ローソク足や移動平均線はよく聞くのに、「カギ足チャート」を実際のトレードに使っている個人投資家は多くないです。しかしカギ足は、本来「ノイズをそぎ落として、本質的なトレンドだけを見る」ために設計されたチャートであり、相場のダマシを減らし、落ち着いて売買判断をしたい人にとって非常に相性のよいツールです。
この記事では、カギ足チャートの基本構造から設定のコツ、株・FX・暗号資産それぞれでの具体的な使い方、そして再現性のある売買ルールの組み立て方まで、初心者の方にも分かるように丁寧に解説していきます。
カギ足チャートとは何か:時間を捨てて「価格の流れ」だけを見る
カギ足チャートは、日本で発祥した「非時系列チャート」の一種です。通常のローソク足は、一定時間ごと(1分、5分、1時間、日足など)にローソクを1本ずつ描きますが、カギ足は「時間」ではなく「価格の変化量」を基準にして足を描きます。
具体的には、あらかじめ「転換値幅」と呼ばれる値幅(例:株価で100円、FXで20pips、ビットコインで500ドルなど)を設定し、その値幅だけ逆方向に動かない限り、同じ方向の線を伸ばし続けます。逆方向に一定以上動いたときだけ、チャートが折れ曲がって「カギ」が切り替わるイメージです。
これにより、値動きの細かいノイズは完全に無視され、トレンドが続いているのか、明確に転換したのかが視覚的に非常に分かりやすくなります。
カギ足の基本ルール:上昇カギと下降カギの切り替わり
カギ足チャートでは、通常、上昇方向の線を細い線(または白)、下降方向の線を太い線(または黒)といった形で区別します。プラットフォームによって表現は異なりますが、大切なのは次の2点です。
1. 価格が同じ方向に動き続ける限り、その方向のカギが伸び続ける。
2. 一定値幅だけ逆方向に動いたとき、現在のカギが終了し、新しい方向のカギが始まる。
例えば、転換値幅を「100円」に設定した日経平均先物のカギ足を考えます。価格が32,000円から上昇し続けて32,400円まで動いても、下方向に100円(=32,300円)以上の押しが来ない限り、上昇カギはそのまま伸び続けます。32,300円を割り込んで初めて、「下方向へのカギ」が新しく描かれます。
このように、カギ足は「押し・戻しの深さ」を基準にトレンドの継続と転換を判断するチャートです。時間軸に惑わされないため、慌てて飛びついたり、ちょっとした押し目で狼狽手仕舞いしたりするリスクを減らせます。
転換値幅の設定がすべてを決める
カギ足チャートでもっとも重要なのが、この「転換値幅」の設定です。値幅が小さすぎるとノイズを拾いすぎてしまい、大きすぎるとトレンド転換を認識するのが遅れてしまいます。
初心者がよくやりがちな失敗は、「なんとなくキリのよい数字」を入れてしまうことです。これでは、銘柄や通貨ペアごとのボラティリティを反映できません。おすすめは、次のような考え方です。
- 株式(日足ベース):直近20日~60日の平均真の値幅(ATR)を参考に、その0.5倍~1倍程度を転換値幅にする。
- FX(1時間足ベース):直近1週間の平均レンジ(高値-安値)を求め、その5~10%程度を転換値幅にする。
- 暗号資産(日足または4時間足):ボラティリティが高いので、直近20本の平均値幅の1倍~1.5倍程度を転換値幅にする。
例えば、ドル円1時間足で直近1週間の平均レンジが80pipsなら、その5%は4pips、10%は8pipsです。スキャル~デイトレの目線なら4~6pips、中長期なら8~10pipsといった形で転換値幅を調整すると、通貨ペアのボラティリティに見合ったカギ足になります。
カギ足が向いている相場・向いていない相場
カギ足チャートは、トレンドフォローと押し目・戻り売りの判断に大変向いています。一方で、例外的に苦手な局面もあります。それぞれ整理しておきます。
向いている局面
- 明確な上昇トレンド・下降トレンドが出ている相場
- ニュースで一方向のフローが強く出ている局面
