チャートの底付近で突然現れる長い陰線と、それに食い込むような長い陽線。この2本で構成されるローソク足パターンが「ピアシングライン」です。単なるリバウンドではなく、「売り一色だった市場が、明らかに買いに傾き始めたサイン」として、多くのトレーダーが意識する重要な反転パターンです。
本記事では、ピアシングラインの厳密な条件から、投資家心理、具体的なエントリー手順、損切り・利確の考え方、ダマシを減らすためのフィルター、シンプルな検証アイデアまで、順を追って詳しく解説します。株、FX、暗号資産のどの市場でも使える汎用的な考え方に落とし込んでいるので、ローソク足の反転パターンを武器にしたい方は一通り読み込んでみてください。
ピアシングラインとは何か
ピアシングライン(Piercing Line)は、主に下落トレンドや調整局面の安値圏で出現する「強気の反転を示唆する」2本組のローソク足パターンです。1本目は長めの陰線、2本目はギャップダウンして始まる陽線で構成され、2本目の終値が1本目の実体の中に深く食い込むことが特徴です。
ざっくり言えば、「1日目:売りが完全勝利 → 2日目:一度さらに売られるが、そこから強烈な買い戻しが入り、前日の陰線の半分以上を陽線で取り返す」という流れをローソク足で表現したものです。この「売りの流れをひっくり返す」動きこそが、底打ちのヒントになります。
ピアシングラインの出現条件(形のルール)
ピアシングラインの教科書的な条件は以下のように整理できます。
基本条件
1. 直前に下落トレンド、もしくは明確な下方向への値動きが続いていること。
2. 1本目は比較的長い陰線であること(ボラティリティに対して十分な実体を持つ)。
3. 2本目の始値が、1本目の「安値よりも下」または「安値近辺」から始まること(ギャップダウン)。
4. 2本目の終値が、1本目の実体の「半分より上」で引けていること。
5. 可能であれば、2本目の出来高が直近数本の平均より多いと信頼度が増す。
より実務的な数値基準の例
実際のトレードでは、曖昧な感覚で判断するとダマシが増えます。そこで、以下のような数値基準を決めておくと、ルール化しやすくなります。
・1本目陰線の実体の長さが、直近10本の平均実体の1.2倍以上。
・2本目の終値が、1本目の始値と終値の中間値より上で引けている。
・2本目の出来高が、直近20本平均の1.2倍以上。
もちろん銘柄や市場によって調整が必要ですが、「どこまで食い込めばピアシングラインとみなすか」を自分なりに定義しておくことで、後から検証や自動売買に落とし込みやすくなります。
ピアシングラインが示す投資家心理
このパターンの本質は、「売りが一気に優勢だった流れを、買いが強引に巻き返した」という力関係の変化です。具体的な心理の流れを分解してみます。
・1本目陰線の日:悪材料、失望売り、損切り連鎖などで、売りがマーケットを支配。安値引けに近い形で終了し、「まだ下がりそう」という空気が市場全体に広がる。
・2本目寄り付き:前日の弱さを受けて、さらにギャップダウンして始まる。ここで投げ売りが加速し、遅れていた売り手が一気に手放す。
・2本目日中:想定以上に価格が下がったことで、「割安感を感じた買い」や「ショートの利益確定」が入り始める。一定の水準を超えると、買い注文が連鎖的に増え、短時間に急速なリバウンドを演出する。
・2本目終値:結果として、前日の陰線の実体の半分以上を陽線で取り返す。これは、「安く売らされていたはずのゾーンを、今度は買い手が支配し始めた」ことを意味する。
つまりピアシングラインは、「売り一辺倒だったマーケットのバランスが、買いに傾き始めた転換点」を視覚化したシグナルと捉えることができます。ただし、この心理変化が一時的なものに終わることもあるため、トレンドや出来高など他の要素と組み合わせることが重要です。
どのような局面で使うべきか
ピアシングラインは、どこに出ても同じ価値があるわけではありません。特に有効なのは、次のような局面です。
1. 中長期のサポートライン付近
週足や日足で何度も意識されているサポートライン付近で、ピアシングラインが出現するケースです。過去にも反発している価格帯で、再び強い買いが入っている可能性が高くなります。
2. 大きな下落の後の「初めての」強い反発
急落相場が続いた後、初めて「明確に売りを打ち消す陽線」が出るタイミングです。このポイントは、短期トレーダーだけでなく、中長期投資家にとっても「そろそろ拾っても良いか」を検討する起点になりやすくなります。
3. オーバーシュート後の過剰反応修正
ニュースやイベントで一時的に売られすぎたあと、「さすがに売られすぎ」と判断した資金が一気に入る局面です。ここでピアシングラインが出れば、短期的なリバウンド狙いとしては有力なシグナルになり得ます。
株・FX・暗号資産での具体的なイメージ
