米国雇用統計(Nonfarm Payrolls、失業率、平均時給など)は、米国株・米金利・ドル円を同時に動かしやすい指標です。日本の現物市場が閉まっている時間(日本時間21:30前後に発表されることが多い)に大きな変動が起きるため、「翌朝の寄り付きがどう始まるか」を予測する材料として非常に使い勝手が良いイベントでもあります。本稿では、雇用統計の結果→米国市場の反応→日経先物(夜間)→翌朝の現物寄り付き、という因果を初心者でも再現できる手順に落とし込みます。
結論から言うと、寄り付き予測は“当たる・外れる”の占いではなく、シナリオを分けて確率とリスクを管理する作業です。雇用統計の数値そのものよりも、「市場が何を織り込んでいたか」「金利と為替がどちらに振れたか」「米株がどのセクターで反応したか」「日経先物がどの価格帯を維持したか」をセットで読むことで、翌朝のギャップ(窓)と寄り後の値動きの癖まで推定できます。
- 1. まず押さえる:雇用統計は『株』ではなく『金利とドル』を介して日本株に効く
- 2. 雇用統計で見るべき数字は3つだけ。初心者は『全部』追わない
- 3. 反応の時間割:発表直後〜翌朝までに『どの市場が先に答えを出すか』
- 4. 日経先物をどれで見るか:CMEと大阪、そして『為替込みの現物感』
- 5. 『翌朝の寄り値』を推定する具体手順:初心者向けの再現可能な型
- 6. 例で理解する:仮想シナリオで“翌朝の寄り方”を組み立てる
- 7. 初心者がやりがちな失敗と、その回避策
- 8. 『寄り付き予測』を収益に変える実装:前日夜の準備テンプレ
- 9. 応用:雇用統計の翌朝に効きやすい『日本固有の要因』も足し算する
- 10. 補足:先物と現物のズレを減らす「理論価格」とADRの見方
- 11. まとめ:翌朝の寄りは『夜間の答え合わせ』。当てに行かず、条件で取りに行く
1. まず押さえる:雇用統計は『株』ではなく『金利とドル』を介して日本株に効く
日本株の寄り付きに効く主要ルートは大きく3つです。①米国株(特にナスダック・SOX)経由、②米国金利(米10年など)経由、③ドル円経由です。雇用統計は“景気の強弱”と“インフレ圧力”の両面を連想させるため、結果が強い=株高とは限りません。賃金が強すぎてインフレ懸念→金利上昇→グロース株売り、という流れも普通に起きます。
日経平均は輸出大型・指数寄与度の高い銘柄が多く、ドル円が上がると追い風になりやすい一方、金利上昇で米国のハイテクが崩れると、半導体関連(東京エレクトロン、アドバンテストなど)に波及して指数が押されやすい。つまり、雇用統計を読むコツは「米株が上がったか」だけで判断せず、ドル円と米金利の方向性を必ず同時に見ることです。
2. 雇用統計で見るべき数字は3つだけ。初心者は『全部』追わない
雇用統計は項目が多く、初心者が全部追うと判断が遅れます。最低限、次の3つに絞るのが実用的です。
(1)非農業部門雇用者数(NFP):市場予想との差が最初の衝撃を作ります。
(2)失業率:景気の強弱・FRBの利下げ期待に直結しやすい。
(3)平均時給(前年比・前月比):インフレ再燃の火種として金利を動かしやすい。
よくある罠は「NFPが強い=株買い」と単純化することです。例えば、NFPは強いが平均時給も強すぎる場合、金利が跳ねてナスダックが急落し、結果として日本の半導体が寄りから売られて日経平均が弱い、という形になり得ます。逆に、NFPが弱いが平均時給も弱く失業率が上がるなら、利下げ期待で金利が低下して米株が買われ、翌朝の日本株がギャップアップすることもあります。
3. 反応の時間割:発表直後〜翌朝までに『どの市場が先に答えを出すか』
雇用統計の日は、反応が段階的に伝播します。初心者は時系列で追うと整理しやすいです。
発表直後(数十秒〜数分):ドル円と米国債利回りが最初に大きく動くことが多い。
その後(数分〜30分):米株先物(S&P500、Nasdaq100)が方向を定める。
米国市場の序盤〜引け:セクターの勝ち負けが確定し、日経先物(夜間)も追随・再評価される。
日本時間の早朝:米国の引け値、ドル円、米金利、CME日経先物の値が揃い、翌朝の寄りの“素材”が出揃う。
寄り付き予測で重要なのは、夜間のどこか一瞬の値ではなく「夜間を通じて日経先物がどのレンジで取引されたか」と「米国引け後に崩れたか/持ち直したか」です。米国株が一時上げても引けにかけて崩れれば、翌朝の日本株は寄り天(寄りが高値)になりやすく、逆に引けにかけて強いなら寄り後も買いが継続しやすい、という“癖”が出ます。
