決算発表の直後、株価は「翌朝の寄り付きまで待たずに」動き始めます。日本株では、その主戦場がPTS(私設取引システム)です。PTSは出来高が薄い場面も多い一方で、情報が出た瞬間の需給が最も素直に出やすく、翌日の寄り付き(ギャップ)の方向性を読む材料の宝庫でもあります。
ただし、PTSの値段をそのまま信じると痛い目に遭います。なぜならPTSは、流動性・参加者・注文の偏りが大きく、「価格の見え方」が歪みやすい市場だからです。この記事では、初心者でも再現できるように、決算直後のPTSを“翌朝の寄り付きの予測ツール”として使う具体手順を、失敗しやすいポイント込みで徹底解説します。
- PTS取引とは何か:東証の延長ではなく別の市場
- 翌日の寄り付き価格は何で決まるのか:寄り前の需給オークション
- 決算直後に最初にやること:材料の強さを5分で分類する
- PTSを見る順番:価格ではなく“約定の重心”から入る
- 具体例:PTSの値段が“盛られている”ケースと“信頼できる”ケース
- 板(気配)で見るべきは3点だけ:厚さ・歪み・更新頻度
- 時間帯で精度が変わる:19時〜20時台と深夜は別物
- PTSの価格を「翌朝の寄り」に変換する簡易モデル
- 寄り付きの3パターンと、前夜PTSからの読み分け
- 翌朝の寄り前チェック:PTS予測を“検証”してから入る
- 実戦の“型”:決算PTSを翌日のデイトレに落とし込む
- PTS特有の落とし穴:スプレッドと約定しないリスク
- 記録テンプレ:10回で上達する“PTS→寄り”の検証ノート
- まとめ:PTSは「翌朝の寄り」を当てる道具ではなく、確率を上げる道具
- ギャップ幅(寄り付きの上げ下げの大きさ)をどう見積もるか:数字を使った現実的なレンジ推定
- 決算PTSで“本物の強さ”が出る材料:上方修正より効くもの
- 指数・先物・為替とセットで読む:寄り前にシナリオがひっくり返る典型
- 翌日以降も伸びる銘柄の共通点:2日目の罠を避ける
- 結局、PTSをどう使うと勝ちやすいか:最小のルールセット
PTS取引とは何か:東証の延長ではなく別の市場
PTSは東証の立会外で動く取引所外市場です。夜間でも売買でき、決算や適時開示が出た直後に価格が動くため、「翌朝の寄り付きは上か下か」を推定するために多くの短期勢が見ています。
重要なのは、PTSの値動きは“東証のミニチュア版”ではない点です。参加者構成が違い、注文の厚みも違います。極端な話、数千株の成行が入っただけで数%飛ぶ銘柄もあります。だからこそ、見るべきは「価格」単体ではなく、価格・板・出来高・時間帯・ニュースの質のセットです。
翌日の寄り付き価格は何で決まるのか:寄り前の需給オークション
寄り付きは、寄り前に溜まった注文を一発で約定させる「オークション」です。夜間PTSの取引は、翌朝のオークションに直接つながっているわけではありません。しかし実務上、PTSは次の3つを通じて寄り値に強い影響を与えます。
第一に、PTSで約定が積み上がると、翌朝の参加者が「新しいフェアバリュー」を認識します。第二に、PTSで売買した参加者は翌朝に追加で追随しやすく、寄り前注文に“癖”が出ます。第三に、PTSでの値動きがSNSや株サイトで拡散され、短期資金が寄り前に集まります。
決算直後に最初にやること:材料の強さを5分で分類する
PTSを読む前に、材料の強さを分類します。ここが曖昧だと、板読みがただの雰囲気になります。分類は次の3段階で十分です。
(A)強いサプライズ:売上・利益が市場予想(または会社計画)を明確に上回り、ガイダンス(通期見通し)も上方修正。配当増・自社株買い・増配など「資本政策」も伴うと最強です。
(B)微妙なサプライズ:数字は良いがガイダンスが弱い、または一過性要因(為替差益、補助金、特損の剥落)で見た目が良い。翌日の寄りは上でも、寄り天になりやすいゾーンです。
(C)悪材料:未達、ガイダンス下方、減配、構造問題(粗利悪化、在庫積み上がり、受注鈍化)など。PTSで一度反発しても、翌朝に再度売り直されやすいです。
ここで「市場予想」を厳密に追う必要はありません。初心者が実務で使うなら、会社計画の上方/下方修正と、配当・自社株買いの有無だけでも十分に精度が上がります。
PTSを見る順番:価格ではなく“約定の重心”から入る
多くの人が最初に見るのが「PTS終値」と「騰落率」です。しかし、翌朝の寄り値予測で本当に効くのは、どの価格帯で出来高が積み上がったか(約定の重心)です。理由は簡単で、出来高が薄い価格は、たまたま1回約定しただけの“点”に過ぎないからです。
