- 既存店売上(既存店売上高)とは何か:数字の意味を1分で理解する
- 「高速報」とは:なぜ決算より先に株が動くのか
- まず押さえるべき“3つの分解”:客数×客単価×粗利
- 実務(※ここでは「実際の手順」)で使える:高速報→上方修正の“連鎖モデル”
- どの企業が「高速報トレード」に向くか:向く銘柄・向かない銘柄
- 情報ソースの最短ルート:何をどこで見るか
- 曜日要因・天候・イベントを“言い訳”にしない:データの罠と対策
- 「上方修正の確度」を上げるチェックリスト:数字以外を見る
- トレード設計:発表タイミング別の3パターン
- 「買われる月次」と「売られる月次」の違い:市場が気にするポイント
- 具体例で理解する:架空ケースで「上方修正ルート」を再現
- “数字の裏”を読む:客数が伸びないのに既存店が強いとき
- 逆に狙い目:株価が弱いのに月次が改善し始めたとき
- リスク管理:小売の月次は「外れたときに痛い」
- チェック手順をテンプレ化する:毎月やること(30分で終わる)
- まとめ:高速報は「早い情報」ではなく「早い期待」を読むゲーム
- もう一段深く:月次から「四半期EPSの上振れ幅」をざっくり推計する
- 織り込み度を測る:株価と出来高で「期待の熱量」を数値化する
既存店売上(既存店売上高)とは何か:数字の意味を1分で理解する
小売業の「既存店売上」は、すでに営業している店舗(既存店)だけの売上の増減率です。新規出店の寄与を除いているため、本業の勢いを短い周期で観測できるのが最大の価値です。たとえば「全店売上+10%」でも、新店効果で押し上がっているだけなら、採算・在庫・人件費が崩れた瞬間に利益が吹き飛びます。既存店売上はその“化粧”を落とし、本業の体温を測る指標です。
投資で重要なのは「売上が増えた」ではなく、利益が増える確度が高い増え方かです。既存店売上は、利益に直結しやすい要素(客数、客単価、値上げの浸透、セール依存度)を推定でき、業績上方修正の“前兆”になり得ます。
「高速報」とは:なぜ決算より先に株が動くのか
小売は、月次で「既存店売上速報(=高速報)」を出す企業が多い一方、決算は四半期に1回です。つまり市場は、決算発表の何週間も前から、月次データを材料に“業績の上振れ/下振れ”を織り込みます。ここで勝負が決まります。
株価は「結果」ではなく「期待」で動きます。高速報が連続で強いと、市場は次の決算での上振れ(あるいは会社側の上方修正)を先回りして買い、決算当日は「事実売り」になりやすい。逆に高速報が弱いと、決算を待たずに売られ、下方修正リスクがプレミアムとして株価に織り込まれます。
まず押さえるべき“3つの分解”:客数×客単価×粗利
高速報を見るとき、単に「既存店+◯%」で判断すると事故ります。最低限、次の3点で分解してください。
①客数(トラフィック):客数増は“構造的な強さ”になりやすい。広告や立地、商品力の勝ち筋がある可能性が高いからです。
②客単価(値上げ・高単価化):値上げによる客単価増は利益に直結しやすい反面、遅れて客数が落ちることがあります。数字の持続性を疑うべきポイントです。
③粗利(値引き依存):既存店が強くても、セールで無理に売っていれば粗利が悪化し、営業利益は伸びません。月次に粗利率まで出す会社は多くないので、在庫回転(在庫の増え方)や、次の決算での売上総利益率のトレンドを想定しておきます。
実務(※ここでは「実際の手順」)で使える:高速報→上方修正の“連鎖モデル”
初心者でも再現できるように、機械的な連鎖モデルに落とします。結論から言うと、上方修正に繋がりやすいのは次の形です。
(A)既存店が強い(月次2〜3回連続) → (B)会社計画に対して進捗が前倒し → (C)コンセンサス(市場予想)が追いかける → (D)会社が上方修正 or 決算でサプライズ
あなたが狙うのは、(A)の段階で入り、(C)〜(D)で一部利確し、(D)後は需給を見て撤退する、という“期待の移り変わり”です。
逆に避けるべきは、「高速報が良い」だけで(D)までホールドすることです。上方修正が出ても株価が上がらない、あるいは下がるのは、(C)の段階で買われ尽くしているからです。
