半導体関連株は、AI・クラウド・スマホ・自動車などあらゆる産業の「心臓部」です。その一方で、サプライチェーンが世界中に分散しているため、地政学リスク(輸出規制・制裁・軍事衝突・政権交代など)のニュースが出るたびに、株価が大きく振れやすいセクターでもあります。
本記事では、こうした「地政学ショック」で一時的に売られすぎた半導体サプライチェーン銘柄を、あえて逆張りで拾っていく短期〜数週間のスイング戦略について、初心者にも分かりやすく体系的に解説します。個別銘柄名を推奨するものではなく、考え方と手順を整理することが目的です。
1. 半導体サプライチェーンと地政学リスクの関係を整理する
1-1. 半導体サプライチェーンのざっくり全体像
半導体の供給網は、大きく分けて次のようなステージに分かれます。
- 設計(ファブレス):CPU・GPU・ASICなどの設計を行う企業
- 製造(ファウンドリ):実際にウエハーを加工してチップを作る企業
- 装置・材料:露光装置・エッチング装置・フォトレジスト・ガスなどを提供する企業
- 後工程(OSAT):パッケージングやテストを行う企業
- 最終製品メーカー:PC・スマホ・自動車・データセンターなどのメーカー
設計拠点は米国や中国、製造は台湾・韓国・米国、装置や材料は日本や欧州、後工程は東南アジアなど、国境をまたいで細かく分業されています。そのため、どこか一か所で政治的なトラブルが起きると、サプライチェーン全体に「連想売り」が波及しやすい構造になっています。
1-2. 地政学イベントで何が起こるのか
半導体セクターに影響を与えやすい地政学イベントには、次のようなものがあります。
- 特定国への半導体製品・製造装置の輸出規制・関税強化
- 軍事的緊張の高まり(周辺海域での衝突リスク、演習の激化など)
- 政権交代や選挙結果による政策方針の急転換
- 経済制裁・禁輸措置・技術供与禁止などの発表
こうしたニュースが出ると、投資家は将来の業績悪化を懸念して、関連銘柄を一斉に売ります。特にアルゴリズム取引や指数連動の売りが重なると、「業績インパクトが軽微な企業」まで一緒に投げ売りされることがあり、ここに逆張りのチャンスが生まれます。
2. 戦略の基本コンセプト:ニュース直後の「売られすぎ」を拾う
2-1. 短期の過剰反応と中長期のストーリーのギャップ
地政学ショックでは、短期的には不透明感が極端に高まり、リスクオフの売りが優先されます。しかし、中長期の視点では、「世界はむしろ半導体への依存度を高めている」という構造要因は変わりません。
つまり、「ニュース直後の数日〜数週間」は、感情的な売りが先行して株価が行き過ぎやすい一方で、「1〜2年のスパン」では再び需要成長ストーリーに回帰しやすいというギャップが生まれます。逆張り戦略は、このギャップのうちごく一部、数日〜数週間分のリバウンドを狙うイメージです。
2-2. 狙うのは“直撃ではなく連想売り”の銘柄
地政学ショックには、本当に業績インパクトが大きい「直撃銘柄」と、ニュースには名前も出てこないが「なんとなくセクター全体だから売られる」連想銘柄があります。逆張りで狙いたいのは後者です。
- 直撃銘柄:輸出規制の対象品目に直接含まれる企業、制裁国に売上比率が極端に偏っている企業
- 連想銘柄:対象地域とは別地域の装置・材料・部品企業、グローバル顧客を持つが特定国への依存度が高くない企業
直撃銘柄は本当に業績が悪化する可能性が高く、短期リバウンドを取れてもその後ズルズル下げ続けるリスクがあります。初心者はまず「連想売りの中で、業績インパクトが小さそうな銘柄」を中心に候補を作る方が安全です。
3. 銘柄ユニバースとウォッチリストの作り方
3-1. まずは半導体関連セグメントを分解する
実際の銘柄選びに入る前に、「自分はどのサブセクターを主戦場にするか」を決めておきます。例えば日本株であれば、次のような分類が考えられます。
- 半導体製造装置メーカー(露光、エッチング、洗浄、検査など)
- 半導体材料メーカー(フォトレジスト、ガス、シリコンウエハーなど)
- 製造受託・後工程関連(パッケージング、テスト)
- 半導体を多く使う完成品メーカー(自動車、産業機械など)
初心者向けには、「装置・材料の上位企業」に絞る方が分かりやすく、情報も集めやすいです。各サブセクターから時価総額の大きい銘柄を中心に、10〜30銘柄程度のウォッチリストを作っておきます。
3-2. 事前にチェックしておくべき指標
地政学ショックが起きたときに慌てないために、平時から次のような情報を整理しておきます。
- 売上の地域別構成(どの国・地域への依存度が高いか)
- 過去の地政学ニュース時にどれくらいボラティリティが出たか
