- 結論:REITは“金利上昇”そのものより「上がり方」と「財務構造」で決まる
- まず押さえる:REITの価値は“家賃のキャッシュフロー”の割引で決まる
- 金利上昇でREIT価格が下がる“3つの経路”
- “耐えるREIT”の見抜き方:チェックポイントは財務と賃料の2軸
- 用途別:金利上昇に強い/弱い傾向(ただし例外は多い)
- “金利上昇”にも種類がある:同じ上昇でも影響は違う
- 実践:個別REITを“3分”で一次スクリーニングする方法
- よくある失敗:分配金利回りだけで買ってしまう
- 増資と金利上昇:なぜ“良い増資”と“悪い増資”があるのか
- “金利上昇に耐えるREIT”を安く買う局面:狙い所の考え方
- 金利上昇期のリスク管理:初心者が守るべきルール
- 具体例:同じ金利上昇でも結果が違う“2つのREIT像”
- まとめ:金利上昇でREITを捨てるのではなく、“構造”で選別する
結論:REITは“金利上昇”そのものより「上がり方」と「財務構造」で決まる
REIT(不動産投資信託)は、金利上昇局面で株式以上に売られることがあります。理由は単純なイメージ(「金利が上がると不動産は下がる」)だけではありません。実務的には、REIT価格は①長期金利の上昇速度、②借入の条件(固定/変動・満期分散・ヘッジ)、③賃料の改定力(インフレ転嫁)、④物件の質と稼働率、⑤需給(指数・投信資金・リバランス)で決まります。
つまり「金利が上がったら全部ダメ」ではなく、耐えるREITと耐えないREITの差が大きい資産クラスです。ここを分解して理解できると、下落時にパニック売りせず、逆に良いREITを安く拾う判断ができます。
まず押さえる:REITの価値は“家賃のキャッシュフロー”の割引で決まる
REITの基本は、保有不動産が生む家賃収入(NOI: Net Operating Income)と、そこから経費・金利・運用コストを引いた可処分キャッシュフローです。株式なら利益(EPS)を気にしますが、REITは会計上の減価償却が大きく、利益が実態を歪めます。そのため分析ではFFO(Funds From Operations)、さらに配当可能性に近いAFFOがよく使われます。
直感的には、REITの理屈はこうです。
- 賃料が伸びる(または下がらない)ほど価値は上がる
- 同じ賃料でも、投資家が要求する利回り(割引率)が上がるほど価格は下がる
- 借入コストが上がるほど、配当余力(FFO/AFFO)は減りやすい
金利上昇は、「割引率の上昇」と「借入コストの上昇」の二重パンチになり得るため、株式より敏感に反応しやすいのです。
金利上昇でREIT価格が下がる“3つの経路”
1)相対利回りの魅力低下:国債利回りと比較される
REITはインカム投資として見られがちで、投資家は「国債利回り(無リスク)に上乗せするなら買う」という感覚を持ちます。たとえば、REITの分配金利回りが4%で、10年国債が0.5%なら“上乗せ”は3.5%です。ところが10年国債が2%まで上がると上乗せは2%に縮み、相対的な魅力が下がります。結果として価格が下がり、利回りが上がって均衡しようとします。
2)キャップレート(還元利回り)の上昇:不動産の評価額が下がる
不動産は「NOI ÷ キャップレート」で価格が概ね決まります。金利上昇局面では、投資家は不動産にもより高いキャップレート(利回り)を要求しやすい。すると、NOIが同じでも評価額は下がります。
例:NOIが1億円の物件があるとして、キャップレート4%なら評価額は25億円(1億 ÷ 0.04)。キャップレートが5%に上がると評価額は20億円(1億 ÷ 0.05)へ20%下がります。REITの純資産価値(NAV)にも影響が出ます。
3)借入コスト上昇:FFO/AFFOと分配余力が削られる
REITはレバレッジを使う構造です。借入が変動金利中心だったり、満期が短く借り換え頻度が高いと、金利上昇が早く利払いに転嫁され、FFOが削られます。逆に固定金利が中心で満期が長いREITは、短期的には影響が出にくい。
“耐えるREIT”の見抜き方:チェックポイントは財務と賃料の2軸
金利上昇耐性を判断する軸は、突き詰めると(A)借入コストが上がりにくい、(B)賃料を上げやすい(NOIを伸ばせる)の2つです。ここに需給要因を補助的に乗せて、総合判断します。
A)借入コストが上がりにくいREITの条件
- 固定金利比率が高い(変動の比率が低い)
- 平均残存年数(加重平均満期)が長い/満期が分散している(満期ラダーがきれい)
