チャート分析というと、多くの投資家はローソク足や移動平均線を思い浮かべます。しかし、価格の「ノイズ」を極力そぎ落とし、トレンドの骨格だけを見せてくれるチャートがあることは、まだあまり知られていません。その一つが、今回解説する「カギ足チャート」です。
カギ足チャートとは何か
カギ足チャートは、日本で生まれた非時系列型のチャートです。通常のローソク足は「時間経過（1分、1時間、1日など）」で足が更新されますが、カギ足は時間ではなく「価格変動量」で足が更新されます。一定幅以上の値動きが出たときにだけ形が変わるため、細かな上下動（ノイズ）を無視して、トレンドの方向性を把握しやすいという特徴があります。
カギ足では、上昇方向の線と下降方向の線が連続して描かれ、反転の条件を満たしたときに初めて向きが変わります。この「反転の条件」となる値幅が、いわゆる転換幅です。転換幅を広くすれば大きなトレンドだけが描かれ、狭くすれば小さな波動も捉えやすくなります。
ローソク足との決定的な違い
ローソク足チャートとの一番大きな違いは、「時間」を見ないことです。たとえば日足チャートであれば、値動きが乏しい1日でも必ず1本のローソク足が描かれます。一方、カギ足は一定の価格変動が起きなければ形が変わりません。つまり、値動きの少ない日が続けば、チャートはほとんど変化しません。
この性質により、レンジでの細かな振り回しや、指標発表前後の一瞬のノイズをある程度吸収し、トレンドが出ている方向だけが強調されます。トレンドフォロー戦略との相性が良い理由は、まさにここにあります。
カギ足の基本ルール（転換幅と太線／細線）
カギ足チャートの基本ルールは次のようなものです。
- 上昇方向の線（通常は細線）と下降方向の線が交互に描かれる
- 一定の価格幅（転換幅）以上、逆方向に動いたときだけ向きが反転する
- 直近高値・安値を更新するときに「太線」に変化し、トレンドが強いことを示す設定もある
多くのツールでは、直近の高値を更新したときに上昇の線が太くなり、直近安値を更新したときに下降の線が太くなる仕様が採用されています。太線は「ブレイクアウトし、トレンドが加速している局面」であることを示唆します。
設定の考え方：株とFXでどう変えるか
カギ足の肝は、なんと言っても転換幅の設定です。転換幅が狭すぎると、頻繁に反転してしまい、ノイズが増えます。逆に広すぎると、大きなトレンドしか映らず、エントリーチャンスが極端に減ってしまいます。
一般的な考え方としては、次のような目安が参考になります。
- 値段の絶対値が大きい日本株（1,000円～3,000円台など）：20円～50円程度
- よりボラティリティの高いグロース株：50円～100円程度
- FX（ドル円など）：0.2円～0.5円程度（20～50pips程度）
実際には、銘柄や通貨ペアごとの平均的な日中値幅（ATRなど）を参考にして、ATRの10～20％程度を転換幅に設定するなど、ボラティリティに応じて柔軟に調整するのが現実的です。
カギ足を使ったトレンドフォローの基本戦略
カギ足チャートを使ったトレンドフォロー戦略は、シンプルであるほど機能しやすいです。複雑なオシレーターを組み合わせる前に、まずは「線の向き」と「太線かどうか」という2つの情報だけでルールを組み立ててみるとよいでしょう。
ルール1：太線の方向にだけ仕掛ける
もっとも分かりやすい考え方は、「太線の方向にだけトレードする」ことです。具体的には、
- 上昇太線が出ているとき：買い目線に固定し、押し目を待つ
- 下降太線が出ているとき：売り目線に固定し、戻りを待つ
カギ足は高値・安値の更新を強調してくれるため、太線が連続する局面は「市場参加者の多くが同じ方向を見ている状態」と解釈できます。このとき逆張りをするよりも、素直にトレンドに乗る方が、初心者にとってはリスクを抑えやすいです。
ルール2：押し目・戻りをカギ足で「待つ」
トレンドフォローで難しいのは、「どこで乗るか」です。カギ足は、細かな押し目・戻りを時間の流れに左右されず捉えられるため、次のようなルールが有効です。
- 上昇太線が続いた後、細線で一度下降方向へ反転する（押し目）
- その後、再び上昇方向にカギ足が反転し、直近高値を更新して太線に戻ったところをエントリー
このようなパターンは、「一度利食いが出た後に、再び買い勢力が勝って高値更新した局面」と考えられます。ローソク足で見ると、押し目買いの典型的な形になっていることが多く、トレンドフォロー戦略の王道パターンです。
具体的な売買シナリオ（日本株の例）
ここでは、株価2,000円前後で推移している日本株を想定し、転換幅50円のカギ足チャートを使ったシナリオをイメージしてみます。
たとえば、カギ足が1,800円付近から上昇を開始し、1,950円、2,000円と高値を切り上げながら太線を描いていたとします。2,050円で一度高値を付けた後、1,950円まで下げてカギ足が下降方向に転換しました。この局面は、トレンドの中での押し目の可能性があります。
その後、再び2,000円を上抜け、2,050円を越えて2,100円まで上昇し、カギ足が再び上昇太線に転換したとしましょう。このとき、
- エントリー：2,050円の高値更新を確認してから、2,060円～2,080円付近で買いエントリーを検討
