日本株の短期売買で「なぜ理由がよく分からないまま急落して、翌日ケロっと戻る」のか。これを説明できる代表格が、制度信用の“期日”による強制的な売り(投げ)です。材料でも地合いでもなく、需給だけで価格が壊れる日があり、その歪みを“拾い”として体系化すると、再現性のあるリバウンド取りになります。
本記事は、制度信用の期日集中日に起きる投げ売りを「イベント」として扱い、投げが一巡した後だけを買う手順を、初心者が実行できる粒度まで落として解説します。やることはシンプルです。①期日候補を事前に絞る、②当日“投げ”を見極める、③一巡サインが出たところだけを狙う、④戻りが止まる前に降りる。この4つを徹底します。
- 制度信用の「期日」とは何か:まず仕組みを5分で理解する
- 期日集中日に何が起きるのか:価格が壊れる“典型パターン”
- 事前準備:期日集中候補の銘柄をどう絞るか
- 当日の観察ポイント:投げ売りと通常の売りを見分ける
- 「投げ売り一巡」を定義する:再現性を上げる3つのサイン
- 具体的なエントリー手順:初心者が迷わない「型」
- 利確の設計:どこまでを狙うのが合理的か
- 具体例:典型的な“投げ一巡→二番底→VWAP回復”のシナリオ
- 失敗パターンと対策:この戦略で負ける時はだいたい同じ
- 銘柄選びの精度を上げる追加フィルター(上級テクだが効果が大きい)
- 実行チェックリスト:当日これだけ見ればいい
- まとめ:期日投げは「需給イベント」なので、型で取れる
- 期日を「見える化」する:いつ期日集中が来やすいかの現実的な把握法
- 時間帯のクセ:投げが出やすいのは「いつ」か
- デイトレで完結させるか、翌日に持ち越すか:判断基準を明確にする
- コストとスリッページ:この戦略で“地味に”効く落とし穴
制度信用の「期日」とは何か:まず仕組みを5分で理解する
制度信用取引は、(細部は証券会社・銘柄で差がありますが)一般に建てたポジションを長期間保有し続けることができません。期限(期日)が来ると、反対売買で決済するか、現引・現渡などで処理する必要があります。期限が近づくと、損益や資金繰り次第で「持ち続けられない」参加者が出ます。
ここがポイントです。“期日”はファンダメンタルでもテクニカルでもなく、清算ルールです。ルールがある以上、一定の確率で「売らざるを得ない」人が発生します。特に、値動きが荒い小型株、信用買いが積み上がっている銘柄、含み損の参加者が多い局面ほど、期限近辺での投げが出やすくなります。
期日集中日に何が起きるのか:価格が壊れる“典型パターン”
期日集中は「特定の銘柄に、同じタイミングで決済ニーズが押し寄せる」状態です。すると板が薄い銘柄では、通常より少ない売りでも価格が飛びます。典型パターンは次の流れです。
①朝から弱い(ギャップダウン or 寄りからジリ下げ)→②下げるほど成行売りが増える(逆指値の連鎖)→③出来高が急増し、ローソク足の下ヒゲが長くなる→④一旦は反発するが、戻りでまた売られ、二番底を作る→⑤二番底で出来高が減る or 売りが吸収され、反転が始まる。
このうち、狙うのは③〜⑤です。②の最中に“落ちているナイフ”を掴むのはギャンブルになります。投げが一巡した証拠を、価格・出来高・板・歩み値の組み合わせで確認してから入ります。
事前準備:期日集中候補の銘柄をどう絞るか
当日に探し回ると間に合いません。前提として、候補を10〜30銘柄程度に絞って監視しておくのが現実的です。絞り込みの考え方は「投げが出やすい構造」を持つ銘柄を探すことです。
(1)信用買いが積み上がっている
信用買い残が多い、または直近で急増している銘柄は、期限が近づいたときに投げの母集団が増えます。できれば「上げた後に下げた」銘柄が狙い目です。上で掴んだ買い方が傷んでいる可能性が高いからです。
(2)流動性が中途半端(板が薄い)
出来高が極端に少ない銘柄はスリッページが過大で不向きですが、出来高が“そこそこ”の銘柄ほど歪みが出ます。目安として「普段は出来高があるのに、需給が偏るとすぐ飛ぶ」タイプです。
(3)支持線が見える位置にある
期日投げは“機械的”とはいえ、買いが入る場所は市場心理に依存します。直近の安値、週足の節目、ラウンドナンバー(1000円、2000円等)、出来高が多い価格帯(出来高プロファイル)など、買い手が集まりやすいポイントが近い銘柄を優先します。