4. 日経先物をどれで見るか:CMEと大阪、そして『為替込みの現物感』
日経先物には複数の参照先があります。国内で一般的なのは大阪取引所(日経225先物)ですが、日本の夜間は米国時間と重なり、CME(日経225先物の円建て・ドル建て)も強い参考になります。初心者が実務で使うなら、次の優先順位が分かりやすいです。
①CME日経225(円建て):日本の現物が閉まっている間の“世界の評価”が出やすい。
②大阪225先物の夜間(JPX):国内参加者の反応と板の厚みが見える。
③ドル円:輸出株の寄り付きに直結。先物が同じでもドル円次第で現物の寄りが変わり得る。
ポイントは、日経先物だけを見ても寄りは決まりません。ドル円が夜間に大きく動くと、先物価格にすでに反映されているように見えても、寄り直前の為替の“最後のひと振れ”で現物寄りがズレることがあるからです。特に日本の寄り直前(8:50〜9:00)にドル円が動くと、先物の裁定・ETFの寄りが連動して現物に波及しやすくなります。
5. 『翌朝の寄り値』を推定する具体手順:初心者向けの再現可能な型
ここからが本題です。翌朝の寄り付き予測は、次の5ステップで機械的に行うとブレにくくなります。慣れるまでは毎回この順番で処理してください。
ステップ1:雇用統計の“予想との差”を一言で分類する
まず、NFP・失業率・平均時給を見て「強い/弱い/まちまち」を決めます。細かい数字より、方向性の組み合わせが重要です。例として、次のように分類できます。
・強い(景気も賃金も強い):NFP↑、失業率↓、平均時給↑
・弱い(景気も賃金も弱い):NFP↓、失業率↑、平均時給↓
・ねじれ(景気は強いが賃金は弱い、または逆):NFP↑だが平均時給↓など
“ねじれ”の日こそ相場が荒れます。最初は上げても、途中で解釈が変わって反転するからです。寄り予測に使うなら、ねじれの日は「ギャップは出るが寄り後に逆回転しやすい」と先にメモしておきます。
ステップ2:米金利(10年)とドル円の方向を確定する
次に、米10年金利とドル円が発表直後からどちらに動いたかを確認します。寄り付き予測で最も使えるのは「米金利↑か↓か」「ドル円↑か↓か」の2軸です。ここで大事なのは、発表直後の瞬間ではなく、30分〜1時間後に“方向が維持されているか”です。
例えば、発表直後にドル高(円安)に動いても、その後すぐ戻すなら、翌朝の輸出株は寄りで買われにくい。一方、米金利が上がり続けるなら、米グロースが引けにかけて崩れやすく、日経の半導体にマイナスになりやすい。ここで「どの経路が勝ったか」を見ます。
ステップ3:米株は“指数”ではなく“中身”を見る
米株がプラスでも、ディフェンシブ主導か、ハイテク主導かで翌朝の日本株の顔つきが変わります。日経平均は半導体・電機の寄与が大きいので、ナスダック100やSOXが弱い日は、ドル円が円安でも日経が伸びにくいことがあります。逆に、ナスダックが強くSOXが強い日は、翌朝の日本の半導体が寄りから買われやすく、指数が“寄り後も伸びる”確率が上がります。
初心者向けの割り切りとしては、「S&P500(広い景気)」「Nasdaq100(グロース)」「SOX(半導体)」の3つだけをざっくり確認し、強弱の序列をメモします。例:SOX>Nasdaq>S&P なら日本の半導体追い風、S&Pだけ強くNasdaq弱いなら日本の指数は重い、など。
ステップ4:日経先物は“値段”より“滞空時間”を見る
夜間の先物が高い値を一瞬付けても、その後すぐ下がって長時間その価格帯にいないなら、翌朝の寄りは高く寄りません。逆に、ある価格帯を長く維持しているなら、翌朝の寄りはその近辺に収束しやすい。これをここでは便宜的に「滞空時間」と呼びます。
具体的には、CMEまたは夜間225が、①発表直後に跳ねた価格帯、②米国株の引け付近の価格帯、③日本時間早朝(6〜8時)の価格帯のどこに“滞空”していたかを見ます。3つが同じ方向に揃うほど、翌朝のギャップが素直に出やすい。逆に3つがバラバラなら、寄り後に乱高下しやすいと判断します。
ステップ5:翌朝のシナリオを3つに分け、寄り後の行動を決める
最後に、翌朝の寄り方を3パターンに落とし込み、取引するなら“どこで何を確認したら入るか”まで決めます。寄りの方向当てではなく、条件が揃った時だけ実行する設計にします。
シナリオA:ギャップアップで始まり、寄り後も強い
