騰落レシオは「上がった銘柄数」と「下がった銘柄数」の比率から、相場全体の“体温”を測るための指標です。チャート上の値動き(価格)ではなく、市場参加者がどれだけ広く買い/売りに傾いているか(市場の広がり=ブレッド)を可視化できます。
ただし、ネットでよく見かける「120超えは過熱、80割れは底」などの固定ルールを、そのまま使うと負けやすいです。理由は単純で、騰落レシオの“限界値”は相場の構造で変わるからです。本記事では、初心者がつまずきやすいポイントを潰しながら、騰落レシオを“逆張りの武器”に変える具体的な運用法をまとめます。
- 騰落レシオとは何か:価格ではなく「参加者の広がり」を見る
- 計算式:25日騰落レシオを例に、式を「言葉で」理解する
- 騰落レシオの本質:逆張りに向く理由と向かない理由
- “限界値”は固定ではない:同じ120でも意味が変わる3つの要因
- 実戦で使える「限界値」設計:固定閾値ではなく“帯”で考える
- 逆張りの型1:騰落レシオ×価格の“同時反転”だけを拾う
- 逆張りの型2:騰落レシオの“発散”で天井の崩れを先回りする
- 騙しを減らす“3段フィルター”:騰落レシオを実務で使える形にする
- 「限界値」を自分仕様に最適化する:過去データで“帯”を作る手順
- 具体例:3つの局面で“同じ数値”の意味が変わる
- 銘柄選別への落とし込み:指数ではなく“逆張り向き銘柄”を選ぶ
- エントリーより大事な「撤退」:逆張りの損切りを言語化する
- よくある失敗と対策:初心者がハマる罠を先に潰す
- 実装チェックリスト:騰落レシオ逆張りを“型”として回す
- まとめ:騰落レシオは“限界値の固定観念”を捨てた瞬間に武器になる
騰落レシオとは何か:価格ではなく「参加者の広がり」を見る
騰落レシオ(Advance-Decline Ratio)は、一定期間の「値上がり銘柄数」と「値下がり銘柄数」の比率を使います。代表的には東証の騰落銘柄数(値上がり・値下がり・変わらず)を材料にします。
一般に、短期の騰落レシオは25日が多用されます。25営業日はおよそ1か月で、需給の偏りが溜まって崩れるまでの“現場感”と合うからです。ただし、相場の速度が速い局面(急落・急騰)では、より短い日数(5日、10日)も意味を持ちます。
計算式:25日騰落レシオを例に、式を「言葉で」理解する
25日騰落レシオは、ざっくり言うと次の形です。
25日騰落レシオ =(過去25日間の値上がり銘柄数の合計)÷(過去25日間の値下がり銘柄数の合計)×100
「上がった日が多い銘柄が多い」ほど分子が増え、「下がった日が多い銘柄が多い」ほど分母が増えます。つまり、指数が横ばいでも、値上がり銘柄が広く増えていれば騰落レシオは上がり、少数の大型だけが上げて指数を支えていると騰落レシオは伸びません。
騰落レシオの本質:逆張りに向く理由と向かない理由
騰落レシオは“広がり”の偏りを測るので、逆張りの入口として有効です。相場は、参加者が同じ方向へ傾きすぎると、買い(または売り)の燃料が枯れて反転しやすいからです。
一方で、騰落レシオはトレンド転換を保証しません。強い上昇トレンドでは過熱が長く続き、強い下落トレンドでは売られすぎが延々と続きます。つまり、騰落レシオ単体で「天井・底」を決め打ちすると、順張りの波に逆らって踏まれることが起きます。だから必要なのが「限界値(閾値)の動き方」を理解した上での運用設計です。
“限界値”は固定ではない:同じ120でも意味が変わる3つの要因
騰落レシオを使う上で最重要の考え方は、限界値(例えば120や80)が市場の状態でシフトすることです。主に次の3要因が効きます。
1)ボラティリティ(値動きの荒さ)
相場の荒さが増えると、上げ下げが交互に起きて騰落銘柄数が入れ替わりやすくなります。その結果、騰落レシオは上下に振れ、従来の閾値が当てになりにくくなります。VIXや日経平均VIが高い局面では、騰落レシオの“安全圏”が広がる(極端な値でも反転しない)と考えてください。
2)指数の牽引構造(大型株偏重か、広範囲に上がるか)
例えば半導体・AIなど特定テーマが大型株を牽引し、指数が上がっているのに、その他の銘柄が冴えない局面があります。このとき指数の見た目より市場の広がりは弱く、騰落レシオは伸びません。逆に、内需・中小型まで幅広く買われる局面では、同じ指数上昇でも騰落レシオが跳ねます。つまり、指数と騰落レシオの“ズレ”そのものがシグナルになります。