どの企業が「高速報トレード」に向くか:向く銘柄・向かない銘柄
同じ小売でも、月次の効き方が違います。向くのは次の特徴を持つ企業です。
・月次の開示が速い:発表が営業日寄りで、場中に材料視されやすい。発表が遅い企業は、すでに市場に情報が回っていることが多い。
・売上変動が利益に直結しやすい:固定費比率が高い業態(アパレル、専門店など)は、売上の上振れが利益レバレッジになりやすい。
・通期計画が保守的:会社が慎重なガイダンスを出すタイプだと、月次の上振れが“上方修正の余地”として残りやすい。
逆に向かないのは、(1)日用品でディフェンシブすぎる、(2)EC比率が高く既存店の意味が薄い、(3)販促で数字がブレやすく粗利が読めない、などです。
情報ソースの最短ルート:何をどこで見るか
高速報トレードで重要なのは、情報の“早取り”です。初心者でも現実的なルートを示します。
・企業IR(適時開示/月次開示):最優先。PDFやHTMLで出ます。まずは「月次」「既存店」「速報」などのキーワードで企業サイトのIRページをブックマークします。
・TDnet(適時開示情報閲覧サービス):月次をTDnetに載せる企業もあります。朝のチェックリストに入れます。
・証券会社のニュース:見出しだけでいい。速度と一覧性が高い。
・決算カレンダー:月次が強いとき、次の決算発表日までの“残り営業日”が、トレード期間の上限になります。
やってはいけないのは、SNSの切り抜きで判断することです。数字の定義や前年比の比較条件(曜日要因、うるう年、天候)を落とした情報は、売買の根拠になりません。
曜日要因・天候・イベントを“言い訳”にしない:データの罠と対策
月次にはノイズが多いです。よくある罠は次の3つです。
①曜日配列(カレンダー):土日の数、祝日位置が違うだけで売上が動きます。前年同月と曜日がズレると、見た目の前年比が歪みます。可能なら「前年差」ではなく「2年スタック(2年前同月比も見る)」で判断します。
②天候要因:寒波・猛暑・台風で客数が落ちる/伸びる業態があります。重要なのは“天候が正常化した次月に戻るか”です。1回の数字で結論を出さず、連続性で見ます。
③値上げの浸透:客単価が上がって既存店が強く見えても、数量が落ちていると、いずれ反動が来ます。決算の注記(客数・客単価の説明)と整合しているかを必ず確認します。
「上方修正の確度」を上げるチェックリスト:数字以外を見る
上方修正は、売上だけでなく、会社の“余地”で決まります。高速報が強いときに、次の項目も同時に点検します。
・通期計画の進捗率:四半期の売上・営業利益の進捗が高いのに会社が据え置くなら、上方修正の余地が残ります。
・原価・物流費・人件費:売上が伸びてもコストが上がれば利益は伸びません。原材料高・運賃・最低賃金の影響が強い業態は要注意です。
・在庫の積み上がり:在庫が増えすぎると、次の月次で値引き処分→粗利悪化のパターンが出ます。決算短信の棚卸資産の増減や、月次で在庫を出す会社なら在庫も見ます。
・既存店以外の分母:EC、卸、海外など、既存店以外の売上比率が大きい会社は、既存店が強くても業績全体に効きにくい。事業セグメントの比率を事前に把握します。
トレード設計:発表タイミング別の3パターン
同じ高速報でも「いつ出るか」で戦い方が変わります。
パターン1:寄り前に発表(8:00〜9:00台)
寄り付きがギャップアップしやすい。ここで無策に飛びつくと高値掴みになります。基本は、寄り付き後の初動を見て、VWAP(出来高加重平均価格)付近への押しを待つ。押しが浅く、歩み値が連続で板を食い上げるなら、強い需給が入っているサインです。
パターン2:場中に発表(10:00〜14:00)
板が薄い銘柄ほど急騰・急落しやすい。初心者は、初動で追わず、1〜2回の押し戻し後にトレンドが再開する局面を狙う方が再現性が高い。出来高が前日同時刻比で何倍になっているかを見ます。
パターン3:引け後に発表
PTSで先に織り込まれます。翌朝の寄り付きは“PTSの期待”を含んだ価格になります。翌朝は、前日終値からのギャップと、寄り付き後の出来高の伸びを比較して、買いの本気度を判断します。
