この記事では、時間ではなく「値幅」でローソク足を描画するレンジバーというチャートの使い方について、初心者でも理解できるように丁寧に解説します。株、FX、暗号資産など、ボラティリティの大きいマーケットほどレンジバーのメリットは生きやすく、裁量トレードとストラテジートレードの両方で活用できます。
レンジバーとは何か
通常のローソク足は「1分足」「5分足」「1時間足」のように時間で区切られて描画されます。一方、レンジバーは一定の値幅(レンジ)だけ価格が動いたときに、初めて1本の足が確定するチャートです。時間の長さは関係なく、たとえば「10pips動いたら1本の足」といったルールで描画されます。
たとえばUSD/JPYでレンジ幅10pipsのレンジバーを設定したとします。この場合、価格が150.00から150.10へ動けば1本の上昇バーが確定し、さらに150.20まで上昇すればもう1本の上昇バーが確定します。逆に、150.00から149.90に下落すれば1本の下降バーが確定するイメージです。
レンジバーの特徴とメリット
1. ノイズの多い時間足チャートを整理できる
ボラティリティが低い時間帯の1分足や5分足では、小さな上下を繰り返すだけのノイズが多く、トレンドの方向性が見えづらいことがよくあります。レンジバーは「一定以上動かなければ足が確定しない」ため、細かいノイズを自然にカットし、意味のある値動きだけを抽出できます。
2. トレンドの勢いが視覚的に分かりやすい
強いトレンドが発生すると、レンジバーは短時間に次々と新しい足が確定します。逆に、レンジ幅をほとんど超えないもみ合い局面では、しばらく新しい足が出てきません。このため、「勢いが出ている局面」と「停滞している局面」のコントラストがはっきり見えるという利点があります。
3. 時間の概念から解放された視点が得られる
トレーダーはどうしても「東京時間」「ロンドン時間」「ニューヨーク時間」といった時間帯に意識を引きずられがちです。しかし、実際にポジションの含み損益を決めているのは時間ではなく価格の動きです。レンジバーは「価格が実際にどの程度動いたか」にフォーカスしているため、相場の本質である値動きそのものに集中しやすいチャートと言えます。
レンジ幅の決め方の考え方
レンジバーを使ううえで最も重要なパラメータが「レンジ幅」です。レンジ幅が小さすぎるとノイズだらけになり、逆に大きすぎるとシグナルが少なすぎてトレード機会を逃してしまいます。
1. ATRを基準に決める方法
代表的な方法が、ボラティリティ指標であるATR(Average True Range)を基準にするやり方です。例えば、直近14期間のATRが20pipsであれば、その半分〜1倍程度の値(10〜20pips)をレンジ幅の候補とするイメージです。
- ATRの50〜70%:シグナル頻度を増やしたい短期スキャルピング向き
- ATRの80〜120%:デイトレード〜スイング寄りの落ち着いたシグナル向き
実際には、数パターンのレンジ幅を試し、その銘柄特有のボラティリティと自分のトレードスタイルに合う値を探ることが重要です。
2. 1ティックあたりのコストから逆算する方法
スプレッドや手数料が重いFXや暗号資産では、あまりに小さいレンジ幅を設定すると、スプレッド分だけで期待値がマイナスになりやすくなります。たとえば平均スプレッドが0.3pipsの通貨ペアで、レンジ幅を1pipsに設定すると、毎回の足確定でスプレッドがトレードのパフォーマンスを大きく削る可能性があります。
この場合、「平均スプレッドの5〜10倍程度」を最低レンジ幅の目安にするなど、コストに負けない幅を意識して設定すると現実的です。
3. 時間足との整合性を見る
たとえば、5分足の平均レンジ(高値−安値)が15pips程度であれば、レンジバーの幅を10〜15pipsに設定すると、5分足の1〜数本分に相当する“意味のある値動き”が1本のレンジバーに集約される形になります。既存の時間足チャートとの対応関係を意識してレンジ幅をチューニングすると、分析や検証が直感的になりやすいです。
レンジバーを使ったトレンドフォロー戦略
