パラボリックSAR(Parabolic Stop and Reverse、以下PSAR)は「点」でトレンド方向と損切り位置の目安を同時に出してくれる、短期売買に相性の良いテクニカル指標です。最大の強みは、反転(点がローソク足の上下を入れ替える)という単純なイベントで「いままでのトレンドが終わった可能性」を機械的に示せる点です。
一方で、PSARは万能ではありません。レンジ相場では反転が頻発し、スプレッドや手数料に負けやすい「往復ビンタ」になりがちです。この記事は、PSAR反転を“合図”として使いながら、勝率を落とす典型的な罠(だまし)を避け、初心者でも再現できるルールに落とし込むことを目的にしています。
- パラボリックSARとは:反転の意味を「損切りの点」として理解する
- PSARの設定:初心者はまず「固定」で検証し、後から最適化する
- PSAR反転が機能しやすい相場・機能しにくい相場
- 初心者が作るべき「PSAR反転の実戦ルール」3層構造
- 具体例1:日本株デイトレでのPSAR反転(5分足)
- 具体例2:FX(ドル円)でのPSAR反転(1分足〜5分足)
- 「だまし」を減らす具体策:初心者が最初に導入すべき5つ
- PSARを「利益を伸ばす道具」として使う:トレーリングの現実的な使い方
- 検証方法:初心者が最短で上達する“記録の取り方”
- よくある失敗パターンと対策
- まとめ:PSAR反転は“合図”であり、“型”があって初めて武器になる
パラボリックSARとは:反転の意味を「損切りの点」として理解する
PSARは、チャート上に点(SAR)が並び、上昇トレンドでは価格の下側に点が、下降トレンドでは価格の上側に点が出ます。そして、価格がその点を突き抜けると、点が反対側に移動します。これが「反転」です。
ここで大事なのは、PSAR反転を「未来の予言」と捉えないことです。PSARの点は本質的にトレーリングストップ(追随型の損切り)の位置を示しています。つまり反転とは、それまでのトレーリングストップに当たった=その方向の優位が崩れたという事実の確認です。確認である以上、反転直後はだましも多い。だからこそ、反転を単体で使わず、条件を足して「トレード可能な反転」だけを抜くのがコツです。
PSARの設定:初心者はまず「固定」で検証し、後から最適化する
PSARには一般的に「ステップ(加速因子)」「最大値」があります。多くのチャートソフトではデフォルトがステップ0.02、最大0.2です。初心者がやりがちな失敗は、勝てないと感じた瞬間に設定をいじり続けて“偶然当たる期間”を探し始めることです。これはカーブフィット(過剰最適化)になりやすく、再現性が落ちます。
おすすめは次の順序です。
① まずデフォルト(0.02 / 0.2)で固定して、同じルールで100回以上のトレードを記録 → ② そのうえで「相場環境別」に設定を変える、という流れです。PSARは値動きが速いほど反転が早くなります。短期足ほどノイズも増えるので、短期で使う場合ほど「フィルター」が必須です。
PSAR反転が機能しやすい相場・機能しにくい相場
機能しやすい:トレンドが出ている、押し戻りが浅い
PSARの点はトレンドに追随します。したがって、ローソク足が一方向に伸びやすい局面(たとえば米国指標後に方向が決まったFX、寄り付き直後の日本株でテーマ資金が一方向に流れた局面)では、PSAR反転が「トレンド終了の合図」として比較的素直に機能します。
機能しにくい:レンジ、ヒゲが多い、重要水準の挟み込み
レンジでは反転が連発しやすいです。特に「上ヒゲ下ヒゲが長い=上下に振られる」局面は、PSARの点が頻繁に上下を入れ替え、損切りの連鎖になります。さらに、前日高値/安値、ラウンドナンバー、日足の移動平均など、重要な価格帯を挟んだ上下動でもだましが増えます。
結論はシンプルで、PSARは“トレンド相場で強い”が“レンジで弱い”。だから、まず相場環境を分けてからPSAR反転を見る必要があります。
初心者が作るべき「PSAR反転の実戦ルール」3層構造
PSAR反転の勝率を上げるには、ルールを3層に分けます。
第1層:トレンド判定(フィルター)
PSAR反転を採用する前に「そもそもトレンド局面か」を判定します。初心者向けに再現性が高いのは次の2つです。
フィルターA:移動平均の傾き
5分足なら20EMA、15分足なら20EMA、日足なら25MAなど、自分の時間軸に合わせた代表線を1本決めます。そして、線が明確に右肩上がり(右肩下がり)であることを条件にします。傾きが水平ならレンジ寄りなので、PSAR反転は見送ります。
