チャート分析というと、ロウソク足や移動平均線ばかりに目が行きがちですが、「カギ足チャート(Kagi Chart)」という少しマイナーなチャートを使うと、ノイズを減らしてトレンドだけをスッキリと可視化することができます。特に、値動きに振り回されやすい初心者にとって、カギ足は「上昇か下降か」だけに集中できるシンプルな武器になります。
本記事では、株・FX・暗号資産で使えるカギ足チャートの基本から、具体的なエントリー・エグジットルール、リスク管理までを丁寧に解説していきます。
カギ足チャートとは何か:時間を捨てて価格だけを見るチャート
カギ足チャートは、一般的なロウソク足と違い、時間の概念をほとんど使わず価格の変化量だけで線を描いていく特殊なチャートです。横軸は時間ではなく「転換が起きた順番」に過ぎません。そのため、値動きの激しい相場ではカギ足がどんどん伸び、値動きが乏しい相場ではほとんど形が変わりません。
基本的なルールはシンプルです。
- ある一定幅以上、上方向に動けば「上昇のカギ」を描く
- ある一定幅以上、下方向に動けば「下降のカギ」を描く
この「一定幅」を転換幅と呼びます。例えば、株価であれば「100円」、FXであれば「30pips」、ビットコインなら「500ドル」といった具合に、銘柄やボラティリティに応じて設定します。
実際のカギ足は、上昇と下降の方向が切り替わるポイントで直角に折れ曲がる形になり、階段状のラインが連続して表示されます。この折れ曲がりこそが、トレンド転換を示す重要なシグナルになります。
カギ足チャートの作られ方を直感的にイメージする
カギ足チャートを理解するには、作成プロセスをイメージするのが一番早いです。例えば、ある日本株を例にして、転換幅を「100円」に設定したとします。
株価が3,000円から上昇を始め、3,100円、3,150円、3,200円と上がっていくとします。このとき、3,100円を越えた時点で「上昇のカギ」が描かれ、さらに上昇を続ける限り、同じ方向に線が伸びていきます。
その後、3,250円から3,180円まで下落したとしても、転換幅の100円に届かないため、カギ足はまだ上昇方向のままです。しかし、3,250円から3,150円、3,100円、3,050円と下落して100円以上の反転が起きたタイミングで、初めて下降のカギに切り替わります。
このように、細かいジグザグをすべて無視して、一定幅以上の反転だけを拾うことで、小さなノイズが削ぎ落とされ、トレンドの方向がはっきりと視覚化されます。
カギ足チャートの特徴:トレンドフォローに向く理由
カギ足チャートには、トレンドフォロワーにとって都合の良い特徴がいくつかあります。
第一に、レンジのノイズをある程度自動的にフィルタリングすることです。ロウソク足では、レンジ相場で上ヒゲ・下ヒゲが連発すると、どこが本当のブレイクなのか分かりづらくなります。カギ足の場合、転換幅を適切に設定すれば、小さな逆行では方向が変わらないため、トレンドの大まかな流れだけに集中できます。
第二に、視覚的にブレイクアウトと押し目・戻りを捉えやすいことです。高値を切り上げるたびに上昇のカギが伸び、重要な高値を超えた瞬間がラインの形で明確に現れます。これにより、「どこを抜けたらトレンド継続と判断するか」が視覚的に整理されます。
第三に、タイムフレーム依存度が小さいという点です。カギ足は時間ではなく値幅で描かれるため、「5分足」「1時間足」といった時間足の違いに振り回されることがありません。ボラティリティに応じて転換幅を微調整することで、株・FX・暗号資産いずれの市場でも一貫した感覚で使えます。
カギ足の基本的な読み方:高値・安値と太線・細線
カギ足チャートには、単に上昇と下降の方向だけでなく、「強いトレンド」と「弱いトレンド」を示す工夫が加えられていることがあります。代表的なのが、線の太さの切り替えです。
一般的なルールの一例としては、次のようなものがあります。
- 直近の重要高値を上抜けた場合:線が太線(強気)に切り替わる
- 直近の重要安値を下抜けた場合:線が細線(弱気)に切り替わる
この仕組みにより、単に上昇しているだけでなく、「本格的な買い優勢かどうか」が視覚的に判断しやすくなります。太線が続いている間は押し目買いを狙い、細線が続いている間は戻り売りを優先するといった使い方が可能です。
また、カギ足の折れ曲がりポイント(直角に切り替わる部分)は、スイングの天井・底として意識されやすく、サポートライン・レジスタンスラインを引く際の目安にもなります。
具体的な戦略例1:株式の日足カギ足でトレンドフォロー
まずは、個別株の中期トレンドを狙うシンプルな戦略例を紹介します。対象は、日本株の現物取引やCFDなどを想定します。
