「大株主が買い増した」という事実は、株価が動く前に出てくることがあります。材料がニュースで大きく報じられなくても、需給が静かに変わる。その“足跡”が、大量保有報告書の変更報告書です。
本記事では、変更報告書を単なるニュースとして読むのではなく、売買ルールに落とし込める“需給データ”として扱います。初心者でも迷子にならないように、制度の基礎→どこを見るか→銘柄の選び方→エントリー条件→失敗パターン→実践手順まで、順番に具体化します。
大量保有報告書と変更報告書:まずは仕組みを「実務レベル」に落とす
大量保有報告書は、ざっくり言うと「ある投資家(個人・法人)が、上場企業の株を一定以上持ったときに提出する報告書」です。市場では一般的に「5%ルール」と呼ばれます。ここで重要なのは、提出されるのが“売買の意図”ではなく“保有の事実”だという点です。
そして、いったん大量保有者になった後に、持ち株比率が増減した場合に提出されるのが変更報告書です。市場参加者が注目するのは主に次の2点です。
- 既存の大株主が買い増している(=平均取得単価を上げてでも増やす意思)
- 短期間で複数回の変更報告が出る(=継続的な買いが入っている可能性)
初心者がやりがちな誤解は「変更報告が出た=明日上がる」という短絡です。現実はそんなに単純ではありません。変更報告書は、株価を動かす“燃料(需給)”が増えた証拠になり得ますが、点火(トリガー)がなければ燃えません。だからこそ、後半で“点火条件”を作ります。
変更報告書を「需給シグナル」に変える:見るべき5項目
変更報告書は情報量が多く、初心者はどこを見ていいか分からなくなります。まずは以下の5項目だけを固定で見てください。これだけで判断の精度が上がります。
1)報告義務発生日(=実際の売買が起きた日)
市場で一番ありがちな事故が、「提出日」を見てトレードしてしまうことです。提出日は単なる事務処理の日で、実際の売買が起きたのは報告義務発生日です。ここが直近なら“現在進行形”の需給変化、古いなら“過去の話”になりやすい。まず日付で鮮度を判定します。
2)保有比率の増減幅(どれだけ増えたか)
0.05%の増加と、1.0%の増加では意味が違います。前者は微調整の可能性が高い一方、後者は明確な意思が出ていることが多い。増加幅が大きいほど需給インパクトは強いと考えてよいです(ただし、時価総額や出来高との相対で評価します)。
3)保有目的(純投資か、経営参加か)
“純投資”でも買いは買いですが、市場が反応しやすいのは「重要提案行為」や「経営に影響を与える可能性」に触れる目的です。ただし、初心者はここで“思惑買い”に溺れがちです。目的の文言は、「市場が燃えやすいか」だけに使うと割り切り、買いの根拠をそこだけに置かないでください。
4)共同保有者の有無(誰が一緒に持っているか)
共同保有者がいる場合、需給の“厚み”が出やすいことがあります。逆に、ファンドが分かれて同じグループで持っているだけのケースもあるので、名前の雰囲気で判断せず、過去の同じ保有者の値動きを確認する癖をつけます。
5)取引の内訳(市場内、立会外、貸株や担保の可能性)
報告書上の「保有の増減」が、必ずしも市場での買い付けと一致しない場合があります。例えば、貸株、担保設定、組み替えなど、売買以外の要因が絡むこともあります。初心者はここを完璧に理解する必要はありませんが、“市場内で買っている”確度が低いときはサイズを落とす、これだけ守ってください。
勝ち筋は「既存大株主の買い増し×需給の軽さ」:銘柄選別の具体ルール
変更報告書が出た銘柄は山ほどあります。全部追うのは不可能です。ここで“やる銘柄・やらない銘柄”を明確にします。初心者は、銘柄選別で9割決まります。
ルールA:出来高が薄すぎる銘柄は避ける(値が飛ぶ=事故りやすい)
需給トレードは、買いが入ると上がりやすい一方、売りが出ると下がりやすい。出来高が薄すぎる銘柄は“当たっても外れても”値幅が荒くなり、損切りが機能しにくいです。目安として、直近20営業日で1日の売買代金が平均1億円未満なら、初心者は避けた方が安全です(市場環境で調整)。
