「貸借倍率が1倍を割っている銘柄は、空売りが多いから踏み上げが起きる」——この説明は半分だけ正しいです。もう半分(重要な半分)は、なぜ売り方が「今すぐ買い戻さないといけない」状態に追い込まれるのか、その条件を具体的に理解することです。
本記事は、信用取引に不慣れな方でも判断できるように、貸借倍率・逆日歩・出来高・板・チャートの順に「踏み上げの起点」を作るロジックを分解し、最後にエントリーと撤退の手順まで落とし込みます。個別銘柄名は出さず、再現性のあるチェックリストと数値例で説明します。
- 踏み上げ(ショートスクイーズ)とは何か:初心者向けに最短で理解する
- 貸借倍率1倍割れが「踏み上げの材料」になる理由
- 踏み上げの“起点”を作る3条件:初心者でも観測できるものだけに絞る
- 踏み上げを“狙う銘柄”のスクリーニング手順(実務的に)
- 具体例:初心者が理解できる数値で、踏み上げの進行を追う
- エントリー設計:初心者でも守れる「2段階エントリー」
- 損切りと利確:踏み上げで最も大事なのは「勝ち逃げの設計」
- よくある失敗パターン:初心者が焼かれる典型を先に潰す
- 短期トレードとしての運用:時間帯ごとの見方
- チェックリスト:踏み上げ狙いを“再現”するための最小セット
- 制度信用と一般信用の違い:踏み上げを読む前に必ず知っておく
- “踏み上げの燃料”をもう一段精密に読む:初心者向けの観測メモ
- 増担保規制・注意喚起・空売り規制:踏み上げ相場で起きがちな「ルール変更リスク」
- 初心者向け:最小の練習メニュー(いきなり実弾でやらない)
- まとめ:貸借倍率1倍割れは“燃料”、起点と強制力を組み合わせて初めて武器になる
踏み上げ(ショートスクイーズ)とは何か:初心者向けに最短で理解する
踏み上げとは、空売り勢(売り方)が損失拡大を恐れて買い戻しを連鎖させ、株価が上に加速する現象です。ポイントは「買いたい人が増える」ではなく、売り方が買わされること。強制力のある買いが増えるので、短時間で値幅が出やすくなります。
売り方が買い戻す理由は主に3つあります。
- 含み損が拡大して、心理的・ルール的に耐えられなくなる(ロスカット)
- 株を借り続けるコスト(逆日歩など)が跳ね上がり、持っているだけで損が増える
- 株を借りられなくなる(品貸料、貸株不足、貸借ひっ迫)などで継続が難しくなる
この3つが同時に起きると、買い戻しが買い戻しを呼び、上昇が加速します。
貸借倍率1倍割れが「踏み上げの材料」になる理由
貸借倍率はざっくり言うと、信用取引の買い(融資)と売り(貸株)のバランスです。一般的に、貸借倍率が低い(特に1倍割れ)ほど、売りが優勢=売り方が多い状態を示唆します。
ただし、ここで勘違いしがちなのが「売りが多い=必ず上がる」ではない点です。売りが多い銘柄は、下がり続けているから売りが積み上がっているケースも多い。踏み上げは、売りの多さそのものよりも、売りが多い状態で“上がり始めた”ときの脆さから生まれます。
ポイント:踏み上げは「売りの多さ」×「上昇の起点」
式にするとこうです。
踏み上げの強さ ≒(売り方の滞留量)×(上昇が続く確度)×(買い戻しの強制力)
貸借倍率1倍割れは「売り方の滞留量」のヒントですが、残り2つ(上昇が続く確度・強制力)を見ないと、ただの“安いところで逆張りして焼かれる”行動になります。
踏み上げの“起点”を作る3条件:初心者でも観測できるものだけに絞る
条件1:下げ止まりのサイン(値動きの質が変わる)
踏み上げが始まる前に、まず「下がらない」状態が必要です。初心者が使いやすい観測ポイントは次の3つです。
- 前日安値・直近安値を割っても戻す(下ヒゲが増える)
- 出来高を伴う下げで安値更新したのに、終値が高い(投げが吸収される)
- 5分足・15分足で安値が切り上がる(小さな上昇トレンドの芽)
ここで重要なのは「底打ちを当てる」ではなく、「下方向の確率が下がってきた」と判断することです。
条件2:需給の変化(買いが“継続”する)