具体的には、決算発表後30〜60分の間に、複数回約定が発生し、出来高が積み上がった価格帯を探します。そのゾーンが翌朝の寄り付きの「候補レンジ」になります。
具体例:PTSの値段が“盛られている”ケースと“信頼できる”ケース
例として、東証終値が1,000円の銘柄が決算を出したとします。PTSで一瞬1,120円(+12%)がついた。これだけ見ると「明日ストップ高かも」と思いがちです。しかし、もしその1,120円が出来高100株の単発約定で、直後に1,060〜1,080円のゾーンで出来高が積み上がっているなら、重心は1,070円付近です。翌朝の寄りは1,120円ではなく、1,060〜1,090円あたりに収束しやすい、という読みになります。
逆に、1,110円〜1,130円で断続的に約定し、出来高も数万株以上積み上がっているなら、そのゾーンは“多数の参加者が合意した価格”になっています。この場合、翌朝は高寄りしやすく、ギャップアップの継続(ギャップ・アンド・ゴー)が起きやすいです。
板(気配)で見るべきは3点だけ:厚さ・歪み・更新頻度
PTSの板は東証よりも騙しが入りやすいので、深読みは不要です。見るべきは次の3点だけです。
1)厚さ:最良気配の近辺(±0.5%以内)に、十分な数量が並んでいるか。数量がスカスカなら、価格は簡単に飛びます。つまり、その価格は“安定していない”。翌朝の寄りの予測材料としての価値が下がります。
2)歪み:買い板だけ分厚い、売り板だけ分厚い、といった歪みが続くか。決算が良いなら買い板が厚くなるのが自然ですが、重要なのは「厚い状態が維持されるか」です。すぐ消える厚みは信用しません。
3)更新頻度:板が頻繁に更新され、約定も伴っているか。板だけ厚くて約定がないのは、単に置かれているだけです。翌朝の寄りに効くのは、板の形ではなく“約定を伴った需給”です。
時間帯で精度が変わる:19時〜20時台と深夜は別物
決算の多い時間帯(15:00〜16:00に開示→夕方〜夜に取引が活発)では、19時〜20時台が最も情報が整理され、参加者が揃いやすい時間帯です。この時間帯の約定重心は、翌朝の寄りに反映されやすい傾向があります。
一方で深夜帯は参加者が減り、スプレッドが広がりやすく、少量で価格が動きます。深夜の上振れ・下振れは“ノイズ”として扱い、翌朝の予測は19〜22時の重心を優先します。
PTSの価格を「翌朝の寄り」に変換する簡易モデル
初心者が使うなら、複雑な計算は不要です。次の手順で十分に実戦投入できます。
手順1:決算発表後、30〜60分の約定が集中した価格帯を見つける(重心ゾーン)。
手順2:そのゾーンの上下に、どれくらい出来高があるかを確認する。上で出来高が膨らむなら強い、下で出来高が膨らむなら上値が重い。
手順3:翌朝の寄り前(8:30〜8:59)に、東証の板(気配)で、PTS重心ゾーンに寄っていくか、離れていくかを見る。
ここで大事なのは「PTSだけで完結させない」ことです。PTSは前哨戦で、最終決定は東証の寄り前板が握っています。PTS重心に寄っていくなら予測の確度は上がり、離れていくなら外れる確率が上がります。
寄り付きの3パターンと、前夜PTSからの読み分け
寄り付きには大きく3パターンがあります。PTSの見方もそれぞれ違います。
パターン1:高寄り→さらに上(ギャップ・アンド・ゴー)
条件は「PTSで出来高が積み上がり、売り板が薄く、翌朝の寄り前も買い気配が維持」です。こういう日は、寄り付き直後に押し目を待っても来ないことが多く、初動で乗れるかが勝負になります。判断のコツは、寄り付き後の最初の1〜3分で、VWAPが右肩上がりになっているか、出来高が連続しているかです。出来高が続くなら“本物の需給”で、押し目は浅いまま上がりやすいです。
パターン2:高寄り→失速(寄り天)
多いのがこのパターンです。PTSは上がったが、重心が低く、深夜の単発で上に飛んだだけ。あるいは数字は良いがガイダンスが弱い(B分類)など。翌朝の寄り前に売り板が厚くなり、気配が上に伸びないなら、寄り天を疑います。寄り天狙いの短期売買は難しいので、初心者は「寄り後に出来高が減ったら触らない」と割り切る方が安全です。
パターン3:安寄り→反発(悪材料の織り込み)
PTSで一度大きく売られ、ある価格帯で出来高が急増して止まった場合、翌朝は“投げが一巡した”シナリオが出ます。ここで重要なのは、PTSの下げが「ダラダラ」か「一気に」かです。一気に下げて出来高を伴って止まる(セリングクライマックスに近い)なら、翌朝は安寄り後のリバが狙えることがあります。ただし、構造悪の決算(C分類でガイダンスも悪い)では反発が続きにくいので、長く持たず短期で割り切ります。