ルールB:時価総額が小〜中型で、かつ大株主の増加幅が相対的に大きい
大株主が1%買い増すインパクトは、時価総額や浮動株に依存します。超大型株で1%増は莫大ですが実務的に起きにくく、起きても市場に織り込まれやすい。一方、小〜中型で1%増は、浮動株の吸収として効きやすい。
ルールC:直近で“売られ過ぎ”よりも“高値圏の押し目”を優先する
初心者は「下がった銘柄=安い」と考えがちですが、需給トレードで狙うのは“買いが継続しやすい構造”です。大株主の買い増しが効くのは、上昇トレンドの押し目か、レンジ上抜け直前です。底値探りは難易度が高いので、まずは避けましょう。
ルールD:イベント密度が高すぎる銘柄は避ける
決算直前・治験結果・当局判断など、ギャップが起きやすいイベントが近い銘柄は、変更報告書の需給効果が吹き飛ぶことがあります。需給で勝ちにいくなら、まずは“需給以外の地雷”が少ない局面を選びます。
エントリーの設計:変更報告「だけ」で買わない。価格行動で点火を確認する
変更報告を見つけたら、次にやるのは“チャートに落とす”ことです。ここでは初心者でも再現できるように、条件を2段階にします。
ステップ1:監視入り(ウォッチ条件)
次の条件を満たしたらウォッチリストに入れます。買うのではなく、監視に入れるだけです。
- 報告義務発生日が直近10営業日以内
- 保有比率の増加が0.5%以上(目安)
- 直近20日平均売買代金が十分(薄すぎない)
ステップ2:点火条件(買い条件)
買いは、次のどちらかで行います。どちらも「需給が入ったことを価格が認めた」状態です。
パターン1:5日高値(または直近高値)を出来高を伴って上抜け
最も分かりやすいのがブレイクアウトです。変更報告が出た後に、直近高値を上抜ける動きが出れば、短期資金が乗りやすい。重要なのは、上抜けた“瞬間”ではなく、上抜け後に押しても割れずに支えられることです。初心者は「上抜け→押し目(リテスト)→反発」で入るとミスが減ります。
パターン2:VWAP(デイトレ)または25日線(スイング)を下から回復して維持
ブレイクが苦手なら“回復”を使います。出来高を伴ってVWAPや25日線を回復し、その後の押しで再度支えられるなら、買い手の優位が見えます。変更報告の需給が、支えとして働いている可能性が高い。
利益の出し方:初心者でも迷わない「利確・損切り・伸ばし方」
需給トレードは、当たると伸びますが、外れると“ズルズル”になりがちです。だから出口を先に決めます。
損切り(最優先)
損切りはシンプルに「需給が否定されたライン」を使います。
- ブレイク狙い:上抜けた高値(ブレイクポイント)を終値で割れたら撤退
- 回復狙い:回復したVWAP/25日線を明確に割って戻らなければ撤退
初心者は「ちょっと戻った」だけで切らされがちなので、“終値”または“5分足の確定”など、時間のルールを固定すると安定します。
利確(基本形)
利確は2段階が扱いやすいです。
- 第一利確:直近の節目(前回高値、心理的節目、上値が重かった価格帯)で半分
- 第二利確:トレンドが崩れるまで残りを引っ張る(移動平均割れ、安値切り下げ等)
この形にすると「利益を確定しつつ、当たりのときだけ大きく取る」構造になります。需給トレードの旨味は後者なので、半分残す設計が大事です。
ポジションサイズ(初心者が一番負ける原因)
変更報告は“強そう”に見えるため、初心者ほどサイズを上げます。これは典型的な負けパターンです。原則は、1回の損切りで資金の1%以上を失わないように、逆算で株数を決める。損切り幅が大きい銘柄ほど、持ち株数を減らす。これだけで生存率が上がります。
具体例:3つの“よくある局面”でどう動くか(架空ケースで再現)
ここからは、実際に起きやすい形を、架空の例で“手順”として示します。数字は説明用です。
ケース1:高値圏の押し目に変更報告(王道)
ある中型株が2カ月上昇し、直近は高値更新後に押し目を作っている。そこに既存大株主の変更報告が出て、保有比率が7.2%→8.1%へ増加、報告義務発生日は3日前。
