決算発表の夜、PTS(私設取引システム)で株価がジェットコースターのように上下する場面があります。売買代金が薄いまま一方向に飛び、数分後に逆方向へ全戻し、最後は結局「ほぼ変わらず」で引ける——この手の乱高下は、情報の解釈が市場参加者に行き渡る“速度差”と、PTS特有の流動性の薄さが組み合わさって起きます。
本記事は、決算直後のPTSの動きを「ギャンブル」にしないための実務的なフレームを提示します。読むべき数字、初動の誤読パターン、板と約定の癖、注文設計、翌営業日にどう繋げるかまで、初心者でも再現しやすい形に落とし込みます。
PTS乱高下が起きる構造:なぜ“最初の値段”は当てにならないのか
PTSは、東証の立会時間外に取引できる場です。利便性の一方で、東証本市場よりも参加者が少なく、板が薄く、スプレッド(買値と売値の差)が広がりやすいというクセがあります。ここに決算材料が重なると、次の3つが同時に起きます。
①流動性プレミアム(薄い板が価格を歪める)
PTSでは数千株〜数万株程度の成行が入るだけで、複数ティック一気に飛ぶことがあります。本市場なら吸収されるサイズでも、PTSだと「価格を動かしてしまう」ため、最初の数分は“需給ショック”の要素が強くなります。
②情報の非対称(決算の読みが間に合わない)
決算短信の数字は一見わかりやすいようで、実際は「会社計画」「市場コンセンサス」「ガイダンスの質」「一過性要因」の解釈が必要です。最初に動いた参加者が正しく読めているとは限らず、誤読が誤読を呼びます。
③参加者の目的が混在(ヘッジ・利確・仕込み)
PTSは“翌日のギャップ”を狙う短期資金、ポジション調整、材料反応の初動取りなど、目的がバラバラです。売買の意図が揃わないため、値が定まるまで時間がかかります。
決算直後に見るべき「最小セット」:初心者が迷わないチェック順
決算を全部読むのは無理です。PTSで勝負するなら、短時間で誤読を避けるための“最小セット”に絞ります。おすすめは次の順番です。
1)前年比ではなく「会社計画」と「修正の有無」を先に見る
初心者が陥りやすいのが「前年同期比が良い=買い」という単純化です。株価は基本的に将来の期待で動くので、まずは会社が示す通期計画と、上方修正・下方修正の有無を確認します。たとえ今期Qが良くても、通期計画が据え置きで“保守的に見える”場合、PTSでの買いは一巡後に叩かれやすいです。
2)営業利益の“質”を見る:為替差益・補助金・一過性を分離
数字が良くても、その内訳が一過性(例:補助金、持分法、為替差益、固定資産売却益)に寄っていると、翌日の本市場では評価が剥げます。短信の注記やサマリーで一過性要因が触れられていないか確認します。
3)ガイダンスの「言い回し」を読む:保守的か、踏み込んだか
決算説明資料が出る場合は、見出しの言い回しがヒントです。「堅調に推移」「慎重に見通し」など曖昧な表現が多いと市場は不安視しがちです。一方で「増配」「自社株買い」「中期目標の前倒し」など、行動が伴う言葉は需給に直結しやすいです。
4)コンセンサスとの差を推定する:サプライズの方向を決める
PTSで“最初に飛ぶ”のはコンセンサスとの差が大きいときです。ただし初心者はコンセンサスを正確に把握しづらいので、次善策として「直近の株価位置」と「事前の値動き」を手掛かりにします。
・決算前に上がっていた:市場は強気期待を織り込んでいる可能性 → 良決算でも出尽くしになりやすい
・決算前に売られていた:市場は弱気 → 会社計画が無難でもリバウンドしやすい
PTSの板・歩み値の読み方:乱高下の“正体”を分解する
PTSは板が薄いので、板読みの精度がそのまま損益に直結します。ここでは「見てはいけないもの」と「見るべきもの」を整理します。
見るべき1:スプレッドの幅(入った瞬間に不利になっていないか)
PTSはスプレッドが広がりやすいです。例えば本市場で2〜3ティックの銘柄でも、PTSでは10ティック以上開くことがあります。スプレッドが広い状態で成行を使うと、約定した瞬間に大きく不利になります。成行は原則封印し、指値で入り、指値で出るのが基本です。
