相場で勝ちやすい局面は、個別銘柄の当て物をするよりも「いま資金がどの業種に集まっているか」を先に掴めたときです。株価は企業固有の材料だけで動くのではなく、指数連動のパッシブ資金、業種ETF・投信のリバランス、機関のリスク配分変更など“バスケット取引”の影響を強く受けます。そこで有効なのが、業種別指数(セクター指数)の相対的な強弱を使って資金移動を可視化し、エントリーと手仕舞いを体系化する方法です。
この記事では、チャートが読めない人でも再現できるように、業種別指数の見方、強弱の測り方、ローテーションの「次の一手」を推定するロジック、そして失敗パターン(ダマシ・行き過ぎ・地合い悪化)まで、具体例ベースで解説します。一般的な“セクターが強いから買う”で終わらせず、数字で判断できる手順に落とし込みます。
業種別指数の「強い・弱い」は何を意味するか
業種別指数は、同じ業種に属する複数銘柄をまとめた指数です。日本なら東証33業種やTOPIX-17、米国ならGICSセクターなどが代表例です。重要なのは、業種別指数の上昇自体よりも、市場全体(TOPIXや日経平均、S&P500など)に対して相対的にアウトパフォームしているかです。
たとえばTOPIXが横ばいでも、半導体関連の比率が高い業種指数だけが上がることがあります。このとき「個別の当たり銘柄」を探す前に、強い業種の中から“市場平均より強い銘柄”を選ぶと、期待値が上がります。逆に、相場全体が上がっているのに自分の保有株だけが伸びない場合、原因は個別材料よりも属する業種が資金流出局面にあることが多いです。
なぜ業種単位の資金移動が起きるのか
資金移動のドライバーは大きく3つあります。
①マクロ要因:金利上昇局面で銀行・保険が相対的に強くなりやすい、景気減速でディフェンシブ(食品・医薬)が相対的に買われやすい、などです。
②利益成長ストーリー:生成AI・半導体、脱炭素、インバウンドなど、テーマの期待が業種単位で膨らむと、指数連動資金も含めて“束”で買われます。
③需給イベント:指数のリバランス、投信の月次設定解約、決算シーズンのポジション調整、期末のドレッシングなどで、業種単位の売買が増えます。
個人がこの動きを読むときは、ニュースの理解よりも、チャート上の相対強弱を見たほうが早く、かつブレにくいです。
相対強弱を「見える化」する3つの指標
業種の強弱は“感覚”で語られがちですが、指標化すると迷いが減ります。ここでは、無料のチャートでも再現しやすい順に3つ紹介します。
指標1:相対強度(セクター指数 ÷ 市場指数)
最も基本は比率(レシオ)です。例として、ある業種指数をA、市場指数(TOPIXなど)をMとすると、
相対強度RS = A / M
RSが上向きなら「市場平均より強い」、下向きなら「市場平均より弱い」を意味します。ポイントは、業種指数のチャートではなく、RSのトレンドを主役にすることです。指数そのものが上がっていても、市場全体がもっと上がっていればRSは下がります。あなたの資金は“比較”で評価されます。
指標2:RSの移動平均(短期と中期のクロス)
RSはノイズが多いので、移動平均で平滑化します。初心者向けには「5日」と「20日」など、短期と中期の2本で十分です。
ルール例:
・RSの5日線が20日線を上抜け:その業種は市場平均に対して強くなり始めた可能性
・RSの5日線が20日線を下抜け:相対的に弱くなり始めた可能性
ここで重要なのは、“業種指数の移動平均”ではなく“RSの移動平均”という点です。強い上昇相場では多くの業種が上がるため、業種指数のMAだけでは優劣がつきません。
指標3:RSの偏差(Zスコア)で行き過ぎを測る
ローテーションは永遠に続きません。行き過ぎると利確が出て、次の業種へ移ります。そこでRSの行き過ぎを偏差で把握します。難しく聞こえますが考え方は単純です。
・直近N日(例:60日)のRS平均との差
・平均との差を、N日の標準偏差で割る
これがZスコアです。Zが+2付近なら“相対的に強すぎ”、-2付近なら“相対的に弱すぎ”の目安になります。ここでの使い方は、強い業種を売るのではなく、強い業種の中で新規に飛びつくのを避けるフィルターとして使うのが現実的です。
セクターローテーションの「よくある3局面」と取るべき行動
相対強弱が見えたら、次は“局面”を分類します。ローテーションは大きく3つの局面に分けると判断が楽になります。
局面A:リスクオン初期(先導セクターが立ち上がる)