このケースでやることは次の通りです。
- まず監視入り:鮮度OK、増加幅OK、売買代金OK
- チャートで節目確認:直近高値、押し目安値、25日線の位置
- エントリー:直近高値を上抜け後、翌日の押しで高値が支持線化したら入る
- 損切り:支持線化した価格を終値で割れたら撤退
- 利確:上の節目で半分、残りは安値更新まで
ポイントは「変更報告で買う」のではなく「変更報告で監視し、価格が認めたら買う」です。
ケース2:下落トレンド中に変更報告(難しい)
別の銘柄は下落が続き、25日線も下向き。そこに変更報告が出て保有比率が増えた。しかし株価は弱い。
この場合、初心者は“底打ち期待”で買いがちですが、ここは基本的に見送るか、条件を厳しくします。具体的には、25日線回復→押し目で支え→出来高減少の売り枯れまで待つ。待てないなら手を出さない。需給の燃料があっても、下落トレンドでは点火しても消えやすいからです。
ケース3:変更報告が短期間で連発(需給の継続性)
同じ大株主から、10営業日以内に2回、さらにその翌週にもう1回と変更報告が続くケースがあります。これは「買いが継続している」可能性がある一方、市場にバレた瞬間に“材料出尽くし”になりやすい。
このときは、ブレイクの“初動”だけを狙い、伸びなければすぐ逃げる設計が合います。具体的には、上抜け当日の後場でVWAPを割ったら撤退、翌日寄り付きでギャップダウンなら撤退など、時間軸を短くしてダメなら切る。連発系はスピード勝負です。
失敗パターン集:初心者が踏む地雷を先に潰す
ここは重要なので、よくある“負け方”を明確にします。該当したらやり方を変えてください。
地雷1:提出日だけ見て飛びつく
報告義務発生日が2週間前で、すでに株価が上がった後に提出されることがあります。これに飛びつくと「最後に買う人」になりやすい。必ず報告義務発生日を見る。
地雷2:出来高の薄い低位株に全力
需給が効きやすい=値が飛ぶ=逆行も飛ぶ。低位株は特にスプレッドが広く、損切りが成立しない局面もあります。初心者は“薄い低位株ほど危険”です。
地雷3:思惑の文章だけで買う
「経営参加」「重要提案」などの文言は魅力的ですが、実際は市場が冷静なことも多い。文章は補助材料に留め、エントリーは必ず価格行動で判断します。
地雷4:利確をしない(勝ちが負けに変わる)
需給相場は勢いが止まると急に崩れます。半分利確するだけでメンタルが安定し、残りを伸ばせるようになります。
実践ワークフロー:毎日30分で回す「変更報告トレード」
最後に、初心者でも継続できるように“作業手順”に落とします。ここが曖昧だと続きません。
1)夜:変更報告の抽出(15分)
EDINET等で「変更報告書」を検索し、該当銘柄をリスト化します。見るのは「報告義務発生日」「増減幅」「保有者名」だけでよい。ここで深入りしない。
2)夜:一次フィルタ(10分)
売買代金、チャートのトレンド、イベント(決算など)をざっと確認し、やる銘柄を3〜10個に絞ります。多すぎると監視が破綻します。
3)翌日:点火待ち(寄り付き〜前場)
寄り付きはノイズが多いので、初心者は最初の5〜15分は観察が無難です。ブレイクや回復の条件が揃ったときだけ入ります。揃わないなら何もしない。これが最も難しいが、最も強い。
4)引け後:振り返り(5分)
「条件を守れたか」「飛びついていないか」「損切りが遅れていないか」を1行メモします。これをやると、同じ負け方が減ります。
まとめ:変更報告は“材料”ではなく“需給の証拠”。価格が点火してから乗る
変更報告書は、派手なニュースではありません。しかし、継続的な買いが入っている可能性を最もストレートに示すデータのひとつです。初心者が勝ちやすくするコツは、「変更報告を見たら買う」ではなく、変更報告で監視し、価格が認めたら買うという順番を崩さないことです。
ルールを固定し、サイズを抑え、損切りを先に決める。これだけで、需給トレードは“再現できる技術”になります。


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