海運株は、いわゆる“景気敏感株”の代表格です。ただし、景気敏感だからと言って「景気が良くなりそう→買い」「悪くなりそう→売り」では遅すぎます。海運の収益を決める中核は、需要と供給が瞬間的にぶつかる“運賃(フレート)”であり、運賃の変化は決算の数字よりも先に市場へ現れます。
そこで武器になるのが、バルチック海運指数(Baltic Dry Index:BDI)です。これはドライバルク(鉄鉱石・石炭・穀物など)輸送の運賃市況を示す代表的な指数で、海運株の短中期のトレンドと強い結びつきを持ちます。とはいえ、BDIの数字を見て「上がったから買い」「下がったから売り」をやると、だいたい往復ビンタになります。
本稿では、BDIを“株価の予言”として扱うのではなく、運賃サイクルのフェーズ判定ツールとして使い、海運株のスイング(数日〜数か月)を設計する具体手順を、初心者にもわかる言葉で深掘りします。例として、日本株の海運大手(日本郵船、商船三井、川崎汽船)を想定しながら、判断の流れを組み立てます。
- 1. まず押さえる:BDIは「海運全体」ではなく「ドライバルクのスポット運賃」
- 2. BDIの構造:サブ指数(BCI/BPI/BSI/BHSI)で“どの船型が強いか”を見る
- 3. 海運株で勝ちやすいのは「運賃→業績→株価」の時間差を取りに行く戦略
- 4. フェーズ分けがすべて:BDIの「上昇・高止まり・下落・底打ち」を4象限で管理する
- 5. エントリーの具体手順:BDIより先に「株価の需給」を確認する
- 6. 具体例:BDIが底打ち→Capesize先行→2週間遅れて海運株がブレイクするパターン
- 7. 逆に負ける典型:BDIが高止まりしているのに株価が先に崩れる
- 8. 情報源の使い分け:BDIだけでなく“船腹供給”と“在庫・生産”をワンセットで見る
- 9. スイングの設計:1回の上昇で“2段取り”を狙う(初動+押し目)
- 10. 損切りの置き方:BDIではなく「株価チャートの構造」で決める
- 11. 利確の置き方:BDIが高止まりしている間に“株価の過熱”で降りる
- 12. 海運株の個別要因:配当・自社株買い・コンテナ運賃の影響を切り分ける
- 13. 実戦チェックリスト:毎週15分で回す“BDIスイングのルーチン”
- 14. よくある誤解と対策:BDIが上がると必ず海運株が上がる?
- 16. 指標化して精度を上げる:BDIの「変化率」「加速度」「乖離」を数値で見る
- 17. 需給イベントを味方にする:決算・権利取り・指数リバランスの“ズレ”で勝つ
- 18. ポジションサイズの決め方:値動きの荒さを前提に「損失から逆算」する
- 19. 海運サイクルを読む補助線:鉄鉱石・石炭・穀物の「荷主側の事情」を知る
- 20. どうしても迷うときの最終判断:BDIではなく“株価のトレンドが続いているか”だけを見る
- 21. まとめ:BDI連動スイングを“型”に落とすと再現性が出る
1. まず押さえる:BDIは「海運全体」ではなく「ドライバルクのスポット運賃」
最初の落とし穴は、BDIを「海運業の景況感そのもの」と誤解することです。BDIはドライバルクのスポット運賃(短期取引の運賃)を中心に反映します。タンカー(原油・石油製品)やコンテナ(海上輸送の箱物)とは別物です。
日本の海運大手は、ドライバルク、タンカー、LNG船、自動車船、コンテナなど複数事業を持つ“総合海運”です。したがって、BDIが上がっても会社の利益が同じ比率で増えるわけではありません。ここで必要なのは、BDIを「きっかけ」ではなく「全体の潮目」として使い、他の手掛かりと組み合わせて精度を上げる発想です。
2. BDIの構造:サブ指数(BCI/BPI/BSI/BHSI)で“どの船型が強いか”を見る
BDIは複数のサブ指数を束ねた総合値です。特に重要なのは船型別の指数です。
・Capesize(大型):鉄鉱石・石炭など、大口の資源輸送に強い
・Panamax(中型):穀物や石炭など、多用途で動く
・Supramax(中小型):港湾事情に左右されやすく、地域分散が効く
・Handysize(小型):小口輸送が中心で、景気の末端に近い
相場の本質は「どの船型が先導しているか」です。たとえば、Capesizeだけが先に跳ねる局面は“資源の一発需給”であることが多く、持続性はケースバイケース。一方で、PanamaxやSupramaxが揃って上がる局面は“広い需要の回復”を示しやすく、トレンドが伸びやすい、という見立てができます。