- 移動平均線でもきれいなトレンドが出ている銘柄や通貨ペア
こうした局面では、カギ足は細かい押し目・戻りを無視し、トレンドの本線だけを描いてくれます。トレンドが続いている間はカギの向きが変わらないため、「逆張りしたくなる衝動」を抑えやすくなります。
苦手な局面
- 非常に狭いレンジ相場(方向感が全くない状態)
- 乱高下が激しく、方向が頻繁に入れ替わる高ボラティリティのニュース直後
このような局面では、転換値幅の設定次第では方向転換が増えやすくなり、カギ足でもダマシが多くなります。その場合は、転換値幅を一段階広げるか、その相場環境ではカギ足を使わないといった割り切りも重要です。
カギ足チャートを使った基本トレード戦略
ここからは、実際に使える売買ルールの例をいくつか紹介します。どれもシンプルですが、相場全体のトレンド方向を決めたうえで、エントリーとイグジットを一貫したルールで行うことができます。
戦略1:カギ足の方向に素直に乗るトレンドフォロー
もっとも基本となる戦略は、「カギ足の方向に素直にポジションを取る」というものです。
- カギ足が上昇方向になったら「買い」目線に固定し、押し目で買う。
- カギ足が下降方向になったら「売り」目線に固定し、戻りで売る。
実際のエントリータイミングは、ローソク足と組み合わせると精度が上がります。例えばドル円の1時間足で、カギ足が上昇方向に転換したら、15分足ローソクで直近の高値ブレイクを待ってから買いエントリーする、といった形です。
イグジットは非常にシンプルで、「カギ足が反転したら手仕舞い」です。これにより、トレンドが続く限りポジションをホールドでき、トレンド終盤での細かい揺さぶりに振り回されにくくなります。
戦略2:カギ足と移動平均線の組み合わせでだましを減らす
カギ足はトレンドの方向を視覚的に分かりやすくしてくれますが、それだけでは「行き過ぎた局面」で高値掴み・安値売りをしてしまうリスクがあります。そこで、移動平均線(MA)と組み合わせることで、優位性の高いタイミングだけに絞り込むことができます。
一例として、株の日足チャートで次のようなルールを考えてみます。
- 20日移動平均線が右上がり
- カギ足が上向きに転換している
- 株価が20日移動平均線付近まで押してきたタイミングで、再びカギ足が上向きのまま上昇に転じたらエントリー
このように、「トレンド判定」をカギ足、「押し目の水準」を移動平均線という役割分担にすることで、意味のある押し目買い・戻り売りのポイントが見えやすくなります。
戦略3:カギ足をフィルターにしたブレイクアウト戦略
ブレイクアウト戦略では、レンジ上限のブレイクが「ダマシ」になるかどうかが問題になります。カギ足をフィルターとして使うことで、ブレイクアウトに信頼性を持たせることが可能です。
例えば、ビットコインの4時間足で次のようなルールを設定します。
- 水平レジスタンスラインを複数回試している価格帯を見つける。
- レジスタンスラインを実体で明確に上抜けしたタイミングで、カギ足も上向きに転換していることを確認する。
- 両方の条件が揃った場合にのみ、ブレイクアウト戦略として買いエントリーする。
カギ足が上向きに転換していない状態でのブレイクアウトは見送る、といったフィルタリングを行うことで、「一瞬だけ上抜けしてすぐ戻る」といったダマシをかなり減らすことができます。
具体的なトレード例:ドル円1時間足でのカギ足+移動平均線
イメージを掴みやすくするために、ドル円1時間足でのシンプルな例を見てみましょう(数字はあくまでイメージです)。
- 通貨ペア:USD/JPY
- 時間軸:1時間足
- カギ足転換値幅:8pips
- 移動平均線:20期間EMA
ドル円が150.00円付近から上昇を始め、カギ足が下向きから上向きに転換。20EMAも右肩上がりになっているとします。その後、151.20円まで上昇した後、押しが入り、20EMA付近の150.80円まで下落しました。