フィルターB:直近の高値安値の更新
直近3〜5本で高値更新(安値更新)が続いているならトレンド。更新が止まり、上下に交互に更新されるならレンジ。これはチャートの見た目に依存しにくく、初心者でも判定が安定します。
第2層:反転イベントの質(“トレード可能な反転”だけを抜く)
反転には良い反転と悪い反転があります。次の条件で質を絞ります。
条件①:反転足が実体優位
反転したローソク足が、ヒゲだらけではなく実体がある(例:実体が全体の50%以上)こと。ヒゲ反転はノイズの可能性が高いです。
条件②:反転直前に「減速」がある
たとえば上昇中なら、直前で高値更新の幅が縮む、出来高が落ちる、陽線が小さくなるなど。加速のまま突然反転するケースは“ひと押し”が入るだけで再上昇しやすく、だましになりやすいです。
条件③:重要水準を跨いだ反転は慎重
前日高値/安値、ラウンドナンバー(例:ドル円150.00)、VWAP、日足MAなどを跨いだ直後の反転は、攻防が激しくノイズが増えます。初心者は「重要水準の直下/直上で反転したら見送る」だけで損切り回数が減ります。
第3層:エントリー・損切り・利確の型(資金管理まで固定)
PSARは損切り位置が出やすい指標です。逆に言うと、損切りを動かしやすいがゆえにルールがブレやすい。ここを固定します。
基本型(短期デイトレ向け)
・エントリー:PSARが反転して点が足の反対側に移ったのを確認し、次の足で「反転方向へ更新」が入ったら成行または指値(例:下降反転なら安値更新で売り)
・損切り:反転時点のPSAR点、または反転足の高値/安値の外側に固定(どちらか一方に統一)
・利確:R倍(リスクリワード)で管理。初心者はまず1.2R〜1.5Rを目標にし、勝率と合うか検証する
「なんとなく伸びたら利確」「怖くなったら利確」をやると、統計が崩れて上達が遅れます。最初は機械的にR倍で切り、勝てる型が見えた後に裁量を足します。
具体例1:日本株デイトレでのPSAR反転(5分足)
例として、寄り付き後に強く上げた銘柄が、10:00前後に反転しやすい局面を想定します(あくまで典型例で、銘柄名は出しません)。
状況
・9:00〜9:30に急騰して上昇トレンド(5分足20EMAが上向き)
・9:35〜9:55で高値更新の幅が縮み、陽線が小さくなる(減速)
・10:00の足で陰線が出て、終値がPSAR点を下抜け、PSARが上側に移動(反転)
エントリー手順
1) 反転足がヒゲだらけでないか確認(実体がある陰線なら合格)
2) 次の5分足で安値更新が入った瞬間に売り(もしくは反転足の安値少し下に逆指値売り)
損切り
・反転時のPSAR点、または反転足の高値+少し(手数料・スプレッド分)に固定。初心者は「反転足高値」を基準にするとチャート上で見失いません。
利確
・損切り幅が20円なら、利確は24〜30円(1.2R〜1.5R)。
・さらに伸びる場合だけ、PSARの点を使ってトレーリングに切り替える(最初から欲張らない)。
この例のポイントは、PSAR反転の前に「減速」があり、EMAの傾きが明確で、重要水準(前日高値など)を挟んでいないことです。こうした条件が揃うと、PSAR反転は“短期の潮目”として機能しやすくなります。
具体例2:FX(ドル円)でのPSAR反転(1分足〜5分足)
FXの1分足はノイズが多く、PSAR反転だけで入ると往復ビンタになりやすいです。そこで、時間軸を2つ使います。
手順(上位足で方向、下位足で反転)
・上位足:5分足で20EMAの向きと位置関係を見る(価格がEMAの上でEMA上向きなら買い目線)
・下位足:1分足のPSAR反転でタイミングを取る
典型例
・5分足は上昇基調、押し目で一時的に下落
・1分足では下降トレンドが続き、PSARは上側に点が並ぶ
・押し目が止まり、1分足でPSARが下側に反転(買い方向の反転)
エントリー
・1分足の反転を見てすぐ飛びつかず、直近の戻り高値(1分足の小さな高値)を上抜けたら買いにします。これだけで“反転したけどもう一段下げる”パターンを減らせます。
損切り
・1分足の反転足の安値割れ、または反転時PSAR点。どちらかに統一。
・スプレッドが広がる時間帯(指標直後など)では、損切り幅を普段より広げるか、取引自体を避けます。
利確
・最初は1.2Rで固定。慣れてきたら、5分足のPSARが反転するまで一部を伸ばす(分割利確)にすると、伸び相場の取りこぼしを減らせます。
「だまし」を減らす具体策:初心者が最初に導入すべき5つ
