鯨幕(くじまく)は、日本の酒場の暖簾(のれん)に由来すると言われるローソク足パターンで、
白と黒のローソク足が交互に並び、相場の「行き過ぎ」と「反転の可能性」を示唆するとされる形です。
海外の教科書にはほとんど出てこないため、日本の個人投資家ならではの「ニッチな武器」として使える可能性があります。
本記事では、株、FX、暗号資産など、あらゆる相場で応用できるように、鯨幕パターンの定義から、
実際のエントリー・利確・損切りルールの作り方、ダマシの回避方法、バックテストの考え方まで、
初歩的な内容から丁寧に解説していきます。
1. 鯨幕パターンとは何か
1-1. 鯨幕の基本的なイメージ
鯨幕とは、白(陽線)と黒(陰線)の太い縦縞が交互に並ぶ様子を指します。
ローソク足チャート上でも、陽線と陰線が交互に現れ、なおかつ値幅が比較的大きく、
上下に振り回されているような状態が「鯨幕」と呼ばれます。
典型的には、以下のような特徴を持ちます。
- 陽線・陰線が交互に出現している(例:陽→陰→陽→陰)
- 各足の実体が比較的大きく、ボラティリティが高い
- 全体として価格が横ばい〜ややトレンド方向に進んでいる
- トレンドの最終局面や、重要な抵抗帯・支持帯付近で出やすい
イメージとしては、「買い方と売り方が本気で殴り合っている状態」です。
どちらも強く注文を出しているため、値幅が大きく、しかし決着がつかない。
その結果として、反転や急なトレンド再開の起点になりやすいゾーンになります。
1-2. トレンド中の鯨幕とレンジ中の鯨幕
鯨幕が出る局面によって、意味合いが変わります。
- 上昇トレンド終盤での鯨幕:買い方・売り方が激しくぶつかり、天井圏での攻防を示唆。反転下落のきっかけになりやすい。
- 下降トレンド終盤での鯨幕:売り方優勢だった流れに買い方が本気で殴り込み、底打ち〜反転上昇のきっかけになりやすい。
- レンジ中央付近の鯨幕:単なるノイズであることが多く、トレードの優位性は下がる。
このため、鯨幕をトレードに使う上での最重要ポイントは、
チャートの「どの位置」で出現しているかです。
パターン単体ではなく、トレンドと価格帯の文脈を組み合わせることで、
実用的なシグナルに変わります。
2. 鯨幕を構成するローソク足の条件
2-1. 本数の目安
鯨幕の厳密な定義は教科書ごとに異なりますが、実践的には以下のような条件で十分です。
- 2〜4本以上のローソク足が連続して、陽線・陰線が交互に並んでいる
- 実体の長さが、直前10本の平均実体長の1.2倍以上であるものが多い
例えば、以下のような並びは、実務上「鯨幕」とみなしてよいでしょう。
- 陽線(大陽線) → 陰線(大陰線) → 陽線(大陽線) → 陰線(大陰線)
- 陰線(やや大きめ) → 陽線(大陽線) → 陰線(大陰線)
重要なのは、ローソク足の色だけでなく、値幅の大きさです。
値幅が小さいコマ足が交互に並んでいるだけでは、「静かな綱引き」に過ぎず、
狙う価値のある鯨幕とは言えません。
2-2. ボラティリティ条件の具体例
TradingViewやMT4/MT5などのチャートツールでは、
直近N本のローソク足の平均実体長やATR(Average True Range)を使って、
「大きな値幅」を数値で定義することができます。
例えば、以下のようなロジックです。
- 直近10本のローソク足の平均実体長を MA_BODY とする
- 現在のローソク足の実体長が、MA_BODY × 1.2 以上なら「大きい」と判定
この条件を満たす大きな陽線と陰線が交互に出ているゾーンを「鯨幕ゾーン」としてマーキングし、
そのゾーンの後に反転や加速が起きるかを観察していきます。
3. 鯨幕ゾーンが示唆する相場心理
3-1. 買い方と売り方の全力勝負
鯨幕ゾーンは、「どちらかが完全に勝つ前の、最後の殴り合い」です。
上昇トレンド終盤であれば、以下のような構図が想像できます。
- 上昇トレンドで利益を出してきた買い方が、利確売りを出し始める
- 新規の買い勢力が「まだ上がる」と考えて、大きな成行買いを入れる
