カントリーリスクとは何か?国別リスクを味方にする投資戦略ガイド

リスク管理

海外株式や新興国債券、外貨建ての投資信託などに投資するとき、多くの人が真っ先に気にするのは「利回り」や「為替レート」ですが、もう一つ見落としがちな重要要素があります。それが「カントリーリスク」です。カントリーリスクを理解せずに高利回りだけを追いかけると、ある日突然の通貨暴落やデフォルトで資産が大きく目減りすることがあります。

一方で、カントリーリスクを正しく理解し、あえて高いカントリーリスクを取る場面と避ける場面を分けて戦略的に使い分けることで、ポートフォリオ全体のリターンを高めたり、下落耐性を強くしたりすることも可能です。

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カントリーリスクとは何か

カントリーリスクとは、ある国に投資することで、その国特有の政治・経済・社会・制度などの要因から生じるリスク全般を指します。具体的には、政権交代、クーデター、インフレの急加速、通貨危機、資本規制、デフォルト(債務不履行)、戦争・紛争などが含まれます。

同じ企業の株式や債券であっても、本社がどの国にあるか、どの国の法律の下で発行されているかによって、投資家が負うリスクは大きく変わります。たとえば、業績が好調でも、自国通貨が急落すれば外貨ベースのリターンはマイナスになることがありますし、政府の規制強化で配当や資本の海外送金が制限されることもあります。

企業リスクと何が違うのか

企業リスクは、ビジネスモデルの失敗や競争激化、不祥事など、個別企業固有の要因から生じるリスクです。一方、カントリーリスクは、企業とは無関係に、その国全体の制度やマクロ環境の変化によって影響を受けるリスクです。

例えば、ある新興国企業の債券に投資している場合、その企業が黒字を維持していても、政府が外貨準備不足に陥り資本規制を導入すると、元利金の支払いが遅延したり、現地通貨での支払いに変更されたりする可能性があります。このように、カントリーリスクは「会社が頑張っていてもどうにもならないリスク」と言えます。

カントリーリスクの主な種類

カントリーリスクは大きく分けると、政治リスク、経済リスク、金融・通貨リスク、制度・規制リスク、安全保障リスクなどに分類できます。それぞれの中身を具体的に見ていきます。

政治リスク

政治リスクとは、政権交代、クーデター、選挙結果、政策の急な転換、汚職の横行など政治要因によるリスクです。たとえば、選挙でポピュリズム色の強い政党が勝利し、財政規律を無視したばらまき政策を行うと、インフレや財政悪化を通じて通貨安・金利上昇が起こり、債券・株式の価格が大きく下落することがあります。

経済リスク

経済リスクは、GDPの急減速、構造改革の遅れ、高失業率、経常赤字の拡大など、その国の経済基盤が弱まることで生じるリスクです。新興国では、高成長を背景に資金が集まりやすい一方で、成長が減速した瞬間に海外投資家の資金が一斉に引き上げられ、株価・通貨が同時に下落する「リバーサル」がしばしば起こります。

金融・通貨リスク

金融・通貨リスクは、金融システムの不安定さや通貨の急落などに関するリスクです。具体例としては、外貨建て債務が多い国で、自国通貨が大きく下落し、返済負担が急増することで金融危機が発生するケースが挙げられます。また、外国人投資家が売りに回ると通貨安が進み、インフレが加速し、さらに金利が上がるという悪循環が起こることもあります。

制度・規制リスク

制度・規制リスクとは、投資家保護制度の未整備や、突発的な法改正、資本規制、外貨送金制限などによるリスクです。例えば、配当や利子の海外送金に課税が導入されたり、上場企業の情報開示が不十分だったりすると、外国人投資家の信頼が低下し、株価や通貨が割り引かれて評価されます。

安全保障リスク

安全保障リスクは、戦争や紛争、テロ、国境紛争など地政学的要因によるリスクです。地政学リスクが高まると、観光や投資が減少し、外貨収入が落ち込み、通貨安や経済成長の鈍化を通じて資産価格にマイナスの影響が出ます。

