株式投資で「儲かる確率」を上げたいなら、まず見るべきは“企業が資本をどう使って利益を作っているか”です。売上が伸びている、話題になっている、テーマに乗っている──そういう材料は短期では効きますが、結局は利益と資本政策が株価の土台になります。
その土台を一枚で要約する指標がROE(自己資本利益率)です。ROEが上がると「資本効率が改善した」と評価されやすく、株価の評価(PERやPBR)が見直されるきっかけになります。一方で、ROEは“作れてしまう”指標でもあり、見せかけの改善に騙されると痛い目を見ます。
この記事は、ROEを「上がった・下がった」で終わらせません。ROE改善の中身を分解し、どの改善が株価に効きやすいか、そして初心者でも再現できる銘柄選別プロセスを、具体例付きで徹底解説します。
- ROEとは何か:数字の意味を一言で言うと
- ROEは「3つのエンジン」で動く:デュポン分解の実戦版
- ROE改善が株価に効く“メカニズム”:PBRとの関係
- “見せかけROE”を排除する:5つの地雷パターン
- 地雷1:純利益が一時的(特別利益・為替差益・資産売却)
- 地雷2:自己資本が減っただけ(損失計上・減損・自己株買いの副作用)
- 地雷3:借入増でレバレッジを上げただけ(財務の脆弱化)
- 地雷4:高ROEだが成長投資が痩せている(“刈り取り”だけ)
- 地雷5:ROEは上がったのに株価が動かない(市場が信用していない)
- ROE改善の“本命”パターン:株価に効きやすい4タイプ
- タイプA:価格決定力で利益率が上がる(インフレ局面に強い)
- タイプB:固定費レバレッジが効き始める(成長局面の加速)
- タイプC:資産を軽くして回転率を上げる(“稼ぐための資産”に集中)
- タイプD:資本政策が透明で、還元と投資のバランスが良い(市場の信頼を得る)
- 具体例で理解する:3社の“架空ケース”で見る銘柄の当たり外れ
- ケース1:A社(本命)— 値上げ成功+在庫圧縮でROEが上がる
- ケース2:B社(要注意)— 大型自社株買いでROEは上がるが、利益が伸びない
- ケース3:C社(危険)— 借入でレバレッジを上げてROEを作る
- 初心者でもできる「ROE改善銘柄」スクリーニング手順
- 手順1:まずは「ROEの改善トレンド」を見つける
- 手順2:ROEをデュポン分解し、「何が動いたか」を確認する
- 手順3:ROICと営業キャッシュフローで「本業の強さ」を二重チェック
- 手順4:資本政策の「一貫性」を見る(株主還元だけで判断しない)
- 手順5:最後に「株価がまだ織り込んでいないか」を確認する
- 「ROE改善余地」を見積もる:伸びしろの作り方
- 見積もり1:利益率の伸びしろ(価格転嫁・ミックス改善)
- 見積もり2:回転率の伸びしろ(在庫と設備稼働)
- 見積もり3:資本政策の伸びしろ(余剰資本と還元枠)
- よくある質問:ROEだけ見て買ってはいけないの?
