リスクパリティで考える資産配分入門:リスクを均等にするポートフォリオ設計

リスク管理

リスクパリティという言葉は機関投資家の世界でよく登場しますが、個人投資家にはまだあまり浸透していません。しかし、本質は「難しい数学」ではなく、「本当に値動きリスクを均等に分散させるシンプルな資産配分の考え方」です。本記事では、リスクパリティの基本コンセプトから、個人投資家が現実的に使えるポートフォリオ構築方法までをわかりやすく解説します。

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リスクパリティとは何か?シンプルに言い換えると

リスクパリティは、一言でいえば「どの資産クラスも、ポートフォリオ全体のリスクへの貢献度が同じになるように配分する考え方」です。重要なのは「金額」ではなく「リスク(値動きの大きさ)」を基準にする点です。

例えば、株式と国債に50%ずつ投資したとします。このとき、多くの場合、株式のボラティリティ(価格変動の大きさ)は国債よりずっと高くなります。その結果、金額は半分ずつでも、ポートフォリオ全体のリスクの8〜9割以上は株式が生み出している、といった状態になりがちです。これは見た目は「分散」していても、本質的には株式一本足打法に近いポジションになっているということです。

リスクパリティでは、こうした「見かけだけの分散」を避けるため、ボラティリティや相関を考慮して、各資産のリスク寄与度(リスク貢献度)が均等に近づくように配分を調整します。結果として、国債やコモディティの比率が一般的な60/40ポートフォリオより高くなることが多くなります。

なぜ従来の60/40ポートフォリオは十分でないのか

伝統的な資産配分として、株式60%・債券40%という「60/40ポートフォリオ」がよく紹介されます。長期データを見ると、それなりに合理的な構成ですが、問題は「リスクが株式に偏りやすい」点です。

イメージしやすいように、単純化した例を考えます。

  • 株式インデックスの年率ボラティリティ:20%
  • 国債インデックスの年率ボラティリティ:5%
  • 株式と国債の相関:0

この場合、金額で60%/40%に配分しても、リスク貢献度はおおよそ次のようになります。

  • 株式のリスク寄与:約90%前後
  • 国債のリスク寄与:約10%前後

つまり、実質的には「株式90%のポートフォリオ」のようなリスク構造になっているわけです。株式市場が大きく下落すると、60/40でもポートフォリオ全体が強く揺さぶられます。これに対してリスクパリティは、「株式だけがポートフォリオを動かす構造」を意図的に崩し、よりバランスの取れたリスク配分を目指します。

リスクパリティ・ポートフォリオの基本設計

リスクパリティの考え方を個人レベルに落とし込むと、次のようなステップで設計できます。

  1. 候補とする資産クラスを選ぶ(例:株式、長期国債、インフレ連動債、コモディティ、金など)。
  2. 各資産クラスのボラティリティ(過去の値動き)を把握する。
  3. 各資産クラスの相関関係をざっくり把握する。
  4. 「リスク寄与度がなるべく均等になる」ように配分比率を調整する。

理論的には共分散行列を使った計算が必要ですが、個人投資家がいきなりそこまで厳密にやる必要はありません。まずは「株式はボラが大きく、国債はボラが小さい」「金やコモディティは株式と違う動きをすることが多い」という大まかな性質を理解し、それを踏まえてラフに配分を設計するだけでも、従来の金額ベース配分よりは一歩前進です。

たとえば、先ほどの単純な世界(株20%ボラ、国債5%ボラ、相関ゼロ)で「株式と国債のリスクを同じくらい」にしたい場合、ざっくりとした考え方として、国債は株式の4倍程度の金額比率を持たせる必要が出てきます。つまり、

  • 株式:20%
  • 国債:80%

というような配分が、見た目は「債券だらけ」に見えても、リスクの観点では株式と国債がちょうどいいバランス、ということになり得ます。

レバレッジをどう考えるか:個人投資家の現実的な落としどころ

機関投資家のリスクパリティ戦略では、「安全資産(国債など)に対してレバレッジをかける」ことが一般的です。これは、国債のボラティリティが小さいため、そのままではリスク寄与度が小さくなりすぎるからです。

しかし、個人投資家がレバレッジETFや先物を多用してリスクパリティを再現しようとすると、

  • 商品特有の構造(レバレッジETFのボラティリティ・ドラッグなど)
  • 証拠金規制やロスカットリスク
  • 為替リスク(海外資産を使う場合)