- 日足チャート(移動平均線、サポート・レジスタンスなど)
- バリュエーション水準(PER、PBRなどのざっくり感覚)
この準備をしておくことで、「今回のニュースは、この企業にとって本当に致命傷か? それとも過剰反応か?」を素早く判断しやすくなります。
4. 具体的なエントリー条件を決める
4-1. イベント発生日と価格変動の定義
逆張り戦略では、「どのくらい下がったら買い候補にするか」をあらかじめ数値で定義しておくことが重要です。例として、次のような条件を置くことができます。
- イベント発生日(ニュースヘッドラインが出た日)から1〜3営業日以内
- 終値ベースで、イベント前日の終値から▲8〜▲15%程度下落している
- 出来高が直近1か月平均の2倍以上に膨らんでいる(投げ売りが出ているサイン)
これらは一例ですが、「感覚ではなく数字で決める」ことで、恐怖感に負けてエントリーできなくなるのを防ぎます。
4-2. テクニカル面でのフィルター
純粋な逆張りとはいえ、トレンドが完全に崩壊している銘柄は避けたいところです。次のような簡単なテクニカルフィルターを追加します。
- イベント前の1〜3か月で、株価が上昇トレンド(25日移動平均線が上向き)にあったこと
- 長期のサポートライン(過去半年〜1年の安値ゾーン)付近で止まりやすい水準まで下げていること
- 週足レベルでは依然として上昇トレンドが維持されていること
これにより、「長期成長ストーリーは続いているが、短期的にショックで売られた」というパターンに絞り込みやすくなります。
5. エントリーのタイミングと分割エントリー
5-1. ナイフを素手で掴まないための工夫
地政学ショック直後はボラティリティが非常に高く、「さらにもう一段の悪材料」が出る可能性もあります。そこで、次のような分割エントリーのルールを用意しておきます。
- 初回エントリー:イベント翌日、基準株価から▲10%前後下落した時点で予定投資額の3〜5割だけを買う
- 追加エントリー:さらに▲5〜▲7%下落し、テクニカル的にサポートゾーンに近づいたら、残りの3〜5割を追加
- それ以上下がった場合は、ルール通りに損切りし、無理にナンピンしない
一度にフルポジションを取らず、「様子を見ながら段階的に入る」ことで、急落のボラティリティに耐えやすくなります。
5-2. ローソク足の形で簡易チェック
よりシンプルな判断として、「ローソク足の形」を見る方法もあります。
- 大陰線の翌日に、下ヒゲの長いローソク足が出ている(いったん買い戻しが入ったサイン)
- 5分足や15分足で見ると、寄り付き後の安値からじわじわ切り上がっている
完璧なパターンを待ちすぎると機会を逃しますが、「真っ逆さまに落ち続けている最中」に飛び込むのは避け、「売り一巡の兆し」が見えたところで分割エントリーするイメージです。
6. 利確・損切りルールの設定
6-1. 利確目標:どこまで戻ったら十分とみなすか
逆張りスイングでは、「欲張りすぎず、決めた水準できちんと利確する」ことが重要です。目標として、次のような基準が考えられます。
- イベント前日の終値の70〜100%程度まで戻ったら利確
- 25日移動平均線や、ギャップダウンした窓の上限付近で利確
- イベント後に形成された短期のレンジ上限に近づいたら利確
具体的には、「▲10〜▲15%急落した銘柄が、数日〜数週間で+7〜+12%戻る」ようなイメージを持つと現実的です。すべてを取りに行くのではなく、「過剰な売られすぎ分だけをもらう」という意識が大切です。
6-2. 損切りライン:最初に決めてからエントリーする
逆張り戦略は、どうしても「落ちるナイフ」を拾う場面が出てきます。そのため、損切りラインはエントリー前に数値で決めておきます。
- 初回エントリー時点から▲7〜▲10%で機械的に損切り
- イベント前から見て重要なサポートラインを明確に割り込んだら損切り
- ポジション全体で資金の1〜2%以上は損失を出さないよう、ロットを調整
「今回は特別だから」とルールを曲げてしまうと、1銘柄で大きな損失を抱える原因になります。ルールを守れるロットに抑えることが、長期的に生き残るポイントです。
7. 実際のトレード手順(チェックリスト形式)
7-1. イベント発生〜初動確認
ニュースが流れたら、次のような手順で状況を整理します。
- どの国・地域が対象か、その国にどの程度依存する銘柄かをざっくり把握
- 自分のウォッチリスト銘柄のうち、どれが大きく売られているかを確認
- イベント前からのトレンド(上昇トレンド継続中か)をチャートでチェック
7-2. 候補絞り込み〜エントリー準備