- 売り方も「さすがに天井だろう」と考え、空売りを膨らませる
その結果、陽線・陰線が交互に出現し、値幅も大きくなります。
しかし、どちらかが必ず「体力切れ」になります。
そのタイミングで、価格が一方向に大きく抜けるのが、鯨幕ゾーン後の値動きです。
3-2. 個人投資家が巻き込まれやすいポイント
鯨幕ゾーンは、一見すると「チャンス」に見えるため、
値動きに慣れていない初心者ほど高値掴み・安値投げになりやすいエリアでもあります。
- 上昇トレンド終盤の鯨幕ゾーンで、遅れて飛び乗った買いポジションが天井掴みになる
- 下降トレンド終盤の鯨幕ゾーンで、恐怖心から投げ売りすると、そこが底になる
逆に言えば、鯨幕ゾーンを冷静に認識できる投資家は、
「他の投資家が感情的になっている場所」を狙えるということです。
これが、鯨幕を研究する大きな意味です。
4. 実践的なトレード戦略:鯨幕を使った逆張りエントリー
4-1. 前提:相場環境のフィルタリング
まず、鯨幕を使う前提条件として、以下のフィルタを設定します。
- 日足または4時間足など、ある程度長めの時間足で主要トレンドを確認する
- 移動平均線(例:20SMA、50SMA)で上昇トレンド・下降トレンドを判断する
- 水平ライン(過去の高値・安値)や、フィボナッチリトレースメントなどで重要な価格帯を把握する
その上で、重要な価格帯付近で鯨幕ゾーンが出現したときだけを狙います。
レンジ中央や重要でない価格帯での鯨幕は、ノイズとして無視する方が無難です。
4-2. 上昇トレンド終盤での売り戦略(株・FX・暗号資産共通)
上昇トレンドの高値圏で鯨幕が出現した場合の、逆張り売り戦略の例です。
- 日足または4時間足で、価格が明確な上昇トレンドにあることを確認する。
- 過去の高値ゾーン、フィボナッチ拡張、ラウンドナンバー(キリ番)など、意識されやすい価格帯に到達していることを確認する。
- その高値ゾーン付近で、大きな実体の陽線と陰線が交互に2〜4本以上出現していれば、「鯨幕ゾーン」と認識する。
- 鯨幕ゾーンの最後の陰線が確定したタイミングで、短期のサポートラインを下抜けたらショートエントリーを検討する。
- 損切りは、「鯨幕ゾーンの最も高い高値」の少し上に置く。
- 利確は、直近の押し安値付近や、移動平均線(20SMA・50SMA)までの戻りを一つの目安とする。
この戦略は、トレンドの最終局面で「買い方が疲れ始めている」ところを狙う発想です。
連続した大きな値幅の中で、陰線優位に傾き始めたタイミングを捕まえます。
4-3. 下降トレンド終盤での買い戦略
下降トレンドの底値圏では、上記の逆パターンを狙います。
- 日足または4時間足で、価格が明確な下降トレンドにあることを確認する。
- 過去の安値ゾーン、フィボナッチ拡張、ラウンドナンバーなど、意識されやすい価格帯に到達していることを確認する。
- その安値ゾーン付近で、大きな実体の陰線と陽線が交互に2〜4本以上出現していれば、「鯨幕ゾーン」と認識する。
- 鯨幕ゾーンの最後の陽線が確定したタイミングで、短期のレジスタンスラインを上抜けたらロングエントリーを検討する。
- 損切りは、「鯨幕ゾーンの最も低い安値」の少し下に置く。
- 利確は、直近の戻り高値付近や、移動平均線までの戻りを一つの目安とする。
この戦略は、「売り疲れ」と「買い方の本格参戦」を捉えることを狙ったものです。
とくに暗号資産やFXのように、オーバーシュートが起こりやすい市場では、
鯨幕ゾーン後の急反発が発生しやすく、短期トレードのチャンスになり得ます。
5. 具体的なシナリオ例
5-1. 日本株の上昇トレンド終盤での鯨幕
仮想例として、ある日本株が2,000円から3,000円まで強い上昇トレンドを描き、
3,000円付近で以下のようなローソク足が出現したとします。
- 1日目:長い大陽線で、2,900円 → 3,050円まで一気に上昇
- 2日目:大陰線で、3,050円 → 2,950円まで急反落
- 3日目:再び大陽線で、2,950円 → 3,020円まで反発
