REITは「不動産からの賃料収入を投資家に分配する仕組み」です。株式と同じように証券取引所で売買できるため、手軽に分散された不動産ポートフォリオを持つことができます。一方で、REITの価格は「金利の変化」によって大きく動きます。
本記事では、あえて市場が悲観的になりやすい「金利サイクルの転換点」でREITに逆張りしていく考え方を解説します。高い分配金利回りを取りにいきつつ、金利低下による価格の戻り(キャピタルゲイン)も狙う戦略です。
1. REITと金利の関係を整理する
まずは、なぜREITが金利に敏感なのかを整理します。このメカニズムを理解していないと、逆張りどころか「危ないところでつかんでしまう」ことになりかねません。
1-1. 分配金利回り vs 国債利回り
REITの投資妙味は、基本的に「分配金利回り」です。例えば、あるREITの年間分配金が1口あたり50円、価格が1,000円であれば、分配金利回りは5%です。
ここで比較されるのが、同じ通貨建ての「安全資産」の利回りです。日本であれば国債利回り、米国REITであれば米国債利回りがベンチマークになります。投資家は、ざっくりと次のように比較します。
- REITの分配金利回り - 国債利回り = リスクを取る「上乗せリターン」
この差が十分に大きければ、「不動産リスクを取っても割に合う」と判断されやすくなります。逆に差が小さくなると、「わざわざREITに投資しなくても、国債でいいのでは?」という心理が働きます。
1-2. 金利上昇局面でREITが売られる理由
金利が上昇すると、一般的にREITの価格には逆風が吹きます。その理由は大きく三つあります。
- ① 国債利回りが上昇し、「安全資産の利回り」が上がる
- ② REITが保有する不動産の取得・借入コストが上昇し、将来キャッシュフローへの不安が出る
- ③ 金利上昇は景気減速の予兆と解釈されることもあり、オフィス・商業施設などの空室リスクが意識される
この結果、「分配金利回りと国債利回りの差」が縮小し、投資妙味が薄れたと市場が判断すると、売り圧力が高まりやすくなります。
1-3. 金利がピークアウトすると何が起こるか
一方で、金利が上昇し続けることはありません。インフレが落ち着き、景気の減速感が強まると、中央銀行は利上げを停止し、やがて利下げに転じます。この「利上げ停止〜利下げ初動」の局面で、REITの評価が見直されることが多くあります。
理由は次の通りです。
- ① それまでの金利上昇でREIT価格が大きく下落し、分配金利回りが高水準になっている
- ② 金利低下によって、REITの借入コスト悪化懸念が和らぐ
- ③ 国債利回りが低下し、REITとの利回り差が再び拡大する
このタイミングで冷静に仕込めれば、「高い分配金を受け取りながら、金利低下局面の価格回復も狙う」という動き方が可能になります。これが本記事で扱う「金利サイクル逆張り戦略」のコアです。
2. 金利サイクル逆張り戦略の全体像
ここからは、金利サイクルを軸にしたREITの逆張り戦略の全体像を整理します。ざっくりとした流れは以下の通りです。
- ステップ1:金利サイクル(利上げ・利下げ)の位置を把握する
- ステップ2:REIT指数と分配金利回りの水準をチェックする
- ステップ3:利上げ終盤〜利上げ停止前後で「分割エントリー」する
- ステップ4:利下げ本格化での価格戻りを見ながらポジションを整理する
- ステップ5:常に分散とリスク管理を優先する
重要なのは、「金利のドンピシャの天井を当てにいかないこと」です。金利の転換点を完璧に当てることはプロでも難しいため、「ゾーン」で考え、時間分散で入るのが現実的です。
3. 金利サイクルの位置をどう見分けるか
金利サイクルを完全に読み切ることは不可能ですが、「利上げサイクルのどの辺りにいるのか」を大まかに把握することはできます。ここでは、初心者でも使いやすい情報源と見方を紹介します。
3-1. 政策金利と中央銀行のスタンス
まず見るべきは、中央銀行の政策金利と、その会合後に出される声明・記者会見です。市場では、次のような変化が「利上げ終盤〜停止が近そう」というサインとして意識されます。
- ・利上げ幅が縮小してきている(0.5% → 0.25% など)
- ・声明文のトーンが「さらなる利上げが適切」から「今後のデータ次第」へ変化している
- ・会見で「これまでの利上げ効果を見極める」といった発言が増える
こうしたシグナルが出始めると、市場は「利上げサイクルの終わり」を意識し始めます。しかし、この段階ではまだ不確実性も高いため、REIT市場には警戒感が残っています。逆張りを狙う投資家にとっては、準備を始めるタイミングです。
3-2. 長期金利のチャートとインフレ指標
次に注目したいのは、10年国債利回りなどの長期金利の推移です。チャートとして長期金利を見ると、次のようなパターンが見えてくることがあります。
- ・インフレ指標の悪化とともに長期金利が急騰する