前提条件として、次のように設定します。
- チャート:日足ベースの終値を元にカギ足を作成
- 転換幅:直近3か月の平均的な1日の値幅の1.5~2倍程度(例:平均50円なら転換幅100円)
- 銘柄:ある程度の出来高がある中大型株
エントリールールの一例は次の通りです。
買いエントリー
- カギ足が細線から太線に切り替わる
- 直近の重要高値(カギの折れ曲がりポイント)を上抜けたことが確認できる
- 出来高が平常時よりやや増加していることが望ましい
この条件が揃った場合、「明確な上昇トレンドに切り替わった」とみなしてエントリーします。
売却・利益確定の目安
- カギ足が太線から細線に切り替わる
- ひとつ前の重要安値を下抜けた場合
このように、カギ足自体の形だけでシンプルに売買判断を行えるのがメリットです。ロウソク足チャートでありがちな「ヒゲに振り回されて早く降りてしまう」「一時的な逆行で狼狽する」といったミスを減らしやすくなります。
具体的な戦略例2:FXのカギ足でトレンド+押し目買いを狙う
次に、FXの主要通貨ペア(例:ドル円、ユーロドル)にカギ足を適用する戦略です。ここでは、短期から中期のスイングトレードを想定します。
設定の例は次の通りです。
- チャート:4時間足の終値を元にカギ足を作成
- 転換幅:30~50pips前後(ペアのボラティリティに合わせて調整)
買い戦略の流れ
まず、4時間足カギ足で上昇トレンドを確認します。太線が続き、高値を切り上げている状態を「上昇トレンド」と定義します。その上で、短期的な押し目を狙っていきます。
具体的な手順は以下の通りです。
- 太線の上昇カギが続いている状態を確認する
- 一度下方向へのカギ(押し目)が出現し、細線に切り替わることがある
- その後、再び上昇方向に転換し、直近の折れ曲がり高値を上抜けたら買いエントリー
押し目でポジションを取ることで、トレンドに逆らわず、かつリスクリワードを改善しやすくなります。
損切りラインの例
エントリー後の損切りは、押し目の安値に少し余裕を持たせて置くのが基本です。例えば、押し目の安値から10~20pips下にストップを設定するなどです。カギ足の折れ曲がりポイントは、多くの場合短期的なサポートとして機能するため、そこを明確に割り込んだらシナリオ否定と考えます。
暗号資産への応用:ボラティリティを味方にするカギ足設定
ビットコインやアルトコインはボラティリティが非常に大きいため、ロウソク足でチャートを見るとノイズだらけに感じることがあります。こうした市場にこそ、カギ足が有効に機能します。
暗号資産では、例えば次のような設定が考えられます。
- 対象:ビットコイン/USDTや主要アルト
- 時間軸:1時間足や4時間足
- 転換幅:ビットコインなら200~500ドル、アルトコインなら価格の1~2%相当
ポイントは、ボラティリティに合わせて転換幅を定期的に見直すことです。値動きが荒くなれば転換幅を広げ、落ち着いてきたら狭めることで、トレンドの見え方を調整できます。
暗号資産では、「短期の乱高下で何度も振り落とされる」という悩みが多いですが、カギ足を使うと余計な逆行をある程度無視できるため、トレンドにしがみつく力が高まります。
カギ足とサポート・レジスタンスの組み合わせ
カギ足チャートの折れ曲がりポイントは、短期的な天井・底になっていることが多く、サポートライン・レジスタンスラインを引く起点としても有効です。
具体的には次のような使い方が考えられます。
- 複数の折れ曲がり高値を水平線で結び、レジスタンスラインとする
- 複数の折れ曲がり安値を水平線で結び、サポートラインとする
- サポートを割り込む、あるいはレジスタンスを突破したタイミングをブレイクエントリーのシグナルとする
ロウソク足と違い、カギ足はノイズの少ない価格の節目だけが強調されるため、ラインの信頼度が増すことがあります。特に、チャネルラインやトレンドラインを併用すると、トレンドの傾きと節目がより明確に視覚化されます。
カギ足+他インジケーターの組み合わせ例
カギ足チャート単体でもトレンドフォローは可能ですが、他のインジケーターと組み合わせることで、エントリー精度を高めることができます。初心者にも扱いやすい組み合わせとしては、次のようなものがあります。
カギ足+移動平均線
カギ足チャートをメインにしつつ、別ウィンドウで通常のロウソク足チャートに移動平均線(SMAやEMA)を表示し、
- カギ足が太線の上昇で、ロウソク足が移動平均線より上にあるときは強い上昇トレンド
- カギ足が細線の下降で、ロウソク足が移動平均線より下にあるときは強い下降トレンド