踏み上げの起点には、継続的な買いが必要です。継続を判断する材料として、次を使います。
- VWAPを超えて推移し、押し目でもVWAP付近で支えられる
- 出来高が増えながら価格が上がる(上げに実弾がある)
- 板の厚い売りを食っていく(見せ板は除外。約定が伴うか)
「一瞬の上ヒゲ」ではなく、買いが続く形に変わったかが焦点です。
条件3:売り方に“強制力”が生まれる(コストと締め付け)
ここがオリジナリティの核です。貸借倍率1倍割れの踏み上げで勝ちやすい局面は、売り方が「耐えられない」理由が明確なときです。観測しやすい順に並べます。
- 逆日歩の発生・急増:売り方が1日持つごとにコストが増える
- 貸株残(空売り残)や信用売り残の増加:滞留が増えている=燃料が増える
- ストップ高・大幅高で張り付く時間が長い:買い戻しができない時間が増える
逆日歩はわかりやすいですが、重要なのは「逆日歩が出たから買い」ではありません。逆日歩+上昇トレンド+売り残滞留の同時成立が、踏み上げの強制力を高めます。
踏み上げを“狙う銘柄”のスクリーニング手順(実務的に)
ここでは、毎朝15分でできるスクリーニング手順に落とし込みます。初心者でも再現できるよう、難しいデータは使いません。
ステップ1:候補の抽出(前提条件)
- 信用取引が活発(売買代金が一定以上、板が薄すぎない)
- 貸借銘柄(制度信用で空売りが入りやすい)
- 直近で悪材料が出て急落しているが、材料が出尽くした形になりつつある
「材料が出尽くした形」とは、悪材料が出た日の出来高が突出し、その後は出来高が落ち着きつつ、安値を更新しにくくなる状態です。
ステップ2:需給の偏り(貸借倍率・逆日歩)を確認
貸借倍率が1倍割れは、踏み上げの燃料として魅力があります。目安としては、0.7倍以下のように極端なものほど“燃料”は多い傾向があります。ただし極端に低い場合は、下落トレンドが強すぎるケースもあるので、次の「起点」が必須です。
逆日歩は「出ているか」「増えているか」を確認します。増加している局面は、売り方が持ち越しを嫌うため、短期の買い戻しが起きやすくなります。
ステップ3:起点の確認(チャートと板)
起点は次のどれかが見えたときです。
- 5分足での高値更新が2回以上(連続で高値切り上げ)
- VWAP上に復帰して、押しがVWAPで止まる
- 寄り付きの売りを吸収し、前日終値を明確に上回って維持
具体例:初心者が理解できる数値で、踏み上げの進行を追う
仮の例です。ある銘柄の終値が1,000円。悪材料で一度800円まで下落し、その後900〜1,000円で揉み合い。貸借倍率は0.8倍。逆日歩が前日から発生し、1株あたり1日で2円相当のコスト(実際は単位が異なる場合がありますが、イメージとして)。
場面A:踏み上げが始まらないパターン(罠)
寄り付きで990円→1,020円まで上がるが、出来高が細く、板の上に厚い売りが残ったまま。VWAP(当日平均約定価格)が1,010円なのに、株価がすぐ1,000円割れ。これは「買いが継続していない」ので、踏み上げの起点として弱いです。売り方は「まだいける」と判断し、むしろ売り増しが入りやすい局面です。
場面B:踏み上げの起点になるパターン
寄り付きで990円まで売られるが、出来高を伴ってすぐ1,010円へ回復。さらに1,020円の厚い売り板を出来高を伴って突破し、1,030円台で推移。押し目が1,020円付近(VWAP近辺)で止まる。ここで売り方の心理は「逆日歩コストを払って持つ価値があるか?」に変わります。
この状態で後場に入っても1,020円を割らず、1,040円を超えると、売り方の含み損は拡大し、買い戻しが連鎖しやすい。踏み上げの加速は、“高値を更新しているのに押しが浅い”ときに起きます。
エントリー設計:初心者でも守れる「2段階エントリー」
踏み上げは値動きが荒く、初心者がいきなりフルサイズで飛び乗ると振り落とされます。そこで、私は「2段階エントリー」を推奨します。
第1段階:起点の確認で小さく入る(試し玉)
