ローソク足チャートに慣れていると、「時間ではなく値幅で区切ったチャート」があると言われても、すぐにはイメージしにくいかもしれません。その代表例がレンジバーです。レンジバーは、一定の値幅(レンジ)だけ価格が動いたときにだけ新しいバーが描画される特殊なチャートで、株、FX、暗号資産などボラティリティの高い銘柄で特に威力を発揮します。
本記事では、レンジバーとは何かという基本から、具体的な設定方法、シンプルな売買ルールの例、検証の進め方までを丁寧に解説します。時間足とはまったく違う「相場の見え方」を手に入れることで、初心者の方でもトレンドの把握やエントリーポイントの絞り込みがしやすくなります。
レンジバーとは何か:時間ではなく値幅で区切るチャート
レンジバーは、時間ではなく「一定の値幅」を基準にして描画されるチャートです。例えば、ドル円のレンジを10pipsに設定した場合、価格が10pips動いたタイミングで初めて1本のバーが確定します。価格があまり動かなければ、1時間経っても1本もバーが増えないこともありますし、急激に動けば、数分で何本もバーが現れることもあります。
通常の1分足や5分足では、「時間が経てば必ず足が1本増える」というルールでチャートが進みます。それに対してレンジバーでは、「一定の値幅を動かなければ足が増えない」というルールになっているため、値動きが乏しい時間帯のノイズを自然と圧縮し、よく動く時間帯だけバーが密集して表示されます。
この仕組みにより、レンジバーには次のような特徴があります。
- ボラティリティが高い局面ほどバーが多く表示される
- レンジ相場の細かいノイズがまとめられ、トレンドが視覚的に分かりやすくなる
- 「時間の長さ」ではなく「値動きの量」をベースにチャートを眺められる
レンジバーの生成ルールを具体例で理解する
ドル円を例に、レンジ幅10pipsのレンジバーをイメージしてみます。簡略化のため、価格は小数点2桁で表現します。
スタート時点での価格が「150.00」だとします。レンジ幅10pipsの場合、上限は150.10、下限は149.90と考えます。価格が150.10に到達したタイミングで「上方向に10pips動いた」と判断され、1本の上昇バーが確定します。逆に先に149.90に到達した場合は、1本の下落バーが確定します。
その後、次のバーは確定した足の終値を起点にして、再び10pips分のレンジを設定していきます。このように、レンジバーは「一定値幅の箱」を価格がどちらにブレイクしたかで新しいバーを描いていくイメージです。
ここで重要なのは、「価格がそのレンジ内を行ったり来たりしているだけではバーが確定しない」という点です。これが、ノイズの多いレンジ相場をまとめてくれたり、ダマシを減らす効果につながります。
レンジバーのメリット:トレンドとノイズの切り分け
レンジバーを使う最大のメリットは、トレンドとノイズの切り分けがしやすくなることです。具体的には、次のような効果が期待できます。
- 細かい逆行が目立ちにくくなる
通常の1分足では、数pipsの細かい逆行が何本も連続することでチャートがごちゃつきます。レンジバーでは、レンジ幅に満たない逆行は「1本のバーの中のヒゲ」として吸収されるため、全体の流れを視覚的につかみやすくなります。 - トレンドのスイングが揃いやすい
レンジバーでは、一定値幅ごとに高値・安値が刻まれていくため、スイングの幅がある程度揃います。その結果、トレンドラインやチャネルラインを引いたときに、きれいに収まりやすいというメリットがあります。 - ボラティリティに応じた「時間密度」でチャートを見られる
よく動く局面ではバーが増え、動きの少ない局面ではバーがほとんど増えません。つまり、「重要な場面にスクリーンタイムを集中させられる」という考え方もできます。
レンジバーが向いている相場・向いていない相場
レンジバーは万能ではなく、得意な状況と苦手な状況があります。特徴を理解したうえで使うことが重要です。
向いているケース
- FXや暗号資産など、短期でボラティリティが大きく変動する市場
- ロンドン・ニューヨーク時間帯のように値動きが活発な時間帯
- トレンドフォローやブレイクアウト戦略をメインにしたい場合
向いていないケース
- 日本株の現物取引など、場中の気配が細かく動きにくい銘柄
- ボラティリティが極端に低い閑散時間帯
- 時間軸そのもの(「何時に仕掛けたか」など)を重視する戦略
時間情報が意識しづらくなる分、「指標発表の時間」や「市場のオープン・クローズ」といった時間ベースのイベントを扱うには工夫が必要です。時間足チャートとレンジバーを併用し、役割分担させるのが現実的な運用方法です。