カントリーリスクが投資リターンに与える影響

カントリーリスクは、株価、債券利回り、通貨レート、クレジットスプレッドなどあらゆる価格に影響を与えます。ここでは、具体的な投資商品の例を使って、カントリーリスクがリターンにどう効いてくるかを見ていきます。

例1:高利回りの新興国債券ファンド

ある新興国債券ファンドが年利8%の分配をうたっていたとします。表面的には魅力的ですが、その利回りにはカントリーリスクが織り込まれています。もしその国の財政が悪化し、格付けが引き下げられると、債券価格が下落し、基準価額が大きく目減りする可能性があります。

仮に1年間で8%の分配金を受け取ったとしても、債券価格が20%下落すればトータルでは12%のマイナスです。「利回りだけ」でなく、「どの国の債券か」「財政・政治状況はどうか」を見ないと、カントリーリスクに飲み込まれてしまいます。

例2:高成長国の株式インデックス投資

高成長のアジア新興国の株価指数に連動するETFに投資したケースを考えます。経済成長率は高く、企業の売上も伸びているのに、現地通貨が急落してしまうと、円ベース・ドルベースのリターンは大きく毀損します。

例えば現地株価指数が1年で+10%上昇しても、通貨が対円で20%下落すれば、日本から見たリターンは約10%のマイナスです。このように、カントリーリスクは株価だけでなく為替を通じて投資成果に影響します。

例3:高配当な海外REIT

海外REITの中には、二桁に近い配当利回りを出しているものもあります。しかし、その裏には、政治リスクの高い国の不動産に集中投資しているケースや、通貨リスクを多く負っているケースが含まれます。賃料収入が現地通貨で安定していても、通貨安が進めば配当の価値は目減りします。

カントリーリスクを見極める基本的なチェックポイント

完璧にカントリーリスクを読み切ることは不可能ですが、いくつかの指標をチェックすることで、おおまかな水準やトレンドを把握することはできます。ここでは、初心者でも確認しやすいポイントを整理します。

ポイント1:格付けとスプレッド

その国の国債格付けは、信用リスクのざっくりした目安になります。格付けが投資適格から投機的水準に近づくほど、デフォルトリスクや通貨危機の可能性が高いと市場が見ているということです。また、同じ期間の国債利回りが、米国や日本などと比べてどの程度上乗せされているか(クレジットスプレッド)を見ることで、市場が要求しているリスクプレミアムの大きさを把握できます。

ポイント2:インフレ率と金利

インフレ率が高く、政策金利も高い国は、一見すると利回りが魅力的に見えますが、裏側では通貨価値が目減りしていることが多いです。過去数年のインフレ率と金利の推移を確認し、「高金利=お得」ではなく、「高金利=高いカントリーリスクの裏返し」の可能性を意識することが重要です。

ポイント3:経常収支と外貨準備

経常収支が慢性的な赤字で、外貨準備も少ない国は、通貨危機に陥りやすい傾向があります。外貨不足になると、自国通貨の信認が低下し、急激な通貨安・インフレにつながります。新興国通貨建ての債券や預金に投資する場合は、この点を必ずチェックしたいところです。

ポイント4:政治・制度の安定性

選挙が定期的かつ平和的に行われているか、司法の独立性が保たれているか、メディアの自由度はどの程度か、といった政治・制度面は長期投資にとって重要です。これらが不安定な国では、突然の規制変更や資本規制が導入されるリスクが高まり、投資家はいつでも撤退できるような短期スタンスを取らざるを得なくなります。

カントリーリスクを投資戦略に組み込む考え方

カントリーリスクは「避けるべきもの」と見られがちですが、必ずしもそうとは限りません。リスクの中身と水準を理解したうえで、「どこまで許容するか」「どのように分散するか」を設計すれば、むしろリターンの源泉として活用することもできます。

戦略1:中核資産はカントリーリスクの低い国に置く

長期の資産形成の中核となるインデックスファンドやETFは、カントリーリスクの低い国・地域(先進国の広範なインデックスなど)を中心に構成するのが無難です。ここでは、信頼性の高い通貨と法制度を基盤に、「世界全体の成長」に乗るイメージでポートフォリオを組みます。

