結論:同じREITでも「景気」と「金利」への当たり方が別物
商業REIT(ショッピングモール、駅前の大型商業施設、都心のリテールビル等)と物流REIT(物流施設、配送拠点、冷凍冷蔵倉庫等)は、どちらも賃料収入を配当原資にする点は同じです。しかし、投資家が本当に気にすべき違いは「賃料が上がるメカニズム」「テナント入替の難易度」「景気後退時の耐久力」「金利上昇時のダメージ構造」です。
要点だけ先に言うと、商業は消費・集客・テナント売上に左右されやすく、賃料は固定+歩合など複合になりがちです。一方で物流はサプライチェーンとEC需要、在庫戦略に連動しやすく、契約は長期固定賃料が多いが、供給過多や更新時の条件悪化で一気に効いてきます。ここを数字で追えるようになると、分配金の安定性が見えるようになります。
まず押さえる基礎:REITの収益は「NOI」と「金利」で決まる
REITはざっくり言えば「不動産の家賃収入(NOI)− 借入金利 − 運用コスト」から分配金を出します。値動きは、株のように成長期待だけで動くのではなく、不動産の利回りと金利の差(スプレッド)、そしてNOIの増減で動きます。
初心者が最初に見るべき基本セットは以下です。
- NOI(Net Operating Income):賃料収入から物件運営費を引いた不動産の稼ぐ力
- NAV(Net Asset Value):保有不動産の評価額から負債を引いた純資産価値(目安)
- LTV:総資産に対する有利子負債比率(高いほど金利上昇に弱い)
- 借入金利・平均残存年数・固定比率:金利上昇がどれだけ速く効くかを決める
- 分配金(DPU)とその源泉:一時要因で盛っていないか
この基本セットの見方は商業でも物流でも共通です。違いは、NOIを左右する要因と、賃料交渉の力学がまったく別物だという点です。
商業REITの本質:消費と「売上」を吸い上げる仕組み
商業施設の強みは、人が集まる立地・導線・ブランド力が確立すると、テナントが簡単に抜けにくいことです。弱みは、消費が落ちるとテナントの体力が削られ、退店や賃料減額交渉が増えることです。
商業の賃料は「固定賃料+歩合賃料」が鍵
商業では「固定賃料+売上歩合(売上連動)」が採用されることがあります。たとえば固定賃料が高すぎると、景気後退で売上が落ちた時にテナントが持たず、空室リスクが上がります。逆に固定を抑え、歩合比率を持つと、好況時に上振れしやすい代わりに不況の下振れも受けやすい。
決算資料で見るべきは「テナント売上」「賃料改定の内訳」「稼働率(入居率)」「更新時の賃料ギャップ」です。商業は稼働率が高く見えても、賃料が維持できているかが最重要です。
商業の“実質稼働率”に注意:空いていなくても弱いテナントだらけは危険
商業の怖いところは、空室が少なく見えても、実態としては「短期契約」「ポップアップ」「フリーレント」「販促費負担増」で帳尻を合わせているケースがある点です。稼働率だけを見て安心せず、以下を確認します。
- 賃料収入の伸びが鈍いのに、稼働率だけ高い(=条件を甘くしている可能性)
- テナントの業種構成が偏っている(アパレル比率が高い等)
- 物件ごとの売上動向・来館者数の説明が薄い
商業REITの“強い施設”の条件
商業で強いのは「立地が良い」だけではありません。投資判断に落とすなら、次のような要素が揃った施設が強いです。
第一に、駅前や生活導線に組み込まれ、目的来店ではなく日常来店があること。第二に、食品・日用品・ドラッグストア等の生活必需系が核となり、アパレルなど裁量消費が補助になること。第三に、テナントの入替が起きても代替候補が豊富で、運営側に交渉力があることです。
この条件が揃うと、景気後退でも賃料が崩れにくく、賃料改定で「微増」を積み上げやすくなります。
物流REITの本質:サプライチェーンと「更新交渉」で決まる
