- はじめに:なぜ「出来高の流れ」を見る必要があるのか
- OBV(オンバランスボリューム)とは何か
- OBVの計算方法と基本ロジック
- OBVでわかること:3つの着眼点
- 具体例①:株式チャートでのOBV活用イメージ
- 具体例②:FX(為替)チャートでのOBV活用イメージ
- 具体例③:暗号資産(仮想通貨)でのOBV活用イメージ
- OBVの典型的なシグナル1:価格とのダイバージェンス
- OBVの典型的なシグナル2:トレンドライン・ブレイク
- OBVと他の指標を組み合わせる考え方
- シンプルな売買ルール例(イメージ)
- 時間軸ごとの使い分け:デイトレ・スイング・中長期
- OBVの弱点・注意点
- OBVをチャートに表示する実務的なポイント
- まとめ:価格の裏側にある「資金の流れ」を読む
はじめに:なぜ「出来高の流れ」を見る必要があるのか
多くの個人投資家は、チャートを見るときに「価格の動き」ばかりに目が行きがちです。
ローソク足、移動平均線、ボリンジャーバンドなど、価格ベースの指標は確かに重要ですが、価格だけを追いかけていると
「なぜその動きが起きているのか」という背景を見落としがちです。
そこで、プロや大口投資家が重視するのが出来高(ボリューム)です。
出来高は「どれだけのお金がその価格帯に流れ込んでいるのか」を示す情報であり、
トレンドの強さや継続性を測るうえで欠かせません。
本記事で解説するOBV(On Balance Volume / オンバランスボリューム)は、
出来高の流れをシンプルな形で可視化するテクニカル指標です。
価格と出来高の関係を見ることで、トレンドの本音や転換の予兆を読み取ることを目指します。
株、FX、暗号資産のいずれでも応用しやすい指標なので、最初の「出来高系インジケーター」として非常に扱いやすいと言えます。
OBV(オンバランスボリューム)とは何か
OBVは、価格が上昇した日は出来高を加算し、価格が下落した日は出来高を減算するという
単純なルールで累積していく指標です。横ばいの日は出来高を加算も減算もしません。
直感的には、「上昇日にどれだけ出来高が乗っているか」「下落日にどれだけ出来高が乗っているか」を
一つのラインに集約しているイメージです。これにより、
- 価格があまり動いていないように見えても、裏で出来高が偏っているかどうか
- 価格と出来高の動きにズレ(ダイバージェンス)が出ていないか
を比較的簡単に確認できます。
OBVの計算方法と基本ロジック
計算ルール
OBVの計算ルールは非常にシンプルです。前日の終値と当日の終値を比較し、
- 終値が前日より上昇した場合:
OBV今日 = OBV昨日 + 出来高今日 - 終値が前日より下落した場合:
OBV今日 = OBV昨日 − 出来高今日 - 終値が前日と同じ場合:
OBV今日 = OBV昨日
初日のOBVは0からスタートさせることが多く、そこから日々の出来高を加算・減算していきます。
こうしてできた折れ線グラフがOBVラインです。
数値の絶対値には意味がない
OBVの特徴として、数値の絶対値そのものには意味がなく、「形」と「傾き」が重要という点があります。
銘柄や銘柄の歴史によって、出来高の水準がまったく異なるため、OBVの値そのものを
他銘柄や他市場と比較しても意味がありません。
代わりに、OBVが上向きか下向きか、価格と同じ方向に動いているかどうかを見るのが基本です。
OBVでわかること:3つの着眼点
OBVから読み取りたいポイントは、シンプルにまとめると次の3つです。
- トレンドの「中身」が伴っているか(出来高がちゃんとついてきているか)
- 価格とOBVにズレ(ダイバージェンス)が出ていないか
- ブレイクアウトやトレンド転換の信頼度を補強できるか
これらを順番に見ていくことで、「価格だけだと判断に迷う場面」での意思決定をサポートできます。
具体例①:株式チャートでのOBV活用イメージ
まずは株式(日足チャート)でのイメージから説明します。
ある銘柄が、しばらく横ばいから少しずつ上昇し始めたとします。価格チャートだけを見ると
「なんとなく上向きだけれど、出来高はあまり増えていないように見えるし、本当に強いトレンドになるのか判断しづらい」
という場面がよくあります。
ここでOBVを見ると、価格の上昇と同時にOBVが滑らかに右肩上がりになっていると、
「上昇日にしっかり出来高が乗っている=買いが本物っぽい」
という判断がしやすくなります。
逆に、価格がなんとか高値更新をしていても、OBVが横ばい〜下向きになっているなら、
「価格だけが無理に上げられていて、出来高はあまりついてきていない」と解釈できます。