- 条件:VWAP上で推移、5分足で高値更新、押しが浅い
- サイズ:通常の1/3〜1/2
- 損切り:VWAP明確割れ、または直近押し安値割れ
ここは“当てに行く”ではなく、“乗れるか確認する”段階です。
第2段階:売り方のギブアップが見えたら増やす(本玉)
次のようなサインが重なると、買い戻しが顕在化しやすいです。
- 厚い売り板を出来高で貫通し、その価格帯に戻らない
- 高値更新のたびに出来高が増える(加速の兆候)
- 後場寄りで一度押しても、すぐ買いが入る(売りが続かない)
この局面で増やすと、踏み上げの“加速”を取りやすくなります。
損切りと利確:踏み上げで最も大事なのは「勝ち逃げの設計」
踏み上げは、上がるときは速いですが、終わるときも速いです。初心者は「天井を当てにいく」より、反転のサインが出たら機械的に降りる方が結果が安定します。
損切りルール(必須)
- VWAP割れで撤退(当日の平均価格より下は勢いが死ぬ)
- 直近の押し安値割れ(上昇トレンドが崩れた合図)
- 出来高急増の陰線(買いの投げが出た可能性)
利確ルール(現実的)
- 1回目:直近高値更新で一部利確(利益を確定しメンタルを安定)
- 2回目:急騰後の最初の大陰線で残りを減らす
- 最終:ストップ高張り付きなど“買い戻しができない状態”の崩れで撤退
踏み上げは「持ち続ければ大儲け」ではなく、「崩れる前に降りる」ゲームです。
よくある失敗パターン:初心者が焼かれる典型を先に潰す
失敗1:貸借倍率だけで買う(起点がない)
貸借倍率1倍割れでも、トレンドが下のままなら踏み上げは起きません。売り方が正しい相場で、買い方が損失を抱えるだけです。必ず「VWAP上」「高値更新」「押しが浅い」のいずれかで起点を確認します。
失敗2:飛びつき買いで入って、最初の押しで損切り
踏み上げはボラが出ます。ブレイクした瞬間に全力で入ると、1〜2本の押しで投げさせられます。試し玉→本玉の順にし、押しの許容範囲(押し安値)を先に決めます。
失敗3:逆日歩を過信する
逆日歩が出ても、株価が上がらなければ売り方は耐えます。逆日歩は“追い風”であり、エンジンは価格と出来高です。
短期トレードとしての運用:時間帯ごとの見方
寄り付き:売りの吸収を見てから入る
寄り付きはノイズが多いです。初心者は「寄りで買う」より、寄り後の最初の押しを待つ方が勝ちやすい。寄りの売りを吸収してVWAPを超え、押しがVWAPで止まるなら起点になりやすいです。
前場引け〜後場寄り:踏み上げ加速の分岐
後場寄りで下に叩かれてもすぐ戻すなら、売り方は逃げ遅れやすい。一方、後場寄りでVWAPを割って戻らないなら撤退です。
大引け前:持ち越しは“別ゲーム”
踏み上げは翌日にギャップアップすることがありますが、同時にギャップダウンのリスクもあります。初心者は基本デイトレで完結させ、持ち越すならサイズを落として「最悪の朝」でも耐えられる前提で行います。
チェックリスト:踏み上げ狙いを“再現”するための最小セット
- 貸借倍率:1倍割れ(燃料がある)
- 起点:VWAP上で推移/高値更新/押しが浅い
- 継続:出来高が増えながら上昇(実弾がある)
- 強制力:逆日歩の発生・増加、張り付き時間、売り残の滞留
- 撤退:VWAP割れ、押し安値割れ、出来高急増の陰線
この5点が揃うほど、踏み上げの「加速区間」を取りやすくなります。
制度信用と一般信用の違い:踏み上げを読む前に必ず知っておく
同じ「空売り」でも、制度信用と一般信用では性格が違います。初心者が混乱しやすいので、踏み上げ目線で要点だけ整理します。
- 制度信用:取引所の制度に基づく信用取引。貸借取引(貸株・融資)の仕組みと結びつきやすく、貸借倍率や逆日歩が効いてきます。踏み上げの“燃料”が可視化されやすいのが強みです。
- 一般信用:証券会社が用意する在庫(貸株)を借りて売る形。貸借倍率や逆日歩の影響が薄い場合があり、在庫がなければ売れません。踏み上げというより「在庫枯れ→売れない→買いが優勢」の形になることがあります。