- ヘッジ比率が高い(スワップ等で実質固定化している)
- LTVが低め(借入依存が過度でない)
- 格付けが高い、または調達余力が厚い(銀行借入の条件が崩れにくい)
初心者が見落としがちなのは「固定金利比率」だけ見て安心することです。重要なのは固定化がいつまで効くかです。固定比率が高くても、満期が短いと次の借り換えで一気に上がります。逆に変動でもヘッジで固定化している場合があります。IR資料で「固定化比率」「平均残存年数」「借入金利」「満期分散」をセットで見ます。
B)賃料を上げやすいREITの条件(インフレ耐性)
金利が上がる背景がインフレなら、賃料が上がれば相殺できます。ここで重要なのが「賃料改定の回転速度」と「需給の強さ」です。
- 契約期間が短いor改定頻度が高い(ホテル、物流、賃貸住宅の一部など)
- 稼働率が高く、需給がタイト(空室が少ない、入居待ちがある)
- 立地・競争優位が強い(代替が少ない、ブランド力がある)
- 賃料ギャップがある(現行賃料が市場賃料より低く、上げ余地がある)
反対に、賃料が硬直的な物件は金利上昇に弱い。例えば長期固定のマスターリースで賃料改定が遅い、供給過多エリア、築古で競争力が低い、テナント交渉力が強く家賃を上げられない、といったケースです。
用途別:金利上昇に強い/弱い傾向(ただし例外は多い)
用途(セクター)でざっくり傾向を押さえると、分析スピードが上がります。以下は一般的な傾向で、個別銘柄の財務・物件質で逆転します。
比較的“耐性が出やすい”ことが多いセクター
物流:EC・サプライチェーン需要が強い局面では賃料上昇が出やすく、近年は賃料改定も進みやすい。とはいえ供給増で空室が出ると一気に弱くなるため、エリアと築年数が重要。
賃貸住宅:契約更新が定期的に回り、市場賃料が上がる局面でじわじわ効いてくる。景気悪化にも比較的耐えやすいが、都市別の需給差は大きい。
ホテル:日次で価格を動かせるためインフレ転嫁は最強クラス。ただし景気・観光需要に左右され、ボラティリティは高い。金利上昇局面でも需要が落ちれば弱い。
金利上昇局面で“弱く見られやすい”ことが多いセクター
オフィス:契約期間が長く賃料改定が遅い傾向。空室率の上昇やテナントのコスト削減が重なると、賃料が伸びずに割引率だけ上がりやすい。
商業(リテール):テナントの売上が弱いと賃料交渉が難しくなる。立地が強い一等地は別ですが、二等地・競合が多い施設は弱くなりやすい。
“金利上昇”にも種類がある:同じ上昇でも影響は違う
ここが投資判断の肝です。金利上昇は一枚岩ではなく、背景によってREITの勝ち負けが変わります。
ケース1:景気が強く、インフレが適度に進む(良い金利上昇)
賃料・稼働率が上がり、NOIが伸びる余地があるため、金利上昇の悪影響が相殺されます。ホテル・物流・一部住宅が相対的に強くなりやすい。一方、財務が弱い銘柄は借入コスト増で負けます。
ケース2:インフレ高止まりで中央銀行が急激に引き締め(悪い金利上昇)
金利が“速く”上がると、割引率上昇と借入コスト増が先に来ます。賃料は後追いなので、短期的にREITは売られやすい。ここでは財務の強いREITほど耐えます。
ケース3:景気後退なのに金利が下がらない(スタグフレーション寄り)
賃料は上がらない/下がる、でも金利は高いという最悪コンボです。稼働率が落ちるセクター、テナント信用が弱い物件、レバレッジが高いREITが厳しい。ここは防御戦になります。
実践:個別REITを“3分”で一次スクリーニングする方法
初心者でも再現性が出やすい、超シンプルな一次チェックを提示します。細かい指標は後で詰めればよく、まず「地雷を踏まない」ことが大切です。
ステップ1:財務の地雷を避ける
- 固定化比率(固定金利+ヘッジ)
- 平均残存年数、満期ラダー
- LTV(目安として“高すぎない”こと)
- 直近の借入金利の推移(上がり方)
ステップ2:物件の地雷を避ける
- 稼働率の推移(高水準を維持できているか)
- 主要テナント依存(上位テナント集中が強すぎないか)
- 平均築年数と更新投資(CAPEX)の方針
ステップ3:賃料の伸びしろを探す
- 賃料改定実績(増額改定の件数、更新時の上げ率)
- 賃料ギャップ(市場賃料との差)
- セクター需給(供給増のリスクを把握)
この三段階で、金利上昇に弱い構造のREITはかなり除外できます。
よくある失敗:分配金利回りだけで買ってしまう