レンジ幅の決め方:大きすぎても小さすぎてもダメ
レンジバーで最も重要なパラメータが「レンジ幅」です。これが小さすぎるとノイズが増えてしまい、逆に大きすぎるとトレンドの転換点を捉えにくくなります。目安として、次のような決め方があります。
- ATRを基準にする方法
日足や1時間足のATR(Average True Range)を参考にし、例えば「1時間足ATRの5〜10%程度」をレンジ幅の目安にします。ドル円で1時間足ATRが20pipsなら、レンジ幅1〜2pipsは細かすぎる、8〜10pips前後なら実用的、といった感覚になります。 - スプレッドの数倍を基準にする方法
スプレッドが0.2pipsの通貨ペアなら、その5〜10倍(1〜2pips)だとノイズが多くなりがちです。スキャルピングに寄せるならレンジ幅5pips前後、もう少し大きなスイングを狙うなら10〜15pipsなど、スプレッドとのバランスを意識すると実戦的です。 - 自分の保有時間に合わせる方法
数分〜十数分で手仕舞うスキャルピングであれば、レンジ幅を小さめにしてバーの回転を早くし、数時間〜1日単位のデイトレードであれば、レンジ幅を大きめにしてスイング単位の流れを重視する、といった調整が有効です。
最初は、「自分が普段見ている5分足や15分足と見比べて、だいたい同じくらいのスイングが見えるレンジ幅」を探すのが良いスタートです。そこから、エントリー回数・含み損の深さ・利幅などのバランスを見ながら微調整していきます。
レンジバー×移動平均線で作るシンプルなトレンドフォロー
レンジバー単体でも相場の流れは分かりやすくなりますが、シンプルな移動平均線と組み合わせることで、初心者でも扱いやすいトレンドフォロー戦略を構築できます。ここでは、FXや暗号資産でよく使える基本的なアイデアを紹介します。
例:短期レンジバー+2本の移動平均線
- チャート:レンジバー(ドル円、レンジ幅10pipsなど)
- インジケーター:短期EMA(9本)、中期EMA(21本)
- 方向性判断:短期EMAが中期EMAの上なら上昇トレンド、下なら下落トレンド
この状態で、次のようなルールを考えます。
- 上昇トレンド中(短期EMAが中期EMAの上)で、レンジバーが短期EMA付近まで押して反発したら買いエントリー
- 直近のスイング安値の少し下にストップを置き、レンジ幅の2〜3倍程度を目安に利確
- 中期EMAを明確に下抜けしたらトレンド終了とみなしてポジション解消
同じルールを通常の時間足チャートで適用すると、細かいヒゲによるダマシが増えがちですが、レンジバーでは「一定幅動かなければバーが確定しない」ため、押し目や戻りの形が比較的きれいに見えます。この視覚的な分かりやすさが、ルールの継続や検証のしやすさにもつながります。
レンジバーによるブレイクアウト戦略の考え方
レンジバーは「一定の値幅を抜けたときに初めてバーが確定する」という性質から、ブレイクアウト戦略とも相性が良いチャートです。水平ラインを使ったシンプルな戦略のイメージを示します。
戦略の骨子
- 一定期間の高値・安値を水平ラインとして意識する
- レンジバーが高値ラインを上抜けして新しいバーを形成したタイミングで順張りエントリー
- 直前のレンジの中ほどにストップを置き、レンジ幅の2〜3倍の利幅を目安にする
時間足チャートだと、「一瞬だけ高値を抜けたが、結局長い上ヒゲとなって失速する」というダマシが多く発生します。レンジバーでは、高値を抜けた動きがレンジ幅をしっかりと進んだところでバーが確定するため、「本当に抜けたかどうか」の判断がしやすくなります。
もちろん、ダマシがゼロになるわけではありませんが、値幅ベースでブレイクを認識することで、ノイズ由来のシグナルの一部をふるい落とすことができます。
レンジバーの実践ステップ:導入から検証までの流れ
ここでは、初めてレンジバーを使う投資家が、どのようなステップで実戦投入していけばよいかを、具体的な順番で整理します。
- 対応しているチャート環境を用意する
TradingViewなど、一部のチャートプラットフォームではレンジバーを標準で選択できます。MT4やMT5で使う場合は、専用インジケーターやスクリプトでオフラインチャートを生成するタイプが多いため、最初は扱いやすいプラットフォームから試すとスムーズです。 - 対象銘柄と時間帯を決める
ドル円やユーロドルなど、流動性が高く値動きが比較的素直な通貨ペアから始めるのがおすすめです。時間帯は、ロンドン時間やNY時間のようによく動く時間を優先して観察すると、レンジバーの特徴が分かりやすくなります。 - レンジ幅を仮設定する
