AIブームで見落とされるITインフラ株の選別術:割安局面から利回りと成長を取りに行く

株式投資
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  1. 結論:半導体だけがAI相場ではない。インフラ側に「遅れて効く利益」がある
  2. なぜITインフラ株は割安放置されやすいのか:3つの構造要因
    1. 1)市場のナラティブが「GPU=AI」に偏り、周辺が後回しになる
    2. 2)成熟産業に見えるため、PERが低く放置されやすい
    3. 3)金利の影響で一括りに売られやすい
  3. サブテーマ別に見るITインフラ株:個人投資家向けの分類フレーム
    1. A)データセンター運営・コロケーション(容量・稼働率ビジネス)
    2. B)ネットワーク・光通信・データ転送(帯域と品質のビジネス)
    3. C)電力・冷却・エネルギー最適化(AIの稼働コストを下げるビジネス)
    4. D)サイバーセキュリティ・アイデンティティ・ゼロトラスト(必需品化のビジネス)
    5. E)IT運用自動化・監視・FinOps(クラウドの無駄を削るビジネス)
  4. 銘柄選別の核心:AIインフラ株は「成長率」より「利益の質」を見る
    1. 1)営業キャッシュフローとフリーキャッシュフロー(FCF)の安定性
    2. 2)価格改定力:インフレ下でも粗利率が維持できているか
    3. 3)顧客分散と解約率:大口依存は事故の種
    4. 4)債務と金利感応度:利払い負担が成長を食う
    5. 5)配当と自社株買い:株主還元が「守れる設計」か
  5. 押し目投資の具体戦略:段階的に仕込む「三層モデル」
    1. 第一層:コア(長期保有)…「利益の質」が高い銘柄を少数で握る
    2. 第二層:サテライト(テーマ追随)…需給で歪む局面を拾う
    3. 第三層:イベントドリブン…決算後の過剰反応を利用する
  6. 具体例:3つの典型パターンで学ぶ「買っていい押し目」と「危険な押し目」
    1. パターン1:金利上昇で一括りに売られたデータセンター関連
    2. パターン2:クラウド最適化需要で伸びる運用自動化・監視
    3. パターン3:セキュリティ株の高バリュエーション調整
  7. バリュエーションの実務:初心者でも使える「過去平均との差」アプローチ
    1. 1)PERだけでなく、EV/EBITDAとFCF利回りも見る
    2. 2)「市場の怖がり」を利用する:決算翌日のギャップダウン
    3. 3)自分のルールを数値化する:買い増し条件と撤退条件
  8. リスク管理:ITインフラ株で致命傷を避けるチェックポイント
    1. チェック1:設備投資(CAPEX)が「増えすぎている」理由は何か
    2. チェック2:電力・供給制約は成長の上限になる
    3. チェック3:顧客の集中と信用リスク
    4. チェック4:会計上の利益とキャッシュが乖離していないか
  9. 実践手順:月1回の「AIインフラ点検ルーティン」
    1. ステップ1:ウォッチリストを分類して10~20銘柄に絞る
    2. ステップ2:決算の一次情報だけを見る(ニュース要約は後回し)
    3. ステップ3:買いの条件を満たしたら「定額+下落時追加」
    4. ステップ4:撤退条件を先に書く
  10. よくある失敗と回避策:個人投資家がやりがちな罠
    1. 失敗1:テーマに酔って高値掴みし、下落で投げる
    2. 失敗2:「押し目」のつもりが、構造悪化の始まりだった
    3. 失敗3:配当利回りだけで選び、減配で致命傷
  11. まとめ:AIインフラ株は「地味な確実性」を仕込むゲーム
  12. 補足:日本株でITインフラを狙う場合の見取り図(円安・内需・設備投資)
    1. 円安メリットが出やすい領域
    2. 内需でも強い領域:運用・保守・セキュリティ
    3. 設備投資循環の罠:受注が良くても株価が伸びないケース
  13. ケーススタディ:架空の銘柄で学ぶ決算読み(数字の見方を具体化)
    1. ケースA:データセンター運営「DCアセット社」
    2. ケースB:運用自動化「Opsクラウド社」
    3. ケースC:ネットワーク「Netリンク社」
  14. 投資家向けチェックリスト:銘柄を買う前に必ず埋める10項目
  15. 補足:ポートフォリオの組み方(初心者向けの現実解)