(4)イベントが近い銘柄は避ける
決算、IR、地政学ニュース等の“本物の材料”があると、期日投げの動きと混ざって読みづらくなります。狙うのは「材料が薄いのに売られている」状況です。
当日の観察ポイント:投げ売りと通常の売りを見分ける
投げ売りは「価格よりも決済を優先する」売りです。よって、歩み値や板に特徴が出ます。以下の観察を組み合わせて判定します。
(A)出来高が“異常に”増える
普段の同時刻平均を明確に上回る出来高が出ます。特に、急落局面の出来高は重要です。下げながら出来高が増える=売りが加速ですが、ある時点で「下げても出来高が増えなくなる」瞬間が来ます。これが一巡の候補です。
(B)歩み値に同サイズの成行売りが連続する
投げは細かい判断よりも処理が優先されるため、同じサイズの成行売りが連続したり、板を食い尽くす約定が見えたりします。逆に言えば、連続成行が止まり、板が戻り始めた瞬間が転換点になりやすい。
(C)下ヒゲの形が変わる
急落中は実体が大きく、ヒゲが短いことが多いですが、一巡が近づくと「大きく突っ込んで戻す」動きが増え、下ヒゲが伸びます。1分足や5分足で、安値更新のたびに即座に買い戻されるなら、売りが吸収され始めています。
(D)VWAPと乖離が急拡大し、戻りでVWAPが“磁石”になる
投げ局面はVWAPから大きく乖離します。売りが落ち着くと、価格はまずVWAP方向に引き寄せられます。よってエントリー後の第一目標をVWAPに置き、VWAP手前で利確→残りは伸ばすという分割が合理的です。
「投げ売り一巡」を定義する:再現性を上げる3つのサイン
曖昧に「そろそろ止まりそう」で入ると負けます。ここでは、実際の運用で使える定義を3つ提示します。全部満たす必要はありませんが、2つ以上で精度が上がります。
サイン1:安値更新したのに、出来高が前の波より減った(売りの勢いが鈍化)
急落は波で進行します。最初の下げ波で出来高が最大化し、次の下げ波では「安値は更新するが出来高は伸びない」ことがあります。これは投げの残弾が減っている可能性を示します。
サイン2:二番底で板の買いが厚くなり、成行売りが板で止まる
最初の突っ込みは板が薄く、簡単に飛びます。しかし二番底では、買い手が構え、成行売りがぶつかったときに価格が飛びにくくなります。歩み値で「売りが出ても同じ価格で吸収される」状態が見えたら強い。
サイン3:反発の最初の押しが浅く、前の戻り高値を超える
一巡後の反発は、最初の戻りで一旦利確売りが出ます。ここで押しが深いと、まだ投げが残っています。押しが浅く、すぐに戻り高値を更新するなら、需給が買い優勢に傾いたサインです。
具体的なエントリー手順:初心者が迷わない「型」
ここからは手順を固定します。迷いが減り、検証もしやすくなります。
手順①:当日、監視銘柄の“急落トップ3”を決める
候補を見て、値下がり率と出来高増加率で上位3銘柄に絞ります。これは集中するためです。銘柄を追いすぎると、どれも中途半端になります。
手順②:5分足で「最初の投げ波」を確認し、絶対に触らない
寄り直後〜前場中盤に最初の波が来ることが多いですが、最初の波は最も危険です。ここでの逆張りは負けやすいので、あえて“見送る”のがルールです。
手順③:二番底でサインを2つ確認してから、分割で入る
一巡サインが2つ出たら、まず半分だけ買います。残り半分は「戻り高値更新」や「VWAP回復」など、上の確認が出てから追加します。これで“当てにいく”から“乗りにいく”へ変わります。
手順④:損切りは“二番底の安値割れ”で固定する
損切りを気分で動かすと、期日投げの乱高下に巻き込まれます。二番底の安値を割ったら、まだ投げが残っている可能性が高いので撤退します。1回の負けを小さくするほうが、次のチャンスで取り返せます。
利確の設計:どこまでを狙うのが合理的か
期日投げのリバウンドは「全部戻る」とは限りません。狙うべきは“戻りやすい場所”です。最も堅いのはVWAP、次が急落開始点(投げ波の起点)、その次が前日終値付近です。
第一利確:VWAP手前