相場が底打ちして反転し始めた局面では、最初に強くなる業種が限られます。日本株では景気敏感(機械・電機・輸送用機器など)や、テーマ性の高いセクター(半導体関連を含む電気機器等)が先にRSを上げやすいことがあります。
この局面での個人の最適行動は、“強い業種の中で、押し目を待って入る”です。具体的には次の2条件を満たすものだけを候補にします。
・業種RSの5日線が20日線を上回っている(相対的に強い)
・個別銘柄も、同業種内で相対的に強い(後述のスクリーニング)
そして買いは、指数が上げた直後ではなく、1〜3日の調整で出来高が減り、下げ渋ったところを狙うと、損切りが浅くできます。
局面B:リスクオン後半(強い業種が拡散し、過熱が出る)
相場が乗ってくると、強い業種が増え、材料が薄い銘柄にも資金が回ります。この段階では“どれでも上がる”錯覚が起き、最も事故が増えます。RSを見ると、先導していた業種のZスコアが+2以上になりやすく、相対的な行き過ぎが出ます。
この局面での行動は、新規建てを絞り、利確ルールを明確化です。たとえば、
・個別の上昇が続いても、業種RSがピークアウト(5日線が下向き)したら建玉を縮小
・利益が乗った銘柄は、直近安値割れで半分利確、20日線割れで残りを手仕舞い
といった形で、チャートの“雰囲気”ではなく、条件で降りるほうが長期的に安定します。
局面C:リスクオフ(ディフェンシブへ逃げる、または現金化)
相場が崩れるときは、強かった業種から順に売られます。理由は単純で、利益が出ているところから換金されるからです。RSは先に下向きになりやすいので、業種RSの短期線が中期線を割ったら、個別が踏ん張っていても“時間の問題”と判断できます。
この局面での行動は2択です。
・ディフェンシブ(医薬品、食品、電気・ガスなど)に“ローテーションして残る”
・一段下のボラが嫌なら“ポジションを落として様子見”
初心者は、ディフェンシブに乗り換えるよりも、ポジションを軽くして次の局面Aを待つほうが結果的に負けにくいです。逃げ遅れは致命傷になりがちです。
個人投資家向け:業種強弱を使った具体的なスクリーニング手順
ここからは机上の理屈ではなく、実際の手順として落とし込みます。必要なのは、業種指数と市場指数のチャート(無料で十分)と、個別銘柄のチャートです。
手順1:毎朝(または週1)で業種RSランキングを作る
やり方はシンプルです。東証33業種なら、各業種指数AをTOPIX Mで割ったRSを作り、
・RSが20日で上昇している業種
・RSが20日で下落している業種
に分けます。さらに、直近5日でRS上昇が強い順に並べれば、簡易ランキングになります。スプレッドシートで終値を貼って計算してもよいですし、チャートで比率表示できる環境ならそれでも構いません。
初心者がやりがちな誤りは、“当日の上昇率ランキング”だけを見ることです。単日上昇はニュースで跳ねただけのことが多く、継続性が低いです。RSの20日トレンドで、資金の“継続”を見ます。
手順2:強い業種の中で、さらに強い銘柄を3段階で絞る
業種が強いだけでは不十分です。業種内でも強弱があります。絞り込みは次の順で行うと効率が良いです。
①出来高:上昇しているのに出来高が細い銘柄は、買い手が薄く崩れやすいです。業種内で出来高が一定以上あるものを優先します。
②節目の抜け:直近高値、25日線、出来高の多い価格帯など、参加者が意識する水準を抜けた銘柄は、同じ業種の中でも資金が集まりやすいです。
③押し目の質:急騰後の急落より、上昇→小さな調整→再上昇の形が望ましいです。調整局面で出来高が減り、下ヒゲを付けるなど“売りが枯れた”サインがあると、損切り水準を設定しやすくなります。
この3段階で、候補は自然に数銘柄まで減ります。ここで初めて、個別の材料や決算予定などを確認します。順番を逆にすると、材料に引っ張られて客観性が落ちます。
手順3:エントリーは「業種RS」と「個別」の同時条件で行う
エントリー条件を明文化します。例として、スイング寄りのルールを提示します。
・業種RS:5日線>20日線、かつ20日線が上向き
・個別:終値が25日線の上、かつ直近高値を更新、出来高が20日平均以上
この“二重フィルター”をかけると、相場全体が弱いのに個別だけ買ってしまう事故が減ります。初心者が負ける典型は「良さそうな銘柄を買ったが、業種ごと売られて沈んだ」です。業種RSを見ていれば避けられるケースが多いです。
具体例:日本株で起きやすい資金移動パターンを読み解く
ここでは実在の銘柄推奨ではなく、よくあるパターンとして理解してください。あなたがチャートで遭遇したときに、同じ読み方ができます。
