- ホテルREITは「不動産」ではなく「オペレーション(稼働するビジネス)」だと理解する
- まず覚えるべき3つの指標:稼働率・ADR・RevPAR
- ホテルREITの収益構造:固定賃料と変動賃料のどちらが強いか
- 「宿泊単価の上昇」はどこから来るのか:インバウンドだけではない4要因
- 数字で判断する:RevPARの“変化率”と、分配金の“耐久力”を同時に見る
- ホテルREITの金利リスク:利回り商品としての弱点を“事前に”潰す
- 実践:インバウンド回復局面で“取りに行く”売買シナリオ(具体例)
- 初心者がハマる落とし穴:高利回りに見える“理由”を必ず言語化する
- “宿泊単価上昇”を先読みする観点:データの当たり所と読み方
- 評価(バリュエーション)の実務:NAVとキャップレートを“ホテル仕様”で理解する
- リスク管理:ホテルREITは「急変リスク」を前提にポジションを設計する
- まとめ:ホテルREITで勝ちやすい人の共通点
- 実践チェックリスト:買う前に必ず確認する10項目(読み物として理解できる形)
- ケーススタディ(架空):月次の数字だけで“強い局面”を判定する
- よくある質問:ホテルREITを始める前に潰しておくべき疑問
ホテルREITは「不動産」ではなく「オペレーション(稼働するビジネス)」だと理解する
ホテルREITは、同じJ-REITでもオフィスや物流と性格がかなり違います。オフィスは賃料改定が年1回レベルで、契約期間も長めです。一方でホテルは、部屋を毎日売るビジネスです。稼働率(Occupancy)×宿泊単価(ADR)で日々売上が変わり、そこから導かれるRevPAR(1室あたり売上)が最重要のKPIになります。
この違いを飲み込めると、ホテルREITは「インバウンド回復」「円安」「イベント需要」といった外部ショックを利益に変えやすい反面、逆回転すると分配金の下方リスクも早い、という特徴が腹落ちします。つまり、買うなら“需給・金利”ではなく、まず“運営指標の加速”を取りに行くべき商品です。
まず覚えるべき3つの指標:稼働率・ADR・RevPAR
ホテルREITを分析するとき、最初に見るべきは「稼働率」「ADR(Average Daily Rate:平均客室単価)」「RevPAR(Revenue per Available Room)」です。関係はシンプルで、RevPAR=稼働率×ADRです。
例を出します。稼働率80%でADRが20,000円ならRevPARは16,000円です。稼働率が85%に上がり、ADRも21,000円に上がれば、RevPARは17,850円になります。RevPARは11.6%上昇です。ここがポイントで、稼働率とADRが同時に上がる局面は“複利”で効いてきます。ホテル株やホテルREITが強い相場は、だいたいこれが起きています。
初心者がやりがちなミスは、「訪日客が増えた」だけで買ってしまうことです。実際は、訪日客が増えても供給(新規開業)が増えればADRが伸びません。逆に、訪日客が横ばいでも、円安や航空便増、イベント集中などで繁忙期の価格が跳ねればADRが上がり、RevPARが伸びることがあります。ニュースではなく、指標の変化率を追うのがコツです。
ホテルREITの収益構造:固定賃料と変動賃料のどちらが強いか
ホテルREITの分配金のブレは、賃料の取り方でだいぶ変わります。ざっくり、以下のパターンがあります。
(A)固定賃料型:REITは一定賃料を受け取る。景気悪化でも分配金が落ちにくいが、好況時の上振れも小さい。
(B)固定+変動(ミックス):最低限の固定賃料に加えて、売上や利益に連動する賃料が乗る。守りと攻めのバランスが取れる。
(C)変動賃料比率が高い(運営連動が強い):RevPARが伸びる局面で分配金が跳ねるが、需要ショックで急落しやすい。
投資の実務で重要なのは、「このREITは今の相場局面でどの型が有利か」を明確にすることです。インバウンド急回復や単価上昇の初期は、変動賃料の効きが強いほど“伸びしろ”が大きい。一方で、需給が一巡し景気減速が見えてきたら、固定比率が高い方が防御的です。
「宿泊単価の上昇」はどこから来るのか:インバウンドだけではない4要因
ADRが上がる要因を分解すると、分析精度が上がります。重要なのは次の4つです。