3. 海運株で勝ちやすいのは「運賃→業績→株価」の時間差を取りに行く戦略
海運株の価格形成は、ざっくり言うと次の順序で進みます。
運賃(スポット市況)が動く → 市場が“次の四半期の利益”を織り込み始める → 決算で確認される → その後、材料出尽くしや反落が起きる
つまり、決算の数字が出てから追いかけると遅いことが多い。逆に、運賃が変化し始め、株価がまだ反応し切っていない“初動〜中盤”が狙い目です。本稿のスイング設計は、この時間差を前提にしています。
4. フェーズ分けがすべて:BDIの「上昇・高止まり・下落・底打ち」を4象限で管理する
BDIはボラティリティが大きく、ノイズも多いので、1日単位の上下に反応すると負けます。そこで、相場を4つのフェーズに分類して、やることを固定します。
A:上昇初期(底から反転し、移動平均を上抜け)…海運株の“仕込みフェーズ”
B:上昇加速(短期・中期のMAが上向き、押し目が浅い)…“乗せフェーズ”
C:高止まり〜天井圏(高値圏で横ばい、悪材料に弱い)…“利益確定フェーズ”
D:下落〜底打ち(下げが加速し、投げが出る)…“様子見、または短期逆張りのみ”
この分類の目的は、あなたの行動を単純化することです。Aでしか新規のスイング買いをしない、Cでは基本的に買い増ししない、などルール化します。
5. エントリーの具体手順:BDIより先に「株価の需給」を確認する
BDIがA(上昇初期)に入りそうでも、株価側の需給が死んでいると、反応が遅れたり、そもそも上がりません。そこで次のチェックを入れます。
(1)出来高の増加:上昇日に出来高が増えるか。増えない上昇は続きにくい。
(2)安値の切り上げ:日足で安値が切り上がっているか。
(3)上値の節目:直近戻り高値や、200日線など“売りが出る場所”を把握する。
ここで重要なのは、「BDIが上がっているのに株価が動かない」状況を“買いサイン”と勘違いしないことです。市場が無視している可能性もある。だからこそ、株価の反応(出来高・値動き)を必ず同時に見ます。
6. 具体例:BDIが底打ち→Capesize先行→2週間遅れて海運株がブレイクするパターン
典型的な勝ちパターンの一つを、ストーリーで示します(数値は例示です)。
・BDIが長期下落の後、数週間かけて下げ止まり、5日線が20日線を上抜ける。
・同時にCapesize指数が先に反発し、鉄鉱石の荷動き回復が示唆される。
・ところが株価はまだ横ばい。出来高も薄い。ここで焦って飛びつくと、時間負けする可能性がある。
この局面でやるべきは、監視リストに入れ、“株価側の初動”を待つことです。具体的には「出来高が増えた陽線で、直近戻り高値を明確に超える」など、テクニカルな合図を待ちます。合図が出たら、A→Bへ移る可能性が上がるので、スイングの初回建てを入れます。
7. 逆に負ける典型:BDIが高止まりしているのに株価が先に崩れる
海運株は、運賃が高くても株価が落ちることがあります。代表例は「織り込み過ぎ」です。市場は運賃のピークを先に予想してしまい、BDIがまだ高い段階で株価が天井を付けて下落に入ることがある。
このパターンを避けるコツは、BDIのレベルではなく“変化率”と“持続性”に注目することです。BDIが高いままでも、上昇の勢いが鈍り、サブ指数がバラけ始める(Capesizeだけ弱い、など)と、ピークアウトの兆候になり得ます。株価側で「上げても出来高が伴わない」「上ヒゲが増える」などが出たら、Cフェーズとして利益確定を優先します。
8. 情報源の使い分け:BDIだけでなく“船腹供給”と“在庫・生産”をワンセットで見る
運賃は需要だけでなく供給(船腹の過不足)に強く左右されます。需要が普通でも、船が足りなければ運賃は跳ねるし、需要がそこそこでも船が余れば運賃は沈みます。
個人投資家が追える範囲で、効く情報は次の3つです。
(1)船腹供給の増減:新造船の引き渡しが増える局面は、運賃に逆風になりやすい。
(2)資源の在庫・生産:鉄鉱石や石炭の在庫が積み上がっていると、輸送需要が鈍る可能性。
(3)港湾の混雑:港で滞留が増えると、実質的な船腹供給が減って運賃が上がりやすい。
全部を完璧に追う必要はありません。ポイントは、BDIの動きに「それっぽい理由」が付くかどうかです。理由が曖昧な上昇は、急落の種にもなります。
9. スイングの設計:1回の上昇で“2段取り”を狙う(初動+押し目)
