チャートを見るとき、多くの投資家は「1分足」「5分足」「日足」といった時間軸でローソク足を表示します。しかし、相場はいつも同じスピードで動くわけではありません。ほとんど動かない時間帯もあれば、一気に値が飛ぶ瞬間もあります。その中で、時間ではなく「値幅」で足を作るのがレンジバーという考え方です。
レンジバーとは何か ― 時間ではなく値幅で区切る足
レンジバーは、一定の値幅(レンジ)を価格が動いたときにだけ新しいバー(足)が1本生成されるチャートのことです。例えば「レンジ10ティック」のレンジバーなら、価格が10ティック動くごとに1本のバーが完成します。時間がどれだけ経過しても、レンジを満たさない限り新しいバーは生まれません。
通常の時間足チャートでは、価格がほとんど動かないときでも1分ごと、1時間ごとに足が増えていきます。そのため、「中身の薄い足」が大量に並び、ノイズに惑わされやすくなります。一方、レンジバーは「動いたときだけ足が増える」ため、値動きの本質的な部分だけを取り出せるという特徴があります。
レンジバーがもたらす3つのメリット
1. ノイズを削ぎ落とし、トレンドが視覚的に分かりやすくなる
レンジバーは、同じ値幅の足が連続して並ぶため、トレンドが出ているときは同じ方向に伸びたバーが連続し、レンジ相場では上方向と下方向のバーが交互に出やすくなります。時間足チャートで「ヒゲだらけ」に見える相場でも、レンジバーに切り替えると一方向の流れがきれいに見えることがあります。
例えば、FXのドル円で東京時間はほとんど値が動かず、欧州時間から一気にトレンドが出るケースがあります。1分足チャートでは東京時間の「薄い足」が延々と続き、チャートが読みにくくなりますが、レンジバーなら東京時間はほとんど足が増えず、欧州時間のトレンド部分だけがギュッと圧縮されて表示されます。
2. ボラティリティに合わせて自動的に「足の密度」が変わる
ボラティリティが高いときは価格がよく動くためレンジバーの足数が増え、逆にボラティリティが低いときは足数が減ります。これにより、相場が「動いている時間」を自然に強調してくれます。トレードチャンスが多い時間帯ほど足が増え、そうでない時間帯は静かになるため、相場のリズムを直感的につかみやすくなります。
3. 同じパターンを検出しやすく、検証もしやすい
レンジバーは、すべての足が同じ値幅で作られるため、「何レンジ分の押し目で買う」「何レンジ分の戻りで売る」といったルールを決めやすくなります。値幅ベースでシンプルなパターンを定義できるため、バックテストやストラテジー構築とも相性が良い形式です。
レンジ幅の決め方 ― 株・FX・暗号資産それぞれの考え方
レンジバーを使ううえで最も重要なパラメータが「レンジ幅」です。狭すぎると足が増えすぎてノイズが多くなり、広すぎるとシグナルが少なくなりすぎます。ここでは、株式・FX・暗号資産ごとにレンジ幅のイメージを整理します。
株式(日本株)の場合
日本株の個別銘柄は、ティックサイズ(最小値動き幅)が決まっており、ボラティリティも銘柄によってまちまちです。たとえば株価1,000円前後の銘柄で、1日の値幅がだいたい30〜50円程度なら、「レンジ3〜5円」から試してみる、というように「1日の値幅の1/10〜1/15程度」を目安にするとバランスが取れます。
ボラティリティが高いテーマ株や新興株の場合は、1日の値幅が100円以上動くこともあるため、その場合はレンジ幅を10円以上に広げて、トレンド全体をとらえる方向に調整します。
FXの場合
FXでは、ドル円・ユーロドルなどのメジャー通貨ペアと、ポンド・クロス円などボラティリティの高い通貨でレンジ幅を変えるのが一般的です。例えばドル円であれば、スキャルピング用途なら「レンジ5〜8銭」、デイトレードのトレンドフォローなら「レンジ10〜15銭」といったイメージです。
重要なのは、「通常の1時間足や4時間足でトレードしているときに、チャート上で大きな波が何レンジ分に相当するか」をざっくり感覚として持つことです。例えば、日中のトレンドで30〜40銭動くことが多いなら、その1/4〜1/6程度をレンジ幅にすると、「数本のレンジバーで1つのトレンドを表現できる」サイズになります。