など、別のリスク要因が増えます。そのため、まずは「レバレッジを使わない、あるいはごく限定的に使う形」でリスクパリティの思想を取り入れる方が現実的です。

具体的には、

  • 株式インデックスをやや抑えめに(例:30〜40%程度)
  • 債券(国債・投資適格社債)の比率を高める(例:40〜60%)
  • 金やコモディティなどの「株と違う動きをしやすい資産」を一部組み入れる(例:5〜15%)
  • 現金・短期債をクッションとして保有する(例:5〜15%)

といった構成を出発点にしつつ、「株のボラが高い期間は株比率を控えめにする」「債券や金のボラが上がってきたら比率を落とす」といった調整を年に数回行うイメージです。

日本の個人投資家を想定したリスクパリティ的ポートフォリオのイメージ

ここでは具体的な銘柄名には踏み込みませんが、日本の個人投資家が活用しやすい商品イメージで考えてみます。構成要素は次のようなものが考えられます。

  • 日本株・先進国株・全世界株のインデックスファンドやETF
  • 国内債券・先進国外債券インデックス
  • 金現物・金ETF・金関連ファンド
  • 一部のコモディティインデックスファンド
  • 短期金融資産(MRF、短期国債ファンドなど)

例えば、次のような構成比率は、「金額ベース」では債券が多く見えますが、リスク寄与度の観点では比較的バランスの取りやすいイメージです(あくまで考え方の一例です)。

  • 株式インデックス:35%
  • 債券インデックス:45%
  • 金・コモディティ関連:10%
  • 短期金融資産・現金:10%

ここで重要なのは、「将来のリターンを断定的に予測しないこと」と、「リスクがどの資産に偏っているかを定期的に見直すこと」です。単純にこの比率を固定するのではなく、ボラティリティが変化したり、相関構造が変化していないかを確認しながら、少しずつ調整していくイメージです。

簡易的なリスク計測のやり方:初心者向けステップ

本格的なリスクパリティでは、標準偏差や共分散行列を計算しますが、投資初心者がそこまでやるのはハードルが高いかもしれません。そこで、現実的な簡易アプローチをいくつか紹介します。

  1. 過去リターンの振れ幅を見る
    主要なインデックスの月次リターンを表やグラフで確認し、「どの資産がどれくらい上下しているか」を体感的に把握します。月次で5%〜10%上下している資産は、1〜2%しか動かない資産より明らかにリスクが高いと判断できます。
  2. 最大ドローダウンを比較する
    同じ期間の最大ドローダウン(ピークからどれだけ下落したか)を比較することで、その資産がどれくらい「落ちるときに落ちる資産か」を確認できます。最大ドローダウンが大きい資産の比率を抑えることは、リスクパリティの発想と相性が良いです。
  3. 簡易ボラティリティ(標準偏差)の確認
    証券会社やデータサイトによっては、インデックスファンドなどのリスク指標(標準偏差)が公開されていることがあります。これを参考にして「標準偏差が大きい資産=よりリスク寄与度が高い資産」として扱います。

これらの指標を参考に、「リスクの大きい資産の比率を抑え、リスクの小さい資産の比率を増やす」方向に全体の配分を調整していくと、自然とリスクパリティに近い構造に近づいていきます。

リスクパリティ運用のメリット

リスクパリティを取り入れることによる主なメリットは次の通りです。

  • 特定の資産クラスへの依存度を下げられる
    株式市場が不調な局面でも、「株だけがすべて」になりにくい構造をあらかじめ作っておくことで、精神的なダメージを軽減しやすくなります。
  • ポートフォリオ全体のボラティリティを抑えやすい
    リスクを分散させることで、資産全体の値動きがなだらかになりやすく、長期で継続しやすい投資スタイルにつながります。
  • 景気循環の異なる局面に対応しやすい
    株式・債券・コモディティなど、景気やインフレの局面によって有利・不利が入れ替わる資産を組み合わせておくことで、特定の局面に偏りすぎないポジションを維持しやすくなります。