物流の強みは、長期契約(10年など)が多く、短期の景気変動で賃料が直ちに崩れにくいことです。弱みは、供給が増えすぎると更新時に一気に条件が悪化し、賃料の下方硬直性が崩れることです。つまり物流は「普段は安定、壊れる時は早い」という性格を持ちます。
物流の賃料は“契約期間の長さ”が武器にも毒にもなる
長期契約は分配金の安定に寄与しますが、インフレ局面では逆に不利になり得ます。なぜなら、契約期間中に賃料が上がりにくいからです。インフレが続くと、固定賃料は実質価値が目減りし、更新までの間は取り戻しにくい。
したがって物流で見るべきは、更新時の賃料改定余地と、ポートフォリオの築年数・仕様です。最新仕様(天井高、床荷重、トラックバース、冷凍冷蔵対応など)を満たさないと、更新時に競争力が落ち、値下げ圧力に晒されます。
物流の最大リスク:供給過多と“立地の二極化”
物流は「どこでも需要がある」ように見えて、実際は需要が強い場所は限られます。幹線道路・IC近接、人口集積地への配送距離、労働力確保、テナントの拠点戦略などが絡むためです。供給が増えると、良い立地は埋まり続ける一方、微妙な立地は空室が急増しやすい。
初心者がやりがちな失敗は、利回りが高い=お得と考え、地方立地や古い仕様に寄った物流REITを選ぶことです。利回りの高さが、単に“更新が弱い”ことの裏返しの場合があります。
物流で見るべき具体指標:平均契約年数とテナント集中
物流では、以下が商業よりも重要になります。
- 平均契約残存年数(WAULTのような概念):更新集中のタイミングを把握する
- テナント集中度:上位テナント1社の比率が高いと、退去時の打撃が大きい
- 物件の仕様・築年数:更新で勝てる設備か
- 賃料の改定条項:インフレ反映の仕組みがあるか
「金利上昇局面」での違い:同じダメージではない
金利が上がるとREIT全体は逆風になりやすいのは事実です。ただし“どれが相対的にマシか”は、借入構造とNOIの伸び方で決まります。
金利上昇で起きることを分解する
金利上昇の影響は2つあります。ひとつは、借入の利払い増で分配金が削られる「損益面」。もうひとつは、不動産の期待利回りが上がり、評価額が下がりやすい「評価面(NAV)」です。
商業と物流の差は、NOIがインフレや景気で増える余地がどこにあるかです。商業は売上回復・テナント入替・賃料改定で上げやすい局面があります。一方物流は契約が長いほど上げにくい。ただし、物流は構造的需要(EC・在庫最適化)の追い風がある時期は強い。
“金利に弱い物流”という決めつけは危険
物流は一括りに金利に弱いと言われがちですが、実態は二極化します。固定金利比率が高く、残存年数が長く、LTVが低く、更新時の賃料上昇余地がある物流は、金利の上昇スピードに耐えやすい。逆に、短期借入が多く、LTVが高く、築古・仕様弱い物流は一気に苦しくなります。
つまり、セクター差よりも「個別REITの財務運営の差」が大きい局面がある、という理解が重要です。
初心者が勝率を上げる“読み方”:決算資料のここだけ見ろ
初心者が一番困るのは「どこを見ればいいかわからない」ことです。そこで、商業と物流それぞれ、決算資料で見るページ(概念)を具体的に示します。
商業REIT:見る順番
① 物件別の稼働率と賃料単価、② テナント売上や来館者数の推移、③ 賃料改定(増減)の要因分解、④ 物件入替(売却・取得)の意図、⑤ 借入条件(固定比率、残存年数、期日分散)です。
特に②と③が薄い商業REITは警戒した方がいいです。商業は“物件の体温”が数字に出ます。出さないのは、出すと弱さが見える可能性があります。
物流REIT:見る順番
① 物件の立地地図(IC・主要都市距離)、② 物件仕様(築年・天井高・床荷重などの記載)、③ テナント分散と契約残存年数、④ 更新時の賃料改定方針、⑤ 借入条件です。
物流は地図と仕様がすべての入口です。立地と仕様が弱いと、更新で負けやすい。そこから先の財務改善をしても、根本の競争力が上がりません。
