米国の雇用統計(雇用者数・失業率・賃金など)は、月1回の“世界同時イベント”です。日本株の個別材料と違い、米金利・ドル円・米国株指数を一気に動かし、結果として日経平均先物(ナイト)→翌朝の現物寄り付きへ波及します。
ただ、初心者がここで失敗しやすいのは「雇用統計=強いと株高/弱いと株安」と決め打ちすることです。実際は、市場が何を織り込んでいたか、米金利がどう反応したか、ドル円がどちらへ跳ねたかで、日本株の反応は簡単に反転します。
この記事では、雇用統計の瞬間的な上下に振り回されず、翌朝の寄り付き予測を“型”として運用するための実務的な手順をまとめます。特定銘柄の推奨ではなく、ニュースと価格の関係を整理するためのフレームワークです。
雇用統計が日本株の寄り付きに効く「3つの経路」
雇用統計→日経平均のつながりは、主に次の3経路で発生します。どれが主役になったかを見誤ると、予測が外れます。
1)米金利(債券)経路:FRB期待の変化が“株の割引率”を動かす
雇用統計が強いと「景気は底堅い→利下げが遠のく(または利上げ再燃)」となり、米国債利回りが上がりやすい。金利上昇は株式の割引率を上げるので、特にグロース株には逆風になりがちです。
一方で、雇用統計が弱いと「利下げが近づく」期待で金利が下がり、株は上がりやすい……と言いたいところですが、弱すぎると景気後退懸念(リスクオフ)で株が売られます。つまり“ちょうど良い弱さ”が株高になりやすい、というクセがあります。
2)為替(ドル円)経路:輸出株の期待利益が増減する
日本株はドル円の影響を受けやすいです。雇用統計が強くて米金利が上がると、金利差拡大でドル買い・円売り(円安)になりやすい。円安は輸出企業の円建て利益を押し上げるため、日経平均には追い風になりやすい局面があります。
ただし、円安が“リスクオフ型”で起きる場合もあります(安全資産としての米ドル買いなど)。このときは株が同時に下がることもあります。よってドル円だけ見て判断しないことが重要です。
3)株価指数(リスクオン/オフ)経路:先物主導で日本株が引っ張られる
雇用統計の直後は、S&P500先物やナスダック先物が大きく動きます。日本時間では、日経平均先物(CMEや大阪取引所の夜間)がそれに同期し、翌朝の現物市場の寄り付き方向を“予約”する形になりやすいです。
まず押さえるべき「時間割」:日本時間で何がいつ動くか
雇用統計は通常、米東部時間の朝に発表されます。日本時間では夜に当たることが多く、寝る前に結果が出て、夜間先物が荒れるという流れになります(サマータイム等で時間が前後する点は注意)。
チェックの順番(初心者向けの固定ルーティン)
雇用統計の後、あなたが見る順番を固定します。順番を固定すると、焦って“都合の良い指標”だけを見る癖が減ります。
- 速報値(ヘッドライン):非農業部門雇用者数(NFP)、失業率、平均時給(前月比・前年比)
- 市場予想との差:事前予想(コンセンサス)と比べて上振れ/下振れか
- 米金利の初動:米10年債利回り(または債券先物)
- ドル円の初動:急騰/急落の方向と、戻りの速さ
- 米株先物の初動:S&P500、ナスダック
- 日経先物(ナイト)の位置:直前比、当日の日中終値比、重要価格帯の上下
この順番は「原因→伝播→結果」の流れに沿っています。ニュース(雇用統計)を見て、いきなり日経先物だけを見ると、“なぜその方向に動いたか”を取り逃がします。
寄り付き予測のコア:3つの“判定スイッチ”
翌朝の寄り付きを当てにいくよりも、初心者がまず狙うべきは「寄り付きで起きやすい形」を想定し、対応策を準備することです。ここでは判定スイッチを3つに絞ります。
スイッチA:米10年金利は“上”か“下”か、それとも乱高下か
雇用統計を受けて米金利がスムーズに上がるなら「利下げ期待後退」の色が濃い。逆にスムーズに下がるなら「利下げ期待前進」。乱高下して方向感がない場合は、市場が解釈に迷っているサインです。方向感がないときは、日経先物もオーバーシュートしやすく、翌朝は寄り天・寄り底のどちらも起きやすくなります。
スイッチB:ドル円は金利と“同じ方向”に動いたか
金利上昇+ドル円上昇(円安)なら、教科書的に「金利差→ドル高」の動きであり、輸出株期待も乗りやすい。金利が上がっているのにドル円が上がらない(または下がる)なら、別の要因(リスクオフ、ポジション偏り、介入警戒など)が混じっている可能性があります。
