オルタナティブデータ（SNS・検索トレンド）で勝率を上げる個別株ショートスイング戦略

はじめに：なぜ「SNS・検索トレンド」が短期売買で効くのか

個別株の短期上昇は、ファンダメンタルズの変化よりも先に「注目（attention）」が増えることで起きるケースが多いです。注目が増えると、ニュース閲覧・SNS拡散・検索行動が増え、結果として買いが買いを呼ぶ局面が生まれます。ここで使うのが、SNS（X/Reddit/掲示板など）の言及量と、検索トレンド（例：Google Trends）の変化です。

結論から言うと、この戦略は「出来高と価格に出る“前段階”の熱量」を捉えて、上昇の初動〜中盤だけを抜く発想です。長期投資のように企業価値を当てに行くのではなく、短期の需給の偏りを統計的に拾いに行きます。

戦略の全体像：狙うのは「注目→出来高→価格」へ波及する順番

短期の盛り上がりは、典型的には以下の順で進みます。

• （1）何らかの材料で注目が上がる：新製品、提携、規制、決算予想、インフルエンサー投稿、ミーム化など
• （2）言及量・検索量が増える：人が話題にし、調べ始める
• （3）出来高が増える：売買参加者が増える
• （4）価格が上がる：需給の偏りが顕在化する

オルタナティブデータは（2）を捉えます。テクニカルは（3）（4）を捉えます。両方を組み合わせることで、エントリーを早め、ダマシも減らします。

この戦略が向く銘柄・向かない銘柄

向く銘柄

最も相性が良いのは「話題化しやすい銘柄」です。具体的には、個人投資家比率が高い、テーマ性が強い、ニュースや口コミで買いが入りやすいタイプです。

• テーマ株：AI、半導体、宇宙、防衛、バイオ、生成AI関連など
• コンシューマー系：ゲーム、アプリ、EC、飲食、ブランド（SNSで拡散しやすい）
• 新興・中型：流動性は必要だが、巨大株ほど情報が効率的ではない

向かない銘柄

一方で、検索量やSNS言及が増えても株価が動きにくい銘柄もあります。代表例は、時価総額が極端に大きい超大型株（情報が織り込みやすい）や、流動性が低すぎる銘柄（スプレッドが広く約定が不利）です。

• 超大型で材料が常に大量に出る銘柄：言及増加が“ノイズ化”しやすい
• 出来高が薄すぎる銘柄：スプレッド負け・滑りで期待値が崩れる
• 不祥事・倒産懸念の常連：言及が増えても買いではなく“炎上”である場合が多い

使うデータ：無料で揃える「最低限セット」

初心者がまず形にするなら、無料で扱える範囲に絞るのが得策です。ここでは「無料で再現可能」な構成にします。

（A）検索トレンド

検索トレンドは「一般層の興味」の変化を取りやすいのが強みです。企業名・製品名・ティッカーで検索が増えるタイミングは、ニュース波及の直後であることが多いです。重要なのは“絶対値”ではなく“変化率”です。

（B）SNS言及量（投稿数・リポスト数）

SNSは「投資家コミュニティ内の熱量」を捉えます。検索よりも投機的になりやすい反面、先に動くことが多いです。質の高い投稿より、短期では“量”が効きやすいのが特徴です。

（C）価格・出来高（テクニカル）

オルタデータだけで飛びつくと、炎上やガセネタにも反応してしまいます。最終フィルターとして、価格と出来高を必ず確認します。「出来高が増えていないのに上がっている」は持続性が低いことが多いです。