- 4日目:大陰線で、3,020円 → 2,940円まで下落
この4本の足は、まさに教科書的な「鯨幕ゾーン」です。
買い方も売り方も全力で注文を出しており、
しかし3,050円を明確に抜けることができていません。
この場合、トレーダーは次のような戦略を検討できます。
- 2,940円のサポートラインを終値で割り込んだら、短期の売りポジションを構築
- 損切りは3,050円の少し上(例:3,080円)
- 利確は、2,800円や2,750円など、過去の抵抗帯がサポートに変わりそうなポイント
もちろん、この通りに動く保証はありませんが、
「どこで売りを狙うか」「どこに損切りを置くか」を、
鯨幕パターンに基づいて論理的に設計することができます。
5-2. BTC/USDT 4時間足での鯨幕と反転上昇
暗号資産市場でも、鯨幕は頻出します。
特にビットコインの4時間足や1時間足では、大口投資家の売買が反映されやすく、
激しい往来相場の後に大きな反転が起こるケースが見られます。
仮に、BTC/USDTが25,000ドルから急落し、22,000ドル付近で以下のような値動きをしたとします。
- 1本目(4時間足):大陰線で23,000 → 22,000ドル
- 2本目:大陽線で22,000 → 22,800ドル
- 3本目:大陰線で22,800 → 22,100ドル
- 4本目:大陽線で22,100 → 22,900ドル
22,000〜23,000ドル帯で、買い方と売り方が激しく殴り合っています。
ここで、22,900ドルのレジスタンスを明確に上抜け、
出来高も伴っているようであれば、
「鯨幕ゾーンを上抜けた後の反転上昇」として、
短期ロングのシナリオを組み立てることが可能です。
6. ダマシを減らすためのフィルタ
6-1. 出来高を必ずチェックする
鯨幕ゾーンを使う上で、出来高は非常に重要なフィルタです。
- 鯨幕ゾーン全体で、出来高が平常時より増加しているか
- ゾーンを抜ける「ブレイク足」で、さらに出来高が増えているか
出来高が伴わない鯨幕は、単なるアルゴリズムトレードのノイズであることも多く、
優位性は下がります。特に株式市場では、
出来高の増加を確認してからエントリーする方が安全度は高まります。
6-2. 上位時間足のトレンド方向と合わせる
鯨幕を逆張りだけでなく、トレンド方向への加速シグナルとして使うこともできますが、
どちらにせよ、上位時間足(例:日足)のトレンドと逆向きのポジションはリスクが高まります。
基本方針として、以下のようなルールを設定するのも一案です。
- 日足が上昇トレンドのとき:下降トレンド終盤の鯨幕からの「押し目買い」を優先
- 日足が下降トレンドのとき:上昇トレンド終盤の鯨幕からの「戻り売り」を優先
これにより、鯨幕単体のシグナルに依存せず、
相場全体の流れと整合的なトレードがしやすくなります。
7. 鯨幕パターンを検証する方法
7-1. 目視検証から始める
まずは、TradingViewなどのチャートで、
過去の相場における鯨幕ゾーンを「自分の目で」探してみることをおすすめします。
- 自分なりの条件で「鯨幕っぽいゾーン」をスクリーンショットして保存する
- その後の値動き(反転したか、ダマシに終わったか)をメモする
- どの時間軸(5分足/1時間足/日足など)で機能しやすいかを観察する
この作業だけでも、
「鯨幕が出たからといって必ず反転するわけではない」
「トレンド終盤の鯨幕は、たしかに重要な転換点になりやすい」
といった感覚を掴むことができるはずです。
7-2. ルール化して簡易バックテスト
次に、条件を数値化して簡易バックテストを行うと、
感覚だけに頼らない判断ができるようになります。
例として、以下のようなルールを考えてみましょう。
- 対象:日経225先物 日足
- 鯨幕ゾーン条件:直近4本のローソク足が、陽・陰・陽・陰または陰・陽・陰・陽で交互、かつ実体長が10本平均の1.2倍以上
- エントリー:鯨幕ゾーン終わりの足の高値/安値をブレイクした方向にエントリー
