生成AIや半導体などのブームに乗って、「AI関連銘柄」が世界中の株式市場で大きく動いています。ニュースを見てなんとなくAI銘柄を買ったものの、高値掴みになってしまった経験がある人も多いのではないでしょうか。
本記事では、AI銘柄を「なんとなく」ではなく、ルールベースで売買するためのモメンタム戦略(勢いに乗る戦略)を解説します。難しい数式は使わず、チャートとシンプルな条件だけで運用できるように構成しています。
AIテーマは当たり外れが極端になりやすい一方で、トレンドが出ると値動きが非常に大きくなる特徴があります。だからこそ、「どこで乗るか」「どこで降りるか」「いくら賭けるか」を最初から決めておくことが重要です。
AI銘柄モメンタム戦略とは何か
モメンタム戦略とは、すでに上昇トレンドに乗っている銘柄をさらに追いかける手法です。「安いときに買って高く売る」ではなく、「高くなり始めたものを買って、さらに高くなったところで売る」という発想です。
AI銘柄モメンタム戦略では、次のようなイメージで売買します。
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AI関連の銘柄群(ユニバース)をあらかじめ決める
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その中から、最近の株価パフォーマンスが良い銘柄だけを抽出する
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上昇トレンドがはっきり出ている銘柄にだけエントリーする
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トレンドが崩れたら素早く撤退する
ポイントは、「AIだから」という理由だけで買わないことです。テーマ性+株価の勢いの両方が揃った銘柄だけを対象にすることで、リスクをある程度コントロールしながらテーマ相場を取りにいきます。
AI銘柄ユニバースの作り方
まず最初にやるべきことは、「そもそもどの銘柄をAI関連とみなすか」を決めることです。これは投資家によって定義が分かれますが、個人投資家が現実的に扱える範囲で考えると、次のステップがおすすめです。
ステップ1:AI関連ETFやインデックスから候補を拾う
AIテーマの銘柄を一から探すのは大変なので、まずはAI関連のETFやテーマ指数の構成銘柄をベースにします。例えば、生成AI・クラウド・半導体・データセンターなどをテーマにしたETFの組入銘柄一覧を確認し、その中から自分が売買できる市場の銘柄だけをピックアップします。
これにより、「市場がAI関連として認識している銘柄群」を効率的に集めることができます。
ステップ2:売上のAI依存度・AI投資額をチェックする
次に、その企業が本当にAI関連の事業を行っているかを確認します。たとえば、次のような要素です。
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AIクラウドサービスや生成AIプラットフォームを提供している
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半導体・GPU・データセンターなど、AIインフラを支える製品を販売している
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SaaSやソフトウェア製品にAI機能を組み込んでいる
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決算資料でAI関連投資の強化が明言されている
売上や利益のどの程度がAIに紐づいているかまで厳密に追う必要はありませんが、少なくとも「名前だけAI」「なんとなくAIっぽい」という銘柄は外しておく方が安全です。
ステップ3:流動性フィルターをかける
AIテーマは小型株にも波及しやすく、出来高が極端に少ない銘柄も混ざります。売買代金が少ない銘柄は、スプレッドが広くなったり、いざというときに売れなかったりするリスクが高まります。
そのため、ユニバース作成時点で次のような条件を付けるとよいでしょう。
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1日の平均売買代金が一定金額以上(例:日本株なら1億円以上、米国株なら$5M以上など)
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過去3か月程度で極端に出来高が細っていないこと
モメンタム戦略は短期売買が前提となるため、「出入りしやすい銘柄だけを扱う」という考え方が非常に重要です。
モメンタム指標:何をもって「勢いがある」とみなすか
AI銘柄のユニバースを作ったあとは、「どの銘柄に今勢いがあるのか」を数値で判断していきます。代表的なモメンタム指標は次のとおりです。
1. 一定期間の騰落率
最もシンプルなのが「一定期間の値上がり率」です。例えば、次のような条件を組み合わせます。
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過去1か月(20営業日)の騰落率が、市場全体(指数)より上回っている
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過去3か月(60営業日)の騰落率もプラスである
短期・中期のどちらでもプラス圏にあり、市場平均を上回っている銘柄は、テーマの中心にいる可能性が高くなります。
2. 移動平均との位置関係
移動平均線は、トレンド把握の基本的なツールです。モメンタム戦略では次のような判断をよく使います。
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株価が20日移動平均線より上にある
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20日移動平均線が上向きである
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50日移動平均線も上向きで、20日線が50日線の上にある