コアの売買ルール：3つのフィルターで“熱量の本物”だけ拾う

この戦略の肝は、シンプルな条件で“本物の熱量”だけを抽出することです。以下の3つで構成します。

フィルター1：トレンド急増（検索 or SNS）の検出

「いつもより急に増えた」ことを数値化します。初心者向けに、まずは次のようなルールが現実的です。

• 検索トレンド：直近7日平均が、過去28日平均の2倍以上
• SNS言及量：直近24時間が、過去7日平均の2倍以上

倍率は銘柄ごとに最適が変わります。最初は“2倍”を基準にし、検証で調整します。重要なのは、急増を「発生した日」ではなく「発生した直後」に捉えることです。

フィルター2：出来高の追随（需給の発生確認）

熱量が増えても、実際に買いが入らなければ上がりません。そこで出来高を確認します。

• 当日出来高が、20日平均出来高の1.5倍以上
• 出来高増加と同時に、終値が前日終値を上回る（陽線）

出来高が増えていない場合は、見送ります。見送ることが、この戦略の最大の損失回避です。

フィルター3：価格の位置（高値掴み回避）

最後に「どこで入るか」です。短期戦略は勝率よりも“損失の小ささ”が重要です。そこで、次の2案を使い分けます。

• 案A（初動狙い）：20日高値を更新した当日、引けでエントリー
• 案B（押し目狙い）：急騰後、5日移動平均線付近まで押したら分割エントリー

初心者は案Aが分かりやすいです。ただし案Aはダマシもあります。案Bは勝率が上がりやすい代わりに、乗り遅れます。最初は案Aで検証し、慣れたら案Bを混ぜるのが現実的です。

具体例で理解する：3つのシナリオ（成功・失敗・引き分け）

ここからは、銘柄名を固定せず「よくある値動き」を想定して説明します。実践では、あなたが監視する銘柄群（ウォッチリスト）で同じ構造を探します。

シナリオ1：成功パターン（注目→出来高→高値更新が連続）

あるテーマ株で、前夜からSNSで製品の話題が拡散。検索トレンドも上向き。寄り付きから出来高が増え、前場で前日高値を突破。引けにかけて買いが継続し、終値で20日高値を更新。

この場合、引けエントリー（案A）を行い、損切りは当日の安値割れ、または翌日のギャップダウンに備えて“前日終値割れ”など浅めに設定します。利確は「翌日〜3日以内に急伸したら一部利確→残りはトレーリング」で、伸びる時だけ伸ばす形が機能しやすいです。

シナリオ2：失敗パターン（炎上・誤情報で言及だけ増える）

SNS言及が急増したが、内容はネガティブ（不祥事疑惑）で、実際の出来高が増えないまま株価は横ばい。翌日、否定ニュースが出て急落。

このケースは、出来高フィルターで回避できます。言及が増えたこと自体は“良い兆候”ではありません。ここがオルタデータ戦略の落とし穴です。「言及増＝買い」ではなく、「言及増＋出来高増＋価格上昇」まで揃って初めて買いです。

シナリオ3：引き分けパターン（注目は増えたが相場全体が崩れる）

銘柄は条件を満たしていたが、その日に指数が大きく下落し、セクター全体が売られた。銘柄も上昇できず、損切りにかかる。

この戦略は“個別要因”を拾いますが、市場全体の地合いには逆らえません。そこで、指数フィルターを加えます（例：NASDAQやS&P500が20日移動平均線の上にある時だけ実行、など）。地合いが悪い時は、狙いを絞るか、見送ります。

エントリーの実務：監視から発注までの手順

ステップ1：ウォッチリストを作る（数は多すぎない）

最初から全銘柄を追うのは不可能です。テーマ性があり、日々ニュースが出やすく、出来高が一定以上ある銘柄に絞ります。日本株なら30〜80銘柄、米国株なら50〜150銘柄程度が現実的です。

ステップ2：毎日同じ時刻に“急増”をチェックする

短期戦略はルーティン化が重要です。例えば、夜に翌日の候補を抽出し、朝は寄り前に確認します。急増の検出は、日次でもよいですが、可能なら「前日夕方〜夜」の変化を拾うと初動に乗りやすいです。

ステップ3：チャートで出来高と価格位置を確認

急増が出た銘柄を、チャートで一気に絞ります。見るのは、（1）出来高、（2）直近高値との距離、（3）急騰後の押し目余地、の3つです。ここで“飛びつき”を抑えます。

ステップ4：発注は分割が基本（最初から全力はしない）

短期は外れも多いです。最初は2回〜3回に分けて建てます。例えば、引けで半分、翌日押したら残り、などです。分割は心理的にも効き、結果として損切りのブレが減ります。

利確・損切り：期待値を作るのは“出口”

この戦略は当て続ける戦略ではありません。平均すると、当たりも外れも出ます。儲けるポイントは、当たった時に伸ばし、外れた時に小さく切ることです。

損切りルール（例）

• 引けエントリーの場合：翌日、前日安値割れで損切り（または終値ベースで割れ）
• 押し目エントリーの場合：5日線を明確に割れたら損切り
• 共通：材料否定・規制悪化など「需給が逆回転」するニュースが出たら即撤退