この場合、上値追いをするよりも、むしろ押し目や反落に警戒するべき局面かもしれません。
具体例②:FX(為替)チャートでのOBV活用イメージ
FXでは、出来高の定義が株式と異なり、多くのチャートプラットフォームでは「ティック出来高」が使われます。
これは「何回値が更新されたか」という回数ベースの出来高ですが、相対的な売買の活発さを見るには有用です。
たとえば、レンジ相場を抜けて上方向にブレイクしたように見える場面で、
OBVが一気に急伸しているなら、「ブレイク方向に実需・投機マネーが入りやすい環境」と判断しやすくなります。
一方で、価格がブレイクしたように見えてもOBVがあまり反応していない場合は、
「だましブレイク」の可能性を疑う材料になります。
このように、OBVをブレイクアウトのフィルターとして使うのは、FXでも有効な発想です。
具体例③:暗号資産(仮想通貨)でのOBV活用イメージ
暗号資産市場では、ニュースやSNSの話題性により、短期間で大きな値動きが起きることがよくあります。
こうしたボラティリティの高い市場ほど、出来高の情報は重要です。
たとえば、ビットコインが長い期間レンジで推移した後、徐々に上方向へ抜けてきた場面を考えます。
価格だけを見ると、「また振り回されるかもしれない」と躊躇してしまいがちですが、
OBVがレンジ期間中から少しずつ右肩上がりになり、その後の上昇でさらに加速しているなら、
「静かにポジションが積み上がっていた可能性が高い」と解釈できます。
逆に、価格が急騰して注目を集めているのに、OBVがそれほど伸びていない場合は、
短期筋のフラッシュ的な買い上げで長くは続きにくい可能性も考えられます。
その場合、追いかけて飛びつくのではなく、様子を見る判断も取りやすくなります。
OBVの典型的なシグナル1:価格とのダイバージェンス
OBVで特に重要なのが、ダイバージェンス(逆行現象)です。
価格とOBVのトレンド方向が食い違っている状態を指します。
弱気(ベア)ダイバージェンス
弱気ダイバージェンスの典型的なパターンは次のとおりです。
- 価格:高値を更新している(高値Aより高値Bの方が上)
- OBV:高値Bが高値Aを更新できず、むしろ切り下がっている
これは、価格は上がっているが、上昇日に乗っている出来高が弱くなっている状態です。
トレンドの勢いが落ちてきており、押し目や反転に備えるべきシグナルの一つとして捉えられます。
強気(ブル)ダイバージェンス
強気ダイバージェンスでは、次のような形になります。
- 価格:安値を更新している(安値Aより安値Bの方が下)
- OBV:安値Bが安値Aを割り込まず、むしろ切り上がっている
価格は弱く見えても、下落日に乗っている出来高が相対的に減ってきている、あるいは上昇日に出来高が集まり始めていると解釈できます。
売り圧力が弱まり、トレンド転換の下地ができつつある可能性があります。
OBVの典型的なシグナル2:トレンドライン・ブレイク
OBVは単独でトレンドライン分析を行うこともできます。
価格チャートと同じように、OBVに対しても
- 上昇トレンドライン
- 下降トレンドライン
を引き、トレンドライン割れやトレンドラインブレイクをチェックします。
たとえば、価格はまだ明確な天井を打っていないのに、OBVの上昇トレンドラインが先に割れてしまった場合、
「出来高の面ではすでにトレンドが弱まりつつある」
という早期シグナルになることがあります。
OBVと他の指標を組み合わせる考え方
OBVは出来高の方向性・勢いに特化した指標なので、
価格ベースのトレンド指標やオシレーターと組み合わせるとバランスが良くなります。
移動平均線との組み合わせ
移動平均線(SMAやEMA)でトレンドの大まかな方向を確認し、OBVでそのトレンドに出来高が伴っているかをチェックする組み合わせは非常にシンプルで実用的です。
- 価格が中長期の移動平均線より上にあり、なおかつOBVも右肩上がり → 上昇トレンドの継続を想定しやすい
- 価格が移動平均線より上だが、OBVが横ばい〜下向き → トレンドの息切れに警戒
RSI・ストキャスティクスとの組み合わせ
RSIやストキャスティクスと組み合わせることで、「買われすぎ・売られすぎ」局面でのダイバージェンスをより精密に見ることができます。
- RSIが高水準で天井をつけ、OBVも同時に頭打ち → 上昇トレンドの一服・反落に警戒
- RSIが低水準で底打ち気配、OBVが切り上がり → 下げ止まりと反発の可能性
価格・オシレーター・OBVの3つの視点を重ねることで、「単一指標に頼るリスク」を減らす狙いがあります。
シンプルな売買ルール例(イメージ)
ここでは、OBVを補助指標として用いるシンプルなルール例を紹介します。