結論:半導体だけがAI相場ではない。インフラ側に「遅れて効く利益」がある

生成AIの普及で市場の視線はGPUや先端半導体に集中しがちです。しかし、AIが実際に回り続けるためには「電力」「冷却」「データセンター」「ネットワーク」「ストレージ」「セキュリティ」「運用自動化」といったITインフラが不可欠です。ここに属する企業群は、派手なストーリーが弱い分だけ株価が追随しにくく、決算の数字が積み上がった段階で評価が修正されることが多い。つまり、相場が過熱しているときほど、インフラ株は「割安に放置される余地」が残ります。

本記事では、個人投資家が実践しやすいように、ITインフラ株を「どのサブテーマで」「どの指標で」選別し、「どの局面で」段階的に仕込み、「どこで」損失を限定しながら利回りと成長の両方を狙うかを具体的に解説します。短い箇条書きで終わらせず、判断の型として使えるレベルまで落とし込みます。

なぜITインフラ株は割安放置されやすいのか:3つの構造要因

1)市場のナラティブが「GPU=AI」に偏り、周辺が後回しになる

トレンド相場では、最も分かりやすい主役が先に買われます。AIならGPU、次に半導体製造装置、さらに電力・データセンター…という順番になりやすい。インフラは利益貢献が「後から」見えるため、最初の上昇局面では置いていかれがちです。ところが、企業のAI導入はPoC(試験導入)から本番運用へ移ると、通信量・電力・運用負荷が急増し、インフラ投資が避けられません。ここで遅行して数字がついてきます。

2)成熟産業に見えるため、PERが低く放置されやすい

ネットワーク機器、データセンター運営、電源・冷却、ITサービスマネジメントなどは「地味」です。売上の伸びが半導体ほど派手に見えないため、同じ利益の増加でもPERが付与されにくい。しかし、ここ数年の構造変化(AI推論の常時稼働、クラウドの再加速、データ主権・セキュリティ強化)により、従来より高い稼働率・契約更新率が実現できる企業も増えています。成熟産業でも「質が変わる」局面がある、という点が重要です。

3)金利の影響で一括りに売られやすい

ITインフラの一部(REIT的なデータセンター、通信塔、長期契約型サービス)はディスカウントレート(割引率)上昇の影響を受けやすく、金利が高い局面ではまとめて売られることがあります。しかし、同じインフラでも「価格改定できる」「契約がインフレ連動」「設備投資が軽い(資本効率が高い)」企業は耐性が強い。金利相場での売りは、選別できる投資家にはチャンスになります。

サブテーマ別に見るITインフラ株:個人投資家向けの分類フレーム

まず、ITインフラを雑に一括りにすると失敗します。収益モデルと景気感応度が違うからです。以下の分類で「どこに投資しているのか」を明確にしてください。

A)データセンター運営・コロケーション(容量・稼働率ビジネス)

AI需要で最も分かりやすく恩恵が出やすい領域です。ポイントは、単なる床面積の拡大ではなく「電力確保」「高密度ラック対応」「冷却技術」「顧客の解約率」が競争力になります。長期契約が多く、景気後退でも急に売上が消えにくい反面、設備投資が重い企業は金利上昇で評価が下がりやすい。投資判断では、稼働率の推移、予約(バックログ)、電力調達コスト、設備投資計画の妥当性を見る必要があります。

B)ネットワーク・光通信・データ転送(帯域と品質のビジネス)

AIは学習だけでなく推論が増え、企業内外のデータ移動が増大します。ネットワーク領域の注目点は、単価が下がる汎用品ではなく「高付加価値(低遅延、高信頼、セキュア)」を提供できるか。例えば、企業向けの専用線、クラウド間接続、セキュリティ統合など、解約しにくいサービスに強い企業は利益率が安定しやすいです。

C)電力・冷却・エネルギー最適化(AIの稼働コストを下げるビジネス)

AIデータセンターのボトルネックは電力です。発電・送電そのものより、現実的には「電源設備」「UPS」「冷却」「省エネ制御」「熱回収」など周辺が伸びやすい。ここは工業系の企業も混ざり、景気循環の影響が出る場合がありますが、受注の質(データセンター向け比率、保守契約、更新需要)を見ると、単なる設備投資サイクルとは違う成長が見えてきます。

D)サイバーセキュリティ・アイデンティティ・ゼロトラスト(必需品化のビジネス)

