銀行株の中期スイングで一番の誤解は、「日銀が利上げしそう→銀行株が上がる」という一次元の連想でポジションを作ってしまうことです。市場は“いつ・どれくらい・どの確度で”を金利スワップ(OIS/IRS)で先に織り込みます。株価はその織り込みの「変化」に最も敏感で、ニュースそのものより織り込みの上振れ・下振れで動きます。
この記事は、金利スワップが示す利上げ期待を、銀行株の損益ドライバー(預貸金利ざや、債券ポートフォリオ、調達構造、株式需給)に接続し、勝率を上げるためのシナリオ設計まで落とし込みます。テクニカルは最後に添える程度にし、まずは「なぜその価格になるか」を主戦場にします。
- なぜ銀行株は「政策金利」ではなく「織り込みの変化」で動くのか
- 金利スワップの基礎:OISとIRS、そして「利上げ織り込み」とは何か
- 最重要:スワップカーブで読むべき3点(レベル・スロープ・ボラ)
- 「利上げ織り込み」を数値化する:確率と期待値の作り方
- 銀行株の損益ドライバーを分解する:スワップが効くのはどこか
- 実戦フレーム:スワップ→銀行株に落とす3段ロジック
- 具体例:日銀イベント前の“中期スイング”シナリオ設計
- 銘柄選別:メガバンクと地銀を同列に扱わない
- テクニカルは“出口”に使う:エントリーより利確・損切りを重視
- 落とし穴:利上げ織り込みが強いのに銀行株が下がる3パターン
- データの取り方:無料で始める現実的な監視セット
- 売買ルール例:初心者が“事故りにくい”中期スイングの型
- まとめ:スワップを“先行指標”として扱うと、銀行株は読みやすくなる
なぜ銀行株は「政策金利」ではなく「織り込みの変化」で動くのか
銀行株は金利上昇局面で有利と言われますが、実際の値動きは政策金利の決定よりも、その前の期待の上書きで起きます。理由は単純で、市場参加者は先回りでポジションを作るからです。
たとえば「次回会合で0.25%上がる」と市場が8割織り込んでいる時点で、銀行株はそれなりに買われています。そこで実際に0.25%上がっても、織り込みどおりなら上昇余地は限定的です。逆に、同じ0.25%でも“織り込みが5割→8割へ”に変化した週が一番動きます。ここを見ないと、ニュースで追いかけるだけの不利な取引になります。
金利スワップの基礎:OISとIRS、そして「利上げ織り込み」とは何か
金利スワップは「固定金利を払って変動金利を受け取る(または逆)」契約です。市場が将来の短期金利をどう見ているかが、スワップレート(固定金利側)に集約されます。
OIS(Overnight Index Swap)は、変動金利がオーバーナイト指数(日本ならTONAなど)に連動するタイプで、信用リスク要因が相対的に小さく、政策金利・短期金利の期待を読みやすいのが特徴です。
IRS(通常の金利スワップ)は、変動金利が短期指標金利(TIBOR等)に連動し、銀行間信用や流動性の要素が混ざることがあります。そのため「政策期待だけ」を見たいならOISの方が扱いやすい場面が多いです。
利上げ織り込みとは、要するに「将来の短期金利の平均値の市場予想」です。たとえば1年OISレートが現在の短期金利より高いなら、1年の間に利上げが進む(あるいは利下げが起きない)方向を市場が見ている、という読みになります。
最重要:スワップカーブで読むべき3点(レベル・スロープ・ボラ)
銀行株に効くのは、スワップレート単体の数値よりも、カーブ全体の形と変化です。見るポイントは3つです。
(1)レベル(短期側の水準):1M〜1YのOIS/IRSが上がるほど、近い将来の利上げ期待が強まっているサインです。銀行株の短期モメンタムに効きやすい。
(2)スロープ(傾き):2Y-10Yや5Y-10Yの差がどう変わるか。銀行の利ざやは短期調達→中長期運用の形が多く、カーブが立つ(スティープ化)と追い風になりやすい一方、フラット化は追い風が弱い場合があります。
(3)ボラティリティ(織り込みの揺れ):会合前後や重要指標で短期スワップが大きく動く局面は、銀行株も“行ったり来たり”になりやすい。勝率を上げるには、ボラが高い局面ほどポジションサイズを落とす、または時間軸を短くする判断が必要です。
「利上げ織り込み」を数値化する:確率と期待値の作り方