- まとめ:ROE改善で狙うべきは「中身が伴う再評価」
ROEとは何か:数字の意味を一言で言うと
ROEは、ざっくり言えば「株主が出したお金(自己資本)を、会社がどれだけ効率よく利益に変えたか」です。計算式はシンプルで、
ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本
です。例えば、自己資本が1,000億円で当期純利益が100億円ならROEは10%です。
投資家がROEを重視する理由は2つあります。
1つ目は、ROEが高い企業は、同じ資本でより多くの利益を生むため、成長投資・配当・自社株買いの原資を作りやすいこと。2つ目は、ROE改善が続くと市場が「この会社は資本の使い方が上手い」と認識し、株価の評価倍率(PER・PBR)が上がりやすいことです。
ただし、ROEは万能ではありません。自己資本が小さく見える(=分母が小さい)とROEは高く出ます。極端な話、借金を増やして自己資本比率を下げれば、ROEは上がります。だからこそ、ROEは分解して中身を見る必要があります。
ROEは「3つのエンジン」で動く:デュポン分解の実戦版
ROEを理解する最短ルートは、デュポン分解(DuPont Analysis)です。式はこうです。
ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
それぞれを日本語にすると、
①利益率(どれだけ儲かる体質か)
②回転率(資産をどれだけ回して売上を作るか)
③レバレッジ(自己資本に対して資産をどれだけ持つか=借金の使い方)
の3つです。ROEが改善した企業は、必ずこの3つのどれか(または複数)が動いています。つまり、ROE改善を見たら次の質問をします。
「このROE改善は、利益率の改善か? 回転率の改善か? それとも借金で作った改善か?」
株価に効きやすいのは、一般に利益率と回転率の改善です。レバレッジで作ったROE改善は、金利上昇局面や景気後退で逆回転しやすく、評価が続きません。
ROE改善が株価に効く“メカニズム”:PBRとの関係
日本株で特に重要なのは、ROEとPBR(株価純資産倍率)の関係です。ざっくり言えば、市場は「この会社のROEが高いならPBRが高くても良い」と判断しやすい。
直感的に言うと、同じ1,000円の純資産でも、ROE5%で50円しか稼げない会社と、ROE15%で150円稼ぐ会社では価値が違います。後者の方が「資本を増やすスピード」が速く、配当や成長投資の余地も大きいからです。
そのため、ROE改善が“本物”と認識されると、
①利益増(EPS増)+②評価倍率の見直し(PBR・PERの上昇)
の両方が起きて、株価上昇が加速することがあります。逆に、ROE改善が見せかけだと、評価倍率は上がらず、いずれ失速します。
“見せかけROE”を排除する:5つの地雷パターン
ここからが実務(という言い方は避けますが、実際の手順として)重要です。ROE改善には地雷があり、初心者が引っかかりやすいパターンがあります。次の5つは要注意です。
地雷1:純利益が一時的(特別利益・為替差益・資産売却)
当期純利益は、通常の営業活動(本業)だけでなく、資産売却益や持分法利益、為替差益などでも増えます。例えば「遊休不動産を売って利益が出た」「政策保有株を売って利益が出た」など。これでROEが跳ねても、次期は続きません。
チェック方法:決算短信の「特別利益・特別損失」「営業利益」と「当期純利益」の乖離を見る。さらに、キャッシュフロー計算書で「固定資産売却による収入」などが大きいか確認します。
地雷2:自己資本が減っただけ(損失計上・減損・自己株買いの副作用)
ROEは分母(自己資本)が小さくなると上がります。例えば減損で純資産が減ったり、過去の損失で自己資本が薄くなったりすると、利益が少し戻っただけでROEが高く見えます。
自社株買いも自己資本を減らすのでROEを押し上げます。自社株買いは基本的に株主還元としてプラスですが、本業が弱いのに自社株買いでROEだけ作っているケースは危険です。
チェック方法:ROEだけでなく、ROIC(投下資本利益率)や営業利益率、営業キャッシュフローの増加とセットで見ます。
地雷3:借入増でレバレッジを上げただけ(財務の脆弱化)
借金を増やすと自己資本比率が下がり、財務レバレッジが上がります。これでROEは上がります。しかし金利上昇局面では支払利息が増え、景気が悪化すると資金繰りが厳しくなります。
チェック方法:有利子負債の増加率、ネットデット(有利子負債-現金等)、インタレスト・カバレッジ(営業利益÷支払利息)、流動比率を確認します。
地雷4:高ROEだが成長投資が痩せている(“刈り取り”だけ)