株式(日本株・米国株)の場合
決算発表後の失望売りで大きく下落した翌日、さらに寄り付きで売られた後、日中に買い戻しが入り前日の陰線の半分以上を取り返すパターンは典型的です。特に、出来高が急増していれば、「売りたい人が一巡しつつある兆候」として注目する価値があります。
FXの場合
為替はギャップが少ないイメージですが、4時間足や日足など時間軸を変えると、ピアシングラインに近い形が頻繁に出現します。重要なサポートゾーン(過去の安値、フィボナッチの節目など)で下ヒゲを伴うピアシングラインが出れば、短期的な押し目買いの根拠として利用できます。
暗号資産の場合
ビットコインやアルトコインはボラティリティが高く、過剰に売られたあとのリバウンドも極端になりがちです。その分、ピアシングラインに似たパターンも多く出現しますが、ノイズも多い点には注意が必要です。出来高・サポートライン・オシレーターなどのフィルターを組み合わせて、質の高いシグナルに絞り込むことが重要です。
ピアシングラインを使ったエントリー戦略
ここからは、実際にどのようにエントリーするかを、できるだけ具体的な手順に落とし込みます。
基本戦略:2本目の終値確定後にエントリー
最もシンプルで再現性の高い方法は、「2本目のローソク足が確定した後に成行または指値で買う」戦略です。
1. 下落トレンドまたは調整局面であることを確認する。
2. サポートラインや節目価格に接近していることを確認する(過去の安値、移動平均線、ラウンドナンバーなど)。
3. ピアシングラインの形(終値が前日実体の半分より上)を満たしたことを、ローソク足確定後に確認する。
4. 確定足の高値の少し下〜同値付近でエントリーする。
寄り付き直後の飛びつきはダマシに巻き込まれるリスクが高いため、まずは「確定を待つ」ことを徹底した方が、長期的な安定につながりやすくなります。
積極的戦略:2本目の途中での分割エントリー
慣れてきたら、2本目のローソク足の途中で分割エントリーする戦略も検討できます。
・2本目のローソク足が、前日終値を明確に上抜けたタイミングで1/2ポジション。
・前日実体の半分を超えたあたりで残りの1/2ポジション。
・2本目が確定した段階で、形が崩れていないか最終チェック。
こうすることで、「本当にピアシングラインが完成する前」からある程度ポジションを仕込みつつ、失敗した場合のダメージを限定することができます。
損切り・利確・ポジションサイズの考え方
損切りラインの基本
ピアシングラインの損切りラインは、シンプルに「2本目の安値」または「1本目と2本目の安値のうち、より低い方」が基準になります。理由は明快で、「そこを割り込んだら、買いの巻き返しが否定された」と解釈できるからです。
・安全重視:2本目の安値を終値ベースで明確に割り込んだら損切り。
・タイトな管理:2本目の安値を「実体」で明確に割り込んだら損切り(ヒゲは許容)。
利確ターゲットの設定例
利確については、次のような組み合わせが現実的です。
・第1ターゲット:直近の戻り高値(前回のスイング高値)。
・第2ターゲット:主要な移動平均線(25日線、50日線など)。
・第3ターゲット:レジスタンスライン(週足・日足の高値帯)。
一部を先に利確し、残りをトレーリングストップで伸ばす運用にすることで、「勝ちトレードの平均利益>負けトレードの平均損失」を狙いやすくなります。
ポジションサイズの決め方
ポジションサイズは、「損切り幅」と「口座資金に対して1回のトレードで許容できる損失額」から逆算するのが基本です。
例:
・口座残高:100万円
・1トレードの許容リスク:1%(1万円)
・エントリー価格:1,000円
・損切り価格:950円(損切り幅50円)
→ 許容損失1万円 ÷ 損切り幅50円 = 200株が上限ポジションサイズ
ピアシングラインだけでなく、どのパターンを使うときも、この「リスクから逆算するサイズ決定」を徹底することが、長期的な生き残りには欠かせません。
ダマシを減らすためのフィルター条件
ピアシングラインは単体でも意味を持ちますが、そのまま使うとノイズも多くなります。以下のようなフィルターを組み合わせることで、質の高いシグナルに絞り込むことができます。
1. トレンドフィルター(中期の方向性の確認)
・200日移動平均線より上にある銘柄のみを対象にし、その中で一時的な調整局面に出たピアシングラインを狙う。
・または、週足レベルで上昇トレンドにある銘柄に限定する。
これにより、「長期的には上昇トレンドだが、一時的な調整局面で出た押し目買いサイン」としてピアシングラインを利用できるようになります。
2. 出来高フィルター
・2本目の出来高が直近20本の平均より多い場合のみエントリー。
