グランビルの法則は、「移動平均線と株価(あるいは為替レート)の位置関係」だけを使って売買タイミングを判断するシンプルなテクニカル分析手法です。難しい指標や複雑な計算式は一切使わず、チャート画面に移動平均線を1本表示できれば誰でも今日から実践できます。それでいて、トレンドの初動や終盤のサインをつかみやすく、株・FX・暗号資産などあらゆるマーケットで応用しやすいのが特徴です。
この記事では、グランビルの法則の8つの売買ルールを初心者にも分かりやすく解説しながら、具体的なチャートイメージや売買シナリオ、リスク管理の考え方まで丁寧にご紹介します。最後まで読むことで、「移動平均線をなんとなく眺めているだけ」の状態から、一歩進んで「ルールに基づいてエントリーとイグジットを考えられる」状態になることを目指します。
グランビルの法則とは何か
グランビルの法則は、アメリカの相場評論家ジョセフ・グランビルが考案した売買ルールで、移動平均線と価格の位置・傾きから相場の転換点やトレンドの継続を判断するものです。代表的には「期間の長い単純移動平均線(SMA)」を1本だけ使います。株価チャートであれば50日移動平均線や200日移動平均線、FXや暗号資産なら4時間足や日足の20本移動平均線など、自分のトレードスタイルにあった期間を1つ選んで使います。
グランビルの法則には「買いシグナル4つ」と「売りシグナル4つ」があり、合計8個のパターンで構成されています。重要なのは、「移動平均線が上向きか下向きか」「価格が移動平均線を上から抜けたか下から抜けたか」「どれくらい移動平均線から離れているか」という3点だけです。この3点を組み合わせて、トレンドの初動・押し目・戻り・行き過ぎを見極めます。
移動平均線の基本をおさらい
グランビルの法則を理解するために、先に移動平均線の基本を簡単におさらいしておきます。移動平均線は、過去一定期間の終値の平均を線でつないだものです。例えば「20日移動平均線」であれば、直近20日間の終値の平均値を毎日求めて線で結んだものになります。
移動平均線には大きく3つのポイントがあります。
- 移動平均線が右上がりなら「上昇トレンド優勢」、右下がりなら「下降トレンド優勢」とみなせること
- 価格が移動平均線より上にあれば「強気」、下にあれば「弱気」とみなせること
- 価格が移動平均線から大きく離れているときは「行き過ぎ」であり、いずれ平均線に近づく動き(押し目・戻り)が出やすいこと
グランビルの法則は、これらのシンプルな性質を体系化したものです。
グランビルの法則:8つのシグナルの全体像
グランビルの法則は以下の8つのシグナルから構成されます。
買いシグナル4つ
- 第1の買い:下降していた移動平均線を、価格が下から上へ明確にブレイクするとき
- 第2の買い:上向きの移動平均線まで価格が押してきて、そこで下げ止まるとき
- 第3の買い:上向きの移動平均線から価格が一時的に大きく下に乖離したあと、再び平均線に戻り始めるとき
- 第4の買い:横ばい~やや上向きの移動平均線を、価格が一時的に下抜けたあと、すぐに平均線の上に戻ってくるとき
売りシグナル4つ
- 第1の売り:上昇していた移動平均線を、価格が上から下へ明確にブレイクするとき
- 第2の売り:下向きの移動平均線まで価格が戻ってきて、そこで頭打ちになるとき
- 第3の売り:下向きの移動平均線から価格が一時的に大きく上に乖離したあと、再び平均線方向へ下げ始めるとき
- 第4の売り:横ばい~やや下向きの移動平均線を、価格が一時的に上抜けたあと、すぐに平均線の下に戻ってくるとき
名前だけ見るとややこしく感じますが、チャート上では「トレンド転換のブレイク」「トレンドに沿った押し目・戻り」「行き過ぎからの反転」「ダマシからの反発」という4パターンの買いと売りを、それぞれ鏡写しにしただけです。次の章から、初心者向けに1つずつ具体的に解説していきます。
第1の買い・売り:トレンド転換の初動を狙う
第1の買いシグナル:下落トレンドから上昇トレンドへの転換