コストカットや人員削減で利益率が上がり、ROEが改善することがあります。短期的には株価が上がりますが、研究開発費や設備投資が削られすぎると将来の成長が枯れます。
チェック方法:売上成長率、研究開発費比率、設備投資(CAPEX)と減価償却費の関係を見ます。CAPEXが減価償却費を下回り続ける企業は、資産の更新が遅れている可能性があります。
地雷5:ROEは上がったのに株価が動かない(市場が信用していない)
ROE改善が本物なら、通常は市場の評価倍率に何らかの変化が出ます。ところが、ROEが改善してもPBRが上がらない企業があります。これは「改善が一過性」「将来が見えない」「資本政策が不透明」などで、市場が信用していないサインです。
チェック方法:PBRの変化、IR資料の資本政策、株主還元方針(配当性向・DOEなど)、中期経営計画のKPIにROE/ROICが入っているかを見る。
ROE改善の“本命”パターン:株価に効きやすい4タイプ
では、どんなROE改善が株価上昇につながりやすいのか。実戦で効くのは、次の4タイプです。
タイプA:価格決定力で利益率が上がる(インフレ局面に強い)
原材料や人件費が上がる局面で、値上げしても顧客が離れない企業は利益率が上がりやすい。これは“筋の良いROE改善”です。例えばBtoBで代替が難しい部品メーカー、ソフトウェアのサブスク、ブランド力の強い消費財などです。
見抜き方:売上総利益率(粗利率)の上昇が継続しているか、値上げ後も数量が大きく落ちていないか、主要顧客の分散度、契約更新率(開示される場合)などを確認します。
タイプB:固定費レバレッジが効き始める(成長局面の加速)
売上が一定水準を超えると、固定費が相対的に軽くなり、営業利益率が跳ねる局面があります。例えばSaaSやプラットフォーム、物流網を持つ企業など。これも持続性が高い改善になりやすい。
見抜き方:売上成長率と営業利益率の同時改善、販管費率の低下、顧客獲得コスト(CAC)とLTVの改善(開示される場合)などを見ます。
タイプC:資産を軽くして回転率を上げる(“稼ぐための資産”に集中)
総資産回転率の改善は見落とされがちですが、非常に強力です。例えば、遊休資産の売却、在庫の圧縮、売掛金回収の改善、工場の稼働率向上などで、同じ資産でより多く売れる状態になると、ROEは自然に上がります。
見抜き方:棚卸資産回転日数、売上債権回転日数、総資産回転率のトレンドを追います。さらに、売却した資産が「稼ぐ資産」か「遊休資産」かを見極めます。
タイプD:資本政策が透明で、還元と投資のバランスが良い(市場の信頼を得る)
ROEを“継続的に改善する会社”は、資本政策が説明可能です。例えば「成長投資に〇〇億、残りはDOE〇%で還元」「ROICが資本コストを上回る領域に投資」「余剰資本は自社株買いで圧縮」など、言語化できています。
見抜き方:中計でROE/ROIC/資本コスト(WACC)に言及があるか、配当方針が一貫しているか、ROE改善の要因をIRが定量で説明しているか。
具体例で理解する:3社の“架空ケース”で見る銘柄の当たり外れ
ここでは、実際の銘柄名は出さず、構造を理解するために架空の3社で考えます。数字の意味が掴めれば、どの企業にも応用できます。
ケース1:A社(本命)— 値上げ成功+在庫圧縮でROEが上がる
A社はニッチ部品メーカー。3年前はROE6%。価格交渉力が弱く、原材料高で利益率が圧迫されていました。しかし、製品の代替が難しいことを武器に値上げを通し、粗利率が3年で5pt改善。さらに在庫管理を見直し、棚卸資産回転日数が20日短縮。結果、ROEは6%→12%に上昇しました。
このケースは利益率×回転率でROEが改善しているため、金利や景気に左右されにくい。市場が評価しやすい改善です。株価では、利益増に加えてPBRの見直しが入りやすい。
ケース2:B社(要注意)— 大型自社株買いでROEは上がるが、利益が伸びない
B社は成熟産業。利益は横ばいで、成長投資のテーマも薄い。経営陣は「PBR1倍割れ対策」で大型の自社株買いを実施し、自己資本を圧縮。ROEは8%→11%に上がりました。
自社株買い自体は株主にとって悪くありません。しかし、利益成長が無いのにROEだけ上げても、評価倍率は上がりにくい。しかも景気後退で利益が落ちたらROEはすぐ崩れます。B社は「還元はするが将来像が弱い」ため、上値は限定的になりやすい。
ケース3:C社(危険)— 借入でレバレッジを上げてROEを作る
C社は不動産関連。金利が低い時期に借入を増やし、資産を積み上げて利益を増やしました。ROEは7%→13%に上昇。しかし内訳を見ると、利益率は変わらず、回転率も改善していない。財務レバレッジが上がっただけです。
金利が上がると支払利息が増え、資金繰りも悪化します。市場はこのタイプのROE改善を“評価しない”か、むしろ警戒します。短期的に上がっても、下落局面で脆い。