海運株は値動きが荒く、押し目が深いことが多い。そこで、1回のトレンドで2回に分けて取る設計が有効です。
第1段:初動ブレイクで小さく入る(損切りが近い場所で)
第2段:押し目で増やす(上昇トレンドが確認できた後に)
初回を小さくする理由は、BDIの反転はダマシがあるからです。第1段で「市場が本気かどうか」を見極め、押し目が機能する(安値を割らない)ことを確認してから第2段を入れます。結果的に、勝ちトレンドだけを大きく取れます。
10. 損切りの置き方:BDIではなく「株価チャートの構造」で決める
初心者がやりがちなのは、「BDIがまだ強いから」と損切りを先送りすることです。これは危険です。株価は期待で動き、期待が崩れたら運賃が強くても落ちます。
損切りは次のどれかで機械的に置きます。
・直近押し安値割れ(日足の安値)
・上昇トレンドの起点(ブレイク前のレンジ下限)割れ
・許容損失(口座の一定%)に到達
特に3つ目が重要です。海運株はギャップダウンもあり得るので、値幅ではなく“資金管理”で守る発想が必要です。
11. 利確の置き方:BDIが高止まりしている間に“株価の過熱”で降りる
利確も「BDIがピークアウトしたら」では遅いことが多い。現実的には、株価の過熱で降りる方が再現性が出ます。
具体的には、次のようなサインを組み合わせます。
・短期での急騰(数日で大陽線連発)
・出来高の急増が“天井の出来高”っぽい形になっている
・上値抵抗(過去高値・長期線)で失速し始める
BDIがまだ高くても、株価が先に天井を付けるなら、Cフェーズです。ここで欲張ると、下落フェーズDの急落に巻き込まれます。
12. 海運株の個別要因:配当・自社株買い・コンテナ運賃の影響を切り分ける
日本の海運大手は、高配当や株主還元が注目されやすい一方、事業ポートフォリオが広いので材料が混線します。そこで、ドライバルク(BDI)と関係が薄い材料を切り分けて判断します。
・高配当:買い材料だが、相場全体がリスクオフだと減配懸念で逆風。
・自社株買い:短期の下支えになりやすいが、トレンド転換の決定打とは限らない。
・コンテナ運賃:コンテナ相場が別で崩れると、総合海運の評価が下がることがある。
あなたの戦略がBDI連動のスイングなら、「ドライが良いのに株が弱い」理由がどこにあるのかを、材料の切り分けで判断します。
13. 実戦チェックリスト:毎週15分で回す“BDIスイングのルーチン”
情報量を増やし過ぎると継続できません。最低限のルーチンを、週1回の点検として固定します。
(1)BDIとサブ指数の方向(先導している船型はどれか)
(2)海運株の週足:高値・安値の切り上げ/切り下げ
(3)日足:出来高の増減、直近のブレイク/レンジ
(4)イベント:決算、配当取り、指数リバランスなど需給要因
これだけで十分です。毎日見るのは“株価の形”だけでよく、BDIは週次でフェーズ判定に使う、という役割分担にすると、ブレずに運用できます。
14. よくある誤解と対策:BDIが上がると必ず海運株が上がる?
結論:必ずではありません。理由は3つあります。
(1)会社の利益構造がBDIだけで決まらない(総合海運)
(2)市場がすでに織り込んでいる(期待先行)
(3)相場全体のリスクオン/オフで一括売買される
対策は、BDIを“単独シグナル”にしないこと。BDIは「風向き」、株価は「帆の張り具合」です。風が吹いても帆が張られていなければ進まない。だから出来高・ブレイク・押し目という、株価側の合図を必ず要求します。
16. 指標化して精度を上げる:BDIの「変化率」「加速度」「乖離」を数値で見る
BDIを見ているつもりでも、実際には“雰囲気”で判断してしまう人が多いです。そこで、簡単な数値化を入れるとブレが減ります。やることは難しくありません。
(1)週次の変化率:今週のBDIが先週比で何%動いたか。上昇初期はプラスに転じるだけで価値があり、上昇加速はプラス幅が拡大します。高止まりは変化率がゼロ近辺へ収束していきます。
(2)加速度:変化率が拡大しているか縮小しているか。株価は“増勢”に反応しやすく、“鈍化”に弱い。BDIが高くても加速度がマイナスに転じるならCフェーズの疑いが出ます。
(3)移動平均乖離:BDIが中期平均(例:20日)からどれだけ離れているか。乖離が極端に広がる局面は、上昇の末期であることが多く、急落リスクも増えます。
ここで大事なのは、精密な統計モデルではなく、“同じ物差しで毎回判断する”ことです。海運はノイズが多いので、再現性のある手順に寄せるほど勝ちやすくなります。