1)客層ミックスの改善:団体旅行から個人旅行へ、または富裕層比率が上がると単価が上がります。都市部の上位ブランドや、リゾートのハイエンドで起きやすい。
2)供給の制約:新規開業が少ない、あるいは人手不足で稼働できる客室数が実質的に減ると、価格決定力が上がります。ここはニュースで見落とされがちです。
3)イベント集中:大型イベント・学会・コンサート・スポーツ国際大会などは、特定エリアのADRを一時的に押し上げます。ホテルREITはエリア分散の仕方で影響度が変わります。
4)円安・航空便・ビザ/制度:円安は訪日需要を刺激しやすく、航空便の座席供給増は“実需”として効きます。制度変更(ビザ緩和等)は中期的な追い風になり得ます。
この4つを見たうえで、「需要が増えた」より「価格決定力が増えた」に焦点を当てると、ホテルREITの勝率が上がります。
数字で判断する:RevPARの“変化率”と、分配金の“耐久力”を同時に見る
ホテルREITは分配金利回りが目立つので、利回りだけで比較されがちです。しかし本質は、分配金がどれくらい“増える余地”があるかと、悪化局面でどれくらい“減りにくいか”です。
ここで使える実践的な見方が2つあります。
(1)RevPAR前年差(YoY):四半期や月次で、前年同月比の伸び率がどう推移しているか。伸び率が加速している(例:+5%→+10%→+15%)ときは、相場が強くなりやすい。
(2)“下振れ耐性”のチェック:固定賃料比率、運営会社の体力、契約条項(最低保証等)、エリア分散、そしてREITの財務(借入比率や金利固定の割合)です。好況期でも、借入条件が悪いと分配金が伸びません。
ホテルREITの金利リスク:利回り商品としての弱点を“事前に”潰す
J-REIT全体に共通ですが、ホテルREITは金利上昇局面で売られやすい傾向があります。理由は単純で、分配金利回りが債券利回りと比較され、相対的な魅力が下がるからです。さらに、REITは借入で物件を持っているので、調達金利が上がると利益が削られます。
ただし、ここで差が出ます。チェックすべきは次の3点です。
1)平均調達金利と固定金利比率:固定比率が高く、返済期限が分散されているほど、短期の金利上昇に強い。
2)LTV(Loan to Value):借入比率が高いほど、金融環境の悪化に弱い。初心者は「利回りが高い=お得」と見がちですが、背後に高LTVが隠れていることがあります。
3)物件売却・入替の実績:収益性の低いホテルを入れ替え、ポートフォリオの質を上げられる運用会社は、金利局面でも手が打てます。
実践:インバウンド回復局面で“取りに行く”売買シナリオ(具体例)
ここからは、実際にどうやって儲ける確率を上げるかです。以下はあくまで例ですが、再現性のある型として使えます。
ステップ1:マクロの追い風を「数」で確認する。見るのは、訪日客数そのものより、航空座席供給、主要都市の稼働率、旅行消費額、そして為替(円安の持続性)です。数字が連続して改善しているか、トレンドが重要です。
ステップ2:ホテルREITの月次開示でRevPARの加速を探す。前年同月比のRevPARが、直近3か月で加速している銘柄を候補にします。加速していないのに株価だけ上がっているものは、需給で上がっている可能性が高く、急落に巻き込まれやすい。
ステップ3:賃料構造と財務で“伸びの邪魔”がないか確認する。変動賃料が効くのに、借入の金利固定が薄い、もしくは大規模なリファイナンスが近いなら、伸びが相殺されることがあります。
ステップ4:買いのタイミングは「月次の数字が出た直後」か「決算で見通しが上がった直後」。ホテルREITは数字が動くときに市場が織り込みやすいので、材料が出てからでも間に合うことが多い。逆に、思惑で先回りしすぎると、指標が伸びなかったときに大きくやられます。
ステップ5:出口は“伸び率のピークアウト”と“供給増”。RevPARの伸び率が鈍化し始めたら警戒します。加えて、新規ホテル開業が増えるエリアに偏っているREITは、ADRの伸びが止まりやすい。利回りが高く見えても、分配金が下がれば意味がありません。
初心者がハマる落とし穴:高利回りに見える“理由”を必ず言語化する
ホテルREITで一番多い失敗は、「利回りが高いから買った」が、実は市場が先にリスクを織り込んでいたパターンです。高利回りの背景は主に3つです。