具体例で理解する:同じ“利回り4.5%”でも中身が違う
例として、A(商業)とB(物流)の2つのREITが、どちらも分配金利回り4.5%に見えるとします。初心者はここで「同じなら物流の方が安定そう」と選びがちです。しかし、判断は以下で変わります。
A(商業)が、生活必需テナント中心で売上が堅調、賃料改定がプラス、借入固定比率が高く、LTVも低めなら、利回り4.5%は“無理して出していない”可能性が高い。B(物流)が、更新が2年後に集中し、上位テナント比率が高く、築古物件比率が高いなら、利回り4.5%は“更新で崩れるリスク”の対価かもしれません。
このように、利回りは結果でしかなく、原因(賃料・更新・財務)を見る必要があります。
失敗パターン:初心者がやりがちな「分配金だけ」投資
分配金利回りが高いと魅力的に見えます。ただし、REITの分配金は“永続クーポン”ではありません。特に商業と物流では、高利回りの原因が違います。
商業で高利回りが出ている場合、背景として「消費減速で賃料の先行きが疑われている」「大型リニューアルが必要」「一部物件の競争力低下」などがあり得ます。物流で高利回りが出ている場合は「供給過多」「更新集中」「築古・仕様弱」「テナント集中」などがあり得ます。
したがって、分配金利回りが高いほど、“なぜ市場は高利回りを許しているのか”を必ず探ります。理由が見えない高利回りは危険です。
買う・避けるの実務:チェックリストを手順化する
ここからは、実際に買う前の手順を、商業と物流で分けて提示します。手順化すると、感情で飛びつく確率が下がります。
商業REIT:買う前の手順
まずポートフォリオの上位物件を3つ取り上げ、立地とテナント構成を確認します。次に、直近数期の賃料改定がプラスか、売上指標が回復基調かを確認します。最後に、借入の固定比率と残存年数を見て、金利上昇がどのタイミングで効くかを把握します。
買う価値が出やすいのは「賃料改定が小幅プラス」「稼働率が高いだけでなく賃料単価が維持」「借入の期日分散が効いている」パターンです。
物流REIT:買う前の手順
まず地図で立地を確認し、主要エリアに偏っているか(あるいは分散が合理的か)を見ます。次に、築年数と仕様、テナント分散と契約残存年数を確認します。更新集中が近い場合は、更新の見通しが資料に書かれているかが重要です。最後に、財務条件を見て金利耐性を確認します。
買う価値が出やすいのは「主要エリア中心」「仕様が強い」「更新が分散」「テナントが分散」「固定金利比率が高い」パターンです。
ポートフォリオ戦略:商業×物流をどう混ぜるか
初心者がやりやすいのは「商業か物流か二択」にすることですが、実際は混ぜた方がリスクが下がりやすいです。なぜなら、商業は消費回復局面で強く、物流は構造需要が強い局面で安定しやすいからです。
目安として、金利上昇が止まらず景気後退が懸念される局面では、財務が強い物流寄りが無難になりやすい。逆に、消費が回復し賃料改定が進む局面では、強い商業が追い風を受けやすい。
ただし、これはセクターの一般論であり、実務では「財務・物件の強さ・更新の山」を見て個別に選別します。混ぜるにしても、弱いものを混ぜたら意味がありません。
最後に:最短で上達するコツは「賃料の源泉」を言語化すること
商業は「人が集まるから賃料が取れる」。物流は「モノが流れるから賃料が取れる」。この一文だけでは浅いですが、ここから一歩踏み込んで、あなたが検討しているREITについて「どの需要が、どの契約構造で、いつ更新で、どの程度賃料に反映されるのか」を言語化してください。
言語化できた時点で、あなたはもう“利回りだけで選ぶ人”ではありません。REIT投資は、数字と物件の現実を結びつけた人が勝ちやすい市場です。


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