DMI(Directional Movement Index)は、日本語では方向性指数と呼ばれるテクニカル指標で、相場に「今、はっきりしたトレンドがあるのか」「どちらの方向に力が傾いているのか」を数値で教えてくれる指標です。移動平均線やRSIのようなメジャー指標に比べるとややマイナーですが、「トレンドの強さ」と「買い方・売り方の優劣」を同時に把握できるため、トレンドフォロー戦略を組み立てるうえで非常に有用です。
DMIを構成する3本のライン
DMIは、一般的なチャートソフトでは「+DI」「-DI」「ADX」という3本のラインとして表示されます。まずはそれぞれの役割を整理します。
+DI(プラスDI)とは
+DIは「上方向への値動きの強さ」を示すラインです。期間内で、前日高値をどれだけ上回ったかという上昇方向の値動きをベースに計算されます。+DIが高いほど、買い方が優勢で上昇圧力が強い状態だと解釈します。
-DI(マイナスDI)とは
-DIは「下方向への値動きの強さ」を示すラインです。期間内で、前日安値をどれだけ下回ったかという下落方向の値動きをベースに計算されます。-DIが高いほど、売り方が優勢で下落圧力が強い状態だと解釈します。
ADXとは
ADXは「トレンドの強さそのもの」を表すラインです。+DIと-DIの差をもとに算出され、上昇トレンドか下降トレンドかには関係なく、トレンドの有無と強弱だけに注目します。ADXが低いときはレンジ相場、高くなるほど強いトレンドが発生していると考えます。
この3本を同時に見ることで、「今は上昇トレンドなのか、下降トレンドなのか、それともトレンドのないレンジなのか」を立体的に判断できるようになります。
DMIの計算ロジックを直感的に理解する
DMIの計算式自体はやや複雑ですが、トレーダーとしては考え方を直感的に理解しておけば十分です。イメージしやすいように、ステップに分けて説明します。
1. 方向性のある値動きだけを取り出す
まず、「今日の高値-昨日の高値」「昨日の安値-今日の安値」を計算し、上方向の値動き(+DM)と下方向の値動き(-DM)を分けて考えます。上方向への動きが大きい日は+DMが採用され、下方向への動きが大きい日は-DMが採用されるというイメージです。
2. 一定期間で平滑化する
次に、+DMと-DMを一定期間(一般的には14期間)で平滑化して、ノイズの少ない「平均的な上昇力」「平均的な下落力」を求めます。同時に、値動きの大きさそのものを示すTR(トゥルーレンジ)も期間平均します。
3. 比率にしてDIに変換する
平滑化された+DMと-DMを、それぞれTRで割ることで、+DIと-DIを算出します。これは「全体のボラティリティのうち、どれだけが上方向(または下方向)の動きに使われているか」という割合を見ていることになります。
4. +DIと-DIの差からADXを算出する
+DIと-DIの差を用いて「方向性の強さ」を計算し、それをさらに平滑化したものがADXです。+DIと-DIのどちらが優勢かではなく、「どちらかがはっきり優勢になっているかどうか」の度合いだけに注目した指標です。
まとめると、DMIは「値動きの方向と強さを、ボラティリティ全体とのバランスの中で数値化したもの」と理解するとイメージしやすいです。
DMIが教えてくれる相場環境
DMIを使うと、次のような相場環境を判別しやすくなります。
トレンド相場のサイン
- +DIが-DIより上で、かつADXが上昇している → 上昇トレンドが強まっている可能性
- -DIが+DIより上で、かつADXが上昇している → 下降トレンドが強まっている可能性
このような局面では、トレンドフォロー戦略(押し目買い・戻り売り)が機能しやすいと考えられます。
レンジ相場のサイン
- +DIと-DIが頻繁に交差し、ADXが低水準で横ばい → 方向感のないレンジ相場
このような局面では、トレンドフォロー戦略はダマシが増えやすく、逆張り戦略や様子見のほうが合理的な場合も多くなります。
DMIを使った基本的なトレンドフォロー戦略