- 損切り:鯨幕ゾーン全体の高値/安値の外側に固定pips
- 利確:リスクリワード比 1:1.5 または 2:1 など固定
これを手動でチャート上に当てはめ、
「過去○年で何回発生し、勝率はどの程度か」
をざっくり集計するだけでも、戦略の方向性が見えてきます。
8. 鯨幕を他のパターンと組み合わせる
8-1. ピンバーや包み足とのコンビネーション
鯨幕ゾーンの中や直後に、
ピンバー(ハンマー、シューティングスター)や包み足(エンゴルフィング)が出現すると、
反転の根拠がさらに強まります。
- 鯨幕ゾーンの最終局面で、上髭の長いシューティングスターが出現 → 天井圏からの売りシナリオ
- 鯨幕ゾーンの終盤で、強い陽線の包み足(包み陽線)が出現 → 底値圏からの買いシナリオ
複数のパターンが重なるほど、「他のトレーダーも意識しやすいチャート」になります。
結果として、反転や加速が起こりやすくなり、トレードの優位性が高まる可能性があります。
8-2. オシレーターとの組み合わせ(RSI・ストキャスティクスなど)
鯨幕ゾーンは、しばしばオシレーターの「行き過ぎ」とも重なります。
- 上昇トレンド終盤の鯨幕ゾーンで、RSIが70〜80以上に張り付いている
- 下降トレンド終盤の鯨幕ゾーンで、RSIが20〜30以下に張り付いている
このようなケースでは、
「価格もオシレーターも行き過ぎている」状態と判断できるため、
反転を狙う逆張りシナリオの根拠が強まります。
9. リスク管理とポジションサイズ
9-1. 鯨幕ゾーンはボラティリティが高い=ロットを落とす
鯨幕が出ている局面は、それ自体が高ボラティリティ状態です。
利幅が大きく狙える一方で、逆行したときの損失も大きくなりやすいのが特徴です。
そのため、普段と同じロットサイズでエントリーするのではなく、
1トレードあたりの許容損失額から逆算してロットを小さめに設定することが重要です。
例えば、口座資金100万円、1トレードあたりの許容損失1%(1万円)とした場合、
損切り幅が200円なら建玉は50株まで、といった具合に、
リスクから逆算してポジションサイズを決めます。
9-2. 連敗を前提にしたメンタル設計
どれだけ精緻にルールを作っても、
鯨幕パターンだけで高勝率を維持することは現実的ではありません。
連敗は普通に起こります。
そのため、
- 「10回トレードしたら3〜6回負けることもある」という前提で戦略を組む
- 1回の損失が口座全体に与える影響を「許容範囲」に収める
といったメンタル面の設計が不可欠です。
戦略の優位性は、単発の勝ち負けではなく、
十分な試行回数を重ねた結果としてのみ見えてきます。
10. まとめ:鯨幕を「行き過ぎのサイン」として静かに利用する
本記事では、鯨幕パターンについて、定義・相場心理・具体的な売買戦略・
ダマシ回避・検証方法まで体系的に整理しました。
- 鯨幕は、陽線と陰線が大きな値幅で交互に出現するゾーンであり、
買い方と売り方の全力勝負が行われている状態を示す。 - トレンドの終盤や重要価格帯で出現した鯨幕は、
反転や急なトレンド再開の起点になりやすい。 - 実践では、出来高・上位時間足のトレンド・オシレーターなどと組み合わせて、
鯨幕単体に依存しないシグナル設計を行うことが重要。 - 高ボラティリティ局面であるため、ポジションサイズを抑え、
リスク管理とメンタル設計を徹底することが欠かせない。
鯨幕は、一般的な教科書ではほとんど紹介されないニッチなパターンですが、
だからこそ、丁寧に観察し、自分なりのルールとして落とし込めば、
他のトレーダーと差別化できる可能性があります。
まずは、過去チャートで鯨幕ゾーンを探し、
「どんな文脈で出た鯨幕が、どのような結果につながったか」を記録してみてください。
この積み重ねが、鯨幕を「単なる面白いパターン」から、
あなた独自の武器へと昇華させる第一歩になります。


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