グランビルの法則は、移動平均線と価格の位置関係から売買タイミングを判断する、非常にシンプルでありながら今でも通用する古典的なテクニカル分析手法です。複雑なインジケーターを使わなくても、「移動平均線の向き」と「ローソク足がどこにあるか」を見るだけで、トレンドの転換や押し目・戻りのポイントをある程度整理して捉えることができます。
本記事では、グランビルの法則の基本から、株式・FX・暗号資産などに応用する方法、よくある失敗とリスク管理の考え方まで、初めてチャート分析に触れる方でも実践しやすい形で整理して解説します。
グランビルの法則とは何か
グランビルの法則は、アメリカのアナリスト「ジョゼフ・グランビル」が提唱した、移動平均線を使った8つの売買ルールです。具体的には、
- 上昇トレンドにおける4つの買いシグナル
- 下降トレンドにおける4つの売りシグナル
の合計8パターンから構成されています。グランビルの発想は非常にシンプルで、「移動平均線そのものがトレンドを表し、価格がその移動平均線から離れたり近づいたりする動きに着目する」というものです。
多くの初心者は、チャート上にたくさんのインジケーターを表示して複雑に考えがちです。しかし、グランビルの法則で見るポイントは次の3つだけです。
- 移動平均線の傾き(上向き・下向き・横ばい)
- 価格が移動平均線の上か下か
- 価格が移動平均線からどの程度乖離しているか
この3つを組み合わせることで、「今はトレンドのどの局面なのか」「エントリーするならどのタイミングが有利か」を整理して判断しようというのが、グランビルの法則の基本的な考え方です。
移動平均線の基礎と期間設定
グランビルの法則を使う前提として、まず移動平均線そのものを理解する必要があります。移動平均線とは、一定期間の終値の平均を線でつないだもので、代表的な期間設定には次のようなものがあります。
- 短期:5日・10日・20日…デイトレードや短期売買でよく使われる
- 中期:25日・50日…スイングトレードや数週間〜数か月のトレンドを把握するのに使われる
- 長期:100日・200日…中長期トレンドの方向性を判断するのに使われる
グランビルの法則自体は特定の期間を指定していませんが、実務上は「中期〜長期の単純移動平均線(SMA)」がよく使われます。株式なら25日線や75日線、FXや暗号資産なら1時間足や4時間足の20本線・50本線など、自分が見ている時間軸に合わせて「相場参加者の多くが意識しているであろう期間」を選ぶのがポイントです。
重要なのは、期間をコロコロ変えずに、まずはひとつに固定して感覚を掴むことです。例えば、スイングトレード中心なら「日足25日移動平均線」、FXの短期トレード中心なら「1時間足50本移動平均線」など、自分なりの基準をひとつ決めて検証すると、グランビルのパターンが視覚的に理解しやすくなります。
8つのルール:買いシグナルと売りシグナル
グランビルの法則は、よく図解で紹介されますが、ここではチャートを言葉でイメージできるように、各パターンをストーリーとして説明します。
上昇トレンドの4つの買いシグナル
- 価格が移動平均線を下から上にブレイクしたとき
それまで横ばい〜やや下向きだった移動平均線を、価格が下から上に抜けていく局面です。移動平均線も次第に上向きに変化していき、「下落〜調整フェーズ」から「新たな上昇トレンド」への転換点になりやすい場面とされます。 - 上昇中の移動平均線に、価格が押し目で接近したとき
すでに移動平均線がしっかりと上向きで、その上側を価格が推移している状況をイメージしてください。上昇の途中で一時的な調整が入り、ローソク足が移動平均線近くまで下がってきたところは、「押し目買い」の候補ポイントになります。ここで価格が移動平均線付近で下げ止まり、再び上昇に転じるパターンが典型的なグランビルの買いシグナルです。 - 価格が移動平均線から大きく下に乖離したあと、戻り始めたとき
急落によって価格が移動平均線から大きく下に離れると、短期的な売られ過ぎとなり、やがて平均線方向への戻りが入りやすくなります。この「オーバーシュートからの戻り」局面も、一時的な買いのチャンスとなり得ます。ただしトレンドそのものが下向きの場合は、あくまで短期の戻りと割り切ることが重要です。 - 移動平均線が上向きのまま、価格の一時的な下抜けがダマシとなったとき
一時的に価格が移動平均線を下回っても、その後すぐに移動平均線の上に戻り、移動平均線の傾きも上向きのままであれば、「売りのダマシ」が起きた可能性があります。このようなダマシのあとに再度高値を更新してくる動きは、強いトレンドが継続しているシグナルと解釈できます。
下降トレンドの4つの売りシグナル
- 価格が移動平均線を上から下にブレイクしたとき
それまで横ばい〜やや上向きだった移動平均線を、価格が上から下に割り込む局面です。移動平均線も次第に下向きに変化し、「上昇トレンドの終わり」から「下落トレンドの始まり」への転換点となりやすい場面とされます。 - 下降中の移動平均線に、価格が戻りで接近したとき