3)参加者構成(裁定・先物主導か、現物の個別物色か)
先物主導で指数が動くと、騰落銘柄数の反応は遅れます。逆に個別物色が活発な局面では、指数が動かなくても市場内部は盛り上がり、騰落レシオは先行して動きます。あなたが狙う市場(TOPIX全体か、グロースか、セクターか)によって、適切な騰落レシオの“限界値”はズレます。
実戦で使える「限界値」設計:固定閾値ではなく“帯”で考える
騰落レシオは点(120、80)で判断せず、レンジ(帯)で扱うほうが実戦的です。ここでは一般的な25日騰落レシオを例に、以下のような帯で整理します。
- 過熱ゾーン:115〜135(強い上昇相場では140超もあり得る)
- 中立ゾーン:90〜115(ここは“様子見”が基本)
- 売られすぎゾーン:65〜85(急落局面では60割れまで耐えることもある)
この帯は「ここに入ったら即反転」ではなく、“逆張りの準備を始める領域”と捉えます。逆張りの勝率は、入口よりも「フィルター」と「撤退ルール」で決まります。
逆張りの型1:騰落レシオ×価格の“同時反転”だけを拾う
初心者が最初に作るべきは、最もシンプルで再現性の高い型です。おすすめは、騰落レシオが売られすぎゾーンに入り、かつ指数(または対象ETF)が反転サインを出した時だけ入る方法です。
具体ルール例(日本株:TOPIX連動ETFを想定)
- 条件A:25日騰落レシオが85以下(売られすぎゾーン入り)
- 条件B:TOPIX(または連動ETF)が「前日安値を割らずに陽線」など、短期反転形状を形成
- 条件C:出来高が前日比で増加(投げ売りが一巡した可能性)
- エントリー:条件A+B+Cが揃った翌日の寄り付き(または押し目)
- 損切り:直近安値割れ、またはエントリー価格から-2%〜-3%(ETFなら目安)
- 利確:騰落レシオが95〜105へ戻る、または25日移動平均にタッチ
ポイントは、騰落レシオ単体で入らず、価格が“下げ止まった証拠”を必ず要求することです。これだけで「落ちるナイフ」を掴む確率が下がります。
逆張りの型2:騰落レシオの“発散”で天井の崩れを先回りする
上昇局面での逆張り(天井取り)は難易度が上がります。おすすめは、単なる過熱(115超)ではなく、指数と騰落レシオの“発散”をトリガーにすることです。
発散の見方
- 指数:高値更新しているのに、騰落レシオが高値更新できない(広がりが弱い)
- 指数:横ばい〜上げ渋りなのに、値下がり銘柄が増えて騰落レシオが急低下
この状態は「大型だけが支えている」「内部が先に崩れている」可能性を示します。ここでいきなり空売りするのではなく、買いを減らす・利益確定を進める・ヘッジを検討するという形で効きます。
騙しを減らす“3段フィルター”:騰落レシオを実務で使える形にする
騰落レシオの欠点は、トレンド相場では過熱/売られすぎが長く続くことです。そこで、以下の3段フィルターを入れると、シグナルの質が上がります。
フィルター1:ボラティリティ・フィルター
相場が荒い時ほど、逆張りは難しいです。日経平均VIが高水準(例えば平常時より明確に高い)なら、騰落レシオの閾値を「より極端」に寄せます。例えば、売られすぎの入口を85→75に下げる、などです。
フィルター2:クレジット・フィルター
株式の下落が「需給の投げ売り」なのか「信用不安」なのかで難易度が変わります。ハイイールド債スプレッドやCDSなど、クレジット指標が悪化している局面は、騰落レシオが売られすぎでも反転しにくいです。ここでは“逆張りのサイズを落とす”か“ETFで限定する”のが現実的です。
フィルター3:金利・フィルター
金利が急騰している局面は、株のバリュエーションが一気に圧縮されやすく、反転が鈍ります。日本株でも米金利の影響は大きいので、10年米国債利回りの急騰局面では、騰落レシオの買いシグナルを“遅らせる”意識が必要です。
「限界値」を自分仕様に最適化する:過去データで“帯”を作る手順
騰落レシオの閾値は、市場と期間でズレます。そこで、あなたが実際に取引する対象(TOPIX、日経平均、グロース250、セクターETFなど)に合わせて、限界値の帯を自作すると勝率が安定します。
手順(難しい数学は不要)
- 過去3〜5年分の騰落レシオ推移を用意(証券会社ツールやデータサイトでOK)
- 騰落レシオの分布(どの値がどれくらい出るか)を見る