AI導入でデータが分散し、攻撃面が広がります。セキュリティは「コスト削減の対象になりにくい」ため、サブスクリプション型で継続課金ができる企業はキャッシュフローが強い。一方で評価が高くなりやすい領域でもあるので、割安狙いなら決算で一時的に売られた局面、または過去平均のバリュエーションまで調整した局面を拾うのが現実的です。

E)IT運用自動化・監視・FinOps(クラウドの無駄を削るビジネス)

企業がAIを導入すると、クラウドコストが膨らみます。そこで「コスト最適化」「運用自動化」「監視と可観測性(オブザーバビリティ)」が重要になります。これは景気後退でも需要が残りやすい分野です。なぜなら「削減したい対象(クラウド費用)」が大きいほど、投資対効果が見えやすいからです。派手さはないものの、利益率が高い企業が出やすい領域でもあります。

銘柄選別の核心:AIインフラ株は「成長率」より「利益の質」を見る

AIテーマでよくある失敗は、売上成長率だけで飛びつくことです。インフラは投資負担が大きいケースがあり、売上が伸びても株主価値が増えないことがあるからです。以下の指標で「利益の質」を点検してください。

1)営業キャッシュフローとフリーキャッシュフロー(FCF)の安定性

同じ売上でも、キャッシュが残る企業と残らない企業があります。データセンター運営は設備投資が重く、短期ではFCFがマイナスになりやすい。一方で、ネットワークサービスや運用ソフトウェアは設備投資が軽く、FCFが出やすい。初心者ほど、まず「FCFが継続してプラスの企業」を中心に検討するとブレにくいです。

2)価格改定力:インフレ下でも粗利率が維持できているか

インフラは電力・人件費が上がると利益が圧迫されます。そこで、値上げ(価格改定)が通っているか、または契約がインフレ連動になっているかを確認します。決算資料で「価格改定」「ARPU」「契約更新率」「アップセル」などの記載が増えている企業は要注目です。

3)顧客分散と解約率:大口依存は事故の種

インフラ株は一社に依存すると、契約更改で業績がぶれます。理想は顧客が分散し、解約率(チャーン)が低く、契約期間が長いこと。特にデータセンターは一度移転するとコストが高いので、立地・電力・相互接続の優位性がある企業は解約率が低くなりやすいです。

4)債務と金利感応度:利払い負担が成長を食う

高金利局面では「借金が重い企業」が負けます。金利の上昇は、利払い費の増加だけでなく、増設投資の期待収益率を押し下げます。見るべきは、ネット有利子負債/EBITDA、固定金利比率、返済期限の分散、借換え予定です。初心者向けに言い換えるなら「景気が悪くても資金繰りで死なないか」です。

5)配当と自社株買い:株主還元が「守れる設計」か

利回りを狙うなら、配当の持続性が最重要です。配当性向だけでなく、FCFに対して配当がどれくらいの割合か、景気後退局面でも維持できるかを見ます。自社株買いは裁量があるため、業績が悪いと止まります。配当と自社株買いを混同せず、優先順位を把握してください。

押し目投資の具体戦略:段階的に仕込む「三層モデル」

AI相場はボラティリティが高く、完璧な底を当てにいくと失敗します。個人投資家が再現性を持つためには、段階的に買う設計が必要です。ここでは「三層モデル」を提案します。

第一層:コア(長期保有)…「利益の質」が高い銘柄を少数で握る

コアは、FCFが強く、価格改定ができ、債務が軽い企業を優先します。ここは短期の値動きより、決算での積み上げを待つ領域です。買いの条件は、株価が急落しても事業の前提が崩れていないこと。例として「ガイダンスは維持」「受注や更新率が落ちていない」「値上げが通っている」などが確認できる局面が望ましいです。

第二層:サテライト(テーマ追随)…需給で歪む局面を拾う

サテライトは、データセンター増設、電力・冷却、ネットワーク更新など、テーマが明確で需給が一方向に振れやすい銘柄を対象にします。ここは指数調整や金利急騰などの外部要因でまとめて売られたタイミングが狙い目です。買い下がり前提で、エントリーは分割します。

第三層:イベントドリブン…決算後の過剰反応を利用する

ITインフラ株は、決算で少しでも見通しが弱いと大きく売られやすい。逆に言えば、悪材料が「一過性」なら、リバウンドが狙えます。例えば「一時的な設備投資増」「顧客の検収遅れ」「為替影響」などで、翌四半期以降に戻る説明があるのに売られた局面です。ここは損切りラインを明確にし、短期~中期で回収する設計が必要です。