第1の買いシグナルは、「今まで下落トレンドだった銘柄が、ここから上昇トレンドに変わるかもしれない」という局面です。具体的には、これまで右下がりだった移動平均線に対して、価格が下から上へ強くブレイクし、その後も平均線の上で推移し始める場面です。
例えば日足チャートに50日移動平均線を引いているとします。長く下落してきた株価が、出来高を伴って移動平均線を上抜け、そのまま数日間、移動平均線の上で推移するようになったら、第1の買いシグナルの可能性があります。このとき、「移動平均線の傾きがフラット~わずかに上向きに変わりつつあるか」を確認すると精度が上がります。
第1の売りシグナル:上昇トレンドから下降トレンドへの転換
第1の売りシグナルはその逆で、上昇トレンドから下降トレンドに変わる場面です。右上がりだった移動平均線に対して、価格が上から下へ明確に割り込み、その後も平均線の下で推移し始めるときが狙い目です。
FXのUSD/JPYの日足チャートで、長く続いた円安トレンドのあとに、ローソク足が20日移動平均線を大きく下抜け、さらに数日続けて平均線の下でクローズしているような場面は、第1の売りシグナル候補です。この場面では、新規の買いポジションを控え、すでにロングを持っている場合は一部利益確定やストップロスの引き上げを検討できます。
第2の買い・売り:トレンドに沿った押し目・戻りを狙う
第2の買いシグナル:上昇トレンドの押し目買い
第2の買いシグナルは、「すでに上昇トレンドに入っている銘柄の押し目」を狙うイメージです。移動平均線がしっかり右上がりになっているなかで、価格が一時的に調整して移動平均線付近まで下がってくるものの、平均線を明確には割り込まず、再び上昇し始める場面がチャンスです。
例えばビットコインの日足チャートで、20日移動平均線がきれいな右上がりになっているとします。価格が短期的な調整で20日線近くまで下げてきたが、20日線の少し手前で下げ止まり、長い下ヒゲをつけて反発したとします。このとき、反発のローソク足の高値を上抜けたあたりでエントリーし、直近安値の少し下にロスカットを置く、という戦略は、第2の買いシグナルを使った典型的な押し目買いの形になります。
第2の売りシグナル:下降トレンドの戻り売り
第2の売りシグナルはその逆で、下降トレンドの戻り売りです。移動平均線が右下がりで、価格が一時的に反発して平均線付近まで戻ってきたものの、平均線を明確には上回れず、再び下落し始める場面です。
例えば、ユーロドル(EUR/USD)の4時間足チャートで、50本移動平均線が右下がりになっている状況を考えます。短期的なショートカバーで価格が50本線近くまで戻ったあと、上ヒゲをつけて押し返され、再び安値を更新しそうな形になっているとき、第2の売りシグナルとみなして戻り売りを検討できます。このときのロスカット位置は、戻り高値の少し上が候補になります。
第3の買い・売り:行き過ぎた乖離からの反転を狙う
第3の買いシグナル:売られ過ぎの反発
第3の買いシグナルは、移動平均線が上向き、あるいはフラットであるにもかかわらず、価格が一時的に平均線から大きく下方向に乖離したあと、再び平均線に近づく動きを見せる場面です。簡単に言えば「上昇トレンドの途中でオーバーシュート気味に売られた状態からの反発」を狙います。
例えば、日本株の成長銘柄で、日足の50日移動平均線がしっかり右上がりを保っているとします。ところが、決算発表を前にした不安や一時的な悪材料で株価が急落し、一気に50日線から大きく下に乖離したとします。その後、売り一巡で下げ止まり、出来高を伴って反発し始めた場合、第3の買いシグナルとして押し目買いを検討できます。ただし、このパターンはニュースによる急落が絡むケースが多いため、ファンダメンタルズの変化が致命的でないかどうかも確認することが重要です。
第3の売りシグナル:買われ過ぎの反落
第3の売りシグナルはその逆で、移動平均線が下向き、あるいはフラットであるにもかかわらず、価格が一時的に平均線から大きく上方向に乖離したあと、再び平均線に近づく動きを見せる場面です。「下降トレンドの途中でオーバーシュート気味に買われ過ぎた状態からの反落」を狙います。