このとき、ローソク足では一時的に弱く見える場面もありますが、カギ足がまだ上向きのままであれば、トレンド自体は継続中と判断できます。ここで再び151.00円を超える場面で上昇カギが伸び始めたら、押し目完了と見て買いエントリーする、という戦略が立てられます。
イグジットは、「カギ足が下向きに転換したタイミング」で全決済です。仮に152.00円でカギ足が下向きに転じたとすれば、150.90円で買って152.00円で決済、といった形でトレンドの大部分をしっかり取ることができます。
カギ足チャートのメリットとデメリット
メリット
- 時間軸のノイズを排除し、トレンドの方向が明確に見える。
- 「ちょっとした押し」で狼狽手仕舞いしにくく、トレンドフォローがしやすい。
- 移動平均線やサポート・レジスタンスと組み合わせることで、裁量判断のブレを減らせる。
デメリット
- 転換値幅の設定が難しく、銘柄や相場環境に合わせた調整が必要。
- 非常に激しい乱高下の直後などでは、方向転換が続いてしまうことがある。
- ローソク足のように、ひと目で始値・終値・高値・安値が分かるわけではない。
このため、カギ足は「ローソク足の代わり」ではなく、「トレンドの骨格を確認するための補助チャート」として使うのが現実的です。
実践で失敗しやすいポイントと回避策
カギ足を使い始めた初心者が陥りがちな失敗をいくつか挙げておきます。
- 転換値幅を頻繁に変えすぎる:エントリーや損切りをチャートに合わせて「後出し調整」してしまうと、検証結果があてにならなくなります。まずは1つの設定で50~100トレード分を検証し、そのうえで見直す方が合理的です。
- カギ足だけで完結させようとする:ボラティリティや出来高、サポート・レジスタンスなど、他の要素を完全に無視すると、相場の「背景」を見誤ります。最低でも、トレンド方向の確認(カギ足)と水準の確認(移動平均線や水平線)は併用した方が安定します。
- 短すぎる時間軸で使う:1分足など超短期では、転換値幅を極端に小さく設定しがちで、結果的にノイズだらけになります。まずは4時間足や1時間足、日足など、ある程度ノイズの少ない時間軸で慣れてから短期に移る方が安全です。
カギ足チャートをルール化してバックテストするヒント
裁量トレードだけでなく、カギ足をルールに落とし込み、過去チャートで検証してみるのも有効です。プラットフォームによってはカギ足をベースにしたインジケーターやスクリプトを使えるものもあり、プログラム的に検証することも可能です。
検証の際は、次のようなポイントを意識するとよいでしょう。
- 転換値幅の大きさを複数パターン用意し、それぞれの勝率・平均損益・ドローダウンを比較する。
- カギ足単体と、「カギ足+移動平均線」「カギ足+サポート・レジスタンス」など複合ルールの成績を比べる。
- トレンド局面とレンジ局面で成績を分けて見ることで、どの相場環境に強い戦略なのかを把握する。
こうした検証を通じて、自分の性格や資金量、取引スタイルに合った「カギ足の設定」と「組み合わせる指標」が見えてきます。
まとめ:カギ足は「トレンドの骨格」を見抜くための武器
カギ足チャートは、一般的な教科書ではあまり詳しく紹介されませんが、「時間軸のノイズを捨てて、価格の本質的な流れだけを見る」という点で非常に優れたチャートです。
特に、トレンドフォローが苦手で「いつも途中で手放してしまう」「細かい押し目で不安になってしまう」という人にとって、カギ足はメンタル面の負担を軽減し、ルールを守りやすくしてくれる可能性があります。
いきなり大きな資金で試すのではなく、まずはデモ口座や極小ロットで、1. 転換値幅をどう設定するか、2. どの時間軸で最も見やすいか、3. どの指標と組み合わせると自分にとって分かりやすいかをじっくり探ってみてください。
カギ足は「相場の骨格」を静かに教えてくれるツールです。ローソク足やインジケーターと組み合わせ、自分なりの売買ルールに落とし込めれば、トレンド相場でしっかり利益を狙うための心強い武器になってくれるはずです。


コメント