具体例:3つの典型パターンで学ぶ「買っていい押し目」と「危険な押し目」

パターン1:金利上昇で一括りに売られたデータセンター関連

10年金利が急騰した局面で、データセンターや長期契約型インフラがまとめて売られることがあります。このとき、買っていい押し目は「契約更新が強い」「稼働率が高い」「電力確保が進んでいる」企業です。危険な押し目は、増設計画が過大で、資金調達に依存している企業です。見分け方は簡単で、決算資料に「バックログ」「契約期間」「電力確保」「価格改定」などの記載が増えているかを見ます。逆に、用地確保や建設計画だけが語られ、収益化のタイムラインが曖昧なら注意です。

パターン2:クラウド最適化需要で伸びる運用自動化・監視

景気減速局面で企業がコスト削減に動くと、クラウド費用の最適化が注目されます。ここで伸びるのが運用自動化や監視の領域です。買っていい押し目は、更新率が高く、顧客が増えているのに、短期のガイダンス慎重で売られたケース。危険なのは、導入は増えているが解約率が高く、営業費用が膨らんでいるのに黒字化が遠い企業です。初心者は「更新率(リテンション)」「粗利率」「営業利益率の改善トレンド」をセットで確認してください。

パターン3:セキュリティ株の高バリュエーション調整

セキュリティは需要が強い一方で、評価が高くなりやすい。AI相場のムードが変わったときにPERが落ち、株価が急落することがあります。ここで買っていい押し目は、売上成長が鈍っても「粗利が高い」「FCFが出る」「価格改定が通る」企業です。危険なのは、成長率低下を補うために大幅な値引きや営業投資を続け、利益が出なくなるケースです。決算で「請求額(ビリング)」「残存履行義務(RPO)」「契約更新率」を丁寧に見てください。

バリュエーションの実務:初心者でも使える「過去平均との差」アプローチ

割安と言っても、何と比べて割安なのかが曖昧だと判断がぶれます。初心者におすすめなのは「過去のレンジとの比較」です。難しい理論より、現実の相場の癖を使います。

1)PERだけでなく、EV/EBITDAとFCF利回りも見る

インフラは減価償却が大きい企業があります。PERだけだと実態を誤ることがあるため、EV/EBITDA(企業価値/利益)やFCF利回り(FCF/時価総額)を併用します。FCFが安定して出る企業なら、FCF利回りが上がった局面は買い候補になりやすい。

2)「市場の怖がり」を利用する:決算翌日のギャップダウン

短期の過剰反応は、個人投資家が拾える数少ない優位性です。決算翌日に大きく下げたとき、株価の下落理由が「永久的」か「一時的」かを分けます。一時的なら段階的に入れます。永久的(競争激化で利益率が落ちる、主要顧客喪失、構造的な価格下落)なら触らない。ここを間違えると、ナンピン地獄になります。

3)自分のルールを数値化する:買い増し条件と撤退条件

例えば「過去5年のEV/EBITDAレンジ下位25%に入ったら第一弾」「FCF利回りが過去平均+2%ポイントなら第二弾」「ガイダンス下方修正が2回続いたら撤退」など、ルールを作ります。数字の正確さより、感情を排除する仕組みが大切です。

リスク管理:ITインフラ株で致命傷を避けるチェックポイント

チェック1:設備投資(CAPEX)が「増えすぎている」理由は何か

成長投資が増えるのは良いことですが、採算が悪い投資は株主価値を毀損します。投資回収期間、稼働率の前提、顧客契約の裏付けがあるかを確認します。説明が抽象的なら、警戒してください。

チェック2:電力・供給制約は成長の上限になる

AIデータセンターは電力がなければ増設できません。立地の送電容量、電力契約、再エネ調達など、現実の制約が成長を決めます。ここを軽視して「需要があるから伸びる」と考えると、思惑違いになります。