- 上位10%の水準を「過熱帯」、下位10%を「売られすぎ帯」と仮置き
- その帯に入った後、指数が何日で反転しやすいかをざっくり数える
- 反転が遅いなら帯をより極端にする(過熱は上、売られすぎは下へ)
ここで重要なのは「完璧な統計」を作ることではなく、自分が触る市場で“よく起きる騙し”を事前に織り込むことです。
具体例:3つの局面で“同じ数値”の意味が変わる
局面A:レンジ相場(ボラ低め)
レンジ相場では、騰落レシオの売られすぎ(例えば80前後)が素直に効きやすいです。買い手が枯れて下げ止まり、短期の戻りが取りやすいからです。この局面では「85以下+反転足」で十分戦えます。
局面B:強い上昇トレンド(ボラ中)
上昇トレンドでは、騰落レシオが120〜130でも崩れないことがあります。ここで天井取りの空売りをすると、踏み上げられやすいです。この局面での正解は、逆張りではなく利確の前倒し、ポジション縮小、ヘッジの検討です。
局面C:急落トレンド(ボラ高)
急落時は騰落レシオが70を割っても止まりません。逆張りは「分割で拾い、反転確認で増やす」設計が必要です。例えば、75以下で1/3、65以下でもう1/3、価格が移動平均を回復して最後の1/3など、時間分散が効きます。
銘柄選別への落とし込み:指数ではなく“逆張り向き銘柄”を選ぶ
騰落レシオは市場全体の温度計ですが、実際に儲けるには「どの銘柄で逆張りするか」が重要です。初心者が再現しやすいのは、次の2タイプです。
タイプ1:指数連動ETF(まずはここから)
個別株より値動きが素直で、材料リスクも相対的に小さいです。騰落レシオは市場全体の指標なので、ETFとの整合性が高いのも利点です。
タイプ2:業績が安定していて流動性が高い大型株
逆張りで怖いのは、材料で下げが継続することです。決算悪化・不祥事・増資などがあると、騰落レシオの“売られすぎ”とは別次元で下げ続けます。初心者はまず、流動性が高く、テーマ依存が強すぎない大型株で練習するのが安全です。
エントリーより大事な「撤退」:逆張りの損切りを言語化する
逆張りは、当たれば早いですが、外れると痛いです。損切りが曖昧だと、損失が拡大します。おすすめは次の2つを併用することです。
- 価格基準:直近安値割れで撤退(“下げ止まり”仮説が崩れた)
- 時間基準:3〜5営業日で反発しないなら撤退(反発の燃料がない)
騰落レシオは“反転しやすい状態”を示すだけです。反転しないなら、さっさと撤退するのがプロの作法です。
よくある失敗と対策:初心者がハマる罠を先に潰す
失敗1:80を割ったから全力買い
売られすぎは「底」ではなく「底になり得る状態」です。全力買いは、急落局面では破壊力のあるミスになります。対策は、分割・反転確認・損切りの3点セットです。
失敗2:過熱=空売りで踏まれる
過熱はトレンド相場では“強さ”の証拠でもあります。天井取りは難易度が高いので、初心者はまず「買いを減らす判断」に使ってください。
失敗3:指数と個別を混同する
市場全体が売られすぎでも、個別が材料で下げ続けることは普通にあります。逆張りの対象は、原則として指数(ETF)か、材料耐性の高い銘柄に寄せると安定します。
実装チェックリスト:騰落レシオ逆張りを“型”として回す
- 自分が見る市場(TOPIX/日経/グロース/セクター)を固定する
- 25日騰落レシオの“帯”を決める(過熱帯・中立帯・売られすぎ帯)
- 価格の反転条件を1つ決める(陽線、安値切り上げ、移動平均回復など)
- 損切りを価格基準+時間基準で言語化する
- クレジット・金利・ボラの3フィルターで無理な逆張りを避ける
- まずETFで検証し、慣れたら大型個別へ
まとめ:騰落レシオは“限界値の固定観念”を捨てた瞬間に武器になる
騰落レシオは、相場の過熱感を測る優秀な温度計です。しかし「120は天井、80は底」という固定ルールは危険です。相場の荒さ、指数の牽引構造、参加者構成で限界値は変わります。
勝ちやすい使い方は、(1)帯で考える、(2)価格の反転確認を必須にする、(3)撤退ルールを先に決める、の3点です。まずはTOPIX連動ETFなどで小さく検証し、騙しのパターンを自分の目で掴んでください。そこから先は、あなたの市場観に合わせて“限界値”を最適化するほど、騰落レシオは強い味方になります。


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