この記事では、日本の個人投資家にはまだあまり知られていない「カギ足チャート」を解説します。カギ足はローソク足やバーチャートとはまったく違うロジックで描かれる値動き特化型のチャートで、ノイズを減らしてトレンドの本質だけを抜き出すのに向いています。株、FX、暗号資産のどれにも応用できます。
カギ足チャートとは何か
カギ足は、時間の経過ではなく「価格変動量」だけで足が描かれるチャートです。一定幅以上、価格が動いたときだけ線が更新され、それ未満の細かい値動きは無視されます。そのため、レンジのノイズを削ぎ落として、トレンドの方向を視覚的に把握しやすくなる特徴があります。
ローソク足は「1本=1期間(1分、5分、日足など)」ですが、カギ足には時間の概念がありません。「設定した値幅(ボックスサイズ)」を超える動きがあれば描き替えられる、という発想です。
カギ足チャートの基本構造
カギ足は、縦線と横線がジグザグに連続するシンプルな形です。しかし、そのシンプルさの裏にルールがあります。
1. ボックスサイズ(値幅)の設定
まず、カギ足では「どれだけ価格が動いたら線を更新するか」をあらかじめ決めます。これをボックスサイズと呼びます。
- 株価:終値の1~3%程度、もしくは一定円幅(10円、20円など)
- FX:10pips、20pipsなど
- 暗号資産:価格の1~3%など
ボックスサイズを大きくするとノイズは減りますが、シグナルが遅くなります。小さくするとシグナルは増えますがダマシも増えます。
2. 上昇線と下降線
カギ足は、上昇方向に伸びている線と下降方向に伸びている線の2種類だけです。ローソク足のような「始値・高値・安値・終値」はありません。「どの価格まで動いたか」だけを見ます。
- 上昇中:縦線が上向きに伸びる
- 下落中:縦線が下向きに伸びる
- 反転が起こるとき:一定幅以上逆方向に動くと折り返し線が描かれる
3. 線の「太さ」によるトレンド判定
カギ足の伝統的な描き方では、線の太さ(または色)が変化します。
- 直近高値を上抜けたとき:線が「太線(陽線)」に変化し、上昇トレンド継続を示唆
- 直近安値を下抜けたとき:線が「細線(陰線)」に変化し、下落トレンド継続を示唆
この太線・細線の切り替わりが、カギ足特有のトレンド認識の核になります。
カギ足が投資家にもたらすメリット
メリット1:ノイズを徹底的に削る
5分足や1時間足などのローソク足チャートでは、狭いレンジの中で上下に振らされて「どちらに動きたいのか」が分かりづらい局面が多くあります。カギ足は設定した値幅に満たない動きをそもそも描かないため、方向感がはっきりしている局面だけが残ります。
特にトレンドフォロー型のトレードと相性が良く、「上昇トレンドが続く限りホールドする」「太線が細線に変わったら利確・撤退」といったシンプルなルールに落とし込みやすくなります。
メリット2:時間に縛られないトレード発想
時間軸ベースのチャートだと「今日中に決着をつけたい」「5分足だから短期で決めないといけない」といった心理になりがちです。カギ足は時間を見ません。あくまで「値動きが一定幅以上進んだかどうか」だけです。
この発想に慣れてくると、「時間に追われて無理にエントリーする」癖が減り、値動きが十分に起きたときだけエントリーするスタイルに切り替えやすくなります。
メリット3:サポート・レジスタンスが視覚的に明確
カギ足チャートでは、何度も折り返している価格帯がひと目で分かります。そこは市場参加者が意識している価格帯、すなわちサポートラインやレジスタンスラインになりやすい水準です。
ローソク足だとヒゲや行き過ぎでごちゃごちゃする部分でも、カギ足では水平にそろった折り返し価格として認識しやすくなります。
カギ足の描かれ方を具体例で理解する
ここでは、FXのUSD/JPYを例に「ボックスサイズ10pips」でカギ足を描くイメージを説明します。
例:USD/JPYが145.00からの値動き
- 最初の価格は145.00とします。上昇方向に動き、145.10まで到達しました。
→ボックスサイズ10pipsを満たしたので、145.00から145.10へ上向きのカギ足が描かれます。 - さらに145.20、145.30と上昇します。
→上昇線がそのまま上に延長され、145.30まで伸びます。 - その後、145.25、145.20、145.15と少しずつ下落しますが、145.20は145.30から10pips未満の下落です。
→ボックスサイズ未満なので、まだ反転線は描かれません。 - 145.30から145.20まで10pips下落したタイミング、または145.19以下に落ちたタイミングで反転条件を満たします。