チェック3:顧客の集中と信用リスク

大口顧客がクラウド大手1社に偏る場合、その顧客の投資計画に振り回されます。契約の柔軟性、解約条項、更新時の価格交渉力を推測するために、顧客構成の開示を追います。

チェック4:会計上の利益とキャッシュが乖離していないか

売上計上が先行し、キャッシュ回収が遅い企業は危険です。売掛金の増加、在庫の積み上がり、運転資本の悪化が続くなら、成長の質が悪い可能性があります。

実践手順:月1回の「AIインフラ点検ルーティン」

情報過多の時代は、完璧な分析よりもルーティンが勝ちます。以下を月1回だけ回してください。初心者でも継続できます。

ステップ1:ウォッチリストを分類して10~20銘柄に絞る

データセンター、ネットワーク、電力・冷却、セキュリティ、運用自動化の5分類で、各2~4銘柄程度に絞ります。銘柄を増やすほど判断が雑になります。まずは少数で質を上げます。

ステップ2:決算の一次情報だけを見る(ニュース要約は後回し)

決算短信や決算説明資料の「ガイダンス」「受注・バックログ」「価格改定」「顧客動向」の4点だけを抜き出します。ここが動いていなければ、株価が動いても本質は変わっていない可能性が高いです。

ステップ3:買いの条件を満たしたら「定額+下落時追加」

コアは毎月定額で積む。サテライトは指数調整や金利急騰など外部ショックで下げたときに追加。イベントドリブンは決算後の過剰反応で短期枠で入る。枠を分けることで、同じ「買い」でも目的が明確になります。

ステップ4:撤退条件を先に書く

「受注が2四半期連続で悪化」「値上げが通らず粗利率が低下」「借換えで金利負担が急増」「主要顧客の契約縮小」など、撤退条件を文章で書いておきます。書けないなら理解が浅いので、買うべきではありません。

よくある失敗と回避策:個人投資家がやりがちな罠

失敗1:テーマに酔って高値掴みし、下落で投げる

AI相場は熱狂と冷却を繰り返します。高値掴みの回避策は、段階的に買うこと、そして「割安の定義」を過去レンジで決めることです。自分の中の基準がないと、相場の空気に飲まれます。

失敗2:「押し目」のつもりが、構造悪化の始まりだった

押し目と下落トレンドの違いは、事業の前提が維持されているかです。ガイダンスの下方修正が続く、更新率が落ちる、粗利が崩れる、債務負担が増える。これらが同時に起きるなら、押し目ではなく逃げる局面です。

失敗3:配当利回りだけで選び、減配で致命傷

高利回りは魅力ですが、利回りは株価下落でも上がります。重要なのは配当の原資がFCFで賄えているか。投資家は「利回り」ではなく「配当の持続性」を買うべきです。

まとめ:AIインフラ株は「地味な確実性」を仕込むゲーム

生成AIは派手なテーマですが、儲けやすいのは必ずしも主役ではありません。インフラ側は、需要が現実の契約とキャッシュフローに落ちた段階で評価が修正されやすい。だからこそ、割安放置の局面で、利益の質が高い企業を段階的に仕込む戦略が機能します。

最後に要点を整理します。第一に、サブテーマで分類し、収益モデルの違いを理解する。第二に、売上成長よりもFCF、価格改定力、債務、更新率といった「利益の質」を見る。第三に、三層モデルで段階的に仕込み、撤退条件を先に決める。これだけで、AI相場のノイズに振り回されにくくなります。

補足:日本株でITインフラを狙う場合の見取り図(円安・内需・設備投資)

米国株が情報量・銘柄数ともに豊富ですが、日本株にもAIインフラの恩恵を受ける企業は存在します。日本株で見る場合は「円安メリットの有無」と「設備投資の循環」を意識すると選別が楽になります。

円安メリットが出やすい領域

海外売上比率が高い、またはドル建て契約が多い企業は、円安局面で業績が底上げされます。ネットワーク機器、電源設備、冷却関連の一部にはグローバル展開がある企業もあり、円安は追い風になります。ただし、原材料や部材を輸入する比率が高い企業は、円安がコスト増として効く場合もあるため、決算で粗利率が維持できているかを必ず確認してください。

内需でも強い領域:運用・保守・セキュリティ

国内のデータ主権、ガバナンス、サイバー防衛の強化は中長期のテーマです。国内企業向けの運用・保守やセキュリティは、景気が悪くてもゼロにはできない支出です。日本株で探すなら、受託開発の比率が高い企業より、ストック型(保守、サブスク、継続課金)に寄っている企業の方が、利益の質が高くなりやすいです。