翌朝の寄り前チェック:PTS予測を“検証”してから入る
前夜にPTSを見て予測を立てたら、翌朝に必ず検証します。ここをやる人は少ないですが、検証を積み上げると精度が一気に上がります。
見るのは次の順番です。まず、日経平均先物や関連セクターの気配がリスクオン/オフどちらに傾いているか。次に、当該銘柄の寄り前気配がPTS重心に近いかどうか。最後に、板の厚みと更新が「買いが支配」か「売りが支配」かを確認します。
この時点で、寄り前の気配がPTS重心から大きく乖離しているなら、前夜PTSはミスリードだった可能性が高いです。初心者はここで引くのが正解です。取らないことも立派な戦略です。
実戦の“型”:決算PTSを翌日のデイトレに落とし込む
ここからは実際の運用の型です。初心者でも再現できるように、条件と行動をセットで書きます。
型A:強いサプライズでの押し目買い(寄り後5〜15分)
条件:前夜PTS重心が高い、出来高が十分、翌朝も買い気配。
行動:寄り付き直後は追いかけず、5分足で最初の押し(高値更新失敗→小さな調整)を待ちます。押しが浅く、出来高が途切れず、VWAPの上で推移するなら、押し目で少しずつ入ります。損切りはVWAP割れ、または直近の押し安値割れ。利確は「出来高が減って上げが鈍る」「上ヒゲが連発」のどちらかで段階的に行います。
型B:微妙サプライズの寄り天回避(触らない)
条件:PTSが上がったが重心が低い、深夜の単発上げ、翌朝の板が重い。
行動:この日は触らない。理由はシンプルで、上も下も中途半端になりやすく、初心者の損益がブレます。代わりに「寄り後に出来高が急減したら寄り天の教材として記録する」ことに使います。
型C:悪材料の売られ過ぎリバ(寄り後1〜3分の反発のみ)
条件:PTSで急落→出来高急増→下げ止まり。翌朝の寄りがPTSの下げ止まりゾーン付近。
行動:寄り付き直後に反発が出たら短期で乗り、伸びなければ即撤退します。持ち越さない前提です。損切りは寄り直後の安値割れ。利確は「初動の戻り高値」か「前日終値の半分戻し」など、明確な目標を先に置きます。悪材料は戻り売りが強いので、欲張るほど逆回転が増えます。
PTS特有の落とし穴:スプレッドと約定しないリスク
PTSはスプレッドが広がりやすく、思った価格で約定しないことがあります。翌朝の寄り予測に使うだけなら問題ありませんが、実際にPTSで売買する場合は注意が必要です。
特に危険なのは、板が薄いのに成行で入ることです。数ティック滑って約定し、翌朝の寄り前に反対方向へ気配が動くと、逃げるにも逃げられません。初心者は「PTSで取引する」より「PTSで読む」に徹した方が成績が安定します。
記録テンプレ:10回で上達する“PTS→寄り”の検証ノート
上達の近道は、検証をルーティン化することです。難しい分析は不要で、次の項目を10回分だけ記録してください。10回で「自分が騙されやすいパターン」が見えてきます。
①前日終値、②決算分類(A/B/C)、③PTSの最高値と重心ゾーン、④PTS出来高、⑤深夜の値動きの有無、⑥翌朝の寄り前気配、⑦実際の寄り値、⑧寄り後の5分の方向、⑨その日の高値/安値、⑩反省(どこで読み違えたか)。
このノートが溜まると、あなたの“決算PTSレーダー”が育ちます。市場参加者全体の癖は変わりません。変わるのは、あなたがそれを見抜けるかどうかです。
まとめ:PTSは「翌朝の寄り」を当てる道具ではなく、確率を上げる道具
決算直後のPTSは、翌朝の寄り付きの方向性と幅を推定するうえで非常に有用です。ただし、価格だけを見ると簡単に騙されます。約定の重心、出来高の積み上がり、板の安定、時間帯、材料の強さ。この5点をセットで見て、翌朝の寄り前板で検証してから動く。これが一番堅い運用です。
最後にもう一度、実務で効く要点だけ言います。PTSの単発高値(安値)は捨てる。出来高が積み上がったゾーンだけを採用する。これだけで、翌朝の寄り読みの精度は別物になります。
ギャップ幅(寄り付きの上げ下げの大きさ)をどう見積もるか:数字を使った現実的なレンジ推定
方向だけ当てても、ギャップ幅が読めないと「高すぎて買えない」「思ったより小さくて妙味がない」になりがちです。ここでは、初心者でも計算できるレンジ推定を紹介します。ポイントは、決算サプライズの強さを“株価が動ける上限”であるボラティリティと結びつけることです。
まず、直近20日程度の値動きの大きさをざっくり把握します。難しければ、日足で「平均的な1日の値幅」を目で見てください。例えば、終値1,000円の銘柄が普段は1日30円(3%)くらい動くとします。ここに強いサプライズ(A分類)が出ると、1日値幅の2〜3倍が出ることが多い。つまり寄り付きギャップは+4%〜+8%あたりが現実的なレンジです。
次に、PTSの重心ゾーンを当てはめます。仮にPTS重心が1,070円(+7%)なら、これは“普段の2〜3倍の値幅”の範囲に収まっています。つまり翌朝の寄りもこのゾーンに来やすい。逆にPTSで1,150円(+15%)の単発が出ていても、普段のボラ(3%)から見て「5倍」です。よほどの資本政策や上方修正が重ならない限り、翌朝の寄りがそこまで届く確率は下がります。
このように、(普段の値幅)×(サプライズ係数)で「現実的なギャップ上限」を先に作り、PTS重心がその中に入っているかを見ると、余計な幻想を排除できます。
決算PTSで“本物の強さ”が出る材料:上方修正より効くもの
短期資金が本気で集まり、翌朝の高寄りが続きやすい材料には共通点があります。数字が良いだけでは足りないことが多い。特に効きやすいのは次のタイプです。
・ガイダンスの上方修正+確度の高い理由:受注残の増加、値上げの浸透、原価低下など「次も続く」根拠があると買いが持続しやすいです。
・自社株買い(規模が大きい/期間が短い)や消却:需給の改善が明確で、翌朝の寄り前に買い注文が集まりやすいです。
・減損懸念の払拭:不透明要因が消えると、空売り・様子見資金が一気に買い戻しに回り、PTSで出来高が膨らみやすいです。
逆に、数字は良くても「在庫の積み上がり」「粗利率の悪化」「一過性の特益」などが見えると、PTSは上がっても翌朝は寄り天になりやすい。材料の質を読むのは難しく感じるかもしれませんが、初心者はまず「ガイダンス(通期見通し)と資本政策」だけに集中すればOKです。
指数・先物・為替とセットで読む:寄り前にシナリオがひっくり返る典型
個別の決算が良くても、寄り前の地合いが悪いと高寄りが潰されます。特に日本株では、日経平均先物の動きと、ドル円の急変が寄り付きに直撃します。輸出比率の高い大型株はドル円の1円で想定以上に動くこともあります。
典型的なひっくり返りはこうです。前夜のPTSでは決算好感で+6%まで上げた。しかし夜間に米株が急落し、日経先物も下落。翌朝の寄り前板では買い気配が後退し、+2%程度まで寄り前に縮む。こういう日は、前夜PTSの熱量だけを信じて買うと、寄った瞬間に“現実”が来ます。
したがって、翌朝の最終判断では「個別の材料」よりも「指数と為替の方向」を優先します。PTSは個別材料の初動を映すが、寄りは市場全体の空気も含めた合成価格、と割り切るとブレが減ります。
翌日以降も伸びる銘柄の共通点:2日目の罠を避ける
決算サプライズは、1日で終わるものと、数日続くものがあります。2日目が難しいのは、初日で短期資金が一度利確し、押し目に見せて再度売られる“罠”が出るからです。
伸びる銘柄の共通点は「出来高が初日で終わらない」ことです。初日に出来高が爆増し、2日目も一定の出来高が続くなら、本尊(大口)の資金がまだ残っています。逆に初日の出来高がピークで、2日目に急減するなら、材料出尽くしの可能性が上がります。
初心者が2日目で失敗しないコツは、初日の高値を超えるまで買わないことです。強い銘柄は、押してもどこかで再度高値を試します。高値を超えないうちは「強そうに見える弱さ」の可能性があります。高値更新=需給がまだ生きているサイン、と捉えると安全度が上がります。
結局、PTSをどう使うと勝ちやすいか:最小のルールセット
最後に、この記事の内容を“最小のルール”に落とします。覚えるのはこれだけでいいです。
①決算材料をA/B/Cで分類(迷ったらB)。
②PTSは単発高値ではなく、出来高が積み上がった重心ゾーンを見る。
③重心が「普段の値幅×2〜3倍」以内なら信頼度が上がる。
④翌朝は寄り前板でPTS重心に寄るかどうかを検証。離れたら触らない。
⑤触るなら“型”を決める(Aは押し目、Bは回避、Cは短期リバのみ)。
この5つだけで、決算の翌朝に「何となくで触って負ける」確率は大きく下がります。相場は当て物ではありません。勝ちやすい局面だけを選び、外れやすい局面では参加しない。PTSは、その選別を助けるための優秀なレーダーです。


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