ここからは、DMIを使った具体的な売買アイデアを解説します。あくまで一例であり、実際の運用ではご自身の資金管理や検証結果に応じてパラメータやルールを調整していただくことが前提です。
売買ルールの一例(FX・株共通)
期間14のDMIを前提として、シンプルなトレンドフォロー戦略例を示します。
- 買いエントリー条件
- +DIが-DIを上抜け(ゴールデンクロス)
- ADXが一定水準(例:20以上)にあり、かつ上昇基調
- 価格が中期移動平均線(例:20MA)より上にある
- 売りエントリー条件
- -DIが+DIを上抜け(デッドクロス)
- ADXが一定水準(例:20以上)にあり、かつ上昇基調
- 価格が中期移動平均線(例:20MA)より下にある
- 手仕舞い(一例)
- +DIと-DIが再度クロスしてトレンドが弱まったとき
- ADXがピークアウトして下降に転じたとき
- ATRを用いたトレーリングストップにヒットしたとき
このように、DMI単体ではなく、移動平均線やATRなどの指標と組み合わせることで、「トレンドの方向」と「トレンドの強さ」と「損切りライン」を一貫性のある形で設計できます。
FXでの具体的な活用例
ここでは、ドル円(日足)を想定したDMI活用例をイメージベースで解説します。
上昇トレンドの追随
ドル円がレンジを上抜けした局面で、+DIが-DIを上抜け、ADXが20を下から上にブレイクして上昇し始めたとします。同時に、終値が20日移動平均線を明確に上回って推移している場合、上昇トレンドへの移行が疑われます。
このような場面では、押し目でロングを検討するシナリオを組み立てられます。具体的には、短期的な調整で20日移動平均線付近まで下げたタイミングで、+DIが-DIより依然として高い状態を維持していれば、「トレンドは継続している」と判断しやすくなります。
トレンド終了のサイン
上昇トレンドが続いた後、+DIが緩やかに低下し、-DIとの距離が縮まり始め、ADXもピークアウトして横ばいまたは低下してきた場合、トレンドの勢いが弱まっているサインと見なせます。
こうした局面では、新規のロングエントリーを控え、すでに保有しているポジションの利益確定やストップの引き上げを優先するといった判断が、リスク管理の観点から合理的になります。
株式市場での具体例
日本株の個別銘柄(日足)でも、DMIはトレンドフォロー戦略に活用できます。
出来高と組み合わせた上昇トレンド狙い
たとえば、ある成長株が長期の横ばいを抜けて出来高を伴い上昇し、+DIが急上昇、-DIが低位に張り付くような形になることがあります。このとき、ADXが20を超えて上昇し始めていれば、「強い上昇トレンドが発生しつつある」と判断しやすくなります。
この局面で、押し目での買いを検討する際、+DIと-DIの関係をチェックすることで、「一時的な調整なのか」「トレンド転換の兆候なのか」の見極め材料が増えます。+DIが依然として-DIより上にあるうちは調整と見なしやすく、-DIが+DIを上抜けるようであれば、いったんポジションを軽くする、といったシナリオが考えられます。
暗号資産での具体例
ボラティリティの大きい暗号資産市場(ビットコインやアルトコイン)でも、DMIはトレンドの有無を判断するフィルターとして活用できます。
強いトレンド局面の抽出
暗号資産は値動きが激しいため、移動平均線のクロスだけを頼りにするとダマシが多くなりがちです。そこで、+DIと-DI、そしてADXを併用することで、「大きなトレンドが出ている区間」だけを抽出して売買対象とするという考え方が有効です。
たとえば、日足チャートでADXが25以上かつ上昇している銘柄だけに絞り込み、その中で+DIが-DIより上にあるものをロング候補、-DIが+DIより上にあるものをショート候補とする、といったスクリーニングにDMIを用いることができます。
DMIを使ったレンジ回避フィルター
DMIのもう一つの重要な使い方は、「トレンドのないレンジ局面を避けるフィルター」としての活用です。
ADXの閾値を決める
一般的に、ADXが20未満のときはトレンドが弱い、25以上でトレンドが強まり始める、という目安がよく使われます。これを利用して、