- ・ある水準で何度も上値を抑えられ、「天井圏」でのもみ合いが続く
- ・インフレ指標がピークアウトし、長期金利もじわじわと下がり始める
この「金利は高いが、明らかに急騰局面は終わったように見える」タイミングは、REITの長期的な仕込みを検討するうえで重要なヒントになります。
3-3. REIT指数のチャートと分配金利回り
金利サイクルだけを見ていると、どうしてもマクロ寄りの抽象的な判断になりがちです。そこで、実際のREIT指数(J-REIT、米国REITなど)のチャートと分配金利回りを組み合わせて判断します。
具体的には、次のような状況が「逆張り候補」として意識されます。
- ・過去数年のレンジの下限を明確に割り込む急落が発生している
- ・指数ベースの分配金利回りが、過去の「お買い得ゾーン」に近づいている(例:過去の底打ち局面で5〜6%台だった水準に再接近)
チャートだけでは不安でも、「利回り水準」という具体的な数字を見ることで、判断しやすくなります。
4. 具体的な逆張りシナリオとエントリーの考え方
ここからは、実際にどのような局面で逆張りを考えるのか、シナリオごとに解説します。具体的な銘柄名ではなく、「どういう条件を満たした時に候補に入れるか」という視点で整理します。
4-1. シナリオA:急激な利上げとREIT急落後の「第一波」
まず想定しやすいのは、「急激な利上げが続き、REIT指数が短期間で大きく売られた局面」です。この段階では、まだ中央銀行もタカ派スタンスを維持していることが多く、「これからさらに利上げが続くかもしれない」という不安が残っています。
この局面は、フルポジションでの逆張りには向きませんが、「少額で第一波の仕込みを始める」には良いタイミングになり得ます。例えば、
- ・REIT指数が数カ月で20〜30%以上下落している
- ・指数ベースの分配金利回りが、平常時より明らかに高い水準に跳ね上がっている
といった条件がそろった場合、「ここからさらに下がるリスクはあるが、時間を分散すれば長期では妙味がある」と考えることができます。
4-2. シナリオB:利上げ幅縮小・利上げ停止前後の「第二波」
次の注目局面は、「利上げ幅が縮小し、やがて利上げが停止するタイミング」です。この頃には、
- ・インフレ指標がピークアウトし始めている
- ・景気悪化懸念も出ているが、同時に「これ以上の急激な利上げはなさそう」という安心感も出てきている
といった状況になっていることが多く、REITの下落圧力は徐々に弱まりつつあります。
ここでは、「第一波の仕込みに加えて、もう一段積み増す」イメージを持つとよいでしょう。例えば、
- ・分配金利回りが依然として高水準(例:5〜6%台)で推移している
- ・長期金利が天井圏でもみ合い、明確な上抜けが止まっている
といった条件がそろえば、「利下げへの布石」としてポジションを増やす候補になります。
4-3. シナリオC:利下げ開始〜本格化局面での「出口戦略」
利下げが実際に始まり、市場コンセンサスとして「金利は下向き」という認識が広がると、REIT価格も徐々に見直されていきます。分配金利回りは、価格上昇とともに低下していきます。
この局面で重要なのは、「どこまでを狙うかをあらかじめ決めておく」ことです。例えば、
- ・分配金利回りが特定水準まで低下したら、段階的に利益確定する
- ・チャート上で、過去のレンジ中央〜上限に戻ったところでポジションを軽くする
といったルールを自分なりに決めておくと、欲張り過ぎて戻り売りに巻き込まれるリスクを減らせます。
5. 個別REITを選ぶ際のチェックポイント
実際の運用では、指数連動のREIT ETFや、複数銘柄に分散投資する投資信託を使う方法が分かりやすいです。ただし、個別REITを選びたい場合は、次のようなポイントを押さえておく必要があります。
5-1. セクター別の金利感応度
REITと一口に言っても、投資対象はさまざまです。代表的なセクターとして、
- ・オフィス
- ・商業施設(ショッピングセンターなど)
- ・住宅(レジデンス)
- ・物流施設
- ・ホテル・リゾート
- ・ヘルスケア施設
などがあります。金利サイクル逆張り戦略では、「景気に対して相対的に堅いキャッシュフローを持つセクター」を重視する考え方がよく取られます。例えば、物流や住宅は比較的安定しやすいとされる一方、景気に敏感なホテルやオフィスはボラティリティが高くなりがちです。
5-2. LTV(総資産に対する借入比率)
金利サイクルを意識するうえで、REITの財務レバレッジも重要です。総資産に対する有利子負債の割合(LTV)が高すぎると、金利上昇局面で利払い負担が重くなり、分配金の安定性に不安が出てきます。
逆張りを仕掛ける局面では、「割安に見えるが、レバレッジが高すぎて危険な銘柄」をつかまないよう、LTVの水準を確認しておくことが大切です。中長期的に安定を重視するなら、過度にレバレッジの高い銘柄は避け、財務基盤が比較的堅い銘柄を優先する判断も有力です。
5-3. 分配金の過去実績と方針
