクの目安。
⑤借入条件:固定/変動比率、満期分散。金利上昇耐性。
⑥分配金の要因:営業収益増か、一時要因か。売却益頼みではないか。
⑦CAPEX計画:改装・更新の予定が分配を圧迫しないか。
⑧P/NAV:割安の理由が説明できるか。説明できない割安は危険。
⑨増資の履歴:頻度と資産取得の質。増資が上手い運用会社か。
⑩出口の設計:KPI鈍化、金利急騰、増資条件悪化など、売る理由を先に決める。
まとめ:ホテルREITは「単価上昇」を見抜ける人が勝つ
ホテルREITのコアは、インバウンド回復そのものより、需要回復が「宿泊単価」に転嫁され、RevPARが伸び、変動賃料や運用収益に落ちるかどうかです。稼働率の数字に惑わされず、ADRとRevPARのトレンド、契約形態、金利耐性(LTV・デット構造)をセットで見れば、再現性のある判断ができます。利回りに釣られる前に、分配金の質と成長の根拠を分解する。これがホテルREITで資産を増やす最短ルートです。


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