初心者はこの不一致を見落としやすいです。不一致のときほど、翌朝はギャップ後に逆流(窓埋め方向)しやすいので、寄り付きで追いかけ買い/売りをしない方が生存率が上がります。
スイッチC:日経先物(ナイト)が“どの価格帯”で止まったか
雇用統計直後の上下は“ノイズ”が混ざります。重要なのは、乱高下のあと、先物がどの価格帯で落ち着いたかです。初心者が使いやすい価格帯は次の3つです。
- 前日の日中終値(15:15):ここを上回って朝を迎えるか下回って朝を迎えるかで、寄り付きのムードが変わります。
- 前日の高値・安値:ギャップが出たとき、ブレイク/反落の分岐点になります。
- 心理的節目(キリ番):100円刻み、500円刻みなど。先物は節目で止まりやすい。
テクニカルを難しくしないコツは、線を引きすぎないことです。初心者は線を増やすほど、都合の良い線を採用して負けやすくなります。
翌朝の寄り付きで起きやすい「4つのシナリオ」と対処
雇用統計後の日本株寄り付きは、だいたい4シナリオに収まります。予測は当てるものではなく、どのシナリオでも致命傷を避けるための設計です。
シナリオ1:ギャップアップで寄って、そのまま上に走る(素直なリスクオン)
典型は「雇用は強いが賃金は落ち着く」など、インフレ再燃を連想させず景気は良い、という解釈のとき。米株先物が堅調で、ドル円も円安方向、日経先物が夜間で高値圏を維持して朝を迎えると起きやすいです。
初心者の戦い方は、“寄りの成行で飛び乗らない”こと。ギャップアップは利確が出やすいので、最初の5〜15分で押し目(押し戻り)を作ることが多い。具体的には、寄り付き後に上昇が一服し、短期VWAP(例えば5分足VWAP)付近までの押しを待ち、そこで下げ止まるかを確認してから入る方が再現性が上がります。
シナリオ2:ギャップアップで寄って、すぐ失速して窓埋め方向に下げる(寄り天)
雇用統計後の夜間で“上がりすぎた”ときに多い形です。特に、米金利が上がっているのに米株先物が伸び悩む、ドル円が方向感を失う、といった不一致があるときは、寄り天になりやすい。
対処はシンプルで、寄り付きの初動で買わない。寄り後の高値更新ができず、上ヒゲが増え、出来高だけが増えるときは、短期勢の利確が優勢になっています。初心者は「高いのに出来高が多い=強い」と誤解しがちですが、寄り直後は利確の出来高も混ざるため、ローソク足の形とセットで判断します。
シナリオ3:ギャップダウンで寄って、売り一巡後に戻す(寄り底)
雇用統計が弱く、米株が荒れ、夜間で先物が売られた場合でも、翌朝は日本時間の参加者が「売りすぎ」を拾いに来ることがあります。特に、夜間に急落しても、重要ライン(前日安値やキリ番)で先物が止まって朝を迎えたなら、寄り底の確率が上がります。
初心者のポイントは、“落ちている最中”に買わないこと。最初の数分は投げ売りが出るので、まずは下落が止まり、5分足で安値を更新しなくなったか、出来高がピークアウトしたかを確認します。確認後に、反発の初動で少量、戻りで追加、という分割が有効です。
シナリオ4:寄ったあと方向感が出ず、レンジ(往復)になる
雇用統計の解釈が割れているとき、先物が夜間で乱高下し、朝も参加者が慎重になります。この場合、寄り付きの方向を当てにいくほど負けやすい。初心者は“トレンドが出るまで待つ”という選択肢を持つべきです。
レンジの見抜き方は、寄り付き後に高値・安値の更新が続かず、VWAPを挟んで上下を繰り返すこと。こうなると、ブレイク狙いよりも、レンジ上限・下限の反発を短く取る戦い方が向きます。ただし、雇用統計絡みの日は急にブレイクしやすいので、逆指値(損切り)を必ず置きます。
“翌朝の予測”を精度より再現性に寄せる:実務のチェックリスト
初心者が伸びるのは、当てにいくより、外れたときに小さく負ける設計を持つ人です。ここでは、雇用統計→翌朝の日本株のルーティンを、チェックリストとして提示します。
前日(日中)にやること:市場の“前提”をメモする
- 市場は利下げを何回織り込んでいる雰囲気か(ニュース見出しレベルでOK)
- 米金利は上昇基調か下降基調か
- ドル円はトレンドがあるか(レンジか)
- 日経平均は上昇トレンドか、調整局面か
雇用統計の反応は“前提”があって初めて意味を持ちます。たとえば「利下げ期待が過剰に高まっている局面」で強い雇用が出れば、金利上昇→株安が起きやすい。逆に「景気後退が恐れられている局面」で強い雇用が出れば、安心感で株高が起きやすい。数値そのものより、前提に対してサプライズかが重要です。