「買われる月次」と「売られる月次」の違い:市場が気にするポイント
経験上、月次が強くても売られるケースがあります。見分けのコツは「市場の不安を消せたか」です。
買われる月次:客数も強い/既存店が連続で改善/会社コメントが具体的(値上げ浸透、カテゴリー別好調など)/前年の比較が厳しい中でプラス。
売られる月次:客単価だけで押し上げ/販促依存(セール)/天候要因の言い訳のみ/前月の反動が強い/在庫懸念が消えない。
ここで重要なのは、あなたが“会社の立場”で考えることです。上方修正は、投資家の願望ではなく、会社が説明責任を負える形で出すもの。説明可能性が低い上振れ(たまたま良かった)は、上方修正に繋がりにくい。
具体例で理解する:架空ケースで「上方修正ルート」を再現
実在企業名を出さず、誰でも当てはめられる架空ケースで説明します。
ケース:アパレルA社
・前四半期:在庫が重く、値引きで粗利が悪化。株価は弱い。
・今月の高速報:既存店+12%、客数+5%、客単価+7%。会社コメントに「値引き比率を抑えつつ新作比率が上昇」とある。
・翌月も高速報が強い:既存店+10%、客数+4%。
この時点で“在庫懸念の解消”が市場の最大の関心です。あなたは、決算まで残り20営業日だとして、(1)高速報直後の押し目で小さく入る→(2)次月も強いのを確認して増やす→(3)決算2〜3日前に一部利確、という段階的な組み立てができます。
この戦略の肝は、決算当日に賭けないことです。上方修正が出るなら事前に買われます。出なければ失望されます。期待が最大化する前に利益を固定するのが、初心者が生き残る方法です。
“数字の裏”を読む:客数が伸びないのに既存店が強いとき
客数が弱いのに既存店がプラスのとき、原因はだいたい次のどれかです。
・値上げの成功:短期的には利益に効くが、客数が遅れて落ちるリスク。次月以降の客数に注目。
・高単価商品の比率上昇:ミックス改善は良いが、景気悪化で崩れやすい。景気敏感度を考慮。
・セールの前倒し:数字は良く見えるが粗利は悪い可能性。決算の粗利率が下がるなら株価は伸びにくい。
この局面での作法は、「上方修正の可能性」ではなく「決算での失望リスク」を定量化することです。たとえば、既存店が+8%でも客数が−6%なら、持続性は低い。ポジションサイズを落とすか、短期回転に徹します。
逆に狙い目:株価が弱いのに月次が改善し始めたとき
初心者が勝ちやすいのは、すでに人気化した銘柄の追いかけではなく、悪材料が出尽くした後の改善初動です。小売でよくあるのは「在庫過多→値引き→利益悪化→株価下落」の後に、在庫が正常化して月次が戻り始める局面です。
この場合、月次がいきなり強く跳ねるというより、マイナス幅が縮小し、ゼロ近辺に戻り、プラスに転じる、という階段状になります。市場は“底打ち確認”を待っているため、改善が見えた瞬間にリレーティング(評価の修正)が起きやすい。
狙い方は、(1)最初の改善月次で監視銘柄に登録、(2)次の月次で改善が続くのを確認、(3)25日移動平均線やVWAPを上抜けてきたらエントリー、という順番が堅いです。
リスク管理:小売の月次は「外れたときに痛い」
高速報トレードは情報の先回りなので、外れると損が大きくなりやすい。初心者向けに、最低限のルールを決めます。
・損切りは価格で決める:材料の解釈で粘らない。たとえば「高速報発表日の安値割れ」や「VWAP明確割れ」など、機械的なラインを置きます。
・ポジションは分割:一括で入らず、月次の連続性を確認しながら増やす。1回の月次で全力は事故の原因です。
・決算を跨ぐ量を減らす:決算はギャップで逃げられないことがあります。跨ぐなら、最悪のケースでも許容できるサイズに落とします。
・指数地合いを無視しない:小売は内需でも、指数が崩れると巻き込まれます。日経先物が急落している日、月次が良くても上がりにくいことがあります。
チェック手順をテンプレ化する:毎月やること(30分で終わる)
習慣化できる形に落とします。月初のどこかで、次の作業をしてください。