見るべき2:出来高の“連続性”(単発か、波として続くか)
乱高下の多くは、単発の成行で飛んだ後に、追随が続かず反転します。歩み値が「単発の大きな約定→沈黙」なら、需給ショックで終わる確率が高い。一方で、同方向に小口〜中口の約定が連続し、価格帯が少しずつ上(下)に移動していくなら、本当に評価が更新されている可能性が上がります。
見るべき3:節目の価格帯での反応(前日終値、直近高安、決算前の始値)
初心者でも使える節目は3つです。
・前日終値:最も参加者が意識する基準点
・直近の高値/安値:ポジションの損益分岐が集中しやすい
・決算前の始値:当日の期待の“出発点”
PTSの初動がこれら節目を一気に抜けても、節目の少し先で失速することが多いです。節目の直上直下で板が厚くなる、約定が詰まる、反転のヒゲが出るなどの“抵抗の兆候”があれば、追いかけるより「落ち着くまで待つ」方が期待値が高くなります。
勝ちパターンを3つに分ける:乱高下を“型”に落とす
決算PTSの戦い方は、大きく3つに分けると設計しやすくなります。全部やる必要はありません。初心者はどれか1つに絞り、手順を固定した方が再現性が上がります。
型A:初動誤読リバーサル(飛びすぎ・売られすぎの修正を取る)
狙い:薄い板で飛んだ価格が、読み込みの進展とともに適正に戻る動きを取る。
前提:初動が極端(急騰/急落)だが、出来高が続かない。節目で失速している。
具体例:「営業利益+50%」でPTS急騰→注記を見ると固定資産売却益が大半→追随買いが止まり、前日終値近辺へ戻る。
エントリーの考え方:最初の急変後、1〜2回目の戻しで“戻りが鈍い”ことを確認してから。逆張りは早すぎると踏まれます。
利確/損切り:利確は前日終値や節目までの“戻り”を第一目標にし、欲張らない。損切りは、直前の急変高値(安値)更新で機械的に切る。
型B:評価更新ブレイク(本当に強い決算のときだけ追随する)
狙い:PTSで形成された高値圏が、翌営業日の寄り付きでも維持され、ギャップアップ後にさらに伸びるケースを取る。
前提:上方修正+増配/自社株買いなど、需給を伴う材料。歩み値が連続し、スプレッドが徐々に縮む。
具体例:通期上方修正+増配+自社株買い枠→PTSで買いが断続的に入り、価格帯が段階的に切り上がる。
エントリーの考え方:PTS高値を一度試して押し、押しが浅いまま再度高値を超える動き。これを“二段ロケット”と捉え、ブレイクの再現を待って指値で入る。
利確/損切り:利確は翌日の寄り付き後の値動きまで視野に入れ、PTSでは半分だけ確定するなど分割が有効。損切りは「押し安値割れ」か「出来高が途切れてスプレッドが急拡大」のどちらかで切る。
型C:翌朝ギャップの“戻り売り/押し目買い”の仕込み(PTSは準備、勝負は翌日)
狙い:PTSは無理に取らず、翌朝の寄り付きで起きやすい「一巡の投げ/利確」を取るために、価格帯と需給を事前に把握する。
前提:PTSは薄く、約定コストが高い。情報は良いが、夜の段階では相場が定まっていない。
具体例:良決算でPTSは上昇するが、スプレッドが広く入れない→翌朝のギャップアップ後、最初の利確でVWAP付近まで押すのを待つ。
この型は、初心者に最も向きます。PTSで無理に稼がなくても、翌日の本市場で流動性が戻った状態で戦えるため、注文が通りやすく、損切りもしやすいからです。
注文設計:PTSでやってはいけないこと、やるならこうする
やってはいけない1:成行で飛び乗る
PTSは板が薄く、成行は価格を壊します。想定より上で買って下で売る、最悪の約定になりやすい。指値のみが基本です。
やってはいけない2:ロットを本市場と同じにする
PTSは想定外の滑りが起きます。初心者は本市場の半分以下、できれば3分の1以下から始め、約定の癖を体で覚えるべきです。
やるなら1:指値は“節目の内側”に置く
スプレッドの外側に指値を置くと、約定しないか、約定しても不利になります。買いなら買い気配の少し上、売りなら売り気配の少し下など、“節目の内側”で、約定確率と価格を両立させます。
やるなら2:分割で入って分割で出る