- ADXが20未満のときは新規エントリーをしない
- ADXが25以上になった銘柄だけをトレンドフォロー対象とする
といったルールを設けることで、「ダマシの多いレンジ局面ではそもそも取引しない」というシンプルなフィルターとして運用できます。
DMIの典型的なダマシと限界
どんな指標にも弱点があるように、DMIにも注意すべき点があります。
急激なボラティリティ変化への遅れ
DMIは平滑化を多用する指標であるため、急激なトレンド転換に対してはシグナルが遅れがちです。特に、ニュースやイベントによるギャップアップ・ギャップダウンの後は、+DI/-DIとADXの動きが実際の値動きに追いつくまでラグが生じることがあります。
ノイズの多い短期足での信頼性低下
5分足や1分足など、非常に短い時間足では、DMIのシグナルはノイズに弱くなり、頻繁なクロスやADXの上下動が発生します。この場合は、期間を長くする、上位足のDMIと組み合わせるなどの工夫が必要です。
トレンドの方向は教えてくれても、値幅は教えてくれない
DMIは「トレンドの強さ」と「方向」を示す指標であり、「どこまで伸びるか」「どこが最終的な天井・底になるか」を予測するものではありません。利益確定や損切りの水準は、別のロジック(チャートパターン、サポレジ、ATR等)で設計する必要があります。
他の指標と組み合わせる実践アイデア
DMIは単体で完結させるよりも、他の指標と組み合わせることで実用性が大きく高まります。
移動平均線+DMI
- 移動平均線:トレンド方向と押し目・戻りの目安
- DMI:トレンドの有無と強さの判定
この組み合わせにより、「移動平均線の方向と位置関係でエントリー方向を決め、DMIでそのトレンドが十分に強いかを確認する」という構成が可能になります。
ATR+DMI
ATR(Average True Range)は値動きの大きさを示すボラティリティ指標です。DMIでトレンドの強さを確認し、ATRで損切り幅やポジションサイズを決めることで、「強いトレンドだけを狙いながら、過度なリスクを避ける」設計につなげられます。
初心者がDMIを使いこなすためのステップ
最後に、これからDMIを学ぶ初心者の方に向けて、段階的な習得ステップの一例を示します。
ステップ1:DMIの動きを目で追う
まずは、普段使っている銘柄のチャートにDMIを表示し、過去の大きなトレンド局面で+DI/-DI/ADXがどのように動いていたかを確認します。値動きと3本のラインの関係に慣れることが第一歩です。
ステップ2:過去チャートで簡単なルールを検証する
次に、先ほど紹介したようなシンプルなルール(例:+DIと-DIのクロス+ADX20以上など)を、過去チャートで手動で検証してみます。どの場面でうまくいき、どの場面でうまくいかなかったかを体感的に理解することが重要です。
ステップ3:他の指標との相性を検証する
移動平均線、ボリンジャーバンド、ATRなど、既に使い慣れている指標とDMIを組み合わせてみて、「自分の性格や取引スタイルに合う組み合わせ」を探します。たとえば、「移動平均線で方向を決め、DMIでトレンドの強さを確認し、ATRで損切り幅を決める」といった一貫性のあるルールに落とし込めると、戦略として運用しやすくなります。
まとめ
DMI(Directional Movement Index)は、+DI、-DI、ADXという3本のラインを通じて、相場にトレンドがあるかどうか、そのトレンドが上昇か下降か、そしてどの程度の強さなのかを教えてくれる指標です。トレンドフォロー戦略を組み立てるうえで、「どの相場だけを狙うべきか」を選別するフィルターとして大きな力を発揮します。
一方で、急激な相場転換には遅れが出ることや、短期足ではノイズが増えるといった弱点もあるため、移動平均線やATRなどの他指標と組み合わせて使うことが現実的です。まずは普段のチャートにDMIを表示し、過去のトレンド局面での動きを観察するところから始めてみると、自分なりの活用イメージが掴みやすくなります。


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