条件:CME高値圏を維持、ドル円も円安方向を維持、SOX/Nasdaqが強い。
行動:寄りで飛びつかず、最初の押し(5分〜15分)でVWAP上を維持するか確認し、指数寄与の大きい銘柄やETFで分割エントリー。
シナリオB:ギャップアップだが寄り天になりやすい
条件:CMEは高いが、米引けにかけて弱い/ねじれ指標で解釈が揺れた/ドル円が寄り前に戻す。
行動:寄り直後は様子見。寄り高値を更新できず、5分足で上ヒゲが増えるなら、前日高値付近や寄り値割れを確認して短期の戻り売り(初心者は現物ETFの手仕舞い優先)。
シナリオC:ギャップダウンで始まり、寄り後に買い戻しが入る
条件:米金利急騰や米株急落でCMEが弱いが、日本時間早朝に下げ止まり、ドル円が円安に戻すなど“底入れの材料”がある。
行動:寄りの投げ売りに付き合わず、最初の安値を更新できない形(ダブルボトムやVWAP回復)を待ってから小さく入る。逆に安値更新が続くならノートレで撤退。
6. 例で理解する:仮想シナリオで“翌朝の寄り方”を組み立てる
ここでは架空の数値で、手順がどう機能するかを示します。実際の相場はもっと複雑ですが、型を体に入れるための練習として有効です。
仮に、市場予想NFP+18万人に対して結果+30万人、失業率は小幅低下、平均時給も上振れしたとします。発表直後、米10年金利は上昇、ドル円も円安に振れました。しかしその後、金利上昇が嫌気されてNasdaqが弱く、SOXも引けにかけて下落。一方でS&Pは底堅い、という状況になったとします。
この場合、ステップ1では「強い」、ステップ2では「金利↑・ドル円↑」。ただしステップ3で「Nasdaq/SOX弱い」。日経先物は円安で一度上がるものの、半導体の逆風で伸び切らず、夜間は高値圏に“滞空”できない可能性が高い。すると翌朝は「ギャップは上だが寄り天(シナリオB)」が本命になります。
寄り付きの実務はこうです。9:00の寄りで指数が高く始まっても、最初の5分足で上値が重くなりやすいので、寄り成行で追いかけるのは危険です。まず、日経平均やTOPIXのETFで、寄り後の押しでVWAPを割らないかを確認します。VWAPを割り、かつドル円が寄り前の円安を維持できていないなら、上昇の燃料が足りない可能性が高い。結果、寄り高値を更新できないなら、持っている場合は利確を優先し、仕掛けるなら“戻り売り”の形に寄せます(初心者は無理に売りから入らず、見送る方がトータル成績が安定します)。
逆に、同じ「強い雇用統計」でも、平均時給が弱く金利が下がり、Nasdaq/SOXが強いなら、シナリオAに変わります。ここが雇用統計読みの肝で、数字の強弱そのものより、金利とセクターがどう動いたかが“翌朝の日本株の主役”を決めます。
7. 初心者がやりがちな失敗と、その回避策
雇用統計の翌朝はボラティリティが高く、初心者が事故を起こしやすい日でもあります。よくある失敗と、現実的な回避策をはっきり書きます。
失敗1:先物が上だからと寄り成行で飛びつく
ギャップアップの寄りは、短期勢の利確と裁定の売りが出やすく、最初の1〜3分で高値を付けて下げることがあります。回避策は単純で、「寄りの最初の5分足が確定するまで何もしない」。5分待つだけで、寄り天に巻き込まれる確率が大きく下がります。
失敗2:雇用統計の数字だけで結論を出す
先に述べた通り、雇用統計は金利と為替を通じて日本株に効きます。回避策は「米10年金利とドル円の方向が一致しているか」を必ずチェックすること。数字が強いのに金利が下がる(利下げ期待)など、相場が“別の物語”を語っている時は、寄り後の逆回転が起きやすいので、仕掛けを小さくするか見送るべきです。
失敗3:半導体の寄与度を忘れる
日本の指数は半導体比率が高く、SOXが崩れると指数が重くなりやすい。回避策は、翌朝の主役を先に決めることです。SOXが強いなら半導体・電機を中心に、SOXが弱いなら内需・ディフェンシブ寄り、あるいは指数そのものは見送り、個別のテーマ株だけに絞る、といった具合に“戦場”を選びます。
失敗4:レバレッジをかけすぎて、想定外の振れで退場する
雇用統計の翌朝は、寄り前の板が薄い銘柄で特に滑り(想定より不利な約定)が起きやすい。初心者は、普段よりポジションを小さくするのが正解です。具体的には「いつもの半分以下」「損切り幅も半分以下」に落とし、勝てる日だけ大きく取るのではなく、負ける日を小さくして残ることを優先します。
8. 『寄り付き予測』を収益に変える実装:前日夜の準備テンプレ