一発で入ると、約定が偏って取り返しがつかない。半分→残り半分のように分割し、逆方向に振れたときに逃げ道を残します。
「勝ってるようで負ける」典型例:コストと税金を見落とす
PTSは“取れた気がする”のに、トータルで負ける罠があります。
・スプレッド負け:1回のトレードでスプレッドが0.5%あると、往復で1%のハンデになります。短期では致命的です。
・手数料の相対増:回転数が増えるほどコスト比率が上がります。
・損切りが遅れる:薄い板での損切りは想定以上に滑ります。損失が膨らみやすい。
このため、初心者は「PTSで無理に利益を出す」よりも、PTSを使って“翌日の作戦を固める”方が、期待値が高いケースが多いです。
翌朝までの実務フロー:決算夜〜翌営業日のテンプレ
ここからは、実際にどう動くかのテンプレです。毎回同じ手順にすることで、感情で動く割合を減らせます。
Step1:決算直後は5分待つ(最初の値段に触らない)
最初の5分は誤読と成行のぶつかり合いが多い時間帯です。まずは値動きの方向、出来高の連続性、スプレッドの幅だけ観察します。
Step2:最小セットを確認し、シナリオを1つに絞る
「上方修正+増配」など明確なら型B/型C、微妙なら型A/型C。シナリオは最大でも1つに絞り、反対シナリオは“損切り条件”として扱います。
Step3:価格帯を3点メモする(翌朝の意思決定が速くなる)
・PTS高値/安値
・前日終値
・直近高安(週足・日足の目立つところ)
この3点が翌朝の押し目/戻りの基準になります。
Step4:翌朝の「最初の15分」の想定を立てる
寄り付きは「利確」「投げ」「指数の影響」が混ざりやすく、値が荒れます。想定は2つだけで十分です。
A:寄り天で落ちる→VWAP付近まで押したら押し目買い
B:寄り後も強い→押しが浅いなら高値更新で順張り
初心者向けの“安全装置”:これだけは守るルール
決算PTSは魅力的ですが、初心者が資金を守りながら経験値を積むには、最低限のルールが必要です。
ルール1:PTSでの新規建ては「スプレッドが狭い時だけ」
具体的には、普段の本市場でのスプレッド感覚と比べて明らかに広いなら触らない。
ルール2:損切りは価格ではなく“構造の崩れ”で決める
出来高が途切れ、スプレッドが拡大し、節目を割る。これらが揃ったら撤退。
ルール3:翌朝まで持ち越すなら、ポジションは小さくする
決算はギャップが出ます。想定外の窓で逃げられない可能性を前提に、持ち越しロットを落とす。
検証のやり方:再現性を作る“自分だけのデータ”
「決算PTSは儲かる/儲からない」ではなく、どの条件なら期待値が上がるかを自分の取引環境で検証します。初心者がやるべき記録は3つだけです。
①材料の分類:上方修正、下方修正、増配、自社株買い、サプライズなし、など
②PTSの状態:スプレッド幅、出来高の連続性、節目での反応
③翌日の結果:寄り付きのギャップ幅、寄り後15分の高安、VWAPとの位置
これを20〜30事例集めるだけで、「自分は型Aが得意」「このセクターはPTSが機能しやすい」などの傾向が見えてきます。感覚ではなく、手元のデータで戦うのが最短です。
まとめ:PTSは“勝負の場”ではなく“情報優位を作る装置”として使う
決算直後のPTS乱高下は、最初の値段が正しいとは限りません。薄い板、誤読、参加者の目的混在が価格を歪めます。だからこそ、初心者は「PTSで無理に取る」より、読みのテンプレと注文設計で期待値を上げるべきです。
本記事のポイントは次の通りです。
・最小セット(会社計画、修正、質、ガイダンス)に絞って誤読を減らす
・板と歩み値で“単発の飛び”と“評価更新”を見分ける
・勝ちパターンを型A/B/Cに固定し、手順を毎回同じにする
・成行禁止、ロット縮小、翌日勝負という安全装置で資金を守る
決算は年間を通じて繰り返し訪れます。ルール化できれば、毎回同じ土俵で改善できます。まずは小さく、テンプレ通りに、検証しながら積み上げてください。


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