- 損切り：直近押し安値付近の1,950円をやや下回る水準（1,930円～1,940円）に逆指値を置く
- 利確目安：転換幅50円の3～4倍（150円～200円）を目安に、2,200円～2,250円付近で分割利確
このように、カギ足は高値・安値の更新ポイントを視覚的に捉えやすいため、「どこを損切りラインにするか」「どこまで利益を伸ばすか」の判断がシンプルになります。
具体的な売買シナリオ（FX・ドル円の例）
次に、ドル円を想定したシナリオです。たとえば、転換幅0.25円（25pips）のカギ足チャートを使うとします。ドル円が148.00円付近から上昇を始め、148.50円、149.00円と高値を更新しながら上昇太線が続いている局面をイメージしてください。
149.25円で一度天井を付けたあと、148.75円まで下落してカギ足が下降方向に転換しました。この下落がさらに148.50円を割り込まずに再び149.00円方向へ向かい、149.25円を上抜けて149.50円まで上昇した場合、上昇太線への再転換が起こります。
このケースでは、
- エントリー：149.25円の高値更新を確認してから149.30～149.40円付近で買いを検討
- 損切り：直近押し安値付近の148.75円をやや下回る148.60円～148.65円に設定
- 利確目安：転換幅0.25円の3倍～4倍（0.75～1.0円）で、150.00～150.50円付近を目標に段階的に利食い
このように、ドル円のようなトレンドが出やすい通貨ペアでは、カギ足を使うことで「トレンドが続いているかどうか」を判断しやすくなり、流れに逆らうエントリーを減らす助けになります。
カギ足と他インジケーターの組み合わせ方
カギ足単体でもトレンドフォローは可能ですが、次のようなインジケーターと組み合わせることで、ダマシをさらに減らすことができます。
- 移動平均線（MA）：カギ足の太線の方向と、25日や50日の移動平均線の傾きが同じ方向なら、トレンドの信頼度が高いと判断
- ATR：転換幅を決める際の基準として利用し、ボラティリティの変化に応じて転換幅を調整
- 出来高・OBV：カギ足が太線に変わる局面で出来高が増加していれば、ブレイクアウトの信頼度が高まりやすい
具体的には、「25日移動平均線が右肩上がり & カギ足が上昇太線」の組み合わせがそろったときだけ買いエントリーを検討するといったフィルタリングが有効です。条件を絞ることで、取引回数は減りますが、質の高いトレードに集中しやすくなります。
カギ足が苦手な局面と注意点
どんなチャートでも万能ではありません。カギ足が特に苦手とするのは、「明確なトレンドが出ていないレンジ相場」です。一定幅の中で往復を繰り返す相場では、カギ足が何度も反転し、小さな損切りが連続しやすくなります。
このような局面では、次のような対策が考えられます。
- ボリンジャーバンドなどでスクイーズ（ボラティリティ縮小）を確認し、その間はカギ足でのトレンドフォローを控える
- 移動平均線が横ばいのときは、新規エントリーを見送る
- 日足レベルで明確な高値・安値ブレイクが起きるまでは、ポジションサイズを小さく保つ
カギ足はトレンド相場では威力を発揮しますが、レンジ相場では「お休みする」という発想も重要です。
カギ足の検証と練習のステップ
実際に資金を投入する前に、過去チャートでカギ足を検証し、自分なりの感覚をつかんでおくことが大切です。具体的には、次のステップで練習してみてください。
- 1. 好きな銘柄（または通貨ペア）を1つ選び、過去1～2年分のチャートを表示する
- 2. 転換幅を複数パターン（例：株なら20円・50円・100円）試し、トレンドの見え方がどう変わるか確認する
- 3. 「太線が連続している上昇局面」で、押し目後の再転換ポイントを手書きでプロットし、どのくらいの値幅が取れていたかをざっくり測る
- 4. うまくいかなかったパターン（レンジ相場でのダマシ）も記録し、共通点を探す
このプロセスを通じて、「どの銘柄にはどの転換幅が合うのか」「自分がどれくらいの含み損を許容できるのか」といった感覚が徐々に具体化していきます。感覚が掴めてくると、カギ足チャートは単なる線の集まりではなく、「トレンドのストーリー」を語ってくれるツールに変わっていきます。
まとめ：カギ足は「ノイズを抜いたトレンドの骨格」
カギ足チャートは、時間ではなく価格変動に着目することで、トレンドの骨格を浮かび上がらせるユニークなチャートです。転換幅をうまく設定し、太線の方向に素直についていくというシンプルな発想を持てば、ローソク足だけを見ていたときには見えなかったトレンドがはっきり見えてくることがあります。
特に、トレンドフォローを志向する株・FX・暗号資産の個人投資家にとって、カギ足は「相場の流れに逆らわないための補助線」として有効に機能し得ます。まずは小さなロットやデモ環境で、この記事で紹介したような押し目・戻り局面でのエントリーシナリオをいくつか検証し、自分のスタイルに合った使い方を探ってみてください。
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