これにより、「短期・中期ともに上昇トレンドが発生している銘柄」に絞り込むことができます。
3. ボラティリティの確認
AI銘柄は値動きが大きくなりがちです。ボラティリティが高すぎる銘柄ばかりを選んでしまうと、ポジション管理が難しくなります。そこで、過去の日次リターンの標準偏差や、平均的な1日の値幅などを確認し、「極端に荒い銘柄は避ける」というフィルターをかけるのも有効です。
シンプルな売買ルール例:20日高値ブレイク戦略
ここからは、個人投資家が手作業でも運用しやすい「20日高値ブレイク」をベースにしたAI銘柄モメンタム戦略の例を示します。あくまで一例であり、このルール通りに売買することを推奨するものではありませんが、「どのようにルールを設計するか」の具体イメージとして参考にしてください。
エントリー条件
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AI銘柄ユニバースに含まれていること
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過去20営業日の高値を終値で上抜けた日
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その日の出来高が、過去20営業日の平均出来高以上である
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終値が20日移動平均線より上にある
この条件を満たした日、翌日の寄り付き(または成行)でエントリーする、という形をイメージします。重要なのは、「高値を更新している」「出来高を伴っている」「移動平均線より上」という3つの要素が揃っていることです。
利確・損切りルール
モメンタム戦略の肝は、「どこまで利益を伸ばすか」よりも「どこで降りるか」を先に決めておくことです。例えば、次のようなルールが考えられます。
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エントリー価格から–8%下落したら損切り
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株価が20日移動平均線を終値で明確に下回ったら手仕舞い
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または、エントリー後に+25〜30%程度の含み益が乗った段階で半分利確し、残りはトレーリングストップで追う
損切り幅や利確目標は、銘柄のボラティリティや自分のリスク許容度に合わせて調整します。大事なのは、「事前に決めたルールを一貫して守ること」です。
仮想ケーススタディ:AIクラウド銘柄Aを売買する
ここでは、仮想の米国AIクラウド企業「AI Cloud A」という銘柄を例に、モメンタム戦略の流れをイメージしてみます。
1. テーマ認識のフェーズ
決算発表でAI関連の売上が急増し、市場で「AIクラウド需要が拡大」というニュースが出始めたとします。株価はしばらくレンジで推移していましたが、出来高を伴って少しずつ上昇基調になってきました。
2. ブレイクアウト発生
ある日、AI Cloud Aの株価が過去20営業日の高値を終値で上抜け、出来高も普段の2倍に増加しました。同時に、株価は20日移動平均線から上に大きく離れ、短期トレンドの強さが確認できます。
この時点で、先ほどのエントリー条件を満たしたと判断し、翌日の寄り付きでポジションを取ります。
3. トレンドフォロー期間
エントリー後、株価はその後2週間で15%上昇しました。途中、数日の調整はあったものの、終値ベースでは20日移動平均線を一度も割り込んでいません。含み益が20%程度まで伸びた段階で、半分を利確し、残りのポジションは「20日移動平均線割れ」を目安にホールドします。
4. トレンド終了と手仕舞い
やがて、市場全体がリスクオフになり、AI銘柄全般が調整局面に入りました。AI Cloud Aも同様に下落し、終値が20日移動平均線を明確に下回りました。このタイミングで、残りのポジションをすべて手仕舞います。
結果として、前半は短期利確、後半はトレンドフォローで利益を伸ばし、トレンド終了時には機械的に撤退できた、というイメージです。
ポジションサイズと資金管理
モメンタム戦略のリスクは、「連敗すると資金が急激に減る可能性がある」ことです。AI銘柄はボラティリティが高いため、1銘柄あたりのリスク許容量を明確にしておく必要があります。
1銘柄あたりのリスクを「口座残高の1〜2%」に抑える
例えば、運用資金が100万円の場合、「1銘柄の損切りで失う金額は1〜2万円まで」と決めます。損切り幅を–8%と設定するなら、次のようにポジションサイズを計算できます。
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1銘柄の許容損失額:1万円
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損切り幅:–8%
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投入可能額:1万円 ÷ 0.08 = 12万5千円程度
このように、「最初に許容損失額を決めてから、損切り幅に応じて投入金額を逆算する」という考え方を徹底すると、連敗しても資金が一気に減りにくくなります。
複数銘柄への分散
AIテーマは、特定の1銘柄だけに集中するよりも、数銘柄に分散しておく方がリスクを抑えやすいです。例えば、同時に3〜5銘柄までに限定し、どれか1つが大きく伸びればポートフォリオ全体でプラスを狙う、という発想です。
よくある失敗パターンとその対策
AI銘柄モメンタム戦略でありがちな失敗パターンと、その対策を整理しておきます。
失敗1:ニュースだけを見て飛び乗る
話題になっている銘柄をニュースで見て、その日のうちに感情的に飛び乗ると、高値掴みになりやすくなります。対策としては、「ニュース → チャート → ルール条件を満たすか確認」という順番を守ることです。