暗号資産(仮想通貨)の場合
暗号資産はボラティリティが非常に高く、従来の時間足ではノイズが多すぎてチャートが読みにくくなることがよくあります。ビットコインやイーサリアムなら、「ドルベースで一定幅(例:50ドル、100ドル)」をレンジとして設定したり、「直近の平均True Range(ATR)の10〜20%」をレンジ幅とする方法が考えられます。
例えば、直近14期間のATRが500ドルなら、その10%である50ドルをレンジ幅に設定する、といった発想です。こうすることで、相場のボラティリティに合わせて「ちょうど良い」レンジ幅になりやすくなります。
レンジバーチャートでよく使われるパターンと売買アイデア
1. ブレイクアウト戦略
レンジバーは、値幅ベースで足が切り替わるため、価格が一定方向に連続して動いているときには、同じ色のバー(上昇なら陽線、下落なら陰線)が連続しやすくなります。そのため、横ばいの期間で足数が少ない状態から、同じ方向のレンジバーが3〜4本連続したタイミングを「ブレイクアウトのサイン」として捉える戦略が有効です。
具体例として、FXのドル円でレンジ幅10銭のレンジバーを使っている場合、長時間ほとんど足が増えなかったあとに、上方向に陽線のレンジバーが3本連続したら「上方向へ30銭の値動きが連続している」ことを意味します。ここで移動平均線も上向きであれば、順張りの買いエントリー候補として検討できます。
2. 押し目買い・戻り売り戦略
レンジバーは、押し目や戻りの「深さ」をレンジの本数で測れる点が特徴です。例えば、上昇トレンド中に「2レンジ分の押し目まで待って買う」といったシンプルなルールを作ることができます。
例えば暗号資産のビットコインでレンジ幅を100ドルに設定している場合、直近の上昇トレンドの中で、下方向へのレンジバーが2本(200ドルの押し)出現したあとに、再び上昇方向のレンジバーが出たタイミングを買いエントリーとする、といったルールが考えられます。このように、「何レンジ分押したか/戻したか」でパターンを管理できるのは、時間足チャートにはないメリットです。
3. ダマシを減らすためのフィルターとして使う
レンジバーはあくまで足の作り方であり、単独で魔法のように勝率を上げてくれるものではありません。しかし、「時間足チャートだけで見るとノイズに見えない小さなトレンド」が、レンジバーだとハッキリ見えることがあります。逆に、時間足でシグナルが出てもレンジバー側で足がほとんど進んでいない場合は、「実は大した値動きではない」と判断できることもあります。
例えば、4時間足のMACDでゴールデンクロスが出たとしても、レンジバーチャートで見たときに同方向のレンジバーがほとんど増えていないなら、そのシグナルは様子見に回す、といったフィルタリングに活用できます。
移動平均線や出来高との組み合わせ方
レンジバー自体は価格の表示方法ですが、通常のテクニカル指標とも組み合わせて使えます。特に、移動平均線や出来高系の指標との相性は良好です。
1. 移動平均線との組み合わせ
レンジバーに短期・中期の移動平均線を重ねると、トレンド方向と押し目の深さを視覚的に確認しやすくなります。例えば、レンジバーに対して「短期5本移動平均線」と「中期20本移動平均線」を表示し、
- 短期MAが中期MAの上にあり、両方が右上がり → 上昇トレンド
- 短期MAが中期MAの下にあり、両方が右下がり → 下降トレンド
といったシンプルな判定を行い、「トレンド方向と逆向きに2〜3レンジ分押したら、短期MA付近でエントリー」といったルールを組むことができます。
2. 出来高・出来高プロファイルとの組み合わせ
レンジバーは値幅ベースで足が作られるため、「どの価格帯でどれだけ取引が集中したか」を見る出来高プロファイルとも相性が良いです。レンジバーで価格のリズムを把握しつつ、横軸に出来高プロファイルを表示することで、「レンジバーが何度も反転している価格帯」=「出来高が積み上がっている価格帯」をサポート・レジスタンスとして意識できます。