(1)収益がピークで、これから落ちる:RevPARが鈍化しているのに、過去の高い分配金が利回りを押し上げているケース。
(2)財務が弱い:高LTVで増資リスクがある、借入更新が近く金利上昇が刺さるなど。
(3)物件の質が低い:競争が激しいエリアの中価格帯に偏り、価格決定力が弱い。人手不足で稼働制約が出やすい等。
これらを避けるには、「なぜ利回りが高いのか」を1行で説明できるまで掘り下げることです。説明できないものは、買わない。それだけで事故率が下がります。
“宿泊単価上昇”を先読みする観点:データの当たり所と読み方
ホテルREITの分析は、意外と公開データで戦えます。使える当たり所は次の通りです。
・REITの月次レポート:稼働率・ADR・RevPARが載ることが多い。エリア別の内訳があると強い。
・観光統計:訪日客数、旅行消費額、国籍別など。客層ミックスのヒントになります。
・航空会社/空港のデータ:国際線の座席供給は、需要の上限を決めます。増便が続くなら需給が締まりやすい。
・大型イベントの開催予定:特定エリアの短期単価上昇のトリガーになります。集中する年は強い。
読み方のコツは、「水準」より「変化率」です。例えば、稼働率が元々高い都市部は、伸びしろがADRに出ます。逆に、稼働率が低い地方は、まず稼働率の改善が先に来ることが多い。エリア特性に合わせて、どちらのドライバーが効いているかを見分けます。
評価(バリュエーション)の実務:NAVとキャップレートを“ホテル仕様”で理解する
J-REITの評価でよく出てくるのがNAV(Net Asset Value)とキャップレート(不動産利回り)です。ただ、ホテルはオフィスより収益変動が大きいので、鑑定評価が「平準化」されがちです。ここが落とし穴になります。
例えば、足元のRevPARが急騰しているとき、鑑定評価は追いつかず、見かけ上P/NAVが割安に見えることがあります。逆に、需要が落ちた直後は鑑定評価が遅れて下がり、P/NAVが割高に見えることもあります。だからホテルREITは、P/NAVだけで判断するとズレやすい。
実務では、「RevPARのトレンド × 賃料構造 × 財務」を先に固め、P/NAVや分配金利回りは“最後の確認”に回す方が精度が上がります。
リスク管理:ホテルREITは「急変リスク」を前提にポジションを設計する
ホテルは外部要因に弱い面があります。感染症、自然災害、地政学、航空便の急減、為替の急反転などで、数か月単位で需給が崩れます。ここで重要なのは、「起きる確率が低いから無視」ではなく、起きたときに致命傷にならない設計にすることです。
具体的には、(1)単一銘柄に寄せすぎない、(2)買い増しは数字の確認後に分割、(3)“伸び率”が鈍化したら機械的に縮小、(4)金利急騰局面ではREIT全体が売られやすいので、指数や金利指標を監視、の4点を徹底すると事故が減ります。
まとめ:ホテルREITで勝ちやすい人の共通点
ホテルREITは、上手くやると「インバウンド × 価格決定力 × 変動賃料」のコンボで、分配金と価格上昇の両方が狙えます。逆に、利回りだけで買うと、需給悪化や金利で簡単に裏切られます。
勝ちやすい人の共通点はシンプルです。ニュースではなく、稼働率・ADR・RevPARの変化率を追う。賃料構造と財務で“伸びの邪魔”を潰す。出口は伸び率のピークアウトで判断する。これだけで、ホテルREITは「雰囲気投資」から「数字の投資」に変わります。
実践チェックリスト:買う前に必ず確認する10項目(読み物として理解できる形)
最後に、実際の検討で漏れやすい点を「チェックリスト」として整理します。箇条書きで終わらせず、なぜ重要かまで書きます。ここを潰すほど、負け筋が減ります。
1)ポートフォリオの立地は「勝ちエリア」に偏っているか:ホテルは立地がすべてと言っていい。不動産としての立地というより、「需要が年中あるか」「出張・観光・イベントの複数需要が重なるか」が重要です。都市部でも、主要駅から遠い、周辺に競合が増えている、などはADRが伸びません。
2)客層は分散しているか:インバウンド依存が高すぎると、為替反転や地政学で落ちます。逆に国内需要だけだと伸びが鈍い。出張・レジャー・訪日が混ざる構成が理想です。