①月次発表がある小売銘柄のリストを持つ:10〜30銘柄で十分。増やしすぎると見切れません。
②発表日の前日に「前月」「前年同月」「2年前同月」を確認:比較が厳しい月(前年が高い)でプラスなら強い、と判断できます。
③発表当日は、寄り付き前に“想定シナリオ”をメモ:強ければどこで買うか、弱ければ見送るか。事前に決めておくと感情で追わない。
④発表後は、出来高と価格の反応を観察:材料が良いのに上がらないなら、すでに織り込み済みの可能性。逆に材料が普通でも上がるなら、需給が先に動いている可能性。
⑤決算までの残り日数で出口を決める:いつまでに一部利確するか、跨ぐかを決めます。
まとめ:高速報は「早い情報」ではなく「早い期待」を読むゲーム
小売株の既存店売上高速報は、決算より早く業績の方向性を示すことがあります。しかし、重要なのは数字そのものではなく、市場参加者の期待がどの段階にあるかです。月次が強い→買われる、ではなく、月次が強い→期待が上がる→織り込まれる→事実売り、という“時間差”を前提に設計すると、初心者でも勝率が上がります。
最初は、あなたが普段使う身近な店舗の業態(ドラッグ、アパレル、外食など)から始めてください。ビジネスの肌感がある業態ほど、月次の数字が腹落ちし、売買判断がブレにくい。高速報を「月1回の定点観測」として仕組みにしてしまえば、短期でも中期でも、上方修正の波を取りにいけます。
もう一段深く:月次から「四半期EPSの上振れ幅」をざっくり推計する
ここからがオリジナリティの核心です。高速報を“見た目”で終わらせず、株価に効く形(利益)へ変換します。精密なモデルは不要で、初心者でもできるラフ推計で十分です。
ステップ1:売上の上振れ額を作る
まず、会社の四半期売上計画(または前年同四半期売上)を100と置き、月次の既存店前年差を当てます。例として、既存店+8%が3か月続いたなら、四半期の既存店は概ね+8%近辺、と仮置きします(実際は月ごとに重みが違うが、最初は平均でOK)。
ステップ2:利益レバレッジ(営業利益率の“伸び”)を仮置きする
小売は固定費(家賃、人件費、物流、広告)を多く抱えます。売上が上振れると、固定費が薄まり、営業利益率が改善しやすい。過去の決算短信で、売上が伸びた局面に営業利益率が何bp(0.01%)改善したかを見て、たとえば「売上+5%で営業利益率+0.5pt」など、ざっくりの感応度を決めます。
ステップ3:市場が驚く水準かを判断する
株価に効くのは“コンセンサスとの差”です。証券会社のニュースや決算プレビューで市場予想が分かるなら、それと比較します。もしあなたのラフ推計で「営業利益が市場予想より10%上」と出るなら、上方修正や決算サプライズの確度が上がります。逆に「市場予想と同程度」なら、すでに織り込まれている可能性が高い。
このラフ推計を毎月アップデートすると、月次の数字が“材料”ではなく“見積りの更新”になり、トレードの精度が上がります。
織り込み度を測る:株価と出来高で「期待の熱量」を数値化する
月次が強いのに上がらない、あるいは普通なのに上がる。こういう場面は、数字ではなく需給が支配しています。そこで、初心者でも使える“織り込み度”の見方を提示します。
①月次発表前の5営業日騰落
発表前にすでに5〜10%上がっているなら、リークではなく“予想買い”が入っている可能性が高い。発表当日は上がりにくくなります。
②発表当日の出来高倍率
当日出来高が直近20日平均の3倍以上になり、なおかつ終値が高値圏で引けるなら、実需(本尊)が入っている可能性があります。逆に出来高だけ増えて陰線で引けるなら、利確売りが優勢で、期待が一巡したサインです。
③VWAPを軸に「誰が勝っているか」を見る
強い銘柄は、押してもVWAPを割り込みにくい。VWAP割れが続くなら、月次は良くても“高値の買い方が損をしている”状態で、上値が重い。あなたは、VWAP回復を待つか、撤退を優先すべきです。
織り込み度の把握は、上方修正狙いで最も重要です。上方修正が出ても上がらない局面の多くは、ここで説明できます。


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