雇用統計直後にやること:3つだけメモする
初心者は情報量に溺れます。雇用統計直後は、次の3行メモだけで十分です。
- 雇用:予想比(強い/弱い)
- 賃金:予想比(強い/弱い)
- 米10年金利:上/下/乱高下
この3行だけで、翌朝の寄り付きの荒れ方がかなり想定できます。
就寝前にやること:日経先物の“落ち着きどころ”を確認
最終的に翌朝の寄り付きに効くのは、夜間の高値・安値よりも、朝に近い時間帯の先物の位置です。寝る前(または早朝)に、先物がどの価格帯で落ち着いたかだけ確認します。
ここで“想定レンジ”を作ります。例として、前日の日中終値が38,000円だとして、夜間の落ち着きが38,300円なら、翌朝はギャップアップが基本線。ただし、寄り付きで38,300円を超えて走るか、そこで止まって窓埋め方向に戻るかは別問題です。よって、「ギャップ後の初動は追わず、押し/戻りを待つ」が基本になります。
具体例:数値は“作り物”でも、読み方は再現できる
ここでは、理解のために架空の例を置きます。実際の数値は毎回違いますが、読み方の手順は同じです。
例)雇用は強いが賃金は鈍化 → 金利は小幅上、株先物は上
仮に、雇用者数が予想を上回り、失業率も低下。しかし平均時給が予想を下回ったとします。市場は「景気は良いがインフレ圧力は過度ではない」と解釈し、米10年金利は小幅上昇、S&P500先物は上昇。ドル円は円安に動く。
この場合、日経先物(ナイト)は上方向に反応しやすい。翌朝の日本株はギャップアップの可能性が高い。ただし、ギャップアップは利確が出るので、寄り付きで買いに行くより、最初の押し(5分足での小さな下げ)を待つ。押しが浅いまま再上昇するなら、トレンドが強いので少量で追随してもよいが、逆に押しが深く、前日高値を割り込むなら“寄り天”の疑いが増す。
初心者がやりがちな失敗と、その回避策
失敗1:雇用者数だけで結論を出す
雇用者数が強い/弱いだけで判断すると、賃金や失業率のニュアンスを取り逃がします。特に賃金はインフレ連想に直結しやすいので、金利を通じて株の反応を変えます。最低でも、雇用と賃金の2点セットで見てください。
失敗2:夜間の動きを“そのまま”翌朝に当てはめる
夜間先物の上げ下げは、薄商いで誇張されることがあります。翌朝は流動性が増え、価格が“現実的な場所”へ戻ることがある。よって、夜間の高値・安値に固執せず、重要価格帯での反応を見ます。
失敗3:寄り付きで大きく張る
雇用統計の翌朝はボラが出やすいので、初心者がフルレバで寄りに突っ込むと、逆行した瞬間に取り返しのつかない損失になりがちです。ここは“当てにいく日”ではなく、損失限定の設計で経験値を積む日にした方が期待値は高いです。
実際の運用ルール:初心者向けの“最小セット”
最後に、雇用統計翌朝の寄り付きで、初心者がそのまま使える最小ルールを提示します。複雑な指標は入れません。
ルール1:寄り付きの最初の5分は取引しない
寄り直後は気配のズレ、板の薄さ、成行の偏りが出やすい。最初の5分は観察に徹します。
ルール2:前日終値・前日高安・キリ番の3ラインだけ見る
線を引きすぎない。3ラインだけで十分、寄り付きの攻防は読めます。
ルール3:エントリーは“押し/戻り”のみ、逆指値は必須
ギャップ方向に飛び乗らず、押し/戻りで入る。逆指値(損切り)を置かないなら、その日は見送る方が合理的です。
ルール4:利益目標は小さく、伸びたらトレーリング
雇用統計翌朝は伸びる日もありますが、逆流も速い。小さく利確し、伸びた分だけ追いかける(トレーリング)設計が初心者向きです。
まとめ:雇用統計は“当てる”より“準備する”イベント
雇用統計は、翌朝の寄り付きに影響しますが、数値の暗記では勝てません。米金利→ドル円→米株先物→日経先物の流れを固定ルーティンで確認し、4シナリオのどれでも致命傷を避ける設計を持つことが、初心者にとって最大の武器になります。
まずは、毎回同じ手順でメモを取り、翌朝の値動きと照合してください。予測の精度は後からついてきます。最初は“外しても小さく負ける”ことに集中するのが、結局いちばん早い上達ルートです。


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