・特に、1本目陰線の出来高も多く、2本目陽線でさらに増えていれば、「売りのクライマックスからの反転」として期待値が高まりやすくなります。
3. オシレーターとの組み合わせ
・RSIが30以下からの反発局面でピアシングラインが出現。
・ストキャスティクスが売られすぎゾーンからゴールデンクロス。
・MACDヒストグラムの下落幅が縮小してきたタイミング。
こうした条件が重なるほど、「売られすぎからの反転」というシナリオに一貫性が出てきます。
RSI・MACD・モメンタムとの組み合わせアイデア
ピアシングライン単体より、「ダイバージェンス」やトレンド系指標と組み合わせた方が、戦略としての厚みが増します。
RSIダイバージェンス + ピアシングライン
価格が安値更新しているのに、RSIが安値を切り上げている「強気ダイバージェンス」が出ているタイミングで、ピアシングラインが出れば、反転の根拠はかなり強くなります。
・条件例:RSI14が30以下 → 安値更新時にRSIが切り上げ → 直後にピアシングライン出現。
MACDヒストグラム + ピアシングライン
MACDヒストグラムのマイナス幅が縮小している(下落モメンタムが弱まっている)局面で、ピアシングラインが形成されれば、「売りの勢いが落ちたところを買いが取り返した」という流れがより明確になります。
モメンタム指標との組み合わせ
価格の下落速度が鈍化している局面で、ピアシングラインが出るかどうかをチェックするのも有効です。下落の勢いが残っているうちは一度反発しても再度売られやすいため、「モメンタムの鈍化 → ピアシングライン → 押し目買い」という順番を意識すると、無駄なトレードを減らしやすくなります。
シンプルなバックテストアイデア
本気で武器にするなら、感覚ではなく「過去データでどうだったか」を必ずチェックするべきです。ここでは、シンプルな検証アイデアを紹介します。
1. 過去数年分のデイリーデータを取得する(株、FX、暗号資産いずれでも可)。
2. 自分で定義したピアシングライン条件(終値が前日実体の何%まで食い込んだらOKかなど)をコード化する。
3. 条件を満たした翌日の寄りで買い、固定の損切り幅・利確幅、もしくはリスクリワード比(1:2など)で決済する。
4. 勝率、平均損益、最大ドローダウン、連敗数などを集計する。
実際に検証してみると、「トレンドフォローの文脈で押し目として使う方が良い」「レンジ相場ではダマシが多い」など、感覚だけでは見えなかった特徴が見えてきます。これをベースに、時間軸やフィルター条件を調整しながら、自分のスタイルに最適化していくと良いでしょう。
よくある失敗パターンと回避策
サポートがない場所で使ってしまう
単純に「下がったあとにピアシングラインが出たから買う」という発想だけでトレードすると、トレンドのただの戻りに逆らう形になりがちです。
→ 対策:必ず、週足・日足レベルのサポートラインや節目価格とセットで考える。
損切りを曖昧にする
「せっかく良いパターンが出たのだから、もう少し様子を見たい」と損切りを遅らせると、想定以上の損失につながりやすくなります。
→ 対策:エントリー前に、チャート上に損切りラインを描いておき、機械的に執行する。
ポジションサイズを大きくしすぎる
勝ちやすそうに見えるパターンほど、ついロットを増やしたくなりますが、連敗が続いたときに口座を傷める原因になります。
→ 対策:どれだけ自信があっても、1トレードあたりのリスクは資金の1〜2%以内に抑える。
今日から使えるピアシングラインチェックリスト
最後に、実際のトレードでそのまま使えるよう、ピアシングラインのチェック項目をまとめます。
1. 直近の値動きは下落トレンドまたは調整局面か?
2. 重要なサポートラインや節目価格付近か?
3. 1本目は十分な長さの陰線か?
4. 2本目はギャップダウンまたはそれに近い安い水準で始まっているか?
5. 2本目の終値は、1本目実体の半分より上で引けているか?
6. 2本目の出来高は、直近平均より多いか?
7. RSIやMACDなどのオシレーターが売られすぎ圏やダイバージェンスを示しているか?
8. 損切りラインとポジションサイズを、エントリー前に明確に決めているか?
9. 利確ターゲット(戻り高値、移動平均線、レジスタンス)を事前に想定しているか?
このチェックリストを毎回確認するだけでも、「なんとなく良さそうだから買う」という感情的なトレードを減らし、再現性のあるパターン認識に近づくことができます。ピアシングラインは、きちんと条件を定義し、リスク管理と組み合わせて運用すれば、裁量トレードでもシステムトレードでも活用しやすい武器になります。ぜひ、自分のチャートに当てはめて検証し、使いこなせる形に仕上げてみてください。


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