設備投資循環の罠:受注が良くても株価が伸びないケース

電源設備や冷却などのハード系は、受注が好調でも株価が伸びないことがあります。理由は、受注が増えるほど運転資本が必要になり、キャッシュが苦しくなるからです。ここは「受注高」だけを見ず、棚卸資産や売掛金の増え方、営業キャッシュフローの推移をセットで見てください。受注は良いのにキャッシュが悪化している企業は、株価が評価されにくいです。

ケーススタディ:架空の銘柄で学ぶ決算読み(数字の見方を具体化)

ここでは架空の例で「決算のどこを見るか」を具体化します。実在企業の推奨ではなく、読み方の練習として使ってください。

ケースA:データセンター運営「DCアセット社」

売上は前年同期比+12%。一見良いのですが、注目点は次の3つです。第一に稼働率が92%→95%へ改善しているか。稼働率が上がっているなら、増設投資の回収が進んでいる可能性が高い。第二に、平均契約期間が5.2年→6.0年へ伸びているか。契約期間が伸びるほど、売上の見通しが安定します。第三に、電力コストの増加を価格改定で吸収できているか。粗利率が横ばい、または改善していれば価格改定力があると言えます。

逆に危険な兆候は「増設計画は大きいが、バックログの伸びが鈍い」「稼働率が低下している」「ネット有利子負債/EBITDAが急上昇」の3点です。これが揃うと、金利上昇局面で株価が崩れやすいです。

ケースB:運用自動化「Opsクラウド社」

売上成長は+18%と高いが、営業利益率は10%→8%へ低下。ここで慌てて売るかどうかは「理由」で決まります。新規顧客獲得のための営業投資で一時的に利益率が落ちたのか、それとも価格競争で粗利が落ちたのか。前者なら将来の成長の種、後者なら構造悪化です。

見分けるためには、粗利率が維持されているか、更新率が落ちていないか、そしてFCFがプラスかを見ます。粗利率が高止まりし、更新率も維持、FCFもプラスなら「投資で利益が減っただけ」の可能性が高い。逆に粗利率が落ち、更新率も悪化しているなら、押し目ではなく撤退候補です。

ケースC:ネットワーク「Netリンク社」

売上は横ばいだが、FCFが増えて自社株買いを拡大。こうした企業は「成長しない」と見なされて割安放置されがちですが、AIの通信量増加で設備更新が進むと再評価される可能性があります。ここで重要なのは、横ばいの売上でも価格改定で利益が増えているか、または保守・サービス比率が上がっているかです。サービス比率が上がると利益の質が上がり、株主還元の持続性も高まります。

投資家向けチェックリスト:銘柄を買う前に必ず埋める10項目

最後に、実際に買う前に埋めるチェックリストを提示します。紙に書いて埋めるだけで、衝動買いが減ります。

  • この企業はどの分類(データセンター、ネットワーク、電力・冷却、セキュリティ、運用自動化)に属するか。

  • 売上の何割がストック型(継続課金、保守、長期契約)か。解約率は低いか。

  • 過去3年の営業キャッシュフローは安定しているか。FCFはプラスか。

  • 価格改定が通っている根拠(粗利率、ARPU、契約更新率)はあるか。

  • ネット有利子負債/EBITDA、固定金利比率、借換え予定は許容範囲か。

  • 設備投資が増える場合、バックログや契約で裏付けられているか。

  • 顧客集中リスクは高くないか(上位顧客比率、業種偏り)。

  • バリュエーションは過去レンジでどこに位置するか(下位25%など)。

  • 買い増し条件(価格・指標)と撤退条件(事業の前提崩れ)を文章で書けるか。

  • 想定外の悪化が出たとき、損失を限定するルール(最大損失、分割、損切り)はあるか。

補足:ポートフォリオの組み方(初心者向けの現実解)

初心者がやりがちなのは、AIテーマに資金を集中しすぎてボラティリティに耐えられなくなることです。現実解は「コアを分散し、サテライトでテーマを取り、現金比率を残す」ことです。具体的には、コアは3~5銘柄に分散し、サテライトは最大でも2~3銘柄。イベントドリブンは1銘柄あたりの資金を小さくし、失敗しても痛手にならない枠に収めます。そうすることで、相場の荒れに耐えながら、チャンスのときに追加できます。

AIインフラは一気に評価される相場ではなく、数字が積み上がってから評価が変わる相場です。短期で結果を求めず、決算をまたいで検証し、良い企業を安いときに拾い続ける。この単純な原則が、最終的に利回りと成長の両方をもたらします。

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