実際の運用では、時間軸や銘柄特性、リスク許容度に応じた調整が必須ですが、イメージを掴む参考としてご覧ください。
例1:トレンドフォロー型
- 価格が中期移動平均線(例:20日線)の上にある
- OBVが直近の高値ラインを上抜け、右肩上がりが継続している
- 直近の押し目でローソク足が移動平均線付近から反発
このような条件が揃った場面では、
「上昇トレンドに出来高がしっかり乗っている押し目」
として、トレンドフォローのエントリーポイント候補として検討できます。
例2:ダイバージェンス活用型
- 価格が高値更新を続けているが、OBVが高値を更新できずに横ばい〜下向き
- RSIやストキャスティクスが高水準で頭打ちになり始めている
このような場面では、強気一辺倒にならないように警戒を強めるという使い方が考えられます。
積極的な逆張りエントリーではなく、ポジションの一部利益確定や新規の上値追いを控えるといった判断材料にするイメージです。
時間軸ごとの使い分け:デイトレ・スイング・中長期
OBVは、時間軸に応じて見え方が変わります。以下のような使い分けが考えられます。
デイトレード(短期)
5分足や15分足などの短期足にOBVを表示すると、
「どの方向へ注文が傾いているか」をリアルタイムに追いやすくなります。
ただし短期足ではノイズも多くなるため、
- 重要なサポート・レジスタンス付近でOBVがどちらに傾いているか
- ブレイク直前〜直後のOBVの変化
など、ポイントを絞って観察するのが現実的です。
スイングトレード(数日〜数週間)
日足チャートでOBVの傾きやダイバージェンスを確認し、
トレンドの勢いが持続しそうかどうかを判断する使い方が主になります。
たとえば、日足の上昇トレンドが続いている間、OBVも右肩上がりであればトレンド継続を前提に押し目を探し、
OBVが横ばい〜下向きに変化してきたら、徐々に慎重な姿勢に切り替えるといった発想です。
中長期投資(数ヶ月〜)
週足や月足レベルでOBVを見ると、大口資金の出入りをイメージしやすくなります。
価格がまだはっきり動いていない段階でOBVだけがじわじわと上向きになっている場合、
中長期で静かに資金が集まりつつある可能性も考えられます。
OBVの弱点・注意点
どんな指標にも弱点があります。OBVの主な注意点は次の通りです。
- ダマシが発生する:ニュースなど一時的なイベントで出来高が急増すると、OBVも一気に大きく動きます。
- ギャップアップ・ギャップダウンの影響:株式市場では寄り付きギャップを伴う値動きが多く、前日終値との比較でOBVが大きく変動することがあります。
- 銘柄ごとの出来高特性に左右される:そもそもの出来高が少ない銘柄では、OBVのラインもギザギザになりやすく、解釈しづらい場合があります。
したがって、OBVを単独で売買判断のトリガーにするのではなく、
価格チャートや他の指標と組み合わせて「どちらの方向に確率が傾いているか」を判断する補助材料
として使うのが現実的です。
OBVをチャートに表示する実務的なポイント
多くのチャートツール(TradingView、MT4/MT5、証券会社のツールなど)には、標準でOBVが搭載されています。
表示の際のポイントを整理します。
- 価格チャートの下段にOBVを表示し、価格と重ねて動きを比較する
- 必要に応じてOBVに移動平均線を重ね、傾きやトレンドをなめらかに見る
- 重要な高値・安値に水平ラインやトレンドラインを引き、ライン割れ/ブレイクを観察する
これらを習慣化することで、チャートを見るときに自然と「出来高の流れ」に目が向くようになり、
一歩踏み込んだ分析がしやすくなります。
まとめ:価格の裏側にある「資金の流れ」を読む
OBV(オンバランスボリューム)は、
- 上昇日に出来高を加算、下落日に出来高を減算して累積する
- 数値の絶対値ではなく、傾きや形、価格との関係を見る
- ダイバージェンスやトレンドラインブレイクでトレンドの変化を意識する
という、シンプルながらも実用性の高い出来高指標です。
株、FX、暗号資産のいずれにおいても、OBVを取り入れることで、
「価格だけを追いかけていたときには見えなかったサイン」に気づける場面が増えていきます。
まずは普段使っているチャートにOBVを追加し、
- 強いトレンドではOBVがどのような形になっているか
- 天井・底打ちの前に、どのようなダイバージェンスが出ていたか
といった点を、過去チャートで確認してみるところから始めてみてください。
経験を重ねるほど、「出来高の本音」が少しずつ読めるようになっていきます。


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