→ここで初めて上昇線から下降線に切り替わり、新しい縦線が下向きに描かれます。 - 下降線が続き、145.00、144.90と落ちていきます。
→144.90まで下降線が伸びます。
このように、一定幅以上動いたポイントだけを結ぶことで、「どこで方向が変わったのか」「どれくらいの値幅でトレンドが続いているのか」が明確になります。
カギ足を使ったトレンドフォロー戦略
カギ足の典型的な使い方はトレンドフォローです。初心者でも比較的分かりやすく、ローソク足よりも感情に振り回されにくいルールを作りやすいのが特徴です。
戦略1:太線の方向についていくシンプル戦略
カギ足が「太線」に変わったタイミングは、直近高値を更新した合図です。これを「買いシグナル」とみなし、太線が続く間は保有し続けます。
- エントリー:太線に変わった1本目、または2本目のカギ足で買い
- 手仕舞い:細線に変わったら成行で決済
この戦略は「上昇トレンドに乗ること」だけに集中したルールです。レンジ相場ではダマシが増えますが、しっかりしたトレンドが出た局面ではシンプルに利益を伸ばすことができます。
戦略2:サポート・レジスタンスのブレイクアウト
カギ足チャートで何度も折り返している水準を水平線で引き、その上抜け・下抜けを狙うブレイクアウト戦略もよく使われます。
- 買いシナリオ:何度も頭を押さえられていたレジスタンス価格を、太線で明確に上抜けしたときにエントリー
- 売りシナリオ:何度も下げ止まっていたサポート価格を、細線で明確に下抜けしたときにエントリー
カギ足はヒゲを描かないため、「ちょっと抜けてすぐ戻る」というノイズをある程度フィルタリングできます。その分、ブレイクアウトの信頼性が上がりやすいという利点があります。
戦略3:トレンドラインとの組み合わせ
カギ足チャートにもトレンドラインを引くことができます。上昇トレンドでは、安値同士を結ぶ右肩上がりのライン、下降トレンドでは高値同士を結ぶ右肩下がりのラインです。
- 買いシナリオ:上昇トレンドラインに沿って太線が続いている間は保有し、トレンドラインを明確に割り込んだら手仕舞い
- 売りシナリオ:下降トレンドラインに沿って細線が続いている間は保有し、トレンドラインを明確に上抜けしたら手仕舞い
カギ足はノイズが少ない分、トレンドラインの信頼性も高まりやすく、ローソク足よりもきれいな斜めのラインが引けることが多いです。
カギ足と他のテクニカル指標を組み合わせる
カギ足単体でも十分使えますが、他のテクニカル指標と組み合わせることで精度を高めることができます。
組み合わせ1:カギ足 × 移動平均線
ローソク足ではなくカギ足上に移動平均線を重ねて、トレンド方向を再確認する方法があります。
- カギ足が太線で上昇し、移動平均線も上向き → 強い上昇トレンドと判断しやすい
- カギ足が細線で下落し、移動平均線も下向き → 強い下落トレンドと判断しやすい
- カギ足の向きと移動平均線の傾きが逆 → トレンドの転換点である可能性を警戒
組み合わせ2:カギ足 × RSI・ストキャスティクス
カギ足でトレンド方向を把握しつつ、RSIやストキャスティクスで「行き過ぎ」をチェックするのも有効です。
- カギ足が太線で上昇中かつRSIが70を大きく超えている → 利確ポイントとして意識
- カギ足が細線で下落中かつRSIが30を大きく割り込んでいる → 売りポジションの利確候補
トレンドフォローとオシレーターの組み合わせにより、「長く持ちすぎて利益を吐き出す」ことを防ぎやすくなります。
組み合わせ3:カギ足 × ボリューム(出来高)
カギ足のトレンド転換ポイントで出来高が急増している場合、その方向への動きが本格的なものになりやすいと考えられます。
- 上昇方向への太線切り替え+出来高急増 → 強い買い需要が入っているシグナル
- 下降方向への細線切り替え+出来高急増 → 強い売り需要が入っているシグナル
銘柄別の活用イメージ(株・FX・暗号資産)
株式投資でのカギ足活用
日本株の日足チャートにカギ足を重ねると、中長期トレンドの把握に役立ちます。ボックスサイズを株価の2~3%に設定し、太線が続く銘柄をスクリーニングすることで、「しっかりした上昇トレンドに乗っている銘柄」を視覚的に抽出できます。
一方、決算発表前後などボラティリティが一時的に高まる場面では、ボックスサイズを大きめにしてノイズを抑えると、トレンドの大局を見失いにくくなります。
FXでのカギ足活用
FXは短期トレードが中心になりがちですが、カギ足を使うことで「本当にトレンドが出ている通貨ペア」に集中できます。たとえば、ドル円・ユーロドルなど主要通貨ペアに10~20pipsのボックスサイズを設定し、太線・細線の方向だけに注目します。