投げ後の反発はまずVWAPに引き寄せられます。VWAP直前は利確が集中しやすいので、手前で一部を利確します。これで心理が安定し、残りを伸ばしやすくなります。
第二利確:急落開始点(戻りの壁)
急落開始点には、途中で投げた人の“戻り売り”が待っています。ここで上値が重くなったら、残りも落とします。伸びる銘柄だけが、ここを超えます。
伸ばす条件:VWAPの上で出来高が増え、押し目が浅い
VWAP回復後に出来高が増え、押し目が浅いなら、需給が本当に改善した可能性があります。その場合のみ、前日終値や節目まで伸ばします。条件が満たされないなら、欲張らずに降ります。
具体例:典型的な“投げ一巡→二番底→VWAP回復”のシナリオ
ここでは架空の例で、板とローソク足の読み方を具体化します。
ある中型株Aが、前日までの上昇で信用買いが積み上がっていました。期日が近づいたタイミングで地合いが悪化し、当日はGD気配でスタート。寄り後に成行売りが連続し、5分足で-3%→-6%と急落。出来高は普段の同時刻の5倍まで膨れます。ここが最初の投げ波です。ルール通り触りません。
その後、急落から一旦+2%戻しますが、戻りでまた売られます。二番底の局面で、価格は最安値を1ティックだけ更新。しかし出来高は最初の波より明らかに少なく、歩み値を見ると同サイズの成行売りが途切れがちになり、板の買いが厚くなります(サイン1と2)。この時点で半分エントリー。
反発して前の戻り高値に近づいたところで一度押しますが、押しが浅く、すぐに戻り高値を更新(サイン3)。ここで残り半分を追加。目標はVWAP。VWAP手前で半分利確し、VWAPを明確に回復して押し目が浅いなら、残りは急落開始点まで伸ばします。もしVWAPで失速し、上ヒゲが増えるなら、残りも利確して終了。これが最も再現性の高い流れです。
失敗パターンと対策:この戦略で負ける時はだいたい同じ
負け方には癖があります。先に潰します。
(失敗1)最初の投げ波で逆張りしてしまう
急落は“まだ下がる”のが普通です。対策は単純で、最初の波は絶対に触らない。触りたくなったら、画面を閉じるレベルでルール化します。
(失敗2)サインが1つしかないのに入る
下ヒゲが出ただけ、出来高が増えただけ、では不十分です。サインは複数で確認する。これでトレード回数は減りますが、勝率が上がり、トータルは改善します。
(失敗3)損切りを遅らせて“祈り”になる
二番底割れで撤退。これを守れないと、期日投げの延長戦に巻き込まれて大きく負けます。損切り幅を先に決め、数量を調整して、必ず実行できるサイズで入ります。
銘柄選びの精度を上げる追加フィルター(上級テクだが効果が大きい)
初心者はここまでで十分ですが、もう一段精度を上げるフィルターを紹介します。
(1)出来高プロファイルの“空白地帯”を避ける
出来高が薄い価格帯に落ちると、反発も弱くなりやすい。逆に、出来高が溜まっている価格帯は買い手が多く、反発が起きやすい。エントリーは出来高が溜まった帯の近辺が有利です。
(2)指数との相関を見る
指数が崩れている日に個別だけを拾うと、反発が伸びません。指数が横ばい〜小反発のタイミングで投げが出た銘柄のほうが戻りが取りやすい。個別要因(需給)だけで下がっている状態を狙います。
(3)直近の高値からの下落率が大きすぎる銘柄は避ける
すでに大きく下げている銘柄は、期日投げ以前にトレンドが壊れている可能性があります。狙うのは「上げ基調だったのに、期日で壊れた」銘柄です。
実行チェックリスト:当日これだけ見ればいい
最後に、当日の判断を固定するチェックリストをまとめます。これを画面横に置いてください。
・監視銘柄は上位3つに絞ったか
・最初の投げ波を見送ったか
・二番底でサインが2つ以上出たか(出来高鈍化/板の吸収/押しの浅さ)
・エントリーは分割したか
・損切りは二番底割れで固定したか
・第一利確はVWAP手前で実行したか
・伸ばすのは条件が揃った時だけにしたか
まとめ:期日投げは「需給イベント」なので、型で取れる
制度信用の期日集中は、材料とは無関係に売りが出る“需給イベント”です。だからこそ、観察とルールで再現性が出ます。最初の投げ波に触らず、二番底で一巡サインを確認し、VWAPまでの戻りを取り、欲張らずに降りる。これを淡々と回せるようになると、地合いが悪い日でもチャンスが作れます。