ここからは、レンジバーを活用した具体的なトレード戦略の一例として、シンプルなトレンドフォロー手法を紹介します。例として、暗号資産BTC/USDTのレンジバー(レンジ幅100ドル)を用いた戦略を考えます。
1. チャート構成
- チャート種類:レンジバー(100ドル幅)
- トレンド判定用:20レンジ移動平均線
- エントリー補助:MACDまたはRSI
時間足ではなくレンジバーを使うため、移動平均の「期間」も時間ではなく「バーの本数」で指定します。20レンジ移動平均線は「直近20本のレンジバーの終値の平均」となります。
2. エントリー条件(買い)
- 20レンジ移動平均線が右肩上がり
- 価格(レンジバー終値)が20レンジ移動平均線の上を推移
- 短期押し目で一時的に移動平均線付近まで下げた後、再び移動平均線より上で新しい上昇レンジバーが確定
- RSIが40〜60から再び上向きになり、過熱感はまだ低い
このような条件では、上昇トレンドの押し目買いをレンジバーでタイミングよく拾うイメージです。時間足ベースよりも、押し目の形が素直に見やすくなることが多く、視覚的にも判断しやすくなります。
3. 利確と損切りの考え方
利確と損切りもレンジバーらしく「何本分動いたか」で考えるとシンプルになります。
- 初期ストップ:エントリー足から見て3〜4本分下に損切りライン
- 第1利確目標:エントリー方向に4〜5本分進んだところ
- 残りポジションは移動平均線割れ、または直近の押し安値割れで手仕舞い
たとえば、レンジ幅が100ドルであれば、3本分は300ドルです。エントリー後に300ドル逆行したら損切り、400〜500ドル進んだら一部利確という基準を最初から決めておくと、感情に流されにくくなります。
レンジバーを使ったブレイクアウト戦略
レンジバーは、一定の値幅を抜けたときに足が確定する特性から、ブレイクアウト戦略とも相性が良いです。次はFXのEUR/JPYを例に、レンジバーを使ったシンプルなブレイク戦略を考えます。
1. ボックスレンジの認識
まずレンジバーでチャートを見ると、価格が行き来しているボックスレンジ(横ばいゾーン)が視覚的に分かりやすくなります。時間足だとノイズでガタガタに見える局面でも、レンジバーでは上下の切り替えポイントがくっきり見えることが多いです。
2. ブレイク条件(買い)
- 一定期間(例:直近20〜30本)で明確な抵抗帯が形成されている
- その抵抗帯を上方向に2本連続で上抜けしたことを確認
- ブレイク直前のボラティリティがやや低下していた(レンジバーの出現ペースが落ちていた)
レンジバーでは、ブレイク直前に足の出現ペースが落ちることが多く、その後ブレイクが起きると一気に足が連続して出現する、というパターンがよく見られます。これを「静かな時間帯からのエネルギー解放」とみなし、ボックス上限のブレイク+足の連続出現をシグナルとするのが一つのアイデアです。
3. ダマシを減らすための工夫
ブレイクアウト戦略で問題になるのが「一瞬だけ抜けてすぐに戻るダマシ」です。レンジバーでは、以下のようなフィルターを組み合わせることでダマシをある程度減らせます。
- ブレイク後、レンジ幅の2倍以上進むまでエントリーを待つ
- ブレイク方向に20レンジ移動平均線が傾き始めるのを待つ
- OBVや出来高インジケーターで、ブレイク時にボリュームが増加しているか確認する
このように「抜けた直後には飛び乗らない」「価格だけでなく出来高もセットで確認する」といったルールを持つことで、勝率と期待値のバランスを取りやすくなります。
レンジバーと時間足を組み合わせるマルチタイムフレーム分析
レンジバーは便利ですが、それだけに頼ると全体の相場環境を見落としやすくなります。そこでおすすめなのが、時間足チャートとレンジバーを組み合わせる方法です。
1. 上位足(4時間足・日足)で相場環境を把握
まず4時間足や日足で、現在のトレンド方向や主要なサポート・レジスタンスゾーンを確認します。ここではレンジバーは使わず、一般的なローソク足で構いません。
たとえば、日足レベルで明らかな上昇トレンドが出ている銘柄であれば、「レンジバーは押し目買いのタイミングを探すツール」として使う方針を決めておきます。逆に日足でレンジ相場なら、レンジバーは上下のレンジ逆張りポイントを探すツールとして運用します。