PSAR反転で負ける原因の多くは、だましではなく「だましに飛び込むルール」になっていることです。次の5つは効果が大きい順におすすめです。
1) レンジフィルター:EMAが水平なら取引しない
これが最強です。PSARはレンジで弱いので、レンジを避けるだけで損切り回数が大きく減ります。EMAが水平、もしくは価格がEMAを上下に行ったり来たりしているなら、PSAR反転を見ても“やらない”を選びます。
2) 反転後すぐ入らず「更新」を待つ
反転=即エントリーだと、ヒゲ反転に狩られます。反転方向に高値/安値更新が入るまで待つだけで、エントリー回数は減りますが、勝率が上がりやすいです。初心者はまず勝率を優先した方が継続しやすいです。
3) 重要水準フィルター:前日高値/安値、キリ番、VWAP付近は見送る
重要水準は参加者が増えてアルゴの駆け引きも増えます。初心者が安定させるなら、そこは「見物」に回した方が良いです。勝てるようになってから、重要水準の攻略を別テーマとして学べば十分です。
4) 連敗防止:同一レンジで2回損切りしたら、その日は同銘柄/同通貨ペアをやめる
レンジでPSAR反転を追うと連敗しやすいです。連敗時にロットを上げたり回数を増やすのは破綻の近道です。初心者は「逃げるルール」を最初から組み込みます。
5) ボラが低すぎる時間帯は避ける(特にFX)
東京時間の真ん中など、ボラが極端に落ちると、PSAR反転の値幅が小さくなり、スプレッド負けしやすいです。PSARの良さは“値幅を取りながらトレーリングできる”点なので、値幅が出ない時間帯では期待値が下がります。
PSARを「利益を伸ばす道具」として使う:トレーリングの現実的な使い方
PSARは本来トレーリングストップの指標です。ところが初心者は「反転シグナル」に目が行き、利確は感情でやりがちです。ここを改善すると収益が安定します。
おすすめの運用
・最初の利確目標(例:1.2R)で半分を利確して、残り半分だけPSARでトレーリングする。
こうすると、だましで逆行しても最低限の利益(または損失軽減)を確保しつつ、伸びる相場だけを拾えます。
重要なのは「最初から全部を伸ばそう」としないことです。伸びる相場は全体の一部です。残りは小さな利益で十分。統計的に勝ちやすい構造にするのが短期売買の基本です。
検証方法:初心者が最短で上達する“記録の取り方”
PSARの勝ち方は、読み物よりも検証で固まります。とはいえ難しい検証は不要です。次の5項目だけ記録してください。
1) 時間軸(1分/5分/15分など)
2) 相場環境(トレンド/レンジの自己判定:EMAの傾きでOK)
3) 反転足の形(実体優位か、ヒゲ優位か)
4) エントリー根拠(反転直後か、更新待ちか)
5) 結果(Rで記録:+1.2R、-1Rなど)
これを30回だけでも集めると、「レンジで負けている」「ヒゲ反転で負けている」「更新待ちにすると勝率が上がる」など、改善点が自分のデータとして見えます。ここが上達の分岐点です。
よくある失敗パターンと対策
失敗1:反転した瞬間に飛びつき、ヒゲに狩られる
対策:反転後は「更新待ち」を固定する。もしくは反転足が実体優位でない限り見送る。
失敗2:損切りをPSAR点に置いたのに、途中で広げる
対策:損切りは「反転足高値/安値」など目視で明確な基準にする。PSAR点は動くので、初心者は迷いやすい。
失敗3:レンジでも毎回仕掛け、手数料負けする
対策:EMAが水平なら取引禁止。これを“絶対ルール”にする。
失敗4:勝てないと設定を変え続ける
対策:設定固定で100回の記録。相場環境別の成績が見えてから、設定変更は「仮説→検証」で行う。
失敗5:利益が伸びる局面で早利確し、負けは1回で大きい
対策:R倍で利確を固定し、半分だけPSARでトレーリング。勝ちの上限を上げ、負けは一定にする。
まとめ:PSAR反転は“合図”であり、“型”があって初めて武器になる
PSAR反転はわかりやすい反面、単体で使うとレンジで負けやすい指標です。初心者が勝率と再現性を上げるには、トレンド判定(フィルター)→反転の質の選別→資金管理まで含めた型の順に組み立てることが重要です。
最初はデフォルト設定で固定し、更新待ち・EMAフィルター・重要水準回避の3点セットを入れてください。そこからトレードを30回、できれば100回記録すると、PSAR反転が「たまたま当たるサイン」ではなく「自分が運用できるルール」になります。短期売買は、派手な一撃よりも、同じ品質の反転だけを淡々と繰り返す方が結果が安定します。


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