同じようにチャートを見て、同じようなポイントで売買しているのに、時間が経つと「少しずつ資金が増えている人」と「なぜか減っていく人」に分かれます。この差を生み出している最大の要因のひとつが、トレードごとのリスク・リワード比です。
リスク・リワード比は、難しい理論ではなく「負けたときはいくら損をして、勝ったときはいくら取るか」という、非常にシンプルな考え方です。しかし、この比率を意識しているかどうかで、長期的な成績はまったく別物になります。
リスク・リワード比とは何か:最初に押さえるべき定義
リスク・リワード比は、1回のトレードにおける「想定損失」と「想定利益」の比率を表します。
一般的には次のように定義します。
リスク・リワード比 = 想定損失額 ÷ 想定利益額
例えば、1回のトレードで「1万円負ける可能性がある代わりに、3万円を狙う」のであれば、リスク・リワード比は「1:3」または「0.33」と表現できます。
エントリー前に決めるべき3つの価格
リスク・リワード比をきちんと設計するには、エントリー前に次の3つの価格を決めておく必要があります。
- どこで買う/売るか(エントリー価格)
- どこで損切りするか(ロスカット価格)
- どこで利確するか(利益確定価格)
この3点が決まれば、リスク・リワード比は自動的に決まります。多くの初心者は「エントリー価格」しか真剣に考えず、損切りと利確が曖昧なままポジションを持ってしまいます。その結果、「損は大きく、利益は小さい」トレードが積み重なり、資金がジリジリと減っていきます。
具体例:勝率40%でも増えるトレード設計
リスク・リワード比の重要性をイメージしやすくするために、具体的な数字で考えてみます。
ケース1:リスク・リワード比 1:1、勝率60%のトレード
1回あたりの想定損失と想定利益が同じケースです。例えば、1回あたりのリスク1万円、リワード1万円、勝率60%とします。
- 10回トレードしたときの平均的な結果イメージ
- 勝ち 6回 × +1万円= +6万円
- 負け 4回 × −1万円= −4万円
合計すると、10回で+2万円です。
ケース2:リスク・リワード比 1:2、勝率40%のトレード
次に、1回あたりのリスク1万円、リワード2万円、勝率40%の場合を考えます。
- 勝ち 4回 × +2万円= +8万円
- 負け 6回 × −1万円= −6万円
合計すると、同じく10回で+2万円です。
ここからわかるのは、勝率が低くても、リスク・リワード比を有利にしておけば、資金は増えていくということです。実際の相場では、勝率を安定して60~70%以上に保つのは簡単ではありませんが、リスク・リワード比は自分の設計次第でコントロールできます。
期待値で考える:1回のトレードの「平均価値」
期待値とは、「同じトレードを長期的に繰り返したとき、1回あたり平均していくら増減するのか」を示す指標です。計算式は次のようになります。
期待値 = 勝率 × 1回あたりの利益 − 負け率 × 1回あたりの損失
先ほどの2つのケースを期待値で比較
ケース1(リスク・リワード比 1:1、勝率60%)
- 勝率 0.6、負け率 0.4
- 1回の利益 +1万円、損失 −1万円
- 期待値 = 0.6 × 1万円 − 0.4 × 1万円 = +2000円
ケース2(リスク・リワード比 1:2、勝率40%)
- 勝率 0.4、負け率 0.6
- 1回の利益 +2万円、損失 −1万円
- 期待値 = 0.4 × 2万円 − 0.6 × 1万円 = +2000円
どちらも期待値は+2000円で同じです。しかし現実的には、初心者が安定した60%超の勝率を維持するのは難しく、40~50%程度に落ち着くことが多いです。そのため、最初に身につけるべきは「勝率を上げること」ではなく、「負けるときは小さく、勝つときは大きく」の設計だと考えるべきです。
初心者がハマりやすい「悪いリスク・リワード比」3パターン
①損切りが遠すぎて、1回の負けが致命傷になる
チャートを見ていると、「ここまでは戻すかもしれない」「一時的な逆行かもしれない」と考え、損切りラインをどんどん広げてしまうことがあります。その結果、1回のトレードで数%~10%以上の損失を出してしまい、数回のミストレードで資金の大半を失うパターンです。
この場合、リスク・リワード比は簡単に「2:1」「3:1」のような逆転状態になります。つまり、「勝つときより負けるときの方が大きい」構造になっており、長期的にはほぼ確実に資金が減っていきます。
②利確が早すぎて、伸びるトレンドを途中で降りてしまう
含み益が出ると、「今のうちに利益を確定しておきたい」という心理が働きます。結果として、+1%や+2%程度ですぐに利確してしまい、+5%、+10%と伸びるはずだったトレンドを途中で降りてしまうケースがよくあります。
損切りは5%、利確は2%といった設計になっていると、リスク・リワード比は「2.5:1」です。この設計では、かなり高い勝率がないとトータルでプラスになりません。
③その場の感情で損切り・利確を変えてしまう
エントリー前に考えていた損切り・利確ラインを、実際にポジションを持ったあとでコロコロ変えてしまうのも典型的な失敗パターンです。
- 損切りラインに近づくと「もう少し様子を見よう」と下げてしまう
- 利確ラインに届く前に、「また下がるかも」と慌てて手仕舞う