損切りは“価格”で機械的に行うのが基本です。SNSがまだ盛り上がっている、などは理由になりません。盛り上がりは一瞬で逆転します。

利確ルール（例）

• 1回目の利確：含み益が+5%〜+8%で半分利確（目安）
• 2回目の利確：トレーリング（直近2日安値割れ、または10日線割れなど）
• ギャップアップ時：寄りで一部利確して“勝ちを確定”し、残りを伸ばす

短期で最悪なのは「勝ちがあったのに利益を消して負ける」パターンです。半分利確の設計は、その防止策です。

ポジションサイズ：初心者が破綻しないための設計

どんな戦略も、サイズ設計が下手だと破綻します。初心者は、1回の損失を小さく固定します。

• 1回の最大損失：口座資金の0.5%〜1.0%以内
• 同時保有：最大3〜5銘柄まで
• 同一テーマの集中を避ける：AI銘柄だけ、などは事故りやすい

例えば、資金100万円で最大損失0.7%なら、1回の損失は7,000円までです。損切り幅が3%なら、建玉は約23万円が上限です（23万円×3%≒6,900円）。こういう計算を毎回します。感覚でやると、負けが続いた時に一気に崩れます。

検証（バックテスト/フォワードテスト）のやり方：初心者向けの現実解

オルタデータの本格的なバックテストは難易度が高いですが、初心者でも再現性のある検証はできます。

（1）簡易検証：過去チャート×話題の記録で“型”を探す

まずは直近3〜6か月で、あなたのウォッチ銘柄が急騰した日を振り返り、その前後でSNSや検索が増えていたかを手作業で確認します。完璧なデータでなくて構いません。「急騰前に注目が増えていた」パターンの頻度を体感で掴むのが先です。

（2）ルール固定のフォワードテスト：小ロットで30回回す

次に、ルールを固定して小ロットで実運用します。目標は“勝つこと”ではなく“統計を作ること”です。30回のトレードで、勝率、平均利益、平均損失、最大連敗などを記録します。ここで期待値（平均利益×勝率−平均損失×敗率）がプラスかを見るだけで十分です。

（3）改善は1回に1つだけ変える

フィルターや利確損切りを一気に変えると、何が効いたか分からなくなります。改善は、倍率（2倍→2.5倍）や出来高条件（1.5倍→2倍）など、1つずつ変更します。

よくある失敗と対策

失敗1：言及が増えた瞬間に飛びつく

言及増は“スタート合図”ですが、買い合図ではありません。必ず出来高と価格を確認します。ここを守るだけで、大半の事故は減ります。

失敗2：利確が遅れて利益が消える

短期は戻りも速いです。半分利確をルール化し、残りはトレーリングで伸ばす。これが最も再現性が高い出口です。

失敗3：地合い無視で個別だけ見る

指数が崩れる局面では、良い材料も潰れます。指数フィルターを入れ、相場が悪い日は“やらない”を徹底します。やらない日は、戦略の一部です。

実践テンプレ：明日から使えるチェックリスト

最後に、毎日使えるテンプレをまとめます。これをルーティンにすると、感情の介入が減ります。

候補抽出（夜）

• 検索トレンド：7日平均が28日平均の2倍以上
• SNS言及：24時間が7日平均の2倍以上
• テーマ性・材料の有無：提携/新製品/決算/規制/インフルエンサー等

チャート確認（寄り前〜前場）

• 出来高：20日平均の1.5倍以上になりそうか
• 価格：20日高値更新が近いか、押し目余地はあるか
• 指数：主要指数が20日線の上か（地合いフィルター）

エントリー（案A）

• 20日高値を更新し、出来高条件を満たしたら引けで半分
• 翌日押したら残り（無理なら追わない）

損切り・利確

• 損切り：前日安値割れ（または終値で割れ）
• 利確：+5%〜+8%で半分、残りはトレーリング

まとめ：オルタデータは“魔法”ではなく、需給の初動を拾う道具

オルタナティブデータは、未来を当てるための魔法ではありません。注目が増える局面を早く見つけ、出来高と価格で確認してから、短期の需給を取りに行くための道具です。ルールを固定し、小さく検証し、損失を限定し、当たった時だけ伸ばす。この4点を守れば、初心者でも「運」に頼らないショートスイングの形になります。

最初は完璧を目指さず、テンプレを回して記録を残してください。記録が貯まるほど、あなたのウォッチ銘柄に合った“勝ちパターンの型”が見えてきます。

データ収集を現実に落とす：ツール別の具体的な集め方

「理屈は分かったが、どうやって集めるのか」で止まりがちです。ここでは、難しい開発なしで回す方法を中心に整理します。目標は“毎日10〜20分で候補が出る状態”です。