本記事のテーマ(貸借倍率1倍割れの踏み上げ)は、基本的に制度信用の需給が主戦場です。一般信用中心の銘柄は、貸借倍率が参考になりにくいケースがある点を覚えておいてください。
“踏み上げの燃料”をもう一段精密に読む:初心者向けの観測メモ
貸借倍率だけだと荒いので、もう少し精密に読むコツを紹介します。難しい計算は不要で、見る順番が重要です。
1)売り残が「増えているのに下がらない」=危険な積み上がり
売り方が増えている(信用売り残や貸株残が増える)にもかかわらず、株価が下がらない状態は、売りの効果が弱いことを意味します。これは踏み上げの前兆になりやすい。逆に、売り残が増えて株価が素直に下がっているなら、売り方が優勢で踏み上げはまだ遠いです。
2)価格帯別出来高(いわゆる出来高の厚いゾーン)を意識する
初心者はチャートの線(移動平均)だけを見がちですが、踏み上げは「どの価格帯で誰が捕まっているか」が重要です。例えば、900〜950円に出来高が厚く、そこを上抜けて維持できたなら、そのゾーンで売った人の含み損が増えやすく、買い戻し圧力が上がります。逆に、出来高の薄いゾーンでの上げは一瞬で戻りやすいです。
3)値幅制限(ストップ高・ストップ安)の影響を前提にする
日本株は値幅制限があるため、踏み上げが始まると「張り付き」という特殊な状態になります。張り付くと売り方は買い戻したくても約定できず、翌日に持ち越され、さらに不利になります。踏み上げを取りに行く側は、張り付きが“剥がれた瞬間”が最も危険だと理解してください。剥がれた後は、利確の売りと新規の空売りが同時に入って乱高下し、初心者が最も事故りやすい局面です。
増担保規制・注意喚起・空売り規制:踏み上げ相場で起きがちな「ルール変更リスク」
踏み上げ局面では、取引所や証券会社の規制が入ることがあります。初心者はここで「いきなり動きが変わった」ように感じて混乱します。代表的なものだけ押さえます。
- 増担保規制:信用取引の必要保証金が増えるなどして、信用買いが入りにくくなる。上昇の勢いが鈍る要因になります。
- 注意喚起銘柄:過熱のサイン。必ず下がるわけではありませんが、資金が引きやすく、急変動に拍車がかかります。
- 空売り規制(アップティックルール等):下落局面で空売りがやりにくくなるため、短期的に下げ渋りやすい一方、反発後は一気に売りが出ることもあります。
これらは「踏み上げが終わる合図」ではなく、「値動きの性質が変わる合図」です。初心者はルール変更が出たらサイズを落とし、VWAP割れ撤退を徹底するのが安全です。
初心者向け:最小の練習メニュー(いきなり実弾でやらない)
踏み上げは派手で魅力的ですが、最初から大きく張ると高確率で授業料になります。練習の順番を提案します。
- 観察だけ1週間:貸借倍率1倍割れの銘柄を毎日3つ選び、寄り→VWAP→後場寄り→大引けの動きをメモする(エントリーしない)
- 試し玉だけ:条件が揃った日に、通常の1/5〜1/10のサイズで入り、VWAP割れで必ず切る
- 利確の型を固定:高値更新で1/3利確、陰線で残りを減らす、のように“利確の動作”を習慣化する
この練習は地味ですが、踏み上げで一番重要な「撤退の反射神経」を作れます。勝率よりも、大負けしないことが最優先です。
まとめ:貸借倍率1倍割れは“燃料”、起点と強制力を組み合わせて初めて武器になる
貸借倍率1倍割れは、踏み上げを狙う上で強力な材料です。しかし、それだけで勝てるほど市場は単純ではありません。下げ止まり(値動きの質)→継続する買い(VWAPと出来高)→売り方の強制力(コストと締め付け)の順に確認し、試し玉から入り、VWAP割れで撤退する。これが初心者でも再現できる“踏み上げの取り方”です。
最後に一言だけ。踏み上げは魅力的ですが、負け方も派手です。勝つよりも先に「破滅しないルール」を決めてください。ルールを守れたときだけ、踏み上げの値幅は味方になります。


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