ここまでの内容を、毎回同じフォームで記録できるように、文章ベースのテンプレートに落とします。メモ帳に貼り付けて運用すると、判断が早くなります。
(A)雇用統計の分類:強い/弱い/ねじれ(理由を1行)
(B)米10年金利:↑/↓(発表後1時間の方向)
(C)ドル円:↑/↓(発表後1時間の方向)
(D)米株の中身:S&P、Nasdaq、SOXの強弱序列(例:SOX>Nasdaq>S&P)
(E)日経先物の滞空:高値圏維持/戻し/下げ止まり(引け付近と早朝の価格帯)
(F)翌朝の本命シナリオ:A/B/C(理由を2行)
(G)翌朝の行動:エントリー条件(VWAP、寄り値割れ、安値更新失敗など)と見送り条件
このテンプレは、当たった外れたの自己採点にも使えます。重要なのは「結果」ではなく「プロセスが再現できたか」です。相場は必ず外れますが、外れた時に損失が限定され、当たった時に伸ばせる設計になっていれば、長期的にプラスに寄ります。
9. 応用:雇用統計の翌朝に効きやすい『日本固有の要因』も足し算する
寄り付き予測をさらに精度上げするなら、日本固有の需給イベントを足し算します。例えば、SQ前、MSCIやTOPIXのリバランス、国内決算シーズン、日銀会合前後などです。これらが重なると、米国要因より国内要因が勝つことがあります。
初心者向けの実装としては、「国内イベントがある日は、雇用統計の影響を7割→5割に下げて考える」くらいの感覚で十分です。特にSQ週は先物主導で値が飛びやすく、雇用統計で作られた夜間のレンジが、翌朝にいきなり無効化されることがあります。こういう日は、寄り付き予測そのものより、寄り後の板とVWAPを重視し、シナリオを短時間で更新する方が実務的です。
10. 補足:先物と現物のズレを減らす「理論価格」とADRの見方
日経先物の値を見て「明日の寄りはこの水準だ」と決め打ちすると、数十円〜数百円のズレで混乱することがあります。ズレの主因は、配当落ち・金利(資金調達コスト)・為替の最終盤の変動・そして寄り付きの裁定の入り方です。初心者は難しい計算をする必要はありませんが、“ズレが出る理由”だけは知っておくと、想定外の動きに動揺しにくくなります。
理屈としての理論価格(フェアバリュー)は、ざっくり言えば「現物指数に対して、期近先物は金利分だけ高く、配当分だけ低くなる」という関係です。配当が大きい局面(権利落ち前後)や、金利が急変している局面(雇用統計で金利が跳ねた日など)は、この差が普段より目立ちます。したがって、寄り前に先物が強くても、現物は思ったほど高く寄らない、あるいはその逆が起きます。
もう1つ実務で効くのがADR(米国上場の日本企業の預託証券)です。トヨタ、ソニー、キーエンスのように海外で取引される銘柄のADRが大きく動く夜は、翌朝の日本の個別の寄り値が先に決まりやすく、指数の寄りもそれに引っ張られます。雇用統計の夜は米国市場が大きく動くため、ADRの動きが“個別の先行指標”として役立ちます。初心者は全銘柄を追うのではなく、指数寄与の大きい数銘柄だけ(例えば輸出主力と半導体主力)をチェックし、日経先物の方向と矛盾しないかを見るだけで十分です。
最後に、寄り付き予測の精度を上げる小技として「寄り直前の3点チェック」を紹介します。①8:50〜9:00のドル円が夜間のトレンドを維持しているか、②CME日経が日本時間の早朝レンジの上側・下側どちらに寄っているか、③前日終値からのギャップが大きすぎないか(大きいほど寄り天・寄り底の確率が上がる)。この3点を確認してから、初動の5分足を待つ。これだけで、雇用統計翌朝の事故率は目に見えて下がります。
11. まとめ:翌朝の寄りは『夜間の答え合わせ』。当てに行かず、条件で取りに行く
米雇用統計は、翌朝の日本株寄り付きに直結しやすい数少ないイベントです。ただし、数字の良し悪しだけで判断すると高確率で事故ります。再現可能な型は、①雇用統計を強弱分類、②米金利とドル円の方向確定、③米株の中身(SOX/Nasdaq)確認、④日経先物の滞空時間で信頼度判定、⑤3シナリオ化して行動条件を決める、の5ステップです。
最後に強調します。寄り付き予測は“予言”ではなく“段取り”です。翌朝は、予測が外れた瞬間にすぐ見送れること、当たっている時だけ追撃できること、その2つが収益を作ります。テンプレで記録し、同じ手順で毎回処理するだけで、雇用統計のような大イベントが「怖い日」から「準備して取りに行ける日」に変わっていきます。


コメント