初動を確認したら、具体的な数字で絞り込みます。
- イベント前日比▲8〜▲15%下落している銘柄を抽出
- 出来高が急増している銘柄を優先する(投げ売りのサイン)
- 売上地域構成や過去の決算資料を確認し、影響度が相対的に小さそうな銘柄を選ぶ
ここまで絞り込めたら、エントリー価格帯・分割エントリーの比率・損切りライン・利確目標をあらかじめメモしておきます。
7-3. エントリー〜ホールド中の管理
ポジションを持った後は、次のようなポイントをチェックします。
- ニュースの続報が出ていないか(追加制裁・追加規制など)
- 日々の値動きが、想定したシナリオから大きく外れていないか
- セクター全体の指数(半導体関連インデックスなど)の動き
もし「想定よりも悪化するニュース」が出た場合は、ルール通りに損切りするか、ポジションを軽くする選択を検討します。
8. よくある失敗パターンと避けるコツ
8-1. 本格的な構造変化を「一時的なショック」と誤認する
逆張り戦略で最も危険なのは、「市場環境の構造変化」を「一過性のショック」と勘違いすることです。例えば、長期的な技術覇権争いの結果として、特定の国への依存度を減らす動きが本格化するような場合、その国に偏った企業には中長期的な逆風が続く可能性があります。
このようなケースでは、短期リバウンドが出ても、その後の戻りが弱く、再び安値を更新し続けることも多いです。「ニュースの一文」だけで判断せず、中長期の政策トレンドも確認する習慣をつけると良いでしょう。
8-2. ポジションサイズを大きくしすぎる
地政学イベントは予測が難しく、続報次第でマーケットのセンチメントが激しく変わります。そのため、逆張り戦略であっても「1回のトレードで大きく儲けよう」とロットを膨らませるのは危険です。
目安としては、「1回のトレードで資金の1〜2%以上は失わないロット」に抑え、複数の銘柄に分散する方が、長期的には安定しやすいです。ポジションサイズの管理は、戦略そのものと同じくらい重要な要素です。
8-3. ニュースに振り回されてルールをコロコロ変える
地政学ニュースは感情を刺激しやすく、「今回はさすがにやばいかも」「これは買い場かもしれない」と気持ちが大きく揺れがちです。しかし、毎回感覚で判断していると、たまたまうまくいったときの記憶だけが強く残り、再現性のある手法になりません。
あらかじめ「エントリー・利確・損切り」の条件を定義し、その枠の中でニュースを解釈する、というスタンスを守ることが重要です。トレードノートを付けて、自分の判断パターンを客観的に振り返るのも有効です。
9. 初心者が取り組む際のステッププラン
9-1. まずは「仮想トレード」から始める
いきなり実弾で逆張りをするのはリスクが高いため、最初は「もしこのルールでトレードしていたらどうなっていたか」を検証することから始めると安全です。
- 過去の地政学ニュースが出た日をピックアップ
- その前後で、自分のルール通りにエントリー・利確・損切りしたと仮定
- 結果をノートにまとめ、勝率・平均損益・最大ドローダウンなどを確認
この作業を通じて、「自分のルールは現実的か」「どの条件を少し調整すべきか」を肌感覚で理解できます。
9-2. 小さなロットで実践しながら調整する
バックテストや仮想トレードである程度のイメージが持てたら、次に「損をしても精神的ダメージが小さいロット」で実際にトレードしてみます。
- 最初は1〜2銘柄に絞り、ルール通りに機械的に執行してみる
- 数十トレード単位で結果を集計し、ルールを微調整する
- 自分が特に苦手な局面(急騰に飛び乗ってしまう、損切りが遅れるなど)を把握する
実際のトレードを通じてしか学べない「自分の癖」を理解し、それに合わせてルールをチューニングしていくことが、長く続けるうえで重要です。
10. まとめ:恐怖の中で冷静にルールを執行できるかが勝負
半導体サプライチェーンは、世界経済の中でも特に重要かつ複雑な分野であり、地政学ニュースのたびに大きく揺れ動きます。そうした局面で、感情に流されず、あらかじめ決めたルールに基づいて逆張りエントリー・利確・損切りを淡々と行えるかどうかが、この戦略の成否を分けます。
本記事で紹介したのは、あくまで一つの考え方のフレームワークです。実際に取り組む際は、自分の資金量・リスク許容度・生活スタイルに合わせて、銘柄数やロット、エントリー条件などを調整していくことが大切です。小さな規模からスタートし、検証と改善を繰り返しながら、自分なりの「地政学ショック逆張り戦略」を育てていきましょう。


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