17. 需給イベントを味方にする:決算・権利取り・指数リバランスの“ズレ”で勝つ
運賃市況だけを追うと、決算前後の値動きに振り回されます。海運株では、需給イベントの影響が想像以上に大きいからです。
決算前:市場は“次のガイダンス”を警戒します。BDIが強くても、保守的な見通しが出れば売られる。逆に、BDIが弱含みでも、コスト改善や船隊効率化が評価されて買われることもあります。
決算後:上方修正や増配が出ても「材料出尽くし」で下がることがある。ここは“正しいかどうか”ではなく“市場心理”で動くと割り切ります。
権利取り:高配当銘柄は権利取りで上がり、権利落ちで下がる。BDIのトレンドと逆方向の短期変動が混ざるので、エントリータイミングをずらす判断が必要です。
実務上のコツはシンプルで、イベントの1〜2週間前はポジションを軽くし、イベント後に“株価の反応”を見てから再構築することです。BDIの風向きが良いなら、イベントで押したところが第2段(押し目)の好機になり得ます。
18. ポジションサイズの決め方:値動きの荒さを前提に「損失から逆算」する
海運株で勝ち残れない最大要因は、方向性よりも“サイズ”です。ボラが大きいのに、他の銘柄と同じ感覚で建てると、損切りが間に合わず資金が削れます。
初心者でも再現できる方法は、次の逆算です。
1) 1回のトレードで許容する損失額を決める(例:口座の1%)。
2) 損切り位置をチャートで決める(例:直近押し安値までの下落幅が7%)。
3) 許容損失 ÷ 損切り幅 = 投下できる金額。
たとえば口座300万円、許容損失1%なら3万円。損切り幅7%なら、3万円÷0.07≒約42.8万円が上限です。これを守るだけで、急落の“事故死”が激減します。逆に、サイズ管理をしないと、BDIが当たっていても一発のギャップで退場します。
19. 海運サイクルを読む補助線:鉄鉱石・石炭・穀物の「荷主側の事情」を知る
BDIは結果です。原因は“荷物が動くかどうか”です。個人投資家でも理解できる範囲で、荷主側の事情を押さえると、BDIの変化が腹落ちし、ダマシを減らせます。
鉄鉱石:鉄鋼生産(特に中国の粗鋼生産)が強いと輸送が増えやすい。ただし、鉄鉱石価格が急騰すると、在庫調整で一時的に荷動きが止まることがある。
石炭:季節性が出やすい。冬場の電力需要、夏の猛暑で電力需要が増える局面など、発電用の需要が効く。
穀物:収穫期や輸出政策、天候で動く。急騰・急落より“遅れて効く”傾向があり、Panamax/ Supramaxの動きと結びつきやすい。
ここまで把握すると、BDIの上昇が「一時的な港湾混雑」なのか「広い需要の回復」なのかを見分けやすくなり、スイングの滞在期間(何週間持つか)の見積もりが改善します。
20. どうしても迷うときの最終判断:BDIではなく“株価のトレンドが続いているか”だけを見る
情報を集めるほど迷います。そのときの処方箋は、「戻る場所」を決めておくことです。BDIスイングの最終判断は、結局のところ株価トレンドです。
・高値と安値が切り上がっているなら、上昇トレンドは継続。
・切り上げが崩れ、戻り高値を超えられないなら、トレンドは終了。
・イベントで乱高下しても、構造が壊れていなければ保持する価値がある。
BDIは“風向き”、株価は“実際の航路”です。航路が崩れたら降りる。これを徹底すると、情報過多でも意思決定が鈍りません。
21. まとめ:BDI連動スイングを“型”に落とすと再現性が出る
海運株は、決算やニュースよりも先に運賃が動き、株価はその期待で動きます。だからこそ、BDIを「当てもの」ではなく「フェーズ管理」として使うと強力です。
実践の要点
・BDIはドライバルクのスポット運賃。範囲を誤解しない。
・総合値よりサブ指数(船型別)の先導を重視する。
・A(上昇初期)で仕込み、B(加速)で押し目を拾い、C(高止まり)で段階的に降りる。
・損切りはBDIではなく、株価構造と資金管理(許容損失から逆算)で決める。
・週次15分のルーチンで継続し、イベント前後はサイズを落として事故を避ける。
この型は、海運株だけでなく、資源株や景気循環株にも横展開できます。重要なのは、毎回同じ手順でフェーズを判定し、同じルールで建てて、同じルールで降りることです。運賃サイクルの“時間差”を、あなたの収益機会に変えてください。


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