2. エントリー足としてレンジバーを使う
上位時間足で方向性を決めたら、エントリーのタイミングはレンジバーで探します。
- 日足で上昇トレンド → レンジバーで押し目買いポイントを探す
- 日足でレンジ相場 → レンジバーでレンジ上限売り・下限買いのタイミングを探す
このように役割を分けることで、大きな方向性は時間足、小さなタイミングはレンジバーという整理ができ、判断が一貫しやすくなります。
レンジバーの注意点と落とし穴
1. ヒストリカルデータとの整合性が難しい場合がある
レンジバーは通常の時間足とはデータ構造が異なるため、証券会社やプラットフォームによっては、ヒストリカルデータの取得やバックテストがやりづらいケースがあります。特に自動売買や検証を前提とする場合、どのプラットフォームでどのレンジバーが利用できるかを事前に確認しておく必要があります。
2. 値動きの少ない時間帯では足が全く進まない
レンジバーは「一定の値幅が動かないと足が確定しない」ため、東京早朝などボラティリティの低い時間帯では、しばらく足が更新されないことがあります。一見チャートが「止まっている」ように見えるため、値動きのスピード感を意識する習慣が必要です。
3. レンジ幅を頻繁に変えすぎない
調整しやすいがゆえに、レンジ幅を頻繁に変えてしまうと、過去の検証結果と現在のトレード条件が繋がらなくなります。ある程度検証したレンジ幅を決めたら、一定期間は同じ設定でトレードを続けることをおすすめします。
レンジバーを取り入れるステップバイステップの進め方
最後に、これからレンジバーを試してみたい初心者向けに、導入ステップの一例を整理します。
- 対応プラットフォームの確認
まず、自分が使っているチャートソフトや取引プラットフォーム(TradingView、MT4/MT5など)がレンジバーに対応しているか確認します。もし対応していなければ、検証専用に別のプラットフォームを併用することも検討します。 - 1〜2銘柄に絞って観察
最初から多くの銘柄で試すのではなく、よくトレードする1〜2銘柄(例:USD/JPYとBTC/USDT)に絞り、レンジバーと時間足を並べて値動きの違いを観察します。 - レンジ幅を複数パターン試す
ATRやスプレッドを参考に、複数のレンジ幅(小・中・大)を試して、どの設定が自分の視点で一番理解しやすいかを探します。視覚的な「しっくり感」も重要な判断材料です。 - シンプルなルールで紙トレード
押し目買い、ブレイクアウトなど、シンプルなルールを1つだけ決めて、まずは紙トレードやデモ口座で検証します。ルールを欲張って増やしすぎると、どの要素が効いているのか分からなくなるので注意が必要です。 - 少額でライブ環境に移行
ある程度パターンが見えてきたら、ロットを抑えた小さなポジションでライブトレードを試します。レンジバーは視覚的には分かりやすいですが、実際にポジションを持つと感情の揺れ方が変わるため、実戦での感覚を確認するプロセスは欠かせません。
まとめ:レンジバーは「価格そのもの」を見るためのツール
レンジバーは、時間ではなく値幅に基づいてチャートを描画することで、ノイズを減らし、トレンドの勢いやブレイクの動きを視覚的に分かりやすくしてくれるツールです。特に、FXや暗号資産のように短期で激しく動くマーケットでは、時間足だけでは見えづらいリズムやパターンを浮かび上がらせてくれます。
一方で、レンジ幅の設定次第で見え方が大きく変わるため、ATRやスプレッドを意識しつつ、自分のトレードスタイルに合う設定を丁寧に探すことが重要です。また、日足や4時間足と組み合わせてマルチタイムフレームで使うことで、「大きな流れ」と「細かいタイミング」を分けて考えやすくなります。
最初から完璧な設定を求める必要はありません。まずは、よくトレードする銘柄でレンジバーと時間足を並べて観察し、どの場面でレンジバーが役に立つか、自分の目で確かめてみてください。それが、レンジバーを武器として使いこなすための第一歩になります。


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