分配金の履歴もチェックポイントです。過去の景気後退局面や金利上昇局面で、どの程度分配金が維持・減額されてきたかを確認することで、そのREITの「配当方針」と耐久力が見えてきます。
例えば、
- ・多少の減額はあるが、長期では安定的に分配を出し続けている
- ・景気後退局面で大きく分配を減らしたが、その後の回復局面でしっかり増配している
といったパターンなら、「荒れた局面でも耐えれば、長期には報われる可能性がある」と判断しやすくなります。
6. 実際のポートフォリオへの組み込み方
金利サイクル逆張り戦略を実践する際は、REIT単独で考えるのではなく、「株式・債券・現金などを含めた全体ポートフォリオの中で、どの程度のウェイトを持たせるか」を決めることが重要です。
6-1. REITの役割を明確にする
REITには大きく二つの役割があります。
- ① 高い分配金利回りによるインカムの源泉
- ② 金利低下局面での価格回復によるキャピタルゲインの可能性
自分のポートフォリオの中で、どちらを重視するのかをはっきりさせます。安定したインカムを重視するなら、「分配金利回りが一定以上になった段階で長期保有する」というスタンスもありえます。一方、キャピタルゲイン狙いなら、「利回り水準と価格水準が一定ラインを超えたところで利益確定していく」方針が考えられます。
6-2. 時間分散と金額コントロール
金利サイクル逆張りは、「最安値で一括投資する」ことを狙う戦略ではありません。むしろ、
- ・複数回に分けた購入(時間分散)
- ・ポートフォリオ全体に対するREITの上限比率を決めておく(金額コントロール)
といったリスク管理が前提になります。例えば、ポートフォリオ全体のうちREITを最大20%までと決め、その範囲内で数カ月〜1年かけてポジションを積み上げる、といったイメージです。
7. リスクと注意点を冷静に把握する
最後に、この戦略に固有のリスクと注意点を整理します。逆張りという性質上、どうしても「含み損を抱えながら耐える期間」が発生しやすいため、事前に覚悟しておくことが大切です。
7-1. 金利が想定以上に長く高止まりするリスク
想定していたよりもインフレがしぶとく、金利が長期間高止まりする場合、REIT価格はなかなか回復しない可能性があります。この場合、
- ・分配金を受け取りながら、長期での回復を待つ覚悟があるか
- ・一定の含み損ラインで機械的に損切りするか
といった事前のルールが重要になります。どちらの選択肢をとるにせよ、「何となく不安だから売る」という状態を避けるための方針決めが不可欠です。
7-2. 不動産市場そのものの悪化リスク
金利サイクルにかかわらず、不動産市場そのものが大きく悪化するケースもあります。例えば、長期にわたるオフィス需要の減少や、特定セクターの構造不況などです。このようなケースでは、金利が下がってもREIT価格が戻りにくくなることがあります。
このリスクを軽減するには、
- ・セクター分散(オフィスだけに集中しないなど)
- ・広く分散された指数連動商品の活用
といった対策が現実的です。
7-3. レバレッジのかけ過ぎに注意する
金利サイクル逆張りは、どうしても「底値で買えれば大きく儲かりそう」というイメージを持ちやすくなります。その結果、信用取引やレバレッジETFなどを使ってポジションを膨らませてしまうと、想定外の金利ショックや不動産市場悪化で大きなダメージを受けるリスクがあります。
長期でじっくりと分配金を受け取りながら、回復を待つ戦略であればこそ、レバレッジは控えめにし、無理のない資金計画の範囲内で運用することが大切です。
8. まとめ:金利サイクルを味方につけてREITを仕込む
REITの金利サイクル逆張り戦略は、「市場が悲観的になっている局面で冷静に仕込み、高い分配金と将来の価格回復の両方を狙う」という考え方です。ポイントを整理すると、次のようになります。
- ・金利上昇はREITに逆風だが、その結果として分配金利回りが高水準になる
- ・利上げ終盤〜利上げ停止前後は、「将来の利下げ」を見据えた仕込みゾーンになり得る
- ・金利サイクルの位置、REIT指数のチャート、分配金利回りの水準を組み合わせて判断する
- ・時間分散と金額コントロールを徹底し、レバレッジは抑える
- ・セクター分散と財務健全性のチェックで、極端なリスクを避ける
完璧な底値を当てる必要はありません。金利サイクルという大きな流れを意識しながら、徐々にポジションを積み上げていくことで、インカムとキャピタルの両面からリターンを狙うことができます。
自分のリスク許容度や投資期間に合わせて、無理のない範囲で少しずつ試してみることで、金利サイクルを味方につける感覚がつかめてくるはずです。REITを通じて、不動産と金利の関係を学びながら、長期的な資産形成の一つの選択肢として活用していくことができます。


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