レンジ相場ではカギ足が細かく上下に切り替わるため、その状態を「様子見」と定義するのも有効です。明確なトレンドが出て太線・細線の一方向が続き始めたところだけを狙うことで、無駄なエントリーを減らすことができます。
暗号資産でのカギ足活用
ビットコインやアルトコインは値動きが激しいため、ローソク足だけ見るとノイズに圧倒されがちです。カギ足で値動きを整理すると、「本当に大きな波」がどこから始まり、どこで終わろうとしているのかを把握しやすくなります。
ボックスサイズは価格の2~5%など、やや大きめに設定するのが一般的です。こうすることで、細かい乱高下をカットし、大きなトレンドだけに集中できます。
カギ足チャートの弱点と注意点
弱点1:レンジ相場ではダマシが増える
カギ足はトレンドフォローに強い一方で、明確なトレンドがないレンジ相場ではシグナルが頻繁に切り替わります。太線と細線が交互に現れ、「買ったらすぐ反転、売ったらすぐ反転」という状況になりがちです。
この弱点を補うには、上位時間足のトレンドや、移動平均線の傾き、ADXなどのトレンド系指標を併用して「今はトレンド狙いをして良い相場か」を事前にチェックすることが重要です。
弱点2:ボックスサイズの設定が感覚的になりやすい
ボックスサイズをどれくらいに設定するかは、初心者にとって難しいポイントです。小さすぎればダマシが増え、大きすぎればチャンスを逃します。
一つの目安として、過去数ヶ月の平均的な値動き幅(ATRなど)を参考にしつつ、「1日の平均値動きの3~5分の1程度」をボックスサイズとする考え方があります。検証ツールを使って複数パターンを試し、自分のスタイルに合う設定を見つけていくことが大切です。
弱点3:一般的な教材が少ない
ローソク足や移動平均線と比べると、カギ足を詳しく解説した日本語の教材はまだ少ないのが現状です。そのため、自分でチャートを動かしながら感覚を掴んでいく必要があります。
ただし、逆に言えば「他の個人投資家があまり注目していない領域」でもあり、使いこなせるようになれば一歩先行く視点を手に入れられる可能性があります。
カギ足を使ったシンプルな運用ステップ
最後に、カギ足チャートを実践に組み込むためのシンプルなステップをまとめます。
ステップ1:通貨ペア・銘柄と時間軸を決める
- 株:日足ベースで中期トレンドを狙う
- FX:5分足~1時間足ベースで短期~スイングを狙う
- 暗号資産:1時間足~4時間足ベースで大きめの波を狙う
ステップ2:ボックスサイズを仮決めする
- 過去の値動きを見て、「このくらい動いたらトレンドと呼べる」と感じる値幅を選ぶ
- 小さめ・中くらい・大きめの3パターンを保存し、見比べてみる
ステップ3:過去チャートでパターンを観察する
いきなりリアルトレードに使うのではなく、まずは過去の相場で「どこで太線に変わり、どこで細線に変わったか」「どのタイミングで入れば無理なく利益が伸びたか」をじっくり観察します。
ステップ4:ルールを紙に書き出す
カギ足はシンプルなチャートなだけに、ルールも明文化しやすいです。
- エントリー条件(例:太線に切り替わったら買い、レジスタンス突破で追加など)
- 損切り条件(例:細線に切り替わったら決済、ボックスサイズの2倍逆行したら損切りなど)
- 利確条件(例:直近の大きな抵抗帯に到達したら半分利確など)
ステップ5:デモ・小ロットで運用テスト
ルールを決めたら、いきなり大きな資金を入れずに、デモ口座や小ロットで試します。カギ足は見た目がシンプルな分、「実際にポジションを持ったときの心理」とのギャップを体感しておくことが重要です。
ステップ6:定期的に見直し・改善を続ける
カギ足は、ボックスサイズの見直しや組み合わせる指標の工夫によって、精度を徐々に高めていくことができます。トレード記録を残し、「どの局面で有効だったか」「どの局面で負けが続いたか」を振り返りながら、自分なりの最適な使い方に磨きをかけていきましょう。
まとめ:カギ足は「値動きの本質」を見るための武器
カギ足チャートは、時間という概念を捨てて、値動きそのものにフォーカスするユニークなテクニカル手法です。ノイズを削り、トレンドの方向と強さを視覚的に捉えやすくすることで、感情に振り回されにくいトレードスタイルを支えてくれます。
最初はローソク足との違いに戸惑うかもしれませんが、使い慣れてくると「トレンドが出ている相場」と「手を出すべきでない相場」の区別がはっきりしてきます。株、FX、暗号資産のどれを取引している投資家でも、カギ足をチャートツールの一つとして取り入れてみる価値は十分にあります。


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