初心者でもできる「ROE改善銘柄」スクリーニング手順
ここからは具体的な手順です。専門ツールがなくても、証券会社のスクリーナーや決算資料だけで実行できます。
手順1:まずは「ROEの改善トレンド」を見つける
単年度のROEはノイズが多いので、最低でも3年、できれば5年で見ます。目安としては、
・3年でROEが+3pt以上改善
・かつ直近ROEが8~15%程度
あたりが現実的な“候補”になりやすいです。ROEが極端に高すぎる(20%超)場合は、特殊要因やレバレッジ過多の可能性も疑います。
手順2:ROEをデュポン分解し、「何が動いたか」を確認する
利益率(純利益率)、回転率(総資産回転率)、レバレッジ(総資産÷自己資本)を並べ、どこが改善したかを見る。これだけで当たり外れが相当減ります。
合格ラインの例:
・利益率が改善している、または高水準で維持
・回転率が改善している、または業界平均以上
・レバレッジは横ばい~小幅(過度に上げていない)
手順3:ROICと営業キャッシュフローで「本業の強さ」を二重チェック
ROEは会計上の利益でブレます。そこで、可能ならROIC、最低でも営業利益率と営業キャッシュフローを確認します。
ポイント:
・営業キャッシュフローが安定して黒字で増えているか
・営業利益率が改善しているか(本業が強いか)
・ROICが資本コストを上回っているか(開示があれば最強)
手順4:資本政策の「一貫性」を見る(株主還元だけで判断しない)
還元が強い会社が必ずしも良いわけではありません。重要なのは、還元と成長投資のバランス、そして方針がブレないことです。
例えば、
・配当方針がDOE(株主資本配当率)や累進配当などで明確
・自社株買いが“余剰資本の調整”として位置づけられている
・成長投資の領域と期待リターンが説明されている
この3点が揃う企業は、市場の信頼を得やすいです。
手順5:最後に「株価がまだ織り込んでいないか」を確認する
ROE改善が良くても、すでに株価が過剰に織り込んでいれば期待リターンは下がります。初心者がやりがちなミスは、ROE改善の“完成後”に飛びつくことです。
チェック観点:
・PBRがすでに急上昇していないか(リレーティング済み)
・PERが同業比で高すぎないか(期待先行)
・今後の改善余地(利益率、回転率、還元余地)が残っているか
「ROE改善余地」を見積もる:伸びしろの作り方
投資で勝ちやすいのは、「今のROEが高い企業」よりも、ROEが上がっていく途中の企業です。では、伸びしろはどう見積もるか。初心者向けに、実用的な見積もり方法を3つ紹介します。
見積もり1:利益率の伸びしろ(価格転嫁・ミックス改善)
利益率の改善余地は、価格転嫁と製品ミックスで生まれます。決算説明資料で「値上げの進捗」「高付加価値製品の比率」を追い、粗利率が改善トレンドなら期待できます。
見積もり2:回転率の伸びしろ(在庫と設備稼働)
在庫が重い企業は、改善だけでキャッシュが増えます。在庫圧縮は利益を直接増やさなくても、資産回転率を上げ、ROEを押し上げます。製造業なら稼働率改善も同様です。
見積もり3:資本政策の伸びしろ(余剰資本と還元枠)
現金が積み上がりすぎている企業は、還元余地があります。現預金が営業利益の何年分か、ネットキャッシュか、政策保有株の売却余地があるか。これらがROE改善のトリガーになり得ます。
よくある質問:ROEだけ見て買ってはいけないの?
結論から言うと、ROE“だけ”は危険です。ただし、ROEは「入口のフィルター」としては非常に優秀です。ROE改善を起点に、利益率・回転率・財務・資本政策・将来投資の整合性を見れば、初心者でも“勝ちやすい候補”を絞れます。
逆に、ROEを見ないと、資本効率の悪い企業に長く付き合ってしまいがちです。日本株では特に、資本効率改善がテーマとして継続しているため、ROE改善の読み解きは武器になります。
まとめ:ROE改善で狙うべきは「中身が伴う再評価」
ROE改善は、株価上昇の材料として強力です。ただし、見せかけも混ざります。大事なのは、
・利益率と回転率が改善しているか
・レバレッジ頼みではないか
・本業のキャッシュが増えているか
・資本政策が透明で一貫しているか
・株価がまだ織り込んでいないか
この5点をセットで見ることです。
最後に、今日からできる最短アクションを一つだけ挙げます。あなたが普段見ている銘柄を3つ選び、過去3年のROEと営業利益率を並べてください。そして「何が変わったのか」を言語化してみてください。これができるようになると、ニュースやSNSよりも、決算が味方になります。


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