初心者でもできる形に落とします。考え方はイベント(会合)単位で、利上げの確率と幅を推定することです。
たとえば次回会合までのOISが現状より+0.10%高いとします。もし政策変更が「0% or +0.25%」の二択に近いなら、単純化して確率 ≒ 0.10 / 0.25 = 40%というイメージになります。実務では日数配分や複数会合を考える必要がありますが、まずは「スワップ差分 ÷ 1回の利上げ幅」で確率の近似を置くと、ニュースの強弱を数字で比べられます。
そして重要なのは、確率そのものより確率が何日でどれだけ動いたかです。銀行株はこの“変化率”に反応します。
銀行株の損益ドライバーを分解する:スワップが効くのはどこか
スワップは短期金利期待を表しますが、銀行の利益は複数の経路で動きます。主に次の4つを押さえると、利上げ局面の「勝ち筋」と「落とし穴」が見えます。
(1)預貸金利ざや(NIM):貸出金利が上がるとプラスですが、預金金利の引き上げが早いと利益は伸びにくい。メガバンクは市場性調達も多く、調達コストの反映も早い傾向があり、地方銀行は預金基盤が強い一方で貸出競争が厳しい地域もあります。
(2)債券ポートフォリオ(評価損益):金利上昇は保有債券価格の下落を通じて逆風になり得ます。特に「金利が上がる=銀行株が必ず上がる」と信じると、評価損のヘッドラインに振らされます。ここは保有期間、ヘッジ、会計区分(売買目的/その他有価証券など)で影響が違うため、“金利上昇の速度”が鍵です。急騰は株にもマイナスになりやすい。
(3)与信(クレジットコスト):金利上昇は企業・個人の返済負担を増やし、景気が悪化すると貸倒引当が増えます。つまりスワップ上昇が「景気加速の裏付け」なのか「インフレ抑制の引き締めで景気を痛める」なのかで銀行株の反応は変わります。
(4)株式需給:銀行株は指数比率が高く、先物・ETF・リバランスの影響も受けます。政策イベントの週に需給イベントが重なると、スワップと株価の整合が一時的に崩れます。
実戦フレーム:スワップ→銀行株に落とす3段ロジック
ここからが手順です。次の順にチェックすると、相場の解像度が上がります。
Step1:短期OISの「変化」を確認(例:1M/3M/6M/1Y)。変化が上向きなら利上げ織り込みが強まり、銀行株の地合いが良くなりやすい。
Step2:カーブの形(スティープ化/フラット化)を見る。短期だけ上がって長期が動かない(フラット化)なら、銀行株の上値は限定的になりやすい。短期も長期も上がりカーブが立つなら、追い風が強い。
Step3:株側で「織り込み過多」を判定。銀行株がスワップ変化の割に上がりすぎているなら、会合当日の“事実売り”を警戒します。逆にスワップが上がっているのに株が出遅れているなら、遅れて追随する局面があります。
この3段を回すだけで、「ニュースで飛び乗って天井を掴む」確率が下がります。
具体例:日銀イベント前の“中期スイング”シナリオ設計
仮に、次回の日銀会合に向けて短期OISが2週間で明確に上昇し、1Yもじわじわ上がっているとします。これは市場が「早いタイミングでの政策修正」を織り込み始めた状態です。
このときのシナリオは3つに分岐します。
シナリオA:織り込みがさらに上振れ(会合前に短期OISが追加上昇)。銀行株は先回り買いが継続しやすい。戦略は「押し目買い→会合直前まで保有」。ただし会合当日は“事実売り”で一度崩れやすいので、イベント前に一部利確をルール化します。
シナリオB:織り込みが横ばい(OISが止まる)。株は“材料出尽くし”に弱く、銀行株は揉み合いになりやすい。戦略は「ポジション縮小」か「強い銘柄に集中」。ここで無理に増やすと期待の上書きが起きず、時間だけが過ぎます。
シナリオC:織り込みが剥落(OISが急低下)。これは市場が利上げ確率を引き下げた状態で、銀行株は下げやすい。戦略は「撤退が正解」。逆張りするなら、スワップ低下が“一時的なヘッドライン”で、長期金利やクレジット指標が崩れていないかを確認してからです。
銘柄選別:メガバンクと地銀を同列に扱わない
利上げ局面で銀行株は一括りにされがちですが、実際には反応が違います。初心者がやりがちな失敗は「銀行なら何でも同じ」と思うことです。