分配金利回りが高いと魅力的に見えますが、REITの高利回りはしばしば「市場が先に危険を織り込んでいる」サインです。典型的なパターンは以下です。
- 借入コスト上昇で将来の分配が減る可能性が高い
- 物件の稼働率が落ち、NOIが減り始めている
- 増資で希薄化が続き、1口当たりのFFOが伸びない
「高利回り=お得」ではなく、“持続可能な分配”かどうかが本質です。FFO/AFFOに対して分配が無理をしていないか(配当性向)、更新投資が不足していないか、これを見ます。
増資と金利上昇:なぜ“良い増資”と“悪い増資”があるのか
REITは成長のために公募増資を行うことがあります。金利上昇局面では、増資が嫌われやすい一方、増資の質で未来が分かれます。
良い増資:物件取得の利回り(取得キャップ)と調達コスト(WACC)の差が十分あり、1口当たりのFFOが増える。さらに物件の質が上がり、稼働率が改善する。
悪い増資:高い価格で物件を買い、調達コストが上がっているのに無理に拡大し、1口当たりのFFOが増えない(むしろ減る)。または希薄化が大きい。
金利上昇は「調達コスト」を押し上げるため、悪い増資が増えやすくなります。増資ニュースを見たら、感情ではなく「取得利回り」「資金使途」「1口当たりFFOの見通し」を確認します。
“金利上昇に耐えるREIT”を安く買う局面:狙い所の考え方
金利上昇局面では、優良REITまで一緒に売られることがあります。ここがチャンスになるのは、以下の条件が揃った時です。
- 金利上昇が「急激」から「鈍化」へ変化する兆しが出た
- 優良REITの財務・稼働率・賃料が崩れていない
- 需給要因(指数売り、投信解約、リバランス)で機械的に売られている
実務では、短期の底値当ては難しいので、段階的に買う、セクター分散する、財務の弱い銘柄を避けるの3点が有効です。相場が荒れると「一発逆転」を狙いたくなりますが、REITは元々インカム資産です。勝ち筋は、負けにくい構造で運用し続けることです。
金利上昇期のリスク管理:初心者が守るべきルール
1)レバレッジをかけない(信用買いを控える)
REITは基礎資産がレバレッジ構造です。個人がさらに信用でレバレッジを重ねると、金利上昇・価格下落・追証の三重苦になりやすい。
2)“分配金の再投資”は機械化すると強い
インカム資産は、下落局面ほど再投資の効果が出ます。感情で止めず、ルール化(毎月・四半期など)するとブレが減ります。ただし、銘柄選定が前提です。財務が弱い銘柄への機械買いは危険です。
3)「金利」だけでなく「信用スプレッド」を見る
不動産・REITの下落は、国債金利よりも「信用スプレッド(リスクプレミアム)」の拡大が効く局面があります。金融不安や流動性ショックでは、金利が下がってもREITが下がることがあります。金利だけを見て安心しないことが重要です。
具体例:同じ金利上昇でも結果が違う“2つのREIT像”
イメージを掴むため、架空の例で比較します。
例A:金利上昇に耐えるREIT
- 固定化比率:高い(ヘッジ含む)
- 平均残存年数:長い、満期分散が良い
- LTV:中程度
- 物件:需要が強いエリアの物流/住宅中心、稼働率が高い
- 賃料:更新時に上げられている(賃料ギャップあり)
このREITは、短期的に価格が下がっても、利払いが急増しにくく、賃料がじわじわ上がるため、時間が味方になります。
例B:金利上昇に弱いREIT
- 変動金利比率:高い
- 平均残存年数:短い、借り換え集中
- LTV:高い
- 物件:競争が激しいエリアのオフィス/商業中心、空室が増加
- 賃料:改定が遅い、交渉力が弱い
このREITは、金利上昇の影響が早く利払いに出て、賃料が追いつかず、分配減や増資が重なりやすい。高利回りでも避けるべき局面が多い、という結論になります。
まとめ:金利上昇でREITを捨てるのではなく、“構造”で選別する
REITが金利上昇にどこまで耐えられるかは、結局のところ「借入の固定化と満期分散」「賃料改定力」「物件の競争力」「需給」の組み合わせです。金利上昇局面では一律に売られやすい分、構造の強いREITは価格が歪みやすい。そこで、財務と賃料の2軸で冷静に選別できれば、下落局面でも再現性のある判断ができます。
最後に、チェックリストを1行でまとめます。固定化比率・平均残存年数・LTV・稼働率・賃料改定実績・賃料ギャップ。この6点を習慣化すれば、金利上昇局面でもREITの“地雷”を踏みにくくなります。


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