戦略2:サテライトで高カントリーリスクを少額利用する

一方で、リターンの上乗せを狙う「サテライト部分」では、あえて新興国株式や高利回り債券など、カントリーリスクの高い資産を少額組み入れる戦略があります。全資産の一部(例:5〜20%)にとどめておくことで、万が一その国でショックが起こっても、ポートフォリオ全体のダメージを限定できます。

戦略3:通貨分散とヘッジの活用

カントリーリスクは通貨リスクと密接に関わっています。複数の通貨に分散投資する、あるいは為替ヘッジ付き商品とヘッジなし商品を組み合わせることで、特定通貨の急落によるダメージを抑えることができます。たとえば、新興国株式はヘッジなしで保有しつつ、債券部分は先進国通貨建てやヘッジ付きで安定性を高める、といった組み合わせも考えられます。

戦略4:投資期間と出口戦略を明確にする

カントリーリスクの高い資産は、「いつまで保有するか」「どの水準になったら利益確定・撤退するか」を事前に決めておくことが重要です。政治イベントや選挙、国際機関の評価見直しなど、カントリーリスクが顕在化しやすいタイミングを意識し、長期保有にこだわらずフレキシブルにポジションを調整するスタンスが求められます。

具体的なポートフォリオ例

最後に、カントリーリスクを意識したシンプルなポートフォリオ例を挙げます。これはあくまで考え方の一例であり、特定の商品や構成比を推奨するものではありません。

例:長期積立投資家のシンプル構成

ある長期積立投資家が、毎月一定額を投資していくとします。カントリーリスクをコントロールしながら世界の成長に乗るために、以下のようなイメージの構成が考えられます。

  • 全世界株式インデックス(先進国比率高め)…50%
  • 先進国債券インデックス(自国通貨ヘッジ付き)…30%
  • 新興国株式インデックス…10%
  • 新興国債券インデックス(通貨分散)…10%

この場合、中核の80%は制度面・通貨面で比較的安定した国に置きつつ、20%を通じて高カントリーリスク資産にアクセスしているイメージです。新興国部分は相場環境に応じて、一定レンジ内で比率を増減させる裁量を持たせることもできます。

例:高リスク許容度の投資家の応用構成

リスク許容度が高い投資家であれば、新興国株式や高利回り債券の比率を高める代わりに、国・地域の分散を強く意識するというアプローチが考えられます。特定の新興国に集中させるのではなく、複数の地域へ分散することで、個別国のショックを和らげることができます。

カントリーリスクとどう付き合うか

カントリーリスクは、ゼロにすることも、完全に読み切ることもできません。しかし、存在を無視して利回りだけを追いかけるか、仕組みを理解したうえで戦略的に利用するかで、長期的な投資成果には大きな差が生まれます。

大切なのは、

  • どの国にどれだけの比率で投資しているかを意識すること
  • その国の政治・経済・通貨・制度にどのようなリスクがあるかをおおまかに把握すること
  • 中核資産とサテライト資産を分け、カントリーリスクの高い部分はポートフォリオの一部にとどめること
  • 通貨分散や為替ヘッジをうまく使って、ショック時のダメージを抑えること

このような基本を押さえておけば、高金利通貨や高利回り債券、新興国株式といった「カントリーリスクを含む資産」とも、より冷静に付き合えるようになります。カントリーリスクを恐れすぎて海外投資を避けるのではなく、「どこまでなら許容できるか」を自分なりに考え、ポートフォリオ全体の設計に反映させていくことが重要です。

p-nuts

お金稼ぎの現場で役立つ「投資の地図」を描くブログを運営しているサラリーマン兼業個人投資家の”p-nuts”と申します。株式・FX・暗号資産からデリバティブやオルタナティブ投資まで、複雑な理論をわかりやすく噛み砕き、再現性のある戦略と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ実践できること、そして迷った投資家が次の一歩を踏み出せることを大切にしています。

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