失敗2:損切りルールを守れない
モメンタム戦略では損切りの発生頻度もそれなりにあります。「戻るかもしれない」と希望的観測で損切りを先送りすると、含み損が膨らみやすくなります。チャート上のライン割れや、事前に決めたパーセンテージを機械的に守ることが重要です。
失敗3:ポジションを持ちすぎる
AIブーム時には多くの銘柄が同時に上がるため、「あれもこれも」とポジションを増やしすぎてしまうことがあります。しかし、テーマが反転したときには、それらが同時に下がるリスクがあります。ポートフォリオ全体でのリスク量を常に意識し、同時保有銘柄数の上限を決めておくことが大切です。
ファンダメンタル条件を加えて精度を上げる
モメンタム戦略は株価の動きに注目しますが、ファンダメンタル条件を1〜2個加えることで「極端に質の低い銘柄」を避けることができます。例えば、次のようなシンプルな条件です。
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売上高が直近数年で右肩上がりである
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営業キャッシュフローが概ねプラスである
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過度な負債依存になっていない
AIテーマは期待先行になりやすいため、売上やキャッシュフローが全く伴っていない銘柄も混ざります。短期のトレードであっても、ある程度の事業基盤がある企業を優先することで、極端なリスクを回避しやすくなります。
市場環境ごとの戦い方
AI銘柄モメンタム戦略は、市場環境によって勝ちやすさが変わります。ざっくりと、次の3つの局面に分けて考えるとイメージしやすくなります。
1. 強い上昇トレンド局面
株式市場全体が強い上昇トレンドにあり、AIテーマが市場の中心になっている局面では、モメンタム戦略が機能しやすくなります。このようなときは、エントリー条件をやや緩めにし、ポジション数を増やしてテーマ全体に乗ることを検討できます。
2. 調整局面
指数がレンジ相場になり、AI銘柄も方向感を失っているときは、無理にエントリーを増やさず、キャッシュポジションを多めにすることが重要です。トレンドがはっきり出ていないときにモメンタム戦略を続けると、ダマシが増えてしまいます。
3. 下落トレンド局面
市場全体が明確な下落トレンドにあるときは、AI銘柄も含めて成長株全般が売られやすくなります。この局面では、モメンタム戦略で無理に買いを続けるよりも、ポジションを極力減らす・休む・ヘッジを検討するなど、防御を優先した方が合理的です。
実務的な運用フローの例(週末〜週中)
最後に、個人投資家が「週に数回のチェック」で運用することを想定したフロー例を示します。
週末の作業
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AI銘柄ユニバースの更新(新しく注目されている銘柄がないか確認)
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過去1か月・3か月の騰落率を計算し、モメンタム上位の銘柄をリストアップ
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チャートを確認し、20日高値ブレイク近辺にいる銘柄を候補としてメモ
平日のチェック
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毎日または数日に一度、候補銘柄が実際に20日高値をブレイクしたかを確認
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出来高が条件を満たしているかをチェック
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条件を満たした銘柄があれば、翌営業日のエントリー数量を計算
保有銘柄の管理
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終値ベースで20日移動平均線を下回っていないかを確認
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事前に決めた損切りラインを割っていないかをチェック
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大きく伸びた銘柄については、部分利確やトレーリングストップの水準を調整
まとめ:AIテーマと「距離感」を保ちながら波に乗る
AI銘柄は、将来の成長期待とともに大きな値動きを見せる一方、期待がしぼむと急落するリスクも抱えています。そこで役立つのが、モメンタム戦略という「距離感」を保つためのルールです。
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AI関連であることに加え、株価の勢いが実際に出ている銘柄だけを対象にする
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エントリールール・損切りルール・利確ルールを事前に決めておく
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1銘柄あたりのリスクを口座残高の1〜2%程度に抑え、複数銘柄に分散する
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市場環境が悪化したときは、無理にポジションを持たず「休む」選択肢も用意しておく
AIブームに振り回されるのではなく、自分で決めたルールに基づいて淡々と売買することが、長く相場に残るための鍵になります。本記事の内容を参考にしながら、ご自身のリスク許容度や投資スタイルに合わせて、AI銘柄モメンタム戦略のルールを組み立ててみてください。


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