例えばドル円なら10pips、ユーロドルなら8pipsなど、ある程度妥当そうな値からスタートします。その状態で過去チャートをスクロールし、「トレンドの波が見やすいか」「押し目・戻りが識別しやすいか」を主観的にチェックします。 - シンプルなルールでテストする
先ほど紹介した「レンジバー+2本のEMA」や、「レンジバー+水平ラインブレイク」など、ごく簡単なルールで良いので、過去の局面を見ながら「この場面ならエントリー」「ここで決済」という印をつけていきます。 - 勝ち負けのパターンを整理する
手書きでもエクセルでも構いませんので、勝ちトレード・負けトレードそれぞれの特徴(トレンドの向き、ボラティリティ、指標前後、レンジ幅との相性など)をメモしておきます。ここから、レンジ幅の調整やフィルター条件の追加など、戦略のチューニング材料が得られます。 - 少額・デモでの試験運用
バックテストで大まかな感触をつかんだら、いきなりフルサイズではなく、デモ口座や少額の実弾で試験運用を行います。実際の発注タイミングや約定の癖、スプレッドの変動など、リアルな取引環境でしか分からない要素を確認します。
レンジバー特有のリスクと注意点
レンジバーは非常に便利なチャートですが、特有の注意点もあります。代表的なものを挙げておきます。
- 出来高や時間情報が意識しにくい
レンジバーは時間軸を捨てて値幅にフォーカスする分、「何時に動いたか」「指標の直後かどうか」がチャートからは分かりにくくなります。時間足チャートと併用し、重要な時間イベントは別途確認する体制が必要です。 - レンジ幅の設定次第で印象が大きく変わる
同じ相場でも、レンジ幅を変えるとまったく違うチャートに見えることがあります。極端に小さいレンジ幅ではスキャルピング向けの細かい波ばかりが目立ち、極端に大きいレンジ幅ではエントリーチャンス自体が少なくなります。必ず複数の設定を比較し、自分の性格や生活リズムに合ったレンジ幅を探すことが重要です。 - インジケーターのパラメータが時間足と同じ感覚で使えない
レンジバーの「1本が表す時間」は一定ではありません。そのため、例えば「EMA20」という設定の意味合いが、時間足チャートとレンジバーチャートでは異なります。必ずレンジバー上で再調整し、「見た目のフィット感」や過去検証の結果をベースにパラメータを決めていく必要があります。
FXと暗号資産におけるレンジバー活用イメージ
最後に、FXと暗号資産それぞれでレンジバーをどう使えるか、イメージを具体的にしてみます。
FX(ドル円・ユーロドルなど)の場合
- ロンドン時間〜NY時間をメインに観察
- レンジ幅はドル円で5〜10pips、ユーロドルで4〜8pips程度からスタート
- トレンド発生時はレンジバーが同じ方向に連続しやすいため、移動平均線やADXと組み合わせて順張りエントリー
- アジア時間など動きの少ない時間帯は、バーがほとんど増えず、無理にトレードしない判断がしやすい
暗号資産(ビットコインなど)の場合
- 24時間市場のため、ボラティリティが極端な時間帯を中心に観察
- 価格帯に応じてレンジ幅の絶対値を調整(例:ビットコイン3万ドル台で50ドルレンジ、5万ドル台で80〜100ドルレンジなど)
- 急騰・急落局面ではレンジバーが高速で連続するため、トレンドの勢いと反転のタイミングを視覚的に追いやすい
- スプレッドや約定品質の影響も大きいため、ブレイクアウト戦略では特に執行環境の確認が重要
まとめ:レンジバーは「値動きに集中するためのレンズ」
レンジバーは、時間に縛られず「値動きそのもの」にフォーカスするためのチャートです。値幅ベースで相場を見ることで、トレンドの波や押し目・戻り、ブレイクアウトの動きが、従来の時間足よりも整理された形で見えることがあります。
最初から複雑な戦略を組む必要はなく、まずは自分がよく触る銘柄でレンジバーを表示し、通常の時間足と並べて眺めるところから始めてみてください。そのうえで、移動平均線や水平ラインとの組み合わせ、レンジ幅の調整、検証と試験運用を少しずつ積み重ねていくことで、自分のスタイルに合った「値幅ベースのトレード手法」を育てていくことができます。
レンジバーは、ローソク足とは違う角度から相場を見直すための強力なレンズです。一度その見え方に慣れてしまうと、「なぜもっと早く使わなかったのか」と感じる人も少なくありません。少しずつ取り入れながら、自分なりの使い方を磨いていきましょう。


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