3)賃料の変動連動は“どの段階”で効くか:売上連動なのか、利益(GOP等)連動なのかで感度が変わります。売上連動は早く効く一方、コスト上昇(人件費・光熱費)を吸収しにくい。利益連動は遅いが質が高い。どちらが有利かは局面次第です。
4)オペレーターは強いか:運営会社のブランド力とレベニューマネジメント(価格最適化)の巧さでADRが変わります。同じ立地でも運営で差が出ます。運営会社が弱いと、繁忙期でも値付けが甘く、取りこぼします。
5)改装(CAPEX)の計画が現実的か:ホテルは客室の改装が必須です。改装が遅れると競争力が落ち、ADRが伸びません。逆に改装投資が過大だと、短期的に分配金が圧迫されます。投資額と回収の筋が通っているかを見ます。
6)開示の粒度が高いか:月次で稼働率・ADR・RevPARをエリア別に出すREITは、投資家にとって武器です。数字が見えないREITは、後追いになりやすい。初心者ほど開示が丁寧なものを選ぶ方が運用しやすいです。
7)借入の期限分散と固定比率:先述の通り金利は避けられません。短期で返済が集中していると、金利上昇局面で“将来の分配金”が市場に叩かれます。固定比率が高いほど、想定外の金利変動に強い。
8)増資(公募増資)の蓋然性:物件取得を積極化する局面では増資が起きがちです。増資は短期的に希薄化で下がりやすい反面、優良物件の取得なら中期でプラスもあります。ここを理解しておくと、増資ショックが“仕込み場”になることがあります。
9)分配金の季節性:ホテルは繁忙期の偏りがあります。決算期のずれによって、分配金が上下に見えることがあります。単期の増減だけで一喜一憂せず、通期のトレンドで判断します。
10)供給増の影響を受けるエリアか:競合ホテルが増えるとADRが伸びません。ニュースで「新規開業〇〇件」だけを見ても意味が薄いので、同じ価格帯・同じ商圏に供給が増えるかを意識します。上位ブランドは供給の影響を受けにくいこともあります。
ケーススタディ(架空):月次の数字だけで“強い局面”を判定する
ここでは架空の例で、判断プロセスを具体化します。AホテルREIT(都市部中心、固定+変動型)とBホテルREIT(地方・リゾート中心、変動比率高め)を想定します。
直近3か月のRevPAR前年差が、Aは+6%→+9%→+12%、Bは+15%→+14%→+10%だったとします。表は不要なので文章で整理します。Aは加速、Bは減速です。この時点で「勢い」はAです。次に内訳を見ます。Aは稼働率が+2pt、ADRが+1,500円と両方伸びている。一方Bは稼働率が伸びず、ADRの伸びだけで押し上げていた。これだと、供給増や価格の天井が見えた瞬間にBは失速しやすい。
さらに財務を見ると、Aは固定金利比率が高く、返済期限が分散。Bは短期借入の更新が多い。金利上昇局面なら、Bは二重に不利です。こういうときは、Bの高利回りに飛びつくのではなく、Aで“伸び率の加速”を取りに行く方が合理的です。もちろん、Bが悪いという話ではなく、局面に合わないだけです。Bは、為替が落ち着き、金利が低下し、リゾート需要が再加速する局面で強くなり得ます。
よくある質問:ホテルREITを始める前に潰しておくべき疑問
Q1:ホテルREITは結局、利回り狙いですか?
A:利回りは入口の魅力度としては重要ですが、ホテルREITは“利回り固定”ではありません。分配金は需要ショックで変動します。だから「利回り狙い」ではなく「分配金が増える局面を取る」と考える方が実務的です。
Q2:円安なら必ず強いですか?
A:円安は追い風になりやすいですが、航空便が増えないと訪日客は物理的に増えません。また供給が増えれば単価は伸びません。円安は条件の1つで、決定打はRevPARの加速です。
Q3:いつ損切りすべきですか?
A:テクニカルの話ではなく、ファンダメンタルのルールを持つ方が再現性があります。例として「RevPAR前年差が2回連続で減速し、かつ供給増が見えているなら縮小」といった機械的なルールを作ると、感情で握り続ける事故が減ります。
Q4:税金は難しいですか?
A:J-REITの分配金は配当と同様に課税対象で、特定口座なら基本は証券会社側で処理されます。難しいのは、売買益・分配金のバランスや、損益通算の理解です。初心者はまず特定口座でスタートし、年間で通算するイメージを持てば十分です。


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