例1:金利が上がり始めた局面で銀行が相対的に強くなる
金利上昇観測が出ると、銀行は利ざや改善期待で買われやすい一方、グロース株は割引率上昇で相対的に弱くなりがちです。このとき、銀行業指数のRSが上向き、情報・通信などが下向きになっていれば、“資金の方向”は明確です。
この局面で個人がやるべきことは、銀行の中で最もニュースが派手な銘柄に飛びつくことではなく、銀行業指数RSが上向きのまま、個別が押し目を作ったところを淡々と拾うことです。逆に、情報・通信が一時的に反発しても、業種RSが下向きなら“戻り売りが出やすい”と判断できます。
例2:テーマ(半導体・AI)で電気機器が独歩高、しかし後から輸送用機器が追随
強いテーマがあると、関連業種が先導します。ただし相場が進むと、後追いで別の景気敏感業種に資金が移ることがあります。これは“利確して次へ”の典型です。
RSを見ると、電気機器のZスコアが+2を超えて横ばいになり、同時に輸送用機器のRSが底打ちして上向く、という形が出ます。このときの戦略は、電気機器の新規買いを抑え、輸送用機器の押し目候補を探す、です。ローテーションは、最強の継続を追うより、次の強さへ乗り換えるほうがリスク当たりのリターンが改善しやすいです。
例3:地合い悪化でディフェンシブに逃げるが、逃げ遅れると全部下がる
相場が崩れると、最初はディフェンシブが相対的に強く見えます。しかし市場全体が急落局面に入ると、相対的に強くても絶対値では下がります。ここで重要なのは、“相対的に強い=上がる”ではないという現実です。
対策は、業種RSが下向きに転じた段階で、ポジション量を先に落とすことです。ディフェンシブへの乗り換えは、上級者がボラを許容して行う手段であり、初心者には“現金比率を上げる”ほうが実装しやすいです。
失敗を減らすためのリスク管理:損切りと利確を「業種」で決める
個別チャートだけで損切りを決めると、ノイズに振り回されます。業種RSを併用すると、損切りの質が上がります。
損切り:個別の形が崩れる前に、業種RSの悪化で撤退を検討
例として、個別は25日線を割っていないが、業種RSの5日線が20日線を割り、20日線も下向きになったとします。これは“業種に資金が流入しない”サインなので、個別が粘っても上値が重くなりやすいです。こういう局面での粘りは、含み損の拡大につながりがちです。
ルール例:
・業種RSが悪化(5日<20日)したら、個別の建玉を半分落とす
・個別が25日線を割ったら残りを手仕舞い
“段階撤退”にすると、ダマシで再上昇した場合も完全に取り逃しにくいです。
利確:業種RSの行き過ぎ(Zスコア)で「増やさない」
利確は難しいですが、初心者が最もやりがちなのは“含み益があるのに買い増して天井を掴む”ことです。Zスコアが+2付近のときは、業種が過熱しやすく、押し目が深くなりがちです。ここでは利確しなくても、買い増し禁止にするだけで成績が安定します。
実装を簡単にする:週次の運用テンプレート
毎日やると続きません。初心者は週次で十分です。テンプレートを置きます。
月曜:業種RSの上位5つと下位5つを確認
・上位:候補業種(買い側)
・下位:避ける業種(買わない、または戻り売りが出やすい)
ここで“今週の主戦場”が決まります。
火〜木:上位業種の個別を3段階で絞り、押し目を待つ
・出来高→節目→押し目の質、の順で候補を3銘柄程度まで絞ります。
・エントリーは、個別の条件(25日線上、出来高増、直近高値更新)を満たしたときだけ。
金曜:業種RSが悪化していないかを確認し、手仕舞い判断
・業種RSの短期線が割れたらポジション縮小
・週末はニュースリスクもあるので、短期トレードなら軽くする
この“週次ループ”を回すだけで、根拠の薄いエントリーが激減します。
よくある質問:業種指数を使うときの落とし穴
Q1:業種RSが強いのに、個別が上がりません
業種の中でも“指数寄与度が高い大型”だけが買われている可能性があります。対策は、個別にも相対強弱(個別 ÷ 業種指数)を使い、業種内で強い銘柄だけを選ぶことです。業種が強いのに個別が弱いなら、その銘柄は業種内で負けています。
Q2:RSの上抜けがダマシになります
短期で見すぎるとダマシが増えます。初心者は、RSの20日線が上向きになったことを確認してから入るほうが安定します。エントリーが遅れても、トレンドが続く局面では十分取り返せます。
Q3:相場全体が急落すると、何を見ても無駄では?