移動平均線がしっかり下向きで、その下側を価格が推移している状況では、上方向への戻りは売り場候補になります。価格が移動平均線近くまで戻しても、そこで上値を抑えられ再び下落に転じるパターンは、「戻り売り」の典型的な形です。 - 価格が移動平均線から大きく上に乖離したあと、押し始めたとき
急騰によって価格が移動平均線から大きく上に離れた局面では、短期的に買われ過ぎとなり、その後は平均線方向への調整が起きやすくなります。このとき、移動平均線が横ばい〜下向きであれば、「高値掴みを避けて冷静に戻り売りを狙う」場面として活用できます。 - 移動平均線が下向きのまま、価格の一時的な上抜けがダマシとなったとき
価格が一時的に移動平均線の上に出ても、すぐに再び下回り、移動平均線の傾きも下向きのままであれば、「買いのダマシ」が起きた可能性があります。このような動きの後に安値を更新してくる場合、トレンドに逆らった買いポジションは損切りを迫られやすく、戻り売りを仕掛ける側には有利な局面となります。
株・FX・暗号資産への実践的な応用例
グランビルの法則は、特定の市場に限定された手法ではありません。ローソク足と移動平均線が表示できるチャートであれば、株式・FX・暗号資産など、さまざまなマーケットで同じ考え方を適用できます。ただし、ボラティリティや取引時間の違いにより、「どの時間軸で見るか」「どの期間の移動平均線を使うか」は調整が必要です。
株式投資での応用イメージ
例えば、日足チャートに25日移動平均線を表示し、中期トレンドの押し目買いを狙うとします。株価が長く25日線の上で推移し、25日線自体も右肩上がりであれば、「上昇トレンドが続いている」と判断できます。その中で一時的な調整が入り、株価が25日線近くまで下がってきた場面は、グランビルの第2の買いシグナル(上昇中の移動平均線への押し目接近)に近い形になります。
このとき、出来高が急減していれば「売り圧力が弱まってきている」シグナルとして解釈できますし、過去に何度も25日線付近で反発している銘柄であれば、投資家全体がその水準を意識している可能性が高いと考えられます。
FXでの応用イメージ
FXでは、24時間市場が動いているため、4時間足や1時間足で移動平均線を見るケースが多くなります。例えば、1時間足に50本移動平均線を表示し、トレンドフォロー型のトレードを行う場合を考えてみましょう。
上昇トレンド時には、1時間足のローソク足が50本線の上側で推移し、時々50本線まで押しては再び高値を更新する動きを繰り返します。この「押し目での買い」がグランビルの買いシグナルに相当します。逆に、下降トレンド時には50本線付近まで戻してから再度下落する「戻り売り」のポイントが、売りシグナルとして機能しやすくなります。
暗号資産での注意点
ビットコインやアルトコインのような暗号資産は、ボラティリティが非常に高く、移動平均線からの乖離が大きくなりやすい特徴があります。そのため、グランビルの「移動平均線から大きく乖離したあと平均線方向に戻る」というパターンが頻繁に発生しますが、その分ダマシも多くなります。
暗号資産でグランビルの法則を使うときは、時間軸を長め(日足以上)にする、出来高やサポート・レジスタンスも併せて確認するなど、ノイズをなるべく減らす工夫が重要です。
グランビルの法則とリスク管理
グランビルの法則は、「どの方向にポジションを取るべきか」を教えてくれますが、「どこで損切りするか」「どこまで利益を伸ばすか」までは教えてくれません。ここを自分でルール化しないと、期待値のプラスな戦略にはなりにくい点に注意が必要です。
損切りの目安をあらかじめ決める
例えば、上昇トレンドの押し目買い(第2の買いシグナル)でエントリーする場合、次のような損切りルールをあらかじめ決めておくと、感情に左右されにくくなります。
- エントリーした足の安値を明確に割り込んだら損切り
- 移動平均線をローソク足がしっかりと下抜け、さらに数本連続で戻らなければ損切り
- リスク・リワード比が1:2以上になるように、損切り幅に対して利確目標を設定する
グランビルのシグナルは「有利な方向」を教えてくれるに過ぎず、必ずしも勝てるわけではありません。損切りを前提に、「シグナル通りに動いたときにどれくらい利益を取りに行くのか」をセットで設計することが重要です。
トレーリングストップとの組み合わせ
トレンドフォロー型の戦略においては、トレーリングストップ(利益が乗るにつれて損切りラインを切り上げていく方法)との相性が良好です。具体的には、
- 移動平均線を基準に、「終値が移動平均線を明確に割り込んだら利益確定」
- あるいは、直近の押し安値・戻り高値を少し割り込んだところにストップを置き、トレンドに合わせてラインを移動させていく
といった形で、トレンドが続く限りはポジションを維持し、トレンドが終わったところで自動的にマーケットから退出する仕組みを作ることができます。
初心者が実際に試すためのステップ
グランビルの法則を机上の知識で終わらせず、自分のトレードに落とし込むためのステップを整理します。
- チャートツールに移動平均線を1本だけ表示する