まずは小さなロットで、候補を絞り、チェックリスト通りにやってください。トレードの質が上がり、負け方が整ってきたら、ようやく数量を上げる段階です。焦らず、型を磨きましょう。
期日を「見える化」する:いつ期日集中が来やすいかの現実的な把握法
「期日集中日」と言っても、カレンダーに大きく書かれているわけではありません。実務的には、“期日っぽい動きが出そうな銘柄を事前に拾う”ほうが確実です。やり方は2段階です。
段階1:過去の急騰日をメモして“約6か月後”を意識する
制度信用の買いが積み上がるのは、たいてい「急騰・急伸した局面」です。あなたが監視している銘柄が大きく上がった日(例えば急騰開始日、連続ストップ高の初日、テーマ再燃で出来高が爆発した日など)を、メモやウォッチリストに残します。そしてそこから“約6か月後”が近づいたら、期日由来の売りが出やすい候補として優先度を上げます。日付の精密さよりも、候補の再現性が目的です。
段階2:信用残データの形で「傷んだ買い」の存在を確認する
信用買い残が増えているのに株価が下がる、あるいは株価が戻っても信用買い残が減らない銘柄は、含み損の買い方が溜まっている可能性が高い。こういう銘柄は期限が迫ると“投げ”が出ます。逆に、下げ局面で信用買い残が減っている銘柄は、すでに整理が進んでおり、期日投げの破壊力は弱くなります。
時間帯のクセ:投げが出やすいのは「いつ」か
期日投げは一日中ランダムに出るわけではありません。参加者の心理と注文の出し方に癖があります。あなたが集中して見るべき時間帯は主に3つです。
(1)寄り付き〜前場序盤:最初の投げ波が出る
前日まで持ち越していたポジションを「今日は無理」と判断した参加者が、寄りで投げます。ここは最も荒れるので見送る前提で観察します。重要なのは「出来高の最大化がどこで起きたか」を記録することです。
(2)前場引け前後:昼休みをまたぐ前の整理
デイトレ勢がポジションを軽くしたい時間帯で、戻り売りも出やすい。二番底が前場引け前後に形成されることも多いので、5分足での出来高鈍化を見逃さないことが重要です。
(3)後場中盤〜大引け前:最後の投げ・最後の吸収
含み損を抱えたまま引けを跨ぎたくない参加者の投げが出ます。同時に、吸収する側(短期勢・裁定・アルゴ)も大引けに向けて動くため、最後にもう一段の突っ込みが来ることがあります。ここで“二番底割れ”を食らうと痛いので、後場は損切りルールをより厳格に守ります。
デイトレで完結させるか、翌日に持ち越すか:判断基準を明確にする
期日投げのリバウンドは翌日まで続くこともありますが、初心者はまず当日完結を基本にしたほうが安全です。持ち越しは「伸びる条件が揃った時だけ」に限定します。
当日完結の条件(基本)
VWAP到達で第一利確を入れ、VWAP付近で失速(上ヒゲ増加、出来高減少、板の買いが薄くなる)なら、残りも落として終了。これが最もブレが少ない。
持ち越しを検討する条件(例)
・VWAPを明確に上抜け、引けに向けて高値圏を維持している
・引け間際に売りが出ても下がらず、板が吸収している(引けの需給が改善)
・急落開始点を超えても売りが軽い(戻り売りをこなした)
この3つのうち2つ以上が揃うなら、少量だけ持ち越しを検討します。ただし、翌日の寄りはギャップで想定外に動くことがあるため、翌日寄りで必ず半分以上を処分するなど、出口を事前に決めます。
コストとスリッページ:この戦略で“地味に”効く落とし穴
期日投げ銘柄はボラティリティが高く、板も荒れます。すると、理論上の勝ち幅があっても、実際はスリッページと手数料で削られます。対策は2つです。
(1)成行一撃を避け、分割で板に合わせる
一巡確認後でも、いきなり成行で全力を入れると、板を踏んで不利約定になります。半分→確認後に残り、という分割は、精度だけでなくコストにも効きます。
(2)値幅目標は“最低限”を確保する
手数料・税金・スリッページを見込んだうえで、狙う値幅が小さすぎるなら見送るべきです。目安として、第一利確(VWAPまで)で取れる期待値が薄いなら、無理に触らない。「やらない判断」も戦略です。

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