シンプルなレンジバー売買ルール例
ここでは、投資初心者でもイメージしやすい、レンジバーを使った非常にシンプルなトレンドフォロー戦略の例を挙げます。あくまで考え方の一例ですが、自分なりのアレンジのベースとして活用できます。
ルール概要(FX・ドル円を想定)
- レンジ幅:10銭
- チャート:レンジバーチャート+5本・20本移動平均線
- 方向判定:5本MAが20本MAの上で、かつ20本MAが右上がり → 買い目線のみ
エントリー条件
- 買い目線のとき、下方向へのレンジバーが2本連続(20銭の押し)
- その後、上昇方向のレンジバーが1本確定したタイミングで成行買い
イグジット条件
- 利益確定:エントリー価格から3レンジ分(30銭)上に到達したら利益確定
- 損切り:エントリー価格から2レンジ分(20銭)下抜けで損切り
- あるいは、5本MAが20本MAを下抜けたらポジションをクローズ
このように、レンジバーを使うと「何レンジ分押したか・伸びたか」でルールを定義できるため、時間足に比べてシンプルで感覚的に理解しやすくなります。もちろん実際の運用では、通貨ペアやボラティリティに応じてレンジ幅・レンジ数を調整していく必要があります。
バックテストと検証のポイント
レンジバーを用いた戦略は、必ず過去データで検証してから実運用に移行することが重要です。検証時のポイントとしては、
- レンジ幅を複数パターン試して、過剰に最適化されていないか確認する
- トレンドが出やすい相場環境と、レンジが続く環境で結果がどう変わるかを見る
- スプレッド・手数料をきちんと織り込んだうえで損益を評価する
といった点が挙げられます。特に、あまりにも細かいレンジ幅を設定すると、足数が増えすぎてスプレッド負けしやすくなるため注意が必要です。
レンジバーが向いている相場・向いていない相場
レンジバーは、トレンドがしっかり出ている相場では威力を発揮します。足がきれいに一方向へ並び、押し目や戻りもレンジ数で把握しやすくなるからです。一方、超短期で方向感なく細かく上下するだけの相場では、レンジバーでもダマシが多くなります。
そのため、レンジバーをメインのチャートにしつつも、4時間足や日足などの時間足チャートで「いまはトレンド優位のフェーズかどうか」を確認しておくと、精度の高いトレードに繋がりやすくなります。
レンジバー導入の実践ステップ
最後に、これからレンジバーを試してみたい投資初心者向けに、導入のステップを整理します。
- 1. 使用中のチャートツール(TradingViewなど)でレンジバーチャートが使えるか確認する
- 2. まずはデモ口座や過去チャートで、レンジ幅をいくつか変えながら「どのサイズが一番見やすいか」をチェックする
- 3. 移動平均線など、普段使っているシンプルな指標をレンジバーに重ね、時間足と見え方の違いを比較する
- 4. 自分なりの「レンジ数ベースの押し目・戻り」のルール案を紙に書き出す
- 5. 過去チャートでルールを検証し、勝ちやすい相場・負けやすい相場の特徴をメモする
いきなり本番資金でレンジバーメインのトレードに切り替えるのではなく、「時間足チャート+レンジバーチャートの併用」から始め、少しずつ自分のスタイルに取り入れていくのが現実的です。
まとめ ― レンジバーは「値動きの本質」に集中するためのツール
レンジバーは、時間ではなく値幅でチャートを区切ることで、相場が本当に動いた場面だけを抽出してくれる表示方法です。ノイズを減らし、トレンドの流れや押し目・戻りの深さを直感的につかみやすくなるため、株・FX・暗号資産いずれの市場でも応用することができます。
大切なのは、「レンジバーなら勝てる」という発想ではなく、「値動きをどう切り取れば自分にとって見やすいか」という視点でチャートを設計することです。レンジバーはそのための強力な選択肢のひとつです。まずはいつも使っている銘柄・通貨ペアにレンジバーを重ねてみて、自分の目でその違いを確かめてみることから始めてみてください。


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