例えば、下落トレンドにあるアルトコインで、ニュースやインフルエンサーの発言をきっかけに短期的な急騰が起こり、日足の50日移動平均線から大きく上方乖離したとします。しかし、その後すぐに上げが続かなくなり、長い上ヒゲをつけて失速し、翌日以降に陰線が続くようであれば、第3の売りシグナルとしてショートを検討できます。この場合も、ロスカットは急騰時の高値の少し上に置くのが基本です。
第4の買い・売り:ダマシからの反転を狙う
第4の買いシグナル:一時的な下抜けからの回復
第4の買いシグナルは、横ばい〜やや上向きの移動平均線を価格が一度だけ下抜けしたものの、それが「ダマシ」となってすぐに平均線の上に戻ってくる場面です。投資家心理としては、「ブレイクアウトだと思ってショートした参加者が踏み上げられる形」で、反動的な上昇が出やすい局面です。
例えば、米国株インデックスETF(S&P500など)の日足チャートで、200日移動平均線が緩やかな右上がりを続けているとします。何かのニュースで一時的に平均線を割り込み、「長期トレンド転換か?」と話題になるものの、その日のうちに急反発して移動平均線の上に戻り、翌日以降も平均線上で推移するようであれば、第4の買いシグナルの典型例です。
第4の売りシグナル:一時的な上抜けからの失速
第4の売りシグナルはその逆で、横ばい〜やや下向きの移動平均線を価格が一時的に上抜けしたものの、それがダマシとなって再び平均線の下に押し戻される場面です。
例えば、下降トレンドにある日本株のチャートで、悪材料出尽くし期待から短期的なリバウンドが起こり、日足の50日移動平均線を一瞬だけ上抜けたとします。しかし、出来高はそれほど増えず、その日の終値が移動平均線付近に押し戻され、翌日以降も再び平均線の下で推移するようであれば、第4の売りシグナルとして戻り売りを検討できます。
株・FX・暗号資産での具体的な活用イメージ
株式投資での活用:中期トレンドを狙う
株式投資では、日足チャートに50日移動平均線や75日移動平均線を表示し、グランビルの法則で中期トレンドの押し目・戻りを狙う手法がよく使われます。例えば、日本株のバリュー株や高配当株を対象に、「第2の買いシグナル(押し目)」を中心にエントリーを絞り込むと、無駄な高値掴みを減らしやすくなります。
具体的には、上昇トレンドにある銘柄リストをあらかじめスクリーニングし、「50日移動平均線が右上がり」「株価が50日線近くまで調整してきた」「出来高が徐々に減少して売り圧力が弱まっている」ような局面を狙います。チャート上で陽線が出て反発が確認できたところで分割エントリーし、直近安値を明確に割り込んだらロスカット、50日線から大きく上に乖離してきたら一部利益確定、といった運用ルールをあらかじめ決めておきます。
FXでの活用:時間軸をずらして環境認識+エントリー判断
FXでは、複数の時間足でグランビルの法則を組み合わせると、エントリー精度を高めることができます。例えば、4時間足で20本移動平均線のグランビル第2の買い(押し目)を確認し、実際のエントリーは1時間足や15分足でタイミングを取る、といった使い方です。
具体例として、USD/JPYの4時間足で20本移動平均線が右上がりを維持し、価格が一時的に押して20本線付近まで下げてきたとします。このとき、1時間足に切り替えて、短期的な下降トレンドが終わり、移動平均線上抜けや高値切り上げが確認できたタイミングでロングエントリーを行う、という流れです。このように、上位足でグランビルのシグナルを確認し、下位足でタイミングを精密に取ることで、無駄なドローダウンを抑える効果が期待できます。
暗号資産での活用:24時間市場ならではの注意点
暗号資産(仮想通貨)市場では、24時間365日取引が続いており、ボラティリティも大きいため、グランビルの法則の「第3の買い・売り(行き過ぎからの反転)」が頻繁に出現します。しかし、その分ダマシも多くなるため、移動平均線だけに頼り過ぎないことが重要です。