最初は、短期線・中期線・長期線を何本も表示するのではなく、1本だけに絞る方がパターンを認識しやすくなります。日足25日線、1時間足50本線など、自分の取引スタイルに合いそうなものをひとつ選びます。 - 過去チャートで8つのパターンを探す
過去のチャートをスクロールしながら、「移動平均線の傾き」と「価格の位置」を見て、8つのシグナルに当てはまりそうな局面を探していきます。このとき、実際にエントリーしていたらどうなっていたか、損切り・利確の位置を仮想的にメモしておくと、感覚が早く身につきます。 - 紙でも良いので、自分なりのルール表を作る
例えば、「上昇トレンド中に移動平均線まで押してきたら、ローソク足が移動平均線の上に戻ったタイミングで成行買い」「損切りは直近安値の少し下」「利確はリスクの2倍の値幅」というように、言葉でルールを書き出します。これを守れるかどうかが、実際のトレードで結果を左右します。 - いきなり本番の資金を入れず、まずはデモや少額で試す
グランビルの法則はシンプルですが、実際のトレードで感情をコントロールするのは簡単ではありません。まずはデモ口座や少額資金で、「ルール通りに機械的にトレードできるか」を確認するフェーズを設けることをおすすめします。 - トレード記録を残し、勝ち負けのパターンを分析する
エントリー理由(どのシグナルだったか)、損切り・利確の位置、結果、感情面での気づきなどを毎回ノートに残しておくと、どのパターンが自分に向いているか、どこでルールを破りやすいかが見えてきます。
よくある失敗パターンと対策
グランビルの法則は分かりやすい分、「分かったつもり」で使い始めると、典型的な落とし穴にはまりやすくなります。代表的な失敗パターンと対策を整理します。
トレンドがない相場でシグナルを多用してしまう
レンジ相場では、移動平均線が横ばいになり、価格がその上下を行ったり来たりします。このような環境では、グランビルのシグナルが「ダマシ」になるケースが増えます。移動平均線の傾きがはっきり上向き・下向きになっているかどうかを先に確認し、トレンドが出ている場面だけに絞って活用することが重要です。
移動平均線だけで判断してしまう
グランビルの法則は強力なツールですが、それだけに頼ると、重要なサポート・レジスタンスや出来高、経済指標の発表タイミングなどを見落としがちです。例えば、ちょうど経済指標発表の直前にシグナルが出ても、その直後のボラティリティでストップにかかってしまうことがあります。チャートの形だけでなく、ニュースやイベントスケジュールも併せて確認することで、不必要なリスクを減らすことができます。
損切りを後回しにして損失を膨らませる
グランビルのシグナルは「こういう動きになりやすい」という傾向を示すものであり、100%当たるわけではありません。にもかかわらず、「せっかく良いシグナルだから」と損切りを先延ばしにすると、想定よりも大きな損失になりやすくなります。あらかじめ決めた損切りラインを機械的に実行することが、長く市場に残るための前提条件です。
シンプルなルールからシステム化へ
グランビルの法則は、システムトレードの入り口としても優れています。チャートのパターンを言葉で定義し、それを数値化して過去データで検証することで、「なんとなく良さそう」から「期待値がどの程度か分かっている戦略」に変えていくことができます。
例えば、次のような簡単な条件でバックテストを考えることができます。
- 日足25日移動平均線が上向き
- 終値が25日線を一度下回ったあと、翌日終値で再び25日線の上に戻ったら買いエントリー
- 損切りは直近安値の少し下
- 利確はリスクの2倍の価格、あるいは終値が25日線を明確に下回ったとき
この条件を過去数年分のデータに当てはめ、「勝率」「平均損益」「最大ドローダウン」などを確認すれば、その戦略が自分のリスク許容度に合っているかどうかを客観的に判断できます。
まとめ:移動平均線を「なんとなく」から「戦略」に変える
多くのチャートには当たり前のように移動平均線が表示されていますが、「なんとなく上向きだから買い」「なんとなく下向きだから売り」といった曖昧な感覚で使っていると、再現性のあるトレードにはなりません。グランビルの法則は、移動平均線の傾きと価格の位置関係を明確なパターンとして整理し、「いつ・どの方向にポジションを取るか」を言語化した点に価値があります。
本記事で紹介したように、
- まずは1本の移動平均線に絞ってパターンを認識する
- トレンドがはっきりしている場面に限定してシグナルを使う
- 損切りと利確のルールをあらかじめ決め、トレーリングストップも活用する
- 過去チャートで検証し、自分のリスク許容度にあった形にカスタマイズする
といったプロセスを踏むことで、シンプルなグランビルの法則が、あなた自身の戦略として機能し始めます。移動平均線をただ「眺める線」から、「行動の判断軸」として使えるようになると、チャートの見え方が一段とクリアになってくるはずです。


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