リスクパリティの弱点・注意点

一方で、リスクパリティにも弱点や注意点があります。

  • 低金利環境では債券に期待しすぎるとリターンが伸びにくい
    債券の期待リターンが全体的に低い局面では、「リスクは分散されているがリターンも抑えられる」という結果になりやすくなります。
  • 極端なインフレ局面や金利ショックに弱い構造になることがある
    債券のウエイトが高いリスクパリティ・ポートフォリオは、金利上昇局面やインフレ急騰局面で大きく評価損を抱える可能性があります。そのため、金やインフレ耐性のある資産を一定比率組み入れておくことが重要です。
  • 計測に使うデータ期間や前提によって結果が変わる
    「どの期間のボラティリティと相関を使うか」によって計算される最適比率は変わります。過去データに過度に依存すると、将来の構造変化に対応しづらくなる点も意識しておく必要があります。

リスクパリティ的な発想でポートフォリオを組む実践ステップ

投資初心者が取り組みやすい形に落とし込むために、具体的なステップを整理します。

  1. まずは現在のポートフォリオの「リスクの偏り」を把握する
    保有している商品を「株式系」「債券系」「オルタナティブ(金・コモディティなど)」「短期金融資産」にざっくり分類し、それぞれの評価額比率を出します。次に、それぞれの資産クラスがどれくらいのボラティリティを持っているか、証券会社の資料や公開データで確認してみます。
  2. 「株式リスク一辺倒」になっていないかチェックする
    評価額の大半が株式や株式型ファンドに偏っている場合、リスクパリティの観点では「株式リスクに大きく依存している状態」と判断できます。その場合、債券や金など、異なる値動きをする資産クラスの比率を増やす方向で検討します。
  3. ターゲットとするリスク配分のイメージを決める
    理想論ではリスク寄与度を完全に均等にしますが、初心者が最初からそこを目指す必要はありません。「株式リスクがポートフォリオ全体の半分くらい」「残り半分は債券や金などに分散」といったラフな目標でも構いません。
  4. 段階的にリバランスする
    一度に大きく配分を変えるのではなく、毎月や四半期ごとなど、一定のタイミングで少しずつ比率を調整していく方が、価格変動によるタイミングリスクを抑えやすくなります。

やりがちな失敗とチェックポイント

リスクパリティの考え方を取り入れる際に、初心者が陥りやすいポイントを整理しておきます。

  • 「債券を増やす=必ず安全」と思い込む
    債券にも価格変動リスクや信用リスク、金利リスクがあります。特に、長期金利が大きく動く局面では、長期債の価格も大きく動きます。「債券だから絶対安全」と考えず、どの程度のドローダウンがあり得るかを確認しておくことが重要です。
  • レバレッジ商品の特徴を理解せずに比率だけ真似する
    一部のリスクパリティ戦略では、レバレッジを使ったポジションが前提になっています。個人が同じ比率をレバレッジETFで無理に真似すると、商品特有のリスク(ボラティリティ・ドラッグなど)やロスカットリスクが増大します。
  • 短期の成績だけを見てコンセプトを捨ててしまう
    リスクパリティは、あくまで長期視点でのリスク分散の考え方です。ある年は株式だけの方がリターンが良いこともありますが、「たまたまその年の結果だけを見て判断しない」ことが大切です。

まとめ:リスクを「見える化」し、バランスを意識した資産配分へ

リスクパリティは、難しい理論ではなく、「どの資産がどれくらいポートフォリオを揺らしているか」を意識し、そのバランスをとろうとするシンプルな発想です。従来の金額ベース配分だけでは見えにくかったリスクの偏りを「見える化」し、株式・債券・オルタナティブ資産・現金などのバランスを意識したポートフォリオ設計につなげることができます。

投資初心者にとっても、すべての数式を理解する必要はありません。「値動きの大きい資産の比率を抑え、値動きの小さい資産の比率を増やす」「異なる局面で強みを持つ資産を組み合わせる」という基本発想を押さえるだけで、リスクパリティ的なポートフォリオに一歩近づきます。まずは自分のポートフォリオのリスクがどこに偏っているのかを確認するところから始めてみてください。

p-nuts

お金稼ぎの現場で役立つ「投資の地図」を描くブログを運営しているサラリーマン兼業個人投資家の”p-nuts”と申します。株式・FX・暗号資産からデリバティブやオルタナティブ投資まで、複雑な理論をわかりやすく噛み砕き、再現性のある戦略と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ実践できること、そして迷った投資家が次の一歩を踏み出せることを大切にしています。

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