メガバンクは海外金利・為替・投資銀行業務も絡みます。国内短期金利の織り込みだけで説明し切れない局面が多い。スワップを見るなら、国内OISに加えて米国金利(米OISや国債利回り)も併せて観測した方がブレが減ります。
地方銀行は地域の貸出環境と有価証券運用が重要です。スワップが上がっても、貸出金利が上げられない地域や、長期債運用比率が高い銀行は評価損が先に意識されることがあります。一方で預金基盤が強く、調達コストの上昇が遅い構造なら利ざや改善が効きやすい。ここは「決算説明資料で、利ざやと有価証券の状況を確認する」だけで差が出ます。
テクニカルは“出口”に使う:エントリーより利確・損切りを重視
スワップの変化で方向感を決めたら、テクニカルは主に出口に使います。理由は、材料主導の局面では短期のノイズが多く、エントリー精度よりも撤退の早さが期待値を左右するからです。
実務的に使いやすいのは次の2つです。
(1)日足の25日移動平均:中期スイングなら、25日線を割ったら一度撤退、上なら保有継続というルールが機能しやすい。
(2)出来高の増減:スワップが上がっているのに株の出来高が細っていくなら、買い手の勢いが鈍っているサインです。会合前の“静かな天井”を避けるために、出来高は必ず確認します。
落とし穴:利上げ織り込みが強いのに銀行株が下がる3パターン
「スワップ上昇なのに銀行株が弱い」局面は、むしろチャンスにもリスクにもなります。代表的な3パターンを押さえておきます。
(1)金利上昇が急すぎる:債券評価損が先に意識され、株が売られる。スワップは上がっているが、“良い金利上昇”ではない。
(2)クレジット不安が同時に進む:ジャンク債スプレッド拡大など、信用悪化が起きると銀行株は利上げ期待よりも与信悪化を嫌います。
(3)需給イベントで押し下げられる:指数リバランスや先物主導の裁定解消が重なると、ファンダメンタルと無関係に売られます。この場合は“売られた理由が需給なら戻りやすい”こともあるため、原因の切り分けが重要です。
データの取り方:無料で始める現実的な監視セット
高価な端末がなくても始められる形にします。最低限は次の3つです。
(1)短期金利指標:TONA(オーバーナイト)や短期国債利回りなど。現状水準の把握に使います。
(2)OIS/スワップの代表期限:1M、3M、6M、1Y、2Y、5Y、10Y。毎日全てを見る必要はなく、まずは1Yと2Y、そして2Y-10Yなどの傾きだけでも十分です。
(3)銀行株の相対強弱:銀行指数(または主要銀行の等金額バスケット)とTOPIXの比率を見ます。スワップ上昇期でも銀行が相対的に弱いなら、織り込みはすでに株側に入っている可能性があります。
売買ルール例:初心者が“事故りにくい”中期スイングの型
最後に、形にしておきます。あなたが裁量で迷わないための「型」です。
ルール1:スワップが上向きに転じた最初の週だけ攻める。織り込みがすでに高い局面で追いかけない。スワップ変化の初動を重視します。
ルール2:会合・重要指標の前に一部利確する。イベントは勝っていても負けてもギャップが出やすい。中期スイングでも“前日までに軽くする”だけで成績が安定します。
ルール3:25日線割れ、または短期OISが急低下したら撤退。どちらかで撤退できれば大事故を避けられます。
ルール4:銘柄は「2タイプ」に分けて持つ。メガバンク1つ+地銀(またはリテール比率が高い銀行)1つのように、ドライバーが違うものを組み合わせると、想定外のニュースに耐性が上がります。
まとめ:スワップを“先行指標”として扱うと、銀行株は読みやすくなる
銀行株の中期スイングは、材料がはっきりしているぶん、やり方を間違えると「織り込み済みの天井」を掴みやすい領域です。金利スワップ(特に短期OIS)を見て利上げ織り込みの変化を追い、カーブの形と株の相対強弱で“過熱/出遅れ”を判定する。これを徹底するだけで、ニュース追随のトレードから一段上の再現性に近づきます。
次にやることはシンプルです。まずは毎日、1Y OIS(または近い代替指標)と銀行株の相対強弱を1分で記録し、変化が出た週だけ集中してシナリオを組み立ててください。中期スイングは、派手さよりも仕組み化が勝ちます。


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