急落時に“強い業種”を探すのは難しいです。ただし業種RSは、撤退判断には効きます。相対的に強い業種が崩れ始めたら、相場全体の潮目が変わった可能性が高いからです。攻めの道具というより、守りのセンサーとして使うと効果が出やすいです。
デイトレでも使える:当日の資金移動を“朝の15分”で読む
スイングだけでなく、日中の短期売買でも業種強弱は使えます。結論から言うと、寄り付き直後に「強い業種に乗る」よりも、強い業種の中で“押しても崩れない銘柄”を選ぶほうが勝ちやすいです。
寄り付き後に確認する順番
①前日終値比で業種指数(または代表ETF)がどれだけ動いているか
②その業種のRSが、前日からさらに上向いているか(短期でよい)
③個別が寄り付き高値を更新しているか、更新できずに揉んでいるか
ここで重要なのは、強い業種でも“寄り天”は起きるという点です。寄りで飛びつかず、最初の押し(5〜15分程度)で売りが出た後に下げ止まる銘柄を狙うと、損切り幅を小さくできます。
当日ローテーションの典型
たとえば日経平均が強い日に、朝は半導体関連が強いが、10時前後から銀行・保険がじわじわ買われる、といった“バトンタッチ”が起きます。このとき、先導していた業種の個別が高値圏で伸び悩み、後発業種の個別が安値圏から切り上がる形になりやすいです。短期では、この切り替わりを個別の高値更新失敗+別業種の上昇加速として観察できます。
短期の撤退ルール
・買った銘柄の属する業種RSが日中に失速(右肩下がり)したら粘らない
・個別がVWAPを明確に割り、戻してもVWAPで上値を抑えられるなら撤退候補
・勝っている日は、午後に“強い業種が変わった”サインが出たら利確優先
短期ほど「方向が違ったらすぐ降りる」が最重要です。業種RSは、その日の資金の向きを確認する補助線になります。
チェックリスト:迷ったときに見る5項目
最後に、迷いを減らすためのチェックリストを置きます。5つのうち3つ以上が揃わないなら、見送りの判断が合理的です。
1) 業種RSの20日線が上向き(最低条件)
2) 業種RSの5日線が20日線より上(勢い)
3) 個別が25日線の上(位置)
4) 個別の出来高が増加(参加者)
5) 直近高値更新、または押し目の下げ渋り(タイミング)
まとめ:業種別指数の強弱は、個人の武器になる
業種別指数の相対強弱は、ニュースより早く、個別の材料よりブレにくく、資金の方向を示します。ポイントは3つです。
・業種指数そのものではなく、業種÷市場のRSを見る
・RSのトレンド(5日/20日)で“強くなり始め”を捉える
・Zスコアで行き過ぎを把握し、飛びつきと買い増しを避ける
この手順を週次で回すだけで、エントリーの質と撤退の速さが改善します。個別銘柄選びが苦手でも、セクターの流れに乗れるようになります。まずは、あなたが普段見ている市場指数に対して、業種RSを1つ作ってみてください。そこから相場の見え方が変わるはずです。


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