といったように「トレンドの方向が複数の視点で一致しているか」を確認します。
カギ足+RSI
カギ足が太線の上昇を示しているが、RSIが70以上で明らかに過熱している場合、そのまま追いかけるのではなく、一度押し目を待つといった判断が可能です。逆に、カギ足が細線の下降を示しつつ、RSIが30付近で売られ過ぎのサインを出している場合、大きな戻りが入りやすいことを想定してポジションサイズを抑えるなどの工夫が考えられます。
転換幅の設定の考え方:細かすぎても粗すぎても失敗する
カギ足チャートで最も重要なパラメータが転換幅です。これを間違えると、せっかくのカギ足がただのギザギザ線になってしまったり、逆に大雑把すぎてエントリーのタイミングが遅すぎるチャートになったりします。
転換幅の設定方法としては、次のような考え方があります。
- 直近数十本の平均的な値幅(ATRなど)を参考にする
- 株なら株価の1~3%、FXなら20~50pips、暗号資産なら価格の1~2%など、ボラティリティに応じた比率で決める
- 複数の転換幅パターン(小・中・大)を並べて比較し、自分が見やすい粒度を選ぶ
初心者にありがちなのが、「細かく動きを捉えたい」と思うあまり、転換幅を小さくしすぎてしまうことです。そうすると、ほとんどロウソク足と変わらずノイズだらけになってしまいます。逆に、転換幅が大きすぎると、トレンドの転換に気づくのが遅れ、大きな含み損を抱えてからようやく反転に気づくということになりかねません。
まずは、多少ラフでも良いので、「ノイズが適度に削られ、トレンドの方向がはっきり見える」レベルを目指して調整することが大切です。
カギ足チャートの注意点とよくある失敗パターン
カギ足チャートは便利なツールですが、万能ではありません。特に、次のような場面では注意が必要です。
レンジ相場でダマシが連発する
転換幅が小さめの場合、はっきりしたトレンドが出ていないレンジ相場では、上方向と下方向の転換が何度も起きて売買シグナルが多発します。こうした場面で何度も売買を繰り返すと、スプレッドや手数料ばかりが積み上がり、パフォーマンスを損ないやすくなります。
回避策としては、カギ足だけでなく、「レンジかトレンドか」を判断するための指標(ADXなど)を併用する、あるいは価格帯出来高や水平ラインを見て、明らかにレンジが続いている間はシグナルを無視するなどのフィルターを入れることが考えられます。
転換幅を頻繁に変えすぎる
転換幅は相場環境に応じて見直すべきですが、短期的な値動きに合わせて頻繁に変更すると、「過去チャートを自分に都合よく見直しているだけ」になりかねません。一度ルールを決めたら、ある程度の期間は固定して検証し、その上で必要に応じて見直すというスタンスが重要です。
カギ足の形だけで大きなポジションを持つ
カギ足はトレンドの方向を分かりやすくしてくれますが、それだけでリスク管理が完結するわけではありません。必ず、1トレードあたりの許容損失額を資金の一定割合に抑え、損切りラインから逆算してロットサイズを決めるといった基本的なリスク管理と組み合わせる必要があります。
実際にカギ足チャートを使い始めるためのステップ
最後に、カギ足チャートを今日から試すためのステップをまとめます。
第一に、自分が使っている取引ツールやチャートソフトでカギ足が使えるか確認することです。TradingViewなどの多機能チャートツールにはカギ足が標準搭載されていることが多く、国内証券会社のチャートソフトでも対応している場合があります。
第二に、一つの銘柄・通貨ペアに絞って検証することです。最初から複数の市場・銘柄で試すと、転換幅の調整や見え方の違いに混乱しやすくなります。まずは、よくトレードする株や通貨ペア、ビットコインなど、一つに絞ってカギ足の見え方に慣れるのがおすすめです。
第三に、過去チャートでルールを明文化することです。「太線に切り替わって前回高値をブレイクしたら買い」「細線に切り替わって前回安値をブレイクしたら売り」というように、自分なりの売買ルールを文章としてまとめ、過去チャートで検証します。このプロセスを通じて、「どのような場面で機能しやすいか」「どのような場面でダマシが多いか」が具体的に見えてきます。
カギ足チャートは、ロウソク足に比べると知名度は高くありませんが、その分、「他人と同じ見方をしていても勝ちにくい相場」で差別化しやすいという側面もあります。値動きの本質に集中できるシンプルなツールとして、ぜひ一度、ご自身のトレードに取り入れてみてください。


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