検索トレンドの取り方

検索トレンドは、キーワード選定が9割です。企業名だけだと一般ニュースに引っ張られやすいので、可能なら「企業名＋代表製品名」「ティッカー」「サービス名」など複数を用意します。例えば、同じ会社でも製品名が話題になることがあるためです。

• 候補キーワードを3つ作る：会社名／ティッカー／製品名
• 週次で見て“平常時の揺れ幅”を把握する（後で倍率調整に使う）
• 急増を見つけたら、関連クエリ（関連検索）も確認し「ポジティブ材料か炎上か」を判定する

関連検索で「不祥事」「訴訟」「回収」などが増えている場合は、言及増でも買いではありません。ここは人間の目が一番強い部分です。

SNS言及の取り方

SNSは情報の質が玉石混交です。短期では“量”を見るとはいえ、最低限のノイズ除去が必要です。例えば、ボットが多いキーワードや、常に煽られ続ける銘柄は言及増がシグナルになりにくいです。

• まずは「公式発表」「信頼できる記者」「業界アカウント」をフォローして材料の一次情報に寄せる
• キーワード検索で投稿数を目視確認し、急に増えたかを把握する
• “引用元がある投稿”が増えているかを見る（根拠がある話題は継続しやすい）

慣れてきたら、投稿数のカウントをスプレッドシートに記録し、7日平均との差を見ます。手作業でも、続けると十分な統計になります。

価格・出来高の取り方

価格と出来高は、証券会社のチャートで足ります。確認ポイントは「出来高が増えているか」と「上値を更新しているか」です。さらに精度を上げるなら、板の厚さ（気配）を見ます。板が薄い銘柄は、上にも下にも飛びやすく、損切りが滑りやすいので注意が必要です。

時間軸の設計：日中トレードより“翌日〜数日”の方が勝ちやすい理由

オルタデータは、超短期（数分）よりも、1〜5営業日で効きやすい傾向があります。理由は単純で、話題が広がるのに時間がかかるからです。SNSで火がついても、一般層が検索して買い始めるのは翌日以降になることがあります。

そのため、この戦略の基本は「当日買って当日売る」ではなく、「当日〜翌日に建てて、数日で手仕舞う」ショートスイングです。ホールド期間を短く固定することで、材料の鮮度が落ちる前に降りられます。

“決算”や“イベント”と組み合わせる：勝率を底上げする二段構え

オルタデータ単体でも戦えますが、さらに勝率を上げたいなら「イベントの前後」に寄せます。例えば、決算、製品発表会、規制発表、カンファレンスなどです。イベントがあると、注目が増えた時に“買う理由”が明確になり、参加者が増えやすいからです。

実践例：決算の1〜2週間前にトレンドが上がる銘柄

決算前に検索が増えるのは、期待や思惑が溜まっているサインになり得ます。ここで重要なのは、決算ギャンブルをするのではなく、決算前の“期待相場”だけを取ることです。具体的には、決算の前日までにポジションを軽くする、または全て手仕舞うルールを置きます。これで、決算の不確実性を避けつつ、注目の増加だけを取りに行けます。

リスク管理の上級編：ニュースギャップと“流動性ショック”に備える

短期の個別株で怖いのは、夜間の悪材料で大きくギャップダウンすることです。これをゼロにはできません。できるのは「起きても致命傷にならない設計」です。

• 単一銘柄に資金を寄せない（テーマ分散・銘柄分散）
• 出来高が薄い銘柄は避ける（滑りやすい）
• 決算跨ぎを原則しない（やるならサイズを極小）
• ポジションの一部を利確しておく（ギャップで利益が消えるのを防ぐ）

特に初心者は、決算跨ぎを避けるだけで“予想外の大敗”が激減します。勝ちやすさより、負けにくさを優先してください。

運用のコツ：情報過多に溺れないための“観測窓”を決める

オルタデータは情報量が多すぎるのが欠点です。全部追い始めると、判断が遅れ、結局チャンスも損失も増えます。そこで観測窓を決めます。

• 毎日チェックするのは「急増」だけ（平常時は見ない）
• 急増が出たら、確認するのは「出来高」「20日高値」「指数地合い」だけ
• 材料の質を見極めるのは“5分だけ”と時間制限をつける

時間制限は重要です。短期はスピードが命で、調べすぎるほど乗り遅れます。調べるのは“買わない理由を見つける”ため、という意識がブレません。