こうなると、どれだけ優れた手法でも、最終的なリスク・リワード比は崩壊します。エントリー前に決めたルールを、エントリー後に変えないことが極めて重要です。
実戦的ステップ:リスク・リワード比を組み立てる手順
ここからは、初心者でもそのまま真似しやすい「リスク・リワード比の設計ステップ」を示します。
ステップ1:1回のトレードで失ってよい金額を決める
まず、「1回負けたときに許容できる金額」をポートフォリオ全体から逆算します。たとえば、資金100万円であれば、1回の損失は1%=1万円まで、というように上限を決めます。
この金額は、「連敗しても精神的に耐えられるレベル」に抑えることが重要です。5連敗しても合計5%のドローダウンにとどまるラインであれば、戦略を継続しやすくなります。
ステップ2:チャートから妥当な損切りラインを決める
次に、テクニカル的に「ここを割れたらシナリオ崩れ」と判断できるラインを探します。具体的には、次のようなポイントが候補になります。
- 直近の押し安値・戻り高値
- 重要なサポート・レジスタンス
- 移動平均線(20日線、50日線など)を明確に割り込むポイント
この損切りラインとエントリー価格の差をもとに、「1単位あたりのリスク」を計算し、ステップ1で決めた許容損失額から適切なロット数を決めます。
ステップ3:少なくとも「1:2」を狙える利確ポイントを探す
損切りラインが決まったら、次は利確候補を探します。理想は、少なくともリスク・リワード比が「1:2」になるポイントです。
例えば、損切り幅が−2%であれば、+4%程度までは狙えるシナリオを探します。
- 過去の高値ゾーン
- 出来高の多い価格帯
- 節目となるキリの良い価格(ラウンドナンバー)
これらを基準に、「この銘柄のボラティリティなら、数日~数週間でこの水準までは現実的に届きそうか」を検討します。どう考えても届きそうにない場合は、そもそもそのトレードを見送る判断も必要です。
FX・株・暗号資産での具体的なイメージ
FX(ドル円)の例:デイトレード
ドル円が150円付近で推移しており、上昇トレンドの押し目買いを狙うとします。
- エントリー:150.00円でロング
- 損切り:149.70円(−30pips)
- 利確:150.60円(+60pips)
この場合、リスク・リワード比は「1:2」です。勝率が40~50%程度でも、長期的にはプラスを期待できる設計です。
国内株の例:スイングトレード
ある銘柄が上昇トレンドの押し目に入り、5日移動平均線付近で反発しそうな局面を想定します。
- 株価:1000円でエントリー
- 損切り:950円(−5%)
- 利確:1100円(+10%)
この場合も、リスク・リワード比は「1:2」です。仮に勝率が40%でも、期待値はプラスになります。
暗号資産の例:ボラティリティの高さを逆手に取る
ビットコインやアルトコインは値動きが大きいため、損切り幅も大きくなりがちですが、その分リワードも大きく狙えます。
- エントリー:BTC 700万円
- 損切り:670万円(−30万円、約−4.3%)
- 利確:760万円(+60万円、約+8.6%)
ここでもリスク・リワード比は「1:2」です。ボラティリティが高い市場ほど、この比率を意識して設計することで、無謀なギャンブルと戦略的トレードの差がはっきりと出てきます。
トレーリングストップで「伸びるときはとことん伸ばす」
リスク・リワード比を改善するうえで有効なのが、トレーリングストップです。これは、価格が有利な方向に動いたら、損切りラインを少しずつ有利な方向に引き上げ(あるいは引き下げ)ていく手法です。
例えば、最初は「−2%」に置いていた損切りラインを、含み益が+3%になった段階で「±0%」近辺まで引き上げる、といった使い方をします。これにより、負けるときは小さく、勝てるときは大きく伸ばすという理想形に近づけることができます。
小さいロットで「型」を体に覚えさせる
リスク・リワード比の考え方は、頭で理解するだけでは不十分です。実際のトレードで、「すべてのエントリーで損切りと利確を事前に決める」という型を反復することで、ようやく習慣として定着します。
そのためには、まずは非常に小さいロットで、次のルールを守りながら数十回のトレードをこなしてみることをおすすめします。
- 1回の損失は資金の1%以内に抑える
- リスク・リワード比は最低でも「1:1.5」、理想は「1:2」以上
- エントリー前に損切り・利確を決め、後から変えない
この練習を積むだけでも、「なんとなくエントリーして、なんとなく利確・損切りする」状態から、「勝てる構造を持ったトレード」を組み立てられるようになります。
まとめ:リスク・リワード比は「結果」ではなく「設計図」
多くの初心者は、「勝率」や「直近の損益」にばかり目が行きがちです。しかし、本当に重要なのは、1回1回のトレードにどんな期待値を持たせているかという設計です。
リスク・リワード比を意識し、
- 負けるときは小さく
- 勝つときは大きく
- その構造を淡々と繰り返す
というサイクルを回せるようになれば、極端な高勝率を目指さなくても、長期的に資金曲線を右肩上がりにすることが現実的な目標になります。
最初の一歩として、「次の1トレードから必ずリスク・リワード比を計算してみる」ことから始めてみてください。小さな習慣の差が、数ヶ月・数年後の口座残高の大きな差につながっていきます。


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