例えば、ビットコインの1時間足チャートで、50本移動平均線からの急激な乖離が発生した場合、単純に「乖離が大きいから逆張り」ではなく、出来高の増減やローソク足の形(長いヒゲなど)、市場全体のニュースフローを合わせて確認します。特に、大きな材料ニュースをきっかけとする急騰・急落では、グランビルのシグナルに沿って反転を狙うよりも、一旦様子を見るか、時間軸を長めの足(4時間足や日足)に切り替えてから判断する方が安全です。
グランビルの法則を使う際の5つの注意点
グランビルの法則はシンプルで強力なツールですが、万能ではありません。実際のトレードで活用する際には、次のようなポイントに注意することで失敗を減らせます。
- トレンドのないレンジ相場ではシグナルがダマシになりやすい:移動平均線がほぼ水平で、価格がその上下を行ったり来たりしているときは、シグナルの信頼度が下がります。
- 移動平均線の期間設定が自分の時間軸と合っていないと機能しにくい:デイトレードなら5〜20本、スイングなら20〜75本、中長期なら50〜200本など、おおまかな目安をもとに調整します。
- 他の指標との組み合わせで精度を高める:RSIやMACD、出来高、ローソク足パターンなどと組み合わせることで、シグナルの信頼度を補強できます。
- ファンダメンタルズの急変には対応できない:決算、経済指標、金融政策、規制ニュースなどでトレンドが一気に変わる場合、移動平均線だけでは対応が遅れることがあります。
- ロスカットルールとセットで使う:シグナルが外れることを前提に、エントリー時点でロスカット水準と許容損失額を決めておくことが重要です。
実践的な売買ルール例:グランビル+ロスカット+分割決済
最後に、グランビルの法則を使ったシンプルな売買ルール例を示します。ここでは、株式のスイングトレードを想定しますが、FXや暗号資産にも応用可能です。
ルール例:第2の買いシグナルを使った押し目買い戦略
ルールの骨子は次の通りです。
- 日足チャートに50日移動平均線を表示する
- 50日移動平均線が明確な右上がりになっている銘柄だけを対象とする
- 株価が50日線近くまで調整してきたら監視を強化する
- 50日線付近で下げ止まり、陽線の高値を翌日以降に上抜けたら分割で買いエントリー
- ロスカットは押し目の安値の少し下(例:1〜2%下)に置く
- 株価が50日線から10〜15%程度上に乖離してきたら、半分を利益確定し、残りはトレーリングストップで伸ばす
このように、あらかじめ「どこで買い、どこで損切りし、どこで一部利確するか」を決めておくことで、感情に振り回されにくくなります。グランビルの法則は、売買判断の「軸」をシンプルにしてくれるので、初心者がトレードルールを言語化するうえで非常に有効です。
まとめ:グランビルの法則は「移動平均線を武器にする」ための第一歩
グランビルの法則は、たった1本の移動平均線と価格の位置関係から、相場の局面を8つに分類して売買タイミングを判断するシンプルな手法です。ポイントは、以下の3つに集約されます。
- 移動平均線の傾き(上向き・下向き・横ばい)をしっかり確認すること
- 価格が移動平均線をどの方向からブレイクしたか、どの程度乖離しているかを見ること
- シグナルを鵜呑みにせず、ロスカットとポジションサイズ管理をセットで運用すること
株、FX、暗号資産のいずれのマーケットでも、移動平均線は必ずと言ってよいほど使われています。グランビルの法則を理解し、自分なりの具体的な売買ルールに落とし込むことで、移動平均線を「なんとなく表示している線」から「トレードの判断軸」へと格上げできるはずです。まずは過去チャートで8つのシグナルを探し、自分